「Pedal Damn it!」を掲げ、世界一楽しいバイク作りを追求するオフロード専門ブランド、niner bikes(ナイナー)のCEOが来日。日系4世でもあるクリス・スガイ氏に、ブランドの源や29erとオフロードにこだわる理由、アメリカのシーン最前線、そしてブランドのこれからについて聞いた。



日本市場の視察にやってきたスガイ氏(右)と、日本マーケティング担当のブライアン氏(左)日本市場の視察にやってきたスガイ氏(右)と、日本マーケティング担当のブライアン氏(左) photo:Yuichiro.Hosoda
― まずはブランドについて触れる前に、クリスさんの自転車歴を教えてもらえますか?いかにしてバイクブランドを興すまでの情熱が蓄積されたのでしょう。

インタビューはミズタニ自転車の会議室を借り受けて行ったインタビューはミズタニ自転車の会議室を借り受けて行った photo:Yuichiro.Hosoda小さい時から自転車には慣れ親しんできたので、歴=年齢といって差し支えないほどです(笑)。LA郊外の小さい街出身で、モトクロスを楽しんでいた父の影響で5歳頃からBMXレースに没頭していました。一緒に走ったことはありませんが、少し上の世代にはティンカー(ウォレス)もいた時代で、そこから学生時代には当時出始めたMTBに乗り始め、その面白さの虜になったんです。

仕事としては1985年に建物や車のガラスにフィルムや広告を施工する会社(Solar Art Window Film, Inc.)を起業しLAの業界ナンバーワン企業にまで育てましたが、創設20年の2005年に、唯一心残りだった「自分の大好きなことを仕事にする」ことをやってみようと一念発起。そこで大好きだった「ポーカー」「F1観戦」「MTB」の中からビジネスとして成功しそうなものを絞り込む中で、当時出回り始めたばかりの29erに可能性を感じてninerを起業しました。2010年頃になると29erの流行に乗じてブランドは急成長し、私はもともとの広告施行業を他に譲り渡してninerの専業となりました。

「私の好きなことをninerブランドを通して世界中のみんなとシェアしたい」「私の好きなことをninerブランドを通して世界中のみんなとシェアしたい」 photo:Yuichiro.Hosoda
スガイ氏の故郷カリフォルニアと、本社があるコロラド州の州旗を組み合わせたロゴスガイ氏の故郷カリフォルニアと、本社があるコロラド州の州旗を組み合わせたロゴ photo:Yuichiro.Hosodaビール瓶の王冠を取り付けられる「YAWYD STEM CAP」はブランドを象徴するアイテム。「You Are What You Drink」の略だビール瓶の王冠を取り付けられる「YAWYD STEM CAP」はブランドを象徴するアイテム。「You Are What You Drink」の略だ photo:Yuichiro.Hosoda


― ninerが29erであり、MTBを中心としたオフロード専門ブランドであることは、スガイさんの好きなものがベースになっているからなのですね。

その通りです。もちろん個人的にはロードライドも楽しみますが、やはり私はMTBやグラベルライドの自由さが大好きですから、それを仕事にしたかった。今や700cや27.5、29+もninerにはありますが、それはMTB業界の変化の流れだから。29erが中心ですが、それが入り口だっただけであって固執するわけではないのです。良い製品を送り出すことで、みんなに僕の大好きなことをシェアできれば幸せですね。

「29erは高身長じゃないと乗れないと言われていたことを覆したかった」「29erは高身長じゃないと乗れないと言われていたことを覆したかった」 photo:Yuichiro.Hosoda― スガイさんは日系で欧米人に比べると身長も低めですが、それでも29erにこだわった理由は?

当時に受けた29erの速さ、楽しさは衝撃的でしたから。当時は180cm以下では乗れないなどと言われたし、君が29er専門ブランドを?と言われたことも多く、フラストレーションを溜めていました。ジオメトリーを工夫すれば私のような体格でも十分楽しめると証明したかったことも一つの理由ですね。今ではXCOで女子選手が29erを使って勝つことは当たり前になりましたが、そこには我々も長く努力を費やしてきました。

― ninerが目指す「良いバイク」とは?

