エディ・メルクス AMX-4エディ・メルクス AMX-4 (c)Makoto.AYANO/cyclowired.jp

自転車競技史上もっとも強かった選手と言われるエディ・メルクス(ベルギー)は、1978年の引退後、それまで自分のためにフレームを造り続けてくれた名匠ウーゴ・デローザの門戸を叩く。自身のオリジナルブランドを起ち上げるためだった。デローザは協力を惜しまなかった。そして偉大なるレーサーと偉大なる職人の手によって、自転車メーカー、エディ・メルクス社がベルギーに誕生した。

現役時代のエディの機材への執拗なまでのこだわりは、あまりに有名だ。ジロ、ツールを5回制し、史上初のトリプルクラウン(ツール、ジロ、世界選手権を同年に制覇すること)を成し遂げたのは、この信念ともいえる思いも要因の1つだろう。そのこだわりは現在のメルクスのバイクにも脈々と息づいている。開発した製品は彼自身が必ず試乗して性能を試す。創業39年、今でもエディ・メルクスはブランドの核であり続けている。


トップチューブとヘッドチューブは、ヘッド側の断面積をアップしてヘッド部のねじれ剛性を高めているトップチューブとヘッドチューブは、ヘッド側の断面積をアップしてヘッド部のねじれ剛性を高めている シートチューブの接合部もハイドロフォーミングによって断面積を大きくし剛性を確保するシートチューブの接合部もハイドロフォーミングによって断面積を大きくし剛性を確保する


ダウンチューブのBB側を広げ、BB部分の剛性を最適化する。オーソドックスなBB回りの造りだダウンチューブのBB側を広げ、BB部分の剛性を最適化する。オーソドックスなBB回りの造りだ BBシェルとリヤエンドを真っ直ぐに結ぶチェーンステー。シンプルな形状がいまでは新鮮だBBシェルとリヤエンドを真っ直ぐに結ぶチェーンステー。シンプルな形状がいまでは新鮮だ



カーボン素材がスポーツバイクの主流となる中、アルミをはじめ金属素材のフレームは減少の一途だが、エディ・メルクスもそれまでラインナップしていたスチールフレームは姿を消し、アルミフレームだけが生き残り、「Aシリーズ」として展開している。
そしてカーボンバックを備えた「AMX-5」を筆頭に3モデルがラインナップされ、今回試乗する「AMX-4」はセカンドグレードなる。

今や金属フレームというと廉価グレードというイメージもあるが、エディ・メルクスはカーボンに対するもう1つの付加価値としてアルミおよびスカンジウムをラインナップしている。
同社のアルミ系の高級モデルといえば、高剛性と軽量化が両立するスカンジウム合金のチューブが使用され、パリ~ルーベなど数々のメジャーレースを制し、その高性能を証明してきた。そして、一昨年まではベルギーのプロチーム、トップスポーツ・フランデレーンの主力機材としても活躍した。


ヘッドチューブは下部ベアリングに1-1/4サイズを採用するテーパー形状。ヘッドチューブは長めに設計されているヘッドチューブは下部ベアリングに1-1/4サイズを採用するテーパー形状。ヘッドチューブは長めに設計されている クラウン部もさることながら、全体的なボリューム感にあふれるフロントフォーククラウン部もさることながら、全体的なボリューム感にあふれるフロントフォーク アーチ型にシェイプされたシートステーが乗り心地向上に貢献するアーチ型にシェイプされたシートステーが乗り心地向上に貢献する



「エレガンス」と「パフォーマンス」をコンセプトに掲げ、人間工学を駆使したコンセプトで造られているAMX-4は、レーシング性能を重視したエリートジオメトリーで製作されるピュアレーサーだ。フレームチューブは高い評価を得てきたスカンジウム合金で、トリプルバテッド構造が採用されている。

そして、必要な部分に剛性を確保するためにチューブはハイドロフォーミング加工が施され、溶接痕が目立たないスムースウェルディングによって、まるでモノコック構造のような一体感あるフレームに仕上げられている。

規格としても、アルミ製ロードバイクでは珍しいテーパーヘッドチューブ(下ワンが1-1/4インチ)を採用し、上級モデルにも劣らない剛性のあるハンドリングが追求される。

また、シートステーは立体的な弓状に仕立てられ、快適性の向上にひと役買っている。同社とてカーボンが主流であっても、アルミモデルといえど手を抜かずしっかりとアップデートしている。フレーム単体で1240gの重量は、軽量性と堅牢性を両立するには十分な値に仕上げられている。


フロントフォークはセミエアロ形状のストレートタイプフロントフォークはセミエアロ形状のストレートタイプ 溶接は細部にいたるまで非常に美しい仕上げだ溶接は細部にいたるまで非常に美しい仕上げだ フロントディレーラーはバンドタイプを用いたトラブルにも強い設計フロントディレーラーはバンドタイプを用いたトラブルにも強い設計



