2019/05/15(水) - 14:50
単独逃げの影響は大きい。スタート地点で買ったガゼッタ紙を開いてそう思った。235kmの長いステージの最後にマリアローザ候補の落車という波乱が起こったジロ・デ・イタリア第4ステージを写真とともに振り返ります。
2019年ジロ・デ・イタリアは、ステージ間の移動距離が短い分、ステージの距離が長い。3週間の走行距離は平均的な3,578.8kmだが、3つの個人タイムトライアルを含んでこの数字なので実質的な平均ステージ距離は長め。ツール・ド・フランスとブエルタ・ア・エスパーニャと比較しても長い。ちなみに2018年11月のコース発表時にはコース全長は3,518.5kmだったが、細かい変更の繰り返しでそこから60km伸びている。
フィニッシュ時間は概ね午後5時前後に設定。ステージ距離の長さはスタート時間の早さに直結する。平坦基調であるとは言え、235kmの第4ステージを走りきるには6時間近くかかるため、スタートは午前11時15分。午前10時から始まる出走サインに合わせてチームバスがスタート地点に到着する必要があり、選手たちが宿泊ホテルを出発するのは午前9時ごろとなる。となると、起床して朝ごはんを食べるのは午前7時ごろ。とにかく睡眠時間の確保が全選手(スタッフも!)の最優先事項だ。
この日、ガゼッタ紙は1ページを割いて初山翔(NIPPOヴィーニファンティーニ・ファイザネ)の第3ステージの逃げを特集した。どこで生まれ、どこで自転車競技に出会い、トスカーナのアマチュアチームで2年間走ったことまで、事細かに初山のキャリアを伝えた。もちろん「サムライ」や「カミカゼ」「バンザイ」という安直でキャッチーでステレオタイプ満載の表現を添えて。
やはり144kmの単独逃げのインパクトは大きい。会場では日本から来たフォトグラファーというだけでおじさんたち(若者はいない)に「昨日は良い走りだったな!」や「無謀だけど勇敢だった!」というポジティブな声をかけられる。仮に複数名で逃げていれば、もう少し長く逃げ続けていたかもしれないけど、確実にここまでフォーカスされることはなかったはず。「結果を出したわけじゃない」と言われそうだが、ロードレースにおいてこれほど大きなインパクトを与えるのは簡単なことじゃない。自分の11年間のジロの歴史の中で、最も日本人選手が注目されたステージだった。
「携帯にメッセージが届きまくった。やはりジロの影響力の大きさを感じています」という初山は、チームバスから降りてくるなり観客のサイン攻めにあっていた。「出来るだけ長く逃げるためにペースをコントロールしながらも、3週間を見据えて、出し切ってしまわないペースを心がけました。(一夜明けて)もちろん疲れていますが、集団の中で走っていても疲れていたと思う」。
初山の単独逃げにより、今大会ここまで全てのステージ(個人TTを除く)で逃げに選手を乗せているのはNIPPOヴィーニファンティーニ・ファイザネだけということに。2017年と2018年にワイルドカード獲得を逃したイタリア=日本チームは、この日もダミアーノ・チーマ(イタリア)を逃げに乗せることに成功。チーマは中間スプリント賞と総合敢闘賞でトップに立っている。
フィニッシュ地点フラスカーティは、ローマを見下ろす丘の上というより、ローマを見下ろす山の中腹にへばりついているような感じ。その名の通りワイン「フラスカーティ」の産地で、人口は22,000人。ローマ南東部にはフラスカーティと同じような丘の町が点在しており、総称して「カステッリ・ロマーニ」と呼ばれる。ローマからのアクセスの良さから、古くから、それこそ古代ローマ時代から、保養地として親しまれてきた。
フラスカーティを目指すステージ後半はローマ近郊のごちゃごちゃした街中を走るため、とにかくコーナーやラウンドアバウト、細かいアップダウンが多い。そこに観客の多さが加わり、とにかく神経をすり減らすレイアウトだ。スプリンター向きのステージで、終盤にかけてテクニカルなコーナーを詰め込む主催者に声を上げる選手が日に日に増えている。
大会4日目にしてトム・デュムラン(オランダ、サンウェブ)が実質的にマリアローザ争いから脱落したことは、大会関係者を大いに落胆させた。大会ディレクターのマウロ・ヴェーニ氏は「開幕前にバルベルデとベルナルがいなくなり、今後はデュムランがタイムを失ってしまった。我々全員が残念に思っているが、今日のような落車はいつでも誰にでも起こること。デュムランがこのままレースを継続して、ステージ優勝を狙う走りに期待している」というコメントを残す。今のところデュムランは第5ステージをスタートする見込みだが、本人も「マリアローザへの挑戦は終わった」と認めている。
どこか5月のイタリアらしい暖かさが影を潜め、気温が低く、風も強く、雨降りな今年のジロ。第5ステージも雨降りの予報が出ている。
