イタリアの老舗ブランド、ビアンキより新登場したフラッグシップエアロロード「OLTRE XR4」をインプレッション。独自の振動除去素材カウンターヴェイルを投入し、長時間のレースに快適性をもたらす1台を紹介しよう。



ビアンキ OLTRE XR4ビアンキ OLTRE XR4 (c)Makoto.AYANO/cyclowired.jp
1885年に創業を開始し、実に130年以上もの歴史を誇るイタリアンブランドであるビアンキ。その歴史は常にロードレースシーンとともにあり、史上初のダブルツールを達成したファウスト・コッピや、グランツール完全制覇を成し遂げたフェリーチェ・ジモンディなどもビアンキのバイクを駆り、輝かしい栄光を手にしてきた。

近年で言えばヴァカンソレイユ・DCMやアンドローニ・ジョカトリ、ベルキンプロサイクリングといったチームをサポートし、現在もロットNLユンボがビアンキのバイクとともにUCIワールドツアーを戦っている。どのチームにも共通して言えるのは、同社エアロロードの「OLTRE」をメインバイクとして使用してきたこと。山岳ステージでは軽量バイクへスイッチすることもあったが、多くのレースでOLTREが選択された事実は、紛うことなきフラッグシップマシンであることを証明している。

大きく形状を変えたシートステーにはカウンターヴェイルの文字が大きく形状を変えたシートステーにはカウンターヴェイルの文字が 翼断面形状の大口径ダウンチューブ翼断面形状の大口径ダウンチューブ 外側に膨らんだカーブを描くエアロ形状のフロントフォークへ変更外側に膨らんだカーブを描くエアロ形状のフロントフォークへ変更

OLTREシリーズがデビューしたのが2010年。その後も基本コンセプトやフレーム形状は大きく変えることなくマイナーチェンジやブラッシュアップを繰り返し、OLTRE XR、OLTRE XR2と数字を増やしてきた。そして今年、新たにモデルチェンジを果たし、「3」を飛ばしてリリースされたのが、今回インプレッションを行った「OLTRE XR4」である。

その最たる変更点が、フレームに独自の振動除去素材「Countervail(カウンターヴェイル)」を使用したこと。NASAでの採用実績を持つ素材メーカー、マテリアル・サイエンス社との共同開発により生み出された、独自のカーボン繊維構造と粘弾性により優れた振動除去性能を持った特殊素材で、これをシート状にしカーボン積層に挟み込むことで、路面からの微振動をカットし、従来品に比べ最大80%もの振動を除去することが可能になるという。その上、フレームの剛性や強度も向上にも貢献している。

緩くカーブを描くトップチューブ形状緩くカーブを描くトップチューブ形状 上位グレードコンポーネントの完成車には、Vision製の専用ステム一体型カーボンハンドルがアッセンブルされる上位グレードコンポーネントの完成車には、Vision製の専用ステム一体型カーボンハンドルがアッセンブルされる
チェーンステーとともにボリュームを増したリアエンド部分チェーンステーとともにボリュームを増したリアエンド部分 ブレーキは新たに前後ともダイレクトマウントタイプとなったブレーキは新たに前後ともダイレクトマウントタイプとなった

路面からの振動を除去し快適性を向上させると共に、コントロール性向上や振動によって発生するパワーロスの低減に寄与している。更に快適な乗り心地により、ライダーが長時間アグレッシブなエアロポジションを取ることをサポートし、人間も含めたトータルの空気抵抗低減を狙ったモデルとなっている。

フレーム形状は前作OLTRE XR2を踏襲しつつ、CFD解析、風洞実験、フレーム本体の空気の流れを可視化するフロービジュアライゼーションといったプロセスを経て最適化。振動吸収のために横方向に極薄の扁平形状とされていたシートステーは、カウンターヴェイルの採用により、剛性を確保するやや太めで縦に扁平となった形状へ変更されている。同じ理由でチェーンステーもややボリュームが増したものとなった。

クランプは上から締め込む臼式タイプを採用クランプは上から締め込む臼式タイプを採用 トップチューブに沿ったエアロ形状のトップカバートップチューブに沿ったエアロ形状のトップカバー

細身でストレート形状であったフロントフォークは、よりエアロを追求するため、横方向に厚くなり外側へ膨らむようにカーブを描く形状が新たに採用されている。前方からのエア抜けを良くすることで空力性能を高めるとともに、剛性と振動吸収性をバランスさせたものとなっている。また、ヘッドカバーがトップチューブに沿った専用形状になっていたり、フォーククラウンとダウンチューブが一体化したインテグレーテッドデザインであったりと、最新のエアロロードたる工夫が各所に見て取れる。

ブレーキは新たに制動力と空力性のアップを狙ったダイレクトマウント式。細かく見れば、ケーブルのフル内装や、専用のエアロシートポスト、臼式タイプのシートクランプなど昨今のエアロロードスタンダードを満たしている。上位グレードコンポーネントの完成車であれば、Vision製の専用ステム一体型カーボンハンドルがアッセンブルされる点もポイントだ。

シートチューブは前作同様、後輪に沿ったエアロ形状となるシートチューブは前作同様、後輪に沿ったエアロ形状となる 専用のエアロシートポストを使用専用のエアロシートポストを使用 ロゴバッジが光るヘッドチューブは前方投影面積を減らすデザインロゴバッジが光るヘッドチューブは前方投影面積を減らすデザイン

販売はフレームセットとともに各種コンポーネント、ホイールが選択できる完成車も用意。今回はその中でもカンパニョーロのスーパーレコードに、同BORA ULTRA 50ホイールを合わせたトップグレードの完成車(税抜価格1,410,000円)にてテストを行った。老舗イタリアンブランドの新たなるフラッグシップをインプレライダーはどう見るのか。それではインプレッションに移ろう。



ー インプレッション

「平坦路での巡航性能や加速性能が高く、登りも軽快なオールラウンダー」杉山友則(Bicicletta IL CUORE)

軽快な走りで挙動も軽く、乗っていて非常に楽しいピュアレーシングバイクですね。エアロ然としたフォルムですから、平坦路での巡航性能や加速性能も良いですし下りも速いです。その上で登りも軽く登ってくれますので、オールラウンドなエアロロードといった印象を受けました。

振動除去素材のカウンターヴェイルを搭載していることで、確かに路面からの細かな振動が抑えられており、乗り心地は良いですね。荒れた路面でも気にせずに走ることができます。またこのカウンターヴェイルの効果からかバイクの路面追従性も高く、トラクションがかかりやすいのもポイントですね。

「平坦路での巡航性能や加速性能が高く、登りも軽快なオールラウンダー」杉山友則(Bicicletta IL CUORE)「平坦路での巡航性能や加速性能が高く、登りも軽快なオールラウンダー」杉山友則(Bicicletta IL CUORE)
レーシングバイクですが、がっちりとした高剛性という訳ではなく、小さい出力でも伸びやかな加速を見せてくれる僅かなウィップ感があります。ですので、踏み負けるような脚への激しい反発はありません。大出力をかけてスプリントとなるとより硬めのバイクの方がマッチするかもしれませんが、その分アップダウンの激しいコースや長距離のレースで脚を残せる余地があるので、過酷な耐久レースには有利に働く乗り味だと思います。

専用の一体型ハンドルは一般的なハンドルと同じような感覚で使用でき違和感はありませんでした。ハンドル上部が平らなエアロ形状となっているため、面に手を置いて走ることができ、リラックスして流す時には良いと思います。一方でしっかり上ハンドルを握ってクライミングしたい方には合わないかもしれません。

ハンドリングに関しては、コーナーに突っ込んで行った時の反応がレーサーらしく非常にシャープです。ですので、コーナリングはぎりぎりまで待ってから急制動をかけてクイックに切れ込むというレーシングな曲がり方をすることも可能です。エアロロードですがバイクが立ち上がるような挙動もなく、ライダーの思うように下りを攻めることができますね。

ホイールに関しては、今回は50mmハイトのディープリムホイールがアッセンブルされていましたが、エアロ効果と走りの軽さが向上する感覚があり相性は良いと感じました。フレームが絶妙な剛性バランスで懐が広いので、逆にリムハイトが低いホイールでも登りが楽しくなるでしょうし、もっと高いハイトのスーパーディープリムホイールでも問題なく走ってくれると感じました。走りのシーンに応じて、そのホイールの狙った通りの働きをしてくれますね。

これ程の性能を持ちながらフレームセットで41万円というのは十分お買い得だと思います。他社のハイエンドモデルと比べてもコストパフォーマンスは高いですね。基本的にはレースバイクですが、ロングライドや軽くサイクリングといった使い方でも気持ち良く走ることができます。様々なシチュエ―ションに対応出来る万能感が良い1台です。

「振動除去の性能は高く、高速域でもストレスの少ない乗り心地に」吉田幸司(ワタキ商工株式会社 ニコー製作所)

「振動除去の性能は高く、高速域でもストレスの少ない乗り心地に」吉田幸司(ワタキ商工株式会社 ニコー製作所)「振動除去の性能は高く、高速域でもストレスの少ない乗り心地に」吉田幸司(ワタキ商工株式会社 ニコー製作所) 乗ってみるとついついスピードを出したくなるほどよく進むバイクですね。カウンターヴェイルの振動除去機能が良く効いており、細かい振動が抑えられているため、ストレスが少なく、踏んでいきたくなる乗り味です。

