アルデンヌクラシックにフランドルの石畳坂を混ぜたような難コース。終盤の起伏を利用して抜け出したディメンションデータの2人が揃って逃げ切り、セルジュ・パウエルス(ベルギー、ディメンションデータ)がプロ初勝利となるツール・ド・ヨークシャー総合優勝に輝いた。



ブラッドフォードの市庁舎前をスタートブラッドフォードの市庁舎前をスタート photo:Kei Tsuji / TDWsport
前日に亡くなった元チームメイトのチャド・ヤングを悼み、右腕に喪章をつけるタオ・ゲオゲガンハート(イギリス、チームスカイ)前日に亡くなった元チームメイトのチャド・ヤングを悼み、右腕に喪章をつけるタオ・ゲオゲガンハート(イギリス、チームスカイ) photo:Kei Tsuji / TDWsport青いリーダージャージを着るカレイブ・ユアン(オーストラリア、オリカ・スコット)青いリーダージャージを着るカレイブ・ユアン(オーストラリア、オリカ・スコット) photo:Kei Tsuji / TDWsport

ツール・ド・ヨークシャー2017第3ステージツール・ド・ヨークシャー2017第3ステージ image:A.S.O.ASOとタッグを組んでレースを主催する「ウェルカム・トゥー・ヨークシャー」のゲイリー・ヴェリティー代表の言葉を借りると「ヨークシャー史上最強コース」がツール・ド・ヨークシャー最終日に登場した。ちなみに大会主催者「ウェルカム・トゥー・ヨークシャー」は同地方の観光促進を担う公式観光エージェンシーで、2014年のグランデパール(ツール開幕)誘致や2019年のUCIロード世界選手権誘致の立役者。サーの称号を得ているヴェリティー氏は2018年の第4回大会について「(3日間よりも)日数を増やしてUCIに申請する予定だ」と意気込んでいる。

前半2ステージでタイム差がつかなかったため、獲得標高差3,500mのクイーンステージの成績が総合成績に直結する。コースは標高500m程度のダイナミックな丘を登っては下り、下っては登るの繰り返し。登場する8つのKOMはどれも軒並み平均勾配が10%を超えるような急坂で、「北のクラシック」を彷彿とさせる石畳に覆われたものも。ルーク・ロウ(イギリス、チームスカイ)が「フランドルよりもきつい石畳坂がヨークシャーにあった」と嘆く難易度だ。

逃げるガティス・スムクリス(ラトビア、デルコ・マルセイユ)ら逃げるガティス・スムクリス(ラトビア、デルコ・マルセイユ)ら photo:Kei Tsuji / TDWsportコース沿道から観客が途切れることはなかったコース沿道から観客が途切れることはなかった photo:Kei Tsuji / TDWsport
リーダージャージのカレイブ・ユアン(オーストラリア、オリカ・スコット)を先頭にハワースの石畳坂を登るリーダージャージのカレイブ・ユアン(オーストラリア、オリカ・スコット)を先頭にハワースの石畳坂を登る photo:Kei Tsuji / TDWsport

ジロ・デ・イタリア出場予定のステフェン・クライスヴァイク(オランダ、ロットNLユンボ)がスタートを見送ったこの日、ブラッドフォードからフォックスヴァレーまで観客が途切れることはなかった。街中から田舎道、幹線道路、登り坂に至るまでとにかく人人人。そんな大勢の観客を沸かすかのように、2016年のパリ〜ルーベ覇者マシュー・ヘイマン(オーストラリア、オリカ・スコット)が逃げた。

リーダージャージを着るカレイブ・ユアン(オーストラリア)に総合争いのチャンスはないとして、リーダーチームとしての責任を放棄したオリカ・スコットが逃げに打って出た。同様に、クライスヴァイクのいないロットNLユンボもステフェン・ラメルティンク(オランダ)を逃げに乗せる。7名に人数を増やした逃げグループはメイン集団から4分半のリードを得た。

どんよりとした灰色の空から時折小雨がぱらついたが、3日間を通して大雨に降られることはなかった。大会関係車両が再発進に手こずるほど急勾配の石畳坂を逃げグループは快調に越えていく。前半4つのKOMでポイントを稼いだピーター・ウェーニング(オランダ、ルームポット)は、チームメイトのエティエンヌ・ファンエンペル(オランダ)が着ているピンク色の山岳賞ジャージを引き継ぐことに成功している。