text&photo:Kei Tsuji in Frascati, Italy
2019年ジロ・デ・イタリアは、ステージ間の移動距離が短い分、ステージの距離が長い。3週間の走行距離は平均的な3,578.8kmだが、3つの個人タイムトライアルを含んでこの数字なので実質的な平均ステージ距離は長め。ツール・ド・フランスとブエルタ・ア・エスパーニャと比較しても長い。ちなみに2018年11月のコース発表時にはコース全長は3,518.5kmだったが、細かい変更の繰り返しでそこから60km伸びている。
フィニッシュ時間は概ね午後5時前後に設定。ステージ距離の長さはスタート時間の早さに直結する。平坦基調であるとは言え、235kmの第4ステージを走りきるには6時間近くかかるため、スタートは午前11時15分。午前10時から始まる出走サインに合わせてチームバスがスタート地点に到着する必要があり、選手たちが宿泊ホテルを出発するのは午前9時ごろとなる。となると、起床して朝ごはんを食べるのは午前7時ごろ。とにかく睡眠時間の確保が全選手(スタッフも!)の最優先事項だ。
この日、ガゼッタ紙は1ページを割いて初山翔(NIPPOヴィーニファンティーニ・ファイザネ)の第3ステージの逃げを特集した。どこで生まれ、どこで自転車競技に出会い、トスカーナのアマチュアチームで2年間走ったことまで、事細かに初山のキャリアを伝えた。もちろん「サムライ」や「カミカゼ」「バンザイ」という安直でキャッチーでステレオタイプ満載の表現を添えて。
やはり144kmの単独逃げのインパクトは大きい。会場では日本から来たフォトグラファーというだけでおじさんたち(若者はいない)に「昨日は良い走りだったな!」や「無謀だけど勇敢だった!」というポジティブな声をかけられる。仮に複数名で逃げていれば、もう少し長く逃げ続けていたかもしれないけど、確実にここまでフォーカスされることはなかったはず。「結果を出したわけじゃない」と言われそうだが、ロードレースにおいてこれほど大きなインパクトを与えるのは簡単なことじゃない。自分の11年間のジロの歴史の中で、最も日本人選手が注目されたステージだった。
「携帯にメッセージが届きまくった。やはりジロの影響力の大きさを感じています」という初山は、チームバスから降りてくるなり観客のサイン攻めにあっていた。「出来るだけ長く逃げるためにペースをコントロールしながらも、3週間を見据えて、出し切ってしまわないペースを心がけました。(一夜明けて)もちろん疲れていますが、集団の中で走っていても疲れていたと思う」。
初山の単独逃げにより、今大会ここまで全てのステージ(個人TTを除く)で逃げに選手を乗せているのはNIPPOヴィーニファンティーニ・ファイザネだけということに。2017年と2018年にワイルドカード獲得を逃したイタリア=日本チームは、この日もダミアーノ・チーマ(イタリア)を逃げに乗せることに成功。チーマは中間スプリント賞と総合敢闘賞でトップに立っている。
フィニッシュ地点フラスカーティは、ローマを見下ろす丘の上というより、ローマを見下ろす山の中腹にへばりついているような感じ。その名の通りワイン「フラスカーティ」の産地で、人口は22,000人。ローマ南東部にはフラスカーティと同じような丘の町が点在しており、総称して「カステッリ・ロマーニ」と呼ばれる。ローマからのアクセスの良さから、古くから、それこそ古代ローマ時代から、保養地として親しまれてきた。
フラスカーティを目指すステージ後半はローマ近郊のごちゃごちゃした街中を走るため、とにかくコーナーやラウンドアバウト、細かいアップダウンが多い。そこに観客の多さが加わり、とにかく神経をすり減らすレイアウトだ。スプリンター向きのステージで、終盤にかけてテクニカルなコーナーを詰め込む主催者に声を上げる選手が日に日に増えている。
大会4日目にしてトム・デュムラン(オランダ、サンウェブ)が実質的にマリアローザ争いから脱落したことは、大会関係者を大いに落胆させた。大会ディレクターのマウロ・ヴェーニ氏は「開幕前にバルベルデとベルナルがいなくなり、今後はデュムランがタイムを失ってしまった。我々全員が残念に思っているが、今日のような落車はいつでも誰にでも起こること。デュムランがこのままレースを継続して、ステージ優勝を狙う走りに期待している」というコメントを残す。今のところデュムランは第5ステージをスタートする見込みだが、本人も「マリアローザへの挑戦は終わった」と認めている。
どこか5月のイタリアらしい暖かさが影を潜め、気温が低く、風も強く、雨降りな今年のジロ。第5ステージも雨降りの予報が出ている。
text&photo:Kei Tsuji in Frascati, Italy
Amazon.co.jp