踏み心地はどんどん力をかけていきたくなる踏みごたえのある感覚ですね。BBも比較的高剛性な部類に入りますが、ガチガチに硬いという訳ではなく、バランスの良い剛性感に仕上がっています。レースなどで前の逃げ集団を追いかけるような、ハイパワーで踏み続けて平地を巡航していくような走り方のイメージが湧いてきます。

快適性に関しては、各々の業界から1社だけしか使う事を許されないというカウンターヴェイルテクノロジーを搭載していることもあり、スピードの高低を問わずに振動を除去してくれているように感じます。もちろんロングライド向けに性能を振ったバイクには敵いませんが、プロレースで使用されるレーシングバイクとしては微振動がしっかりと抑えられており、そのスムーズさが新たに踏みたくなるモチベーションにも繋がっているような気がします。

登りは緩やかな勾配の登坂路でしたら、エアロ性能を発揮してハイスピードで駆け抜けていく事ができるでしょう。長めの純粋なヒルクライムだと、ダンシング時のリズムが上手く取れるのか分かりませんが、シッティングで高めのケイデンスでもってペダルを回して行くと上手く走れるのではないでしょうか。トルクをかける走り方というよりは、回していく走り方の方が合っていますね。

ハンドリングに関しては非常に扱いやすく、ダウンヒルでもオーバーステアでもアンダーステアでもなく狙い通りのラインをトレースしてくれるニュートラルな印象です。一方そのエアロフォルムと今回アッセンブルされたディープリムホイール故に、横風が吹くとふわっと煽られるような感覚はありますね。

これらの性能で41万円というプライスは妥当なラインだと思います。後はコンポーネントとホイールを上手く選んでもらうのでも良いですし、完成車のパッケージも豊富ですから、その中から選ぶのでも良いでしょう。ビアンキというと日本ではクロスバイクやミニベロといったイメージが強いですし、ロードバイクに関してもチェレステカラーに惚れて購入ということが多いかと思います。そのような方が良いものが欲しいとなった時にこのOLTRE XR4に乗ると、またビアンキに乗り続けたいなと思うような満足できる性能の高さを感じることができました。

ビアンキ OLTRE XR4ビアンキ OLTRE XR4 (c)Makoto.AYANO/cyclowired.jp
ビアンキ OLTRE XR4 CAMPAGNOLO SUPER RECORD
コンポーネント:カンパニョーロ スーパーレコード
ホイール:カンパニョーロ BORA ULTRA 50
ハンドル:Vision Metron 5D Integrated Aero bar
価格:1,410,000円(税抜)

ビアンキ OLTRE XR4 フレームセット
フレーム重量:980g(サイズ55)
フォーク重量:370g
BB:PressFit 86.5x41mm
サイズ:47、50、53、55、57、59、61
カラー:BLACK MATT/CK16 GLOSSY、CK16 MATT/BLACK GLOSSY、CK16/BLACK FULL GLOSSY、GRAPHITE MATT/BLACK VIVID RED GLOSSY、BLACK MATT/BLACK MAMBA GLOSSY
価格:410,000円(税抜)



インプレッションライダーのプロフィール

杉山友則(Bicicletta IL CUORE)杉山友則(Bicicletta IL CUORE) 杉山友則(Bicicletta IL CUORE)

東京都台東区のBicicletta IL CUORE 下谷本店店長。ダミアーノ・クネゴがジュニアチャンピオンだったころからクネゴのファンだという、自他ともに認めるミーハー系自転車乗り。グエルチョッティやコルナゴ、ルックなどヨーロピアンブランドへの造詣が深い。ショップ店長としては、ユーザーがサイクルライフを楽しめる遊び方の提案を心がけている。

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Bicicletta IL CUORE ショップHP

吉田幸司(ワタキ商工株式会社 ニコー製作所)吉田幸司(ワタキ商工株式会社 ニコー製作所) 吉田幸司(ワタキ商工株式会社 ニコー製作所)

名古屋に店舗を構えるワタキ商工株式会社 ニコー製作所の4代目店長を務める。一般企業に勤めてから入社した経験を活かし常に"外側からの視点"に注意を払い、初心者さんが気軽に入店しやすい雰囲気づくりを心がけている。週末にはロードやシクロクロス、トライアスロンなど多岐にわたってイベントを開催し、お客さん同士が仲良くなれるような場を提供している。ショップでは「当たり前のことを当たり前にやる」ことをモットーに作業を行い、お客さんが乗りやすいバイクを提供している。

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ワタキ商工株式会社 ニコー製作所 ショップHP


ウェア協力:シマノ
ヘルメット協力:ベル

text:Yuto.Murata
photo:Makoto.AYANO
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