ブルゴーニュのワイン畑の先に待っていた「ツール史上最小の差による勝利」。翌日からの山岳ステージを控え、スプリンターたちが前半戦最後のバトルを繰り広げた第7ステージを振り返ります。



ツール・ド・フランスツール・ド・フランス photo:Kei Tsuji / TDWsport
モビスターは選手とスタッフ全員が赤いバンダナを着用モビスターは選手とスタッフ全員が赤いバンダナを着用 photo:Kei Tsuji / TDWsport
ファビオ・アル(イタリア、アスタナ)のペダルはマイヨアポワ仕様ファビオ・アル(イタリア、アスタナ)のペダルはマイヨアポワ仕様 photo:Kei Tsuji / TDWsport
「鶴・ド・フランス」とリッチー・ポート(オーストラリア、BMCレーシング)「鶴・ド・フランス」とリッチー・ポート(オーストラリア、BMCレーシング) photo:Kei Tsuji / TDWsport
モビスターの選手たちはスペイン・パンプローナで開催されるサン・フェルミン祭を祝い、いつもの赤いバンダナを首に巻いて出走サインにやってきた。選手たちだけでなく監督やチームスタッフ全員が赤いバンダナを着用。もはやバネスト時代からの風物詩になっており、わざわざツールに合わせたオリジナルのバンダナを用意しているほど。

なお、第1ステージの個人TTで落車し、左脚の膝蓋骨(膝の皿)と距骨の骨折を負ったモビスターのアレハンドロ・バルベルデ(スペイン)は落車の翌日にデュッセルドルフの病院で手術を受け、手術は成功。5日間の入院で経過を観察していたバルベルデは医師のGOサインを受けてようやくスペインに帰国した。現在は松葉杖なしには歩けない状態だとモビスターのプレスリリースは明らかにしている。「ゆっくりと、確実に怪我を治したい。医師はここまでの経過は良好だと言ってくれている。長いプロセスになるけど、落ち着いて、自信を持って治療に専念するよ」と37歳のベテランは語った。

現在ツールにはツール・ド・フランスさいたまクリテリウムのスタッフが帯同中。この日は4賞ジャージの色に合わせた千羽鶴「鶴・ド・フランス」がスタート地点に届けられた。スタート地点で気の知れた選手たちに「あれは何だ?」と何度も聞かれたが説明に苦労した。それにしても「自分もさいたまクリテリウムを走りたい」という選手が毎年のことながら多い。

アルノー・デマール(フランス、エフデジ)に何かを説明するUCIチーフコミッセールのフィリップ・マーリアン氏アルノー・デマール(フランス、エフデジ)に何かを説明するUCIチーフコミッセールのフィリップ・マーリアン氏 photo:Kei Tsuji / TDWsport
手が大きくなったジャック・ヤンセファンレンズバーグ(南アフリカ、ディメンションデータ)手が大きくなったジャック・ヤンセファンレンズバーグ(南アフリカ、ディメンションデータ) photo:Kei Tsuji / TDWsport
マイヨジョーヌのクリストファー・フルーム(イギリス、チームスカイ)が平坦コースを走るマイヨジョーヌのクリストファー・フルーム(イギリス、チームスカイ)が平坦コースを走る photo:Kei Tsuji / TDWsport
青空とプロトンと緑のワイン畑青空とプロトンと緑のワイン畑 photo:Kei Tsuji / TDWsport
ワイン畑を駆け抜けるクリストファー・フルーム(イギリス、チームスカイ)ワイン畑を駆け抜けるクリストファー・フルーム(イギリス、チームスカイ) photo:Kei Tsuji / TDWsport
日本のJ-Sportsに限らず、今年からツール・ド・フランスは全ステージスタートからフィニッシュまで生放送。今までは文字情報しかなかったスタート直後のアタック合戦が中継されるが、残念ながら、ここまでのステージではすんなり逃げが決まってしまっている。それもそのはず、山岳ステージはとことんクライマー向きの山岳ステージで、平坦ステージはとことんスプリンター向きの平坦ステージ、というのが今大会のコースの特徴。どっちに転ぶかわからないような、誰が勝つのか最後の最後までわからないようなステージは少なめだ。

この日、207.5km逃げてステージ敢闘賞を獲得したディラン・ファンバーレ(オランダ、キャノンデール・ドラパック)は、今大会の積算逃げ距離を357.5kmに伸ばしている。が、フレデリック・バカールト(ベルギー、ワンティ・グループゴベール)の391kmには届いていない。

