「1年に5日しか雨が降らない」と言われるUAEのアブダビツアー最終日は大雨。ライトアップされたF1アブダビグランプリのサーキットでカレイブ・ユアン(オーストラリア、オリカ・スコット)が勝利した。



選手たちが宿泊する5つ星ホテル「ヤス・ヴァイスロイ・アブダビ」を通過選手たちが宿泊する5つ星ホテル「ヤス・ヴァイスロイ・アブダビ」を通過 photo:Kei Tsuji / TDWsport
アブダビツアー2017第4ステージアブダビツアー2017第4ステージ image:RCSsportアブダビツアー2017第4ステージアブダビツアー2017第4ステージ image:RCSsport


雨のヤス・マリーナ・サーキットに駆け出していく雨のヤス・マリーナ・サーキットに駆け出していく photo:Kei Tsuji / TDWsport4日間の日程で開催されたUCIワールドツアー第3戦アブダビツアーを締めくくるのは、F1アブダビグランプリの舞台である「ヤス・マリーナ・サーキット」での高速レース。全長5.5kmのサーキットを26周する。

逃げるアレックス・ドーセット(イギリス、モビスター)ら逃げるアレックス・ドーセット(イギリス、モビスター)ら photo:Kei Tsuji / TDWsport大会期間中を通して不安定だった天候は最終日に大崩れ。午後6時15分のレーススタート時間が近づくにつれて雨は本降りとなった。中東アブダビにあっては恵みの雨だが、選手たちにとってはただの厄介な水分でしかない。しかも気温は18度程度と低く、体感気温はずっと低い。なお、1年の中では2月は最も降水量が多く、年間降水量88ミリのうち42ミリが2月に降る。

逃げを見送った後もハイスピードを維持するメイン集団逃げを見送った後もハイスピードを維持するメイン集団 photo:Kei Tsuji / TDWsportレースのキャンセルやコース短縮も噂されたが、モータースポーツ用のアスファルトは水はけが比較的良く、もちろん路面状況は良好。別府史之(トレック・セガフレード)は「みんな空気圧を下げて走っていた。最初は濡れた路面に警戒していたものの、よくグリップが効いていたので後半はコーナーに突っ込めた」と言う。

UAEチームエミレーツを先頭に周回を重ねていくUAEチームエミレーツを先頭に周回を重ねていく photo:Kei Tsuji / TDWsportレースは元アワーレコード保持者(52.937km/h)アレックス・ドーセット(イギリス、モビスター)のアタックをきっかけに形成された5名が先行する展開。しかしここに総合24位・1分15秒遅れのパトリック・コンラッド(オーストリア、ボーラ・ハンