フランスの次世代クライマーの活躍で締めくくられたジュラ山脈初日のツール第8ステージ。結果的に総合成績に変動は見られなかったが、ハイペースに苦しむ選手が続出した。翌日のクイーンステージは雨が降る予報が出ている。


これぐらいこれぐらい photo:Kei Tsuji / TDWsport
安全ピンではなく両面テープでゼッケンが貼り付けられている安全ピンではなく両面テープでゼッケンが貼り付けられている photo:Kei Tsuji / TDWsport
ソックスとフレーム、ホイールを緑で揃えたマルセル・キッテル(ドイツ、クイックステップフロアーズ)ソックスとフレーム、ホイールを緑で揃えたマルセル・キッテル(ドイツ、クイックステップフロアーズ) photo:Kei Tsuji / TDWsport
もうすぐキッテルにサインがもらえるもうすぐキッテルにサインがもらえる photo:Kei Tsuji / TDWsport
暑さ対策としてスタート前にアイスジャケットを着るソニー・コルブレッリ(イタリア、バーレーン・メリダ)暑さ対策としてスタート前にアイスジャケットを着るソニー・コルブレッリ(イタリア、バーレーン・メリダ) photo:Kei Tsuji / TDWsport
ポートのサドル高に素早く変更可能な細工が施されたダニーロ・ヴィス(スイス、BMCレーシング)のバイクポートのサドル高に素早く変更可能な細工が施されたダニーロ・ヴィス(スイス、BMCレーシング)のバイク photo:Kei Tsuji / TDWsport
春から夏にかけて雨が多かった影響か、今年のツール・ド・フランスは虫が多い。高速道路を走っているとすぐにフロントガラスが汚れるのは他のドライバーも認めるところ。スタート地点で知り合いフォトグラファーが蜂に刺されたし、レース中にロベルト・キセルロウスキー(クロアチア、カチューシャ・アルペシン)もジャージに侵入してきた蜂の餌食になっている。

他のチームからホイールを受け取ってタイムペナルティを受けるなど、過去に何度もバイクトラブルに苦しめられているリッチー・ポート(オーストラリア)のために、BMCレーシングはスペシャルバイクを用意した。特別なのはポートが乗るバイクではなく、チームメイト2人が乗るバイク。メンバーの中で比較的身長の低いアマエル・モワナール(フランス)とダニーロ・ヴィス(スイス)のバイクにはすぐサドルを下げるドロッパーポスト的な細工が施されている。

トップチューブとシートチューブ接合部の下部に組み込まれた特別なレバーを解放するとシートポストが瞬時に下がる仕組み。シートポストにあらかじめ装着されたクランプがストッパーとなり、ポートのサドル高695mmまで下がる。パンクやメカトラが起こった際に、モワナールとヴィスが近くにいるとき限定ではあるものの、ポートはすぐに自分のサイズ(ハンドルはどうしても遠いが)を手にいれることができる。

低身長(172cm)のエースを抱えるならではの対策で、UCIルールには全く反していないので、こういった仕組みは近いうちに他のチームも導入するのではないかと思われる。チームの中で身長の高い部類に入るクリストファー・フルーム(イギリス、チームスカイ)は必要なさそうだが。

笑顔で出走サインを終えたクリストファー・フルーム(イギリス、チームスカイ)笑顔で出走サインを終えたクリストファー・フルーム(イギリス、チームスカイ) photo:Kei Tsuji / TDWsport
出走サインエリアでタイヤについた砂を拭き取る出走サインエリアでタイヤについた砂を拭き取る photo:Tim de Waele / TDWsport
スタートラインの最前列に並ぶクリストファー・フルーム(イギリス、チームスカイ)らスタートラインの最前列に並ぶクリストファー・フルーム(イギリス、チームスカイ)ら photo:Kei Tsuji / TDWsport
観客が詰めかけたドルのコース沿道観客が詰めかけたドルのコース沿道 photo:Kei Tsuji / TDWsport
1年前のブエルタ・ア・エスパーニャで山頂フィニッシュを制したリリアン・カルメジャーヌ(フランス、ディレクトエネルジー)が再び勝利した。この日はディレクトエネルジーのジャンルネ・ベルノドーGMの61回目の誕生日。脚が攣って悲鳴をあげながら地面に倒れこんだカルメジャーヌは、駆け付けたベルノドーGMと抱き合った。

レ・ルッスのスキー場では、7年前に現在のチームメイトであるシルヴァン・シャヴァネル(フランス、当時はクイックステップ)が逃げ切り勝利とマイヨジョーヌ獲得を果たしている。先輩オールラウンダーの後を継いだカルメジャーヌは、自分自身を「UCIワールドツアーポイントや総合成績を狙うのではなく、パナッシュな(観客を魅了する刺激的な)走りで攻めるタイプの選手」と表現する。確かに、脚が攣って観客をヒヤヒヤさせながらも歯を食いしばって逃げ切る姿はフランス人の観客を大いに惹きつけた。

カルメジャーヌは「サルデーニャカラーに似ているから気に入っている」というファビオ・アル(イタリア、アスタナ)からマイヨアポワを奪うことに成功。「極端に厳しい山岳ステージではない今日のようなコースでは強さを発揮できるけど、総合争いに絡めるような安定感はまだない。自分の未来はまだ見えないけど、次世代ベルナール・イノーではないと思う」と、初出場のツールで勝利を飾った24歳は表彰台後にプレスセンターのジャーナリストたちと中継で繋がれたバーチャル記者会見で語っている。

フィニッシュ後に地面に倒れこむリリアン・カルメジャーヌ(フランス、ディレクトエネルジー)フィニッシュ後に地面に倒れこむリリアン・カルメジャーヌ(フランス、ディレクトエネルジー) photo:Tim de Waele / TDWsport
最後までメイン集団のコントロールを続けたチームスカイ最後までメイン集団のコントロールを続けたチームスカイ photo:Kei Tsuji / TDWsport
グルペット先頭のベルンハルト・アイゼル(オーストリア、ディメンションデータ)がボトルを投げるグルペット先頭のベルンハルト・アイゼル(オーストリア、ディメンションデータ)がボトルを投げる photo:Kei Tsuji / TDWsport
前半から苦しんだアルノー・デマール(フランス、エフデジ)がタイムリミット内でフィニッシュに向かう前半から苦しんだアルノー・デマール(フランス、エフデジ)がタイムリミット内でフィニッシュに向かう photo:Kei Tsuji / TDWsport
獲得標高差3,200mの山岳ステージをカルメジャーヌは平均スピード41.59km/hで走りきっており、主催者が設定した想定タイムを更新しながらの展開だった。カルメジャーヌは最後の1級山岳コンブ・ド・レジア=レ・モリュヌ(全長11.7km/平均6.4%)を平均スピード20.70km/hで登りきっている。ちなみにメイン集団内で走ったフルームは19.96km/h。逃げの最後にカルメジャーヌはフルームよりも0.74km/h速い登坂スピードをマークした。

激しく動いたステージ前半と比べると、メイン集団は比較的平穏にステージ後半を走った。それでもチームスカイがペースを刻んだので厳しいステージであることに変わりはない。マイヨジョーヌ候補たちからは「今日のハイペースな展開は明日のレースに響く(コンタドール)」や「一日中ずっと全開で、ずっとトリッキーだった。最後はタイム差が生まれなかったけど、ハイペースの影響はどの選手の脚にも残っているはず(ポート)」という声が聞こえて来る。

その「明日」というのが、今大会最難関ステージだと目されている第9ステージだ。ジュラ山脈の7つの峠をつないだ獲得標高差4,600mオーバーのモンスターステージ。中盤にかけて超級山岳ビシュ峠(全長10.5km/平均9%)と超級山岳グランコロンビエール(全長8.5km/平均9.9%)を越え、クリテリウム・デュ・ドーフィネにも登場した急勾配の超級山岳モン=デュ=シャ(全長8.7km/平均10.3%)が残り26km地点に位置している。注目すべきは最後のモン=デュ=シャのテクニカルな下りで、ドーフィネではここでフルームがリードを奪う走りを見せた。

ただでさえ厳しいクイーンステージだが、午後にかけて天候が崩れる予報が出ており、局所的に雷雨になる模様。雨のモン=デュ=シャでは、ここまでの戦いが無意味に感じるようなタイム差が生まれる可能性だってある。前半戦の山場どころか、今大会最も注目すべき戦いになるのは間違いない。

第8ステージのタイムカットは約46分。ステージ前半から遅れ、先頭が90km地点を走っている時にまだ80km地点を走っていたアルノー・デマール(フランス、エフデジ)は完走に黄信号が灯っていたが、チームメイトにサポートされて37分33秒遅れでフィニッシュにたどり着いている。第9ステージはスタート直後に2級山岳が登場するため、再びタイムカットとの戦いになる。マイヨジョーヌ争いの山場は同時にマイヨヴェール争いの山場にもなる。

text&photo:Kei Tsuji in Station des Rousses, France