終盤にかけてコースの沿道に広がるのは、2015年にユネスコ世界遺産に登録されたブルゴーニュのワイン畑。フィニッシュ地点ニュイ=サン=ジョルジュは、ロマネ・コンティやシャンベルタンなどの赤ワインの産地であるコート・ド・ニュイの中心地。知る人ぞ知るどころか、世界的に広く知れ渡った一大産地。

太陽が陰るタイミングもあったので前日よりマシとは言え、この日も気温と湿度は高め。赤ワインをがぶがぶ飲みたくなるような天気ではなかった。ちなみに葡萄畑ではなくワイン畑と呼んでいるのは、ヴィンヤードもしくはワインフィールドと呼ぶ英語やヴィニョーブルと呼ぶフランス語につられて随分と気触れているからです。

フォトフィニッシュをパッと見ただけでは判別がつかないほどの差フォトフィニッシュをパッと見ただけでは判別がつかないほどの差 photo:A.S.O.
じっと判定を待つマルセル・キッテル(ドイツ、クイックステップフロアーズ)じっと判定を待つマルセル・キッテル(ドイツ、クイックステップフロアーズ) photo:Kei Tsuji / TDWsport
勝利の一報が入り、スタッフと抱き合うマルセル・キッテル(ドイツ、クイックステップフロアーズ)勝利の一報が入り、スタッフと抱き合うマルセル・キッテル(ドイツ、クイックステップフロアーズ) photo:Kei Tsuji / TDWsport
血管の浮き出たクリストファー・フルーム(イギリス、チームスカイ)の脚血管の浮き出たクリストファー・フルーム(イギリス、チームスカイ)の脚
表彰式の最中、持ち主の帰りを待つバイク表彰式の最中、持ち主の帰りを待つバイク photo:Kei Tsuji / TDWsport
当の本人もチームスタッフも大会関係者も、誰が勝ったのか誰もわからないフィニッシュ地点。誰かの「キッテルが勝った」という声を聞いた多くのフォトグラファーがエドヴァルド・ボアッソンハーゲン(ノルウェー、ディメンションデータ)ではなくマルセル・キッテル(ドイツ、クイックステップフロアーズ)のもとに駆けつけたが、本人は地面を見つめながら正式なフォトフィニッシュの発表を待っていた。

ラジオツール(競技無線)を通してキッテルの勝利が発表されたのはフィニッシュから約3分が経ってから。ネット上にアップされているフォトフィニッシュの写真では全く差がないように見えるが、高画素データの解析によってUCIコミッセールはキッテルの前輪が1ピクセル分だけ先にフィニッシュしていることを確認した。

その差はなんと0.0003秒。キッテルのスプリント中の最高スピードは70.49km/hなので、1時間で70.49km、1分間で1,175m、1秒間で19.58m進む。その1/3,333なので、キッテルとボアッソンハーゲンの差はわずか約5.87mmという僅差だった。太いタイヤを履いていれば先着していたのではないかと思えるほどの差。ハンドルを投げ込むタイミングが0.1秒でもずれていれば結果は変わっていた。

ロードレースにおいて1位が2人という事例はあまり聞いたことがない(追記:2016年ツール・ド・コリア第7ステージでは写真判定のカメラが故障により2人の優勝者が生まれている)が、2010年のUCIロード世界選手権U23ロードレースでは3位が二人という事態が発生。タイラー・フィニー(アメリカ)とギョーム・ボワヴァン(カナダ)が銅メダルを分け合っている。

キッテルはエリック・ツァベルがもつステージ通算12勝というドイツ人記録に並んだ。他にもロビー・マキュアン(オーストラリア)やマリオ・チポッリーニ(イタリア)の記録にも並んでおり、現役選手の中ではステージ通算30勝のマーク・カヴェンディッシュ(イギリス、ディメンションデータ)に次ぐ通算勝利数だ。

ドイツとノルウェーによる接戦の後ろでは、フランスの期待を背負うナセル・ブアニ(コフィディス)とアルノー・デマール(エフデジ)がそれぞれ8位と11位でフィニッシュ。トップ3に絡めなかっただけでなく、デマールはマイヨヴェールを失い、残り4kmで頭突き合戦を繰り広げた両者には200スイスフランの罰金が課せられている。

text&photo:Kei Tsuji in Nuits-Saint-Georges, France