インドネシアにて先月開催されたツール・ド・シンカラに挑んだ西日本学生選抜チームの参戦手記をお届け。ハイレベルなUCIステージレースに挑んだ大学生の結果は?そこで得たこと、学んだものとは?レースに同行した監督によるレポートで紹介します。



9日間で開催されたツール・ド・シンカラ。沿道では日の丸も振られていた9日間で開催されたツール・ド・シンカラ。沿道では日の丸も振られていた photo:Tour de Singkarak
西日本学生選抜メンバー 左から順に栗田龍之介、久保田悠介、川嶋裕輔、吉岡優斗、井上文成、二宮誉仁西日本学生選抜メンバー 左から順に栗田龍之介、久保田悠介、川嶋裕輔、吉岡優斗、井上文成、二宮誉仁 11/18(土)~26(日)に、ツール・ド・シンカラ2017(UCI2.2)がインドネシア、スマトラ島西部で開催された。全9ステージ、総距離1196.2km。今回のインドネシア遠征に、西日本学生選抜チーム(以下、WJICF)として参加したメンバーは以下の通り。

選手(ゼッケン順):
久保田悠介(関西大学)
栗田龍之介(大阪経済大学)
吉岡優斗(立命館大学)
二宮誉仁(関西大学)
井上文成(岡山理科大学)
川嶋裕輔(中京大学)
監督:福島綾野(京都大学)

ライトアップされたチームプレゼンテーションの会場ライトアップされたチームプレゼンテーションの会場 開幕前夜のディナーパーティー開幕前夜のディナーパーティー photo:Tour de Singkarak

第1ステージ前夜 機材の準備が整った第1ステージ前夜 機材の準備が整った 第1ステージ サインする川嶋裕輔第1ステージ サインする川嶋裕輔


出発の3週間前に急遽主催者から招待されたが、多くの方々の協力もあり、国際ライセンス、及び日本の選手が海外で活動することをJCFが承認したことを示すUCIレターを取得することが出来た。それでもスタッフを集めるには時間が足りず、都合7人での遠征となった。



レースレポート

荷物のロスや破損もなく、無事迎えることのできた第1ステージ。出走したのは19チーム、108人。キナンサイクリングチームなどが過去に出場したことのあるレースだが、今年の日本からの参加はWJICFのみであった。このレースにおける我々の目標は完走すること。しかし、序盤から次々にかかったアタックや、パンク、腰痛等もあり、栗田、吉岡、二宮は完走することができなかった。それでも彼らの切り替えは大変早く、宿に着くなりマッサー、メカニックをやると自ら役割を買って出た。

第1ステージ スタート前の吉岡優斗(左)と久保田悠介(右)第1ステージ スタート前の吉岡優斗(左)と久保田悠介(右) 第1ステージスタート前 左から順に川嶋裕輔、井上文成、栗田龍之介、二宮誉仁、吉岡優斗、久保田悠介第1ステージスタート前 左から順に川嶋裕輔、井上文成、栗田龍之介、二宮誉仁、吉岡優斗、久保田悠介

第1ステージがスタート。19チーム、108人が1196.2kmに挑む第1ステージがスタート。19チーム、108人が1196.2kmに挑む photo:Tour de Singkarak
スタッフの増えた第2ステージ。走らない3人には補給地点に先回りしてもらう予定だったが、補給地点で止まるはずのチームバスがどのチームも通過してしまい、補給地点が消えるというハプニングが発生。これは全くの想定外だったが、この後の1級山岳の上りはきつく、集団は数人の先頭を残して崩壊、あたりは一瞬にして各選手が1人で坂を上る地獄絵図へと化した。これにより幸いにもチームカーからの補給はしやすくなった。その後はグルペットがいくつも形成され、久保田、井上、川嶋の順に異なる集団でゴールした。また、レース全体では、この日の結果は総合争いに大きく影響するものだった。

第3ステージは距離は161.3kmと全9ステージの中で一番長いものの、平坦基調であり、逃げがすぐに決まるなど終始落ち着いた展開。名前の由来となっているシンカラ湖の横を通る第4ステージでは、残念ながら、朝から膝の痛みを訴えていた井上がパレードラン直後に自らバイクを降りる事態に。それでも、早くも補給食が枯渇しかけていたチームカー用に、持っていた補給食を全て残していくという勇姿を最後に見せてくれた。これでチーム順位はつかなくなったが、久保田、川嶋は無事に完走した。

パイナンスタートの第2ステージ WJICFからの出走は3人パイナンスタートの第2ステージ WJICFからの出走は3人 第2ステージゴール後 久保田悠介の周りに子供が集まってきた第2ステージゴール後 久保田悠介の周りに子供が集まってきた

第3ステージスタート前 チームカーには持って行ったWJICFのマグネットを貼っていた第3ステージスタート前 チームカーには持って行ったWJICFのマグネットを貼っていた 第4ステージスタート前 左から順に川嶋裕輔、井上文成、久保田悠介第4ステージスタート前 左から順に川嶋裕輔、井上文成、久保田悠介