ちょっと前までメルクスといえば「質実剛健」あるいは「渋い存在」と言われていたものだが、ここ数年はデザインに力を入れイタリア車にも劣らない、あでやかなグラフィックをまとっている。本気度の高いレースマンにしか似合わなかったレーシングブランドが、多様化するユーザーに応えるために変化したようにも見える。このモデルに関しては金属の風合いを生かした渋めのデザインだが...。

メルクスは従順な羊になってしまったのか? それとも羊の皮を被った狼なのか? メルクス社の変遷を知る2人のインプレライダーが解き明かしてくれるはずだ。






― インプレッション


「金属フレームとは思えない乗り心地と優れた動力性能。レースで使いたい!」
 佐藤 成彦(SPACE BIKES)



「振動吸収性の良さは金属フレームと思えない」佐藤 成彦「振動吸収性の良さは金属フレームと思えない」佐藤 成彦 以前スカンジウム合金フレームのエディ・メルクスに乗っていたことがあったのですが、その当時の製品と比べると、このAMX-4は確実に進化していると感じました。

乗った瞬間は柔らかい印象でした。“コンフォート”と言ってもいいほどの優れた振動吸収性を持っています。確かに柔らかい感じはチューブレスタイヤを装備しているのも原因の一つにあると思いますが、それを差し引いても金属フレームとしては抜きんでた乗り心地の良さを持っています。

そうした快適性を持ちながら、ペダルを踏んだときの掛かりはかなり高いレベルが実現されている。上りでの軽快さ、下りでの走りやすさ、全般において優れた走行性能です。

ぶっちゃけ、いま自分が乗っている他社のフルアルミフレームと比べものにならないほど、このAMX-4は優れている。そう思いました。

最初はこれがスカンジウムフレームだと知らずに乗っていて、てっきりカーボンだと思っていたら、走り終えてスカンジウムだと聞いてびっくりしてしまった。素材がスカンジウムであることに全く問題がない。

スケルトンなどの設計も非常に優れているのでしよう。強いて言うならヘッドチューブがちょっと長い印象を受けました。個人的にはもっと短い方がいいですが、熟成された設計を持っていることは確かです。

エディメルクのスカンジウムモデルが登場したのは確かプレミアムスローピングというモデルの頃からで、5年ほど前だと思うのですが、ここに至るまで相当改良されているはずです。 フレームの色々な部分がオーバーサイズ化して、フォークのバランスなども調整されているはずです。ヘッドパーツのロワーベアリングも1-1/4に大径化されているので、ハンドリングも全く違っていて、さらに高性能になっています。

今回はコンフォートモデルの「EMX-1」(カーボン)にも同時に乗りましたが、それよりも体に優しい感じすらするのに、ペダルを踏むと硬くて、本当によく進みます。これだけの高性能ならカーボンじゃなくてもレースに使いたいほどです。重量はわからないけど、問題ないでしょう。
今回は強い力をかけて長時間乗れなかったが、おそらくパワーライディングにも対応してくれるでしょうし、上りでのダンシングやシッティングも全く問題ないですね。

「熟成された設計と、今に通用するレーシング性能がある!」佐藤 成彦「熟成された設計と、今に通用するレーシング性能がある!」佐藤 成彦

AMX-4に乗ると、まだまだ金属フレームにも未来がある! ということが分かる。いま自分が乗っているアルミバイクと比べている部分も大きいが、AMX-4は現在の金属フレームの中ではおそらくトップレベルの実力を備えていると思います。

スカンジウム自体がレアメタルなので価格が高くなってしまうのでしょうか? フレーム価格はもっと安い方がいい。34万円というのは結構高額ですね。もっと安価だと思っていたのですが……。
去年、スキル・シマノが乗っていたコガミヤタのスカンジウムフレームは17万円を切る価格だったので、もう少し価格はどうにかなるのではないだろうか。
もっともコガミヤタのフレームとは性能の方向性が違うし、AMX-4はかなり秀逸な出来映えのフレームと言えるから素材が同じだからと言って一括りにはすべきでないかもしれませんが。


「同価格帯のカーボンフレームと比べて遜色のない高性能。自信を持ってオススメできる」
 鈴木 祐一(Rise Ride)



「全体バランスが良く、素直。そしてカーボンに負けず高性能」鈴木 祐一「全体バランスが良く、素直。そしてカーボンに負けず高性能」鈴木 祐一 いい意味で”非常識”な自転車だと思います。いまロードバイクはカーボンという流れであり、優れた製品=カーボンというような空気があるなかで、AMX-4は本当に“非常識”なほどに期待を裏切ってくれた1台です。

なにが優れているかというと、軽さ。ライディングしたときの全体的なバイクの振りやすさがとても素直でした。ライダーに無理を強いず、自然にコントロールできる感覚に秀でていて、まったくクセがない。あとは振動吸収性も高いレベルにあって、全体的なバランスが高次元でまとめられていると感じました。

アルミ系フレームの先入観として持たれている「固い」という感覚は、このAMX-1には当てはまらないですね。AMX-4よりも路面からの振動を伝えてくるロードバイクはよっぽどあり、振動吸収性のレベルはアルミ系のモデルとしては信じられないほど高いレベルにあります。

そして走りがよく伸びる。ペダルを踏んだときに嫌な固さを感じず、素材のバネ感をよく生かせていると感じました。ペダルを踏むとタメを持ってから、ビュンと進む感覚がありますね。踏んだ力を100だとしたら、伸びているときにプラス1割くらい足されているかのよう。踏んだ次のテンポで伸びてくれる感じがするので、すごく気持ちよくペダリングができます。

下りコーナーも、ワインディングのような道を走っても扱いやすい。フレーム上下のバランスがすごく良く、重心もいい位置で定まっているので、コーナリングでバイクを深く倒した時でも、浅く倒した時でも、あらゆる場面で自然な感じで扱えるので、ライダーにストレスがありません。フィーリングがとても優秀で、この良さの秘密はスケルトンからくるものだろうか? 

まるでハイエンドのカーボンフレームと勘違いしてしまうほどの高性能を持っていると思います。メルクスのスカンジウムモデルは長くラインナップされているので目新しさこそないが、確実に性能は熟成されている。下手なカーボンフレームを買うくらいなら、絶対こっちの方がいいですよ! 個人的にはちょっとテンションが上がってしまうほどですね(笑)。

「熟成されたスカンジウムフレームの性能の高さに驚く。個人的に欲しくなってしまった」鈴木 祐一「熟成されたスカンジウムフレームの性能の高さに驚く。個人的に欲しくなってしまった」鈴木 祐一

価格はフレーム単体で30万円を少しだが越えてしまう。高級なアルミフレームが少なくなっていく中、この価格もある意味非常識だと思います。でも中身に関しては、いい意味で期待を裏切ってくれるので、同じ価格帯のカーボンと比べてみてもまったく遜色ない性能です。この価格帯でフレーム購入を検討している人は、ぜひこのAMX-1も候補に入れてほしいですね。自信を持ってオススメできる、そんなバイクだと思います。

昔からのロードバイクマニアには、ブランドロゴは昔のタイプが格好良かったかな? 単に好みの問題だと思いますが、新しいロゴはカーボンフレームの太いシルエットにはよく似合うと思います。しかし、AMXはアルミなのだから昔のロゴが似合うような気がします。まあ、そこは好みが分かれるところですね。

ともかく、スカンジウムの優れた性能にびっくりしました! 個人的に欲しくなる1台です。





エディ・メルクス AMX-4エディ・メルクス AMX-4 (c)Makoto.AYANO/cyclowired.jp

EDDY MERCKX AMX-4
フレーム:スカンジウム7000TB
フォーク:カーボン3K 1-1/4
サイズ:420、450、480㎜(スローピング)
フレーム重量:1240g
カラー:アイスブルー
価格:30万825円




インプレライダーのプロフィール


佐藤 成彦佐藤 成彦 佐藤 成彦(SPACE BIKES)

千葉県松戸市の「バイクショップ・スペース」のオーナー。身長179cm、体重64kg。実業団のBR-1クラスを走る現役のレーサーでもあり、近所に住んでいるシマノレーシングの鈴木真理選手と共にトレーニングをこなすほどの実力を有している。2009年の戦歴は全日本実業団BR1クラス3位、実業団富士SW BR1クラス2位など。ハードなロードレースで自らが試して得た実戦的なパーツ選び、ポジションのアドバイスに定評がある。
SPACE BIKES


鈴木 祐一鈴木 祐一 鈴木 祐一(Rise Ride)

サイクルショップ・ライズライド代表。バイシクルトライアル、シクロクロス、MTB-XCの3つで世界選手権日本代表となった経歴を持つ。元ブリヂストン MTBクロスカントリーチーム選手としても活躍した。2007年春、神奈川県橋本市にショップをオープン。クラブ員ともにバイクライドを楽しみながらショップを経営中。各種レースにも参戦中。セルフディスカバリー王滝100Km覇者。
サイクルショップ・ライズライド


ウェア協力:Santini, Sportful(日直商会

text&edit :Tsukasa.Yoshimoto
photo:Makoto.AYANO

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