イアン・スタナード(イギリス、チームスカイ)とベルンハルト・アイゼル(オーストリア、ディメンションデータ)が長時間にわたって集団を牽引イアン・スタナード(イギリス、チームスカイ)とベルンハルト・アイゼル(オーストリア、ディメンションデータ)が長時間にわたって集団を牽引 photo:Kei Tsuji / TDWsport

ベルンハルト・アイゼル(オーストリア、ディメンションデータ)とイアン・スタナード(イギリス、チームスカイ)の長時間にわたる集団牽引によって逃げグループはリードを失い、タイム差がわずかとなった残り25km地点でメイン集団は活性化。ディメンションデータとディレクトエネルジーの2チームが率先してペースを上げ、逃げを飲み込むとともに集団の人数を絞った。

その一方、下りコーナーでポイント賞ジャージを着るナセル・ブアニ(フランス、コフィディス)がクラッシュ。意識を失ったまま地面に倒れ込む姿が映像に流れた。ブアニはすぐさま救急車で病院に搬送されている。コフィディスの発表によると、救急車の車内で意識を取り戻したブアニは大きな怪我を免れた。

レースはいよいよ残り20km地点から始まる4連続KOMへ。ディフェンディングチャンピオンのトマ・ヴォクレール(フランス、ディレクトエネルジー)が脱落する中、残り12km地点のKOMウィグトウィズルでジャック・ヤンセファンレンズバーグ(南アフリカ、ディメンションデータ)がペースを上げて集団の人数を今一度絞り込むと、段階的にパウエルスがアタックした。

残り25km地点まで逃げ続けたガティス・スムクリス(ラトビア、デルコ・マルセイユ)ら残り25km地点まで逃げ続けたガティス・スムクリス(ラトビア、デルコ・マルセイユ)ら photo:Kei Tsuji / TDWsportUCIワールドチームを先頭にメイン集団が進むUCIワールドチームを先頭にメイン集団が進む photo:Kei Tsuji / TDWsport

フィニッシュまで11kmを残して(急勾配のKOMを2つ残して)独走を開始したパウエルス。後方ではオマール・フライレ(スペイン、ディメンションデータ)がすべてのカウンターアタックを潰し、パウエルスを援護する。残り6km地点でパウエルスと追走グループのタイム差は25秒に。

ブレント・ブックウォルター(アメリカ、BMCレーシング)のペースアップによって追走グループは7名に絞られ、同時に先頭パウエルスとの差を詰める。残り2km地点でタイム差は10秒。すると、アタックに反応して単独で飛び出す形となったフライレがそのまま踏み、パウエルスに追いついてみせる。残り1kmアーチ通過と同時にディメンションデータがワンツー体制を築くことに成功した。

トロフェオバラッキ(2人で行うチームTT)のごとくローテーションして逃げるパウエルスとフライレが後続を振り切って最終ストレートへ。アシストとして走ったフライレが先に脚を止めてガッツポーズ。パウエルスが先頭で両手を広げ、ディメンションデータのワンツー勝利が決まった。

両手を挙げてフィニッシュするセルジュ・パウエルス(ベルギー、ディメンションデータ)とオマール・フライレ(スペイン、ディメンションデータ)両手を挙げてフィニッシュするセルジュ・パウエルス(ベルギー、ディメンションデータ)とオマール・フライレ(スペイン、ディメンションデータ) photo:Kei Tsuji / TDWsport
6秒差でフィニッシュするブレント・ブックウォルター(アメリカ、BMCレーシング)ジョナサン・イヴェール(フランス、ディレクトエネルジー)6秒差でフィニッシュするブレント・ブックウォルター(アメリカ、BMCレーシング)ジョナサン・イヴェール(フランス、ディレクトエネルジー) photo:Kei Tsuji / TDWsportフライレと勝利を喜ぶセルジュ・パウエルス(ベルギー、ディメンションデータ)フライレと勝利を喜ぶセルジュ・パウエルス(ベルギー、ディメンションデータ) photo:Kei Tsuji / TDWsport

「今日はバーニー(アイゼル)が1日中ずっと集団を引いてくれて、最後はジャック(ヤンセファンレンズバーグ)とオマール(フライレ)が勝利をお膳立てしてくれた。チームの勝利だ。タイム差が25秒まで広がってからは、チームカーのロジャー・ハモンド監督に『絶対に後ろを振り向くな』という指示を受けて走った。その言葉通り振り向かずに10kmの個人TTに集中していると、(ディメンションデータが使う)エンヴィのホイールが突然視界に入ったんだ。オマールが単独で追いついてくるなんて想像していなかったよ」。33歳のパウエルスはディメンションデータに感謝する。

サーヴェロテストチームやチームスカイ、クイックステップを経て2015年からディメンションデータに所属するパウエルスは、2016年ツールのモンヴァントゥー2位、2015年ツール総合13位という成績を残しているオールラウンダー。2009年ジロ・デ・イタリアでは第15ステージでレオナルド・ベルタニョッリに敗れて2位に。その後ベルタニョッリのドーピング失格処分によってステージ優勝扱いとなっているが、先頭でフィニッシュラインを切っての優勝はプロ12年目にして初めて。ヨークシャーのステージ優勝と総合優勝がプロ初勝利となった。

ヨークシャー総合優勝を果たしたセルジュ・パウエルス(ベルギー、ディメンションデータ)ヨークシャー総合優勝を果たしたセルジュ・パウエルス(ベルギー、ディメンションデータ) photo:Kei Tsuji / TDWsport金色のY字トロフィーを受け取ったセルジュ・パウエルス(ベルギー、ディメンションデータ)金色のY字トロフィーを受け取ったセルジュ・パウエルス(ベルギー、ディメンションデータ) photo:Kei Tsuji / TDWsport


ツール・ド・ヨークシャー2017第3ステージ
1位 セルジュ・パウエルス(ベルギー、ディメンションデータ)      4h57'47"
2位 オマール・フライレ(スペイン、ディメンションデータ)
3位 ジョナサン・イヴェール(フランス、ディレクトエネルジー)       +06"
4位 ブレント・ブックウォルター(アメリカ、BMCレーシング)
5位 タオ・ゲオゲガンハート(イギリス、チームスカイ)           +08"
6位 マウリス・ラメルティンク(オランダ、カチューシャ・アルペシン)
7位 マシュー・ホームズ(イギリス、マディソンジェネシス)
8位 マーク・クリスティアン(イギリス、アクアブルースポート)
9位 レナード・ホフステッド(オランダ、サンウェブ)
10位 ジョセフ・ロスコフ(アメリカ、BMCレーシング)            +23"

個人総合成績
1位 セルジュ・パウエルス(ベルギー、ディメンションデータ)      11h573'04"
2位 オマール・フライレ(スペイン、ディメンションデータ)         +06"
3位 ジョナサン・イヴェール(フランス、ディレクトエネルジー)       +07"
4位 ブレント・ブックウォルター(アメリカ、BMCレーシング)        +18"
5位 マシュー・ホームズ(イギリス、マディソンジェネシス)         +20"
6位 マウリス・ラメルティンク(オランダ、カチューシャ・アルペシン)
7位 マーク・クリスティアン(イギリス、アクアブルースポート)
8位 タオ・ゲオゲガンハート(イギリス、チームスカイ)
9位 レナード・ホフステッド(オランダ、サンウェブ)
10位 ジョセフ・ロスコフ(アメリカ、BMCレーシング)            +35"

ポイント賞
1位 カレイブ・ユアン(オーストラリア、オリカ・スコット)        24pts
2位 ジョナサン・イヴェール(フランス、ディレクトエネルジー)      23pts
3位 ディラン・フルーネウェーヘン(オランダ、ロットNLユンボ)      22pts

山岳賞
1位 ピーター・ウェーニング(オランダ、ルームポット)          14pts
2位 デクスター・ガーディアス(イギリス、バイクチャンネル・キャニオン) 9pts
3位 セルジュ・パウエルス(ベルギー、ディメンションデータ)       8pts

text&photo:Kei Tsuji in Sheffield, United Kingdom


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