性能と楽しさを両立するバイクであること。どちらか一つだけではハードコアユーザーの信頼は得られませんし、そしてそれには、あらゆる場面で信頼できるハンドリングが第一だと考えています。ninerのスタッフは全員情熱のあるライダーであり、情熱のあるユーザーのためのバイクを作り上げる環境には事欠きません。USで人気の高いSDGチーム(MTB/CX/グラベル)をサポートし、彼らの声も積極的に取り入れることで大きな収穫も得ています。

― 非常に移り変わりの激しいMTB業界ですが、ブランドとしてどのように対応しているのでしょう。

「流行を取り入れることは、難しくもあり、チャレンジしがいのあることでもある」「流行を取り入れることは、難しくもあり、チャレンジしがいのあることでもある」 photo:Yuichiro.HosodaそれこそMTBの面白いところだと感じますね。毎年あらゆるところから様々なアイディアが出てくるので、それを吟味しながら取り入れていくのはとてもチャレンジングですが、同時にワクワクすることです。例えばどのブランドもISP(インテグラルシートポスト)をMTBに採用していた時代がありましたが、今となってはどこも使っていませんよね。

USのDHシーンでは29erが登場し、最近では前後異径ホイールが使われたりと、未だホイール径の議論は収束しそうにありません。我々が2013年にマニトウのサスペンションをカスタマイズした29erDHバイクを作りインターバイクに出品した時は「クレイジーだ」と言われましたが、実際その後に波はやってきたし、我々が行なった計測テストの結果もほとんどの場面で27.5より速かったわけです。今後どうなるのか楽しみですね。

シーオッタークラシックで発表された新作「MCR 9 RDO」シーオッタークラシックで発表された新作「MCR 9 RDO」 (c)ミズタニ自転車前後サスペンションを搭載したグラベルロード「MCR 9 RDO」前後サスペンションを搭載したグラベルロード「MCR 9 RDO」 (c)ninerbikes

一つ、シーオッタークラシックで発表する面白いバイクを紹介しましょう。前後サスペンションを備えたグラベルロード「MCR 9 RDO」です。

元々グラベルロードはスムーズな路面を高速巡航するためのものですが、MTBerにとってはラフロードや木の根や岩が張り出したシングルトラックへの対応力に不満がありますし、ロードバイク乗りにとっては安定性が無さすぎると感じていました。数々のメーカーがハンドルサスペンションやフレックスシートポストなどの解決策を提示してきましたが、それらは身体への衝撃を緩和するものであって、車体の安定性を得るためのシステムではありません。そこで我々はMTBで培ったサスペンションのノウハウをグラベルロードに流用し、FOXと共同開発した前後サスを備えました。サスペンション付きのグラベルロードは現在の最新形ですし、市場の反応が楽しみです。

― 個人的には"本社の周辺環境がブランドや製品を生み出す"と感じていますが、フォートコリンズはどんな場所なのですか?

本社のランチの様子。右側の人物がスガイ氏本社のランチの様子。右側の人物がスガイ氏 (c)ninerbikes
本社があるコロラド州フォートコリンズは全米でも屈指のバイクカルチャーが育っている場所です。そもそもコロラドはMTBerにとっての聖地ですし、中でもフォートコリンズはMTBをはじめ、様々なアウトドアアクティビティが盛んな地域。自然豊かで様々なトレイルが整備されているので、私も通勤時はトレイル経由ですし、会社から15分以内で極上のMTB用トレイルにアクセスできるんです。ロードだって良いし、グラベルロード向きの未舗装路もたくさんある。

そういう環境から得たインスパイアは製品づくりに大きな良い影響を及ぼしますし、ブランドとして成長できた今は、僕らが地元に恩返しすべき時だと考えています。最終的には市街地にアムステルダムのようなバイクレーンを整備できれば嬉しいですね。

― ninerにとっての次なる目標は?

我々が掲げるスローガン「#CommittedtoDirt」を推し進めることですね。主力のMTBや一介の流行では終わらないであろうグラベルロードなどより良い製品を生み出すことで、ユーザーに「大地」を楽しむ術を与え、共に共有したいと考えています。そしてそれは、創業時の思いと一切変わることはありません。

オフロードカルチャーがより根強いものになれば、より多くの人が入りやすくなる。日本のライド環境がUSと異なることは理解していますが、世界のどこだってオフロードバイクの楽しみは共通ですから、何も不可能なことはないと信じています。機会があれば是非、フィールド上で我々のバイクを試してみて下さい。

グラベルロード「RLT 9」を掲げるスガイ氏グラベルロード「RLT 9」を掲げるスガイ氏 photo:Yuichiro.Hosoda
― ありがとうございました。次は椅子とテーブルではなく、サドルとハンドルの上でご一緒したいです。

こちらこそ。「Pedal Damn it!」。

interview:So.Isobe
photo:Yuichiro.Hosoda
インタビュー協力:ミズタニ自転車(インタビュー日時2019/03/31)