第5ステージはスタートから50kmずっと上りが続き、その後は100km近くほぼ下るという極端なコース。2人とも上りを集団でクリアしたので、この日も完走できるだろうと安心しかけたそのとき、チームカーに乗る我々の目に見覚えのある黄色いバイクが飛び込んできた。川嶋だ。カーブで膨らんできた選手を回避した際にあった段差で落車していたのだ。その後すぐに出発したものの様子がおかしい。なんと左のペダルが半分折れていたのだ。ゴールまでまだ70km以上もある。残った半分を使ってかろうじて踏む。下り基調のおかげかなんとか完走、久保田は問題なく集団で完走していた。

前日と異なり平坦基調の第6ステージ。序盤に発生した集団落車にWJICFの2人ともが巻き込まれた。それでも逃げの決まらない集団は時速50kmで暴走を続ける。完走が目標の選手にとって、少人数で集団に追いつくことはとても難しい。結局、川嶋は集団に復帰することができず、WJICFの残る選手は久保田のみとなった。

第4ステージ 遅れる川嶋裕輔第4ステージ 遅れる川嶋裕輔 バスの中から写真撮影の要望に応える栗田龍之介バスの中から写真撮影の要望に応える栗田龍之介

第8ステージ ケロック44を上る久保田悠介 奥に見えるのはマニンジャウ湖第8ステージ ケロック44を上る久保田悠介 奥に見えるのはマニンジャウ湖
第7ステージは、単純に脚がなかったと久保田は残り15kmで集団から遅れてしまい、少しタイムを失ってゴール。第8ステージは上りで有名なケロック44が最後に待ち構える頂上ゴールであり、44ヶ所ものつづら折りを10kmかけて上る。上りはじめまで集団にいた久保田だが、ここで遅れてしまう。しかし、この日は他のステージと比較してタイムアウトの設定がゆるかったこともあり、自分のペースを保ってゴールした。総合ではそれまで13秒差だった1位と2位が逆転。カリル・コールシッド(イラン、タブリーズ・シャハルダリ)が2位と48秒差をつけて総合優勝を確実なものに。

第8ステージ プロトンはCCNが率いる第8ステージ プロトンはCCNが率いる photo:Tour de Singkarak総合表彰台。優勝はカリル・コールシッド(イラン、タブリーズ・シャハルダリ)総合表彰台。優勝はカリル・コールシッド(イラン、タブリーズ・シャハルダリ) photo:Tour de Singkarak


コースプロフィールでは平坦だった第9ステージだが、ふたを開けてみると激しいアップダウン、カーブの連続だった。それでも完走という全員の夢を背負って久保田はゴール、総合1位から58分13秒遅れの49位だった。完走者は69人。レース後、久保田は「このようなレースで戦えるようになるにはレベルの差を感じた。自分が集団で限界ギリギリで走っている10分以上前で逃げ切っている選手がいる。しかし、海外のステージレースで完走できたことは自信になった。日本で応援してくれる人の存在が大きかった」と語っていた。

今回は急遽決まった出場のためスタッフ数は明らかに足りていなかったが、完走できなかった選手たちがサポートに徹し、完走者を出すという同じ目標のもとで大学の異なるメンバーたちが1つになることができた。マッサー、メカニックになった栗田、二宮、チームカーに乗った吉岡もサポートとして学ぶものがあり、全員が濃密な2週間を経験することができた。日本帰国後にはチーム全員が口を揃えて、非常に楽しかった、機会があればまた行きたい、このチームが解散するのが寂しいと言っていた。

ドライバーとアテンダントを含めた集合写真ドライバーとアテンダントを含めた集合写真
また、完走者を1人出せたことは、久保田の頑張りはもちろんのこと、日本からサポートしてくださった皆様の存在なしにはあり得ませんでした。出場手続きをはじめ、様々な形で関わってくださった方々には大変感謝しております。この場を借りて、御礼申し上げます。

さて、完走者は出せたものの、初めての海外長期遠征で、反省点が多くあった。補給食の消費量が想像以上に早く、持って行った数では全く足りていなかった。また、サポート陣の睡眠時間は足りておらず、胃痛や頭痛を次々に発症。1週間も続くレースでは長い移動時間はしりとりをする時間ではなく、無理やり寝る時間になった。そして、疲れていても毎日食事を取ることの重要さやチーム内外で協力し合うなど、学ぶものは多かった。疲労は日増しに蓄積されていった一方で、レースを楽しくする要素もあった。他の有名プロチームを抑え、日本チームは現地では大人気なのだ。

WJICFはプロでもないのに、ゴール後のテント前にはバスまでたどり着けないほどの人であふれかえっていた。美人に泣きながら写真撮影やサインを連日求められ、選手は人生の貴重なモテ期のうちの1回をここで使ってしまったようだ。

Report:京都大学自転車競技部/西日本学生選抜チーム監督:福島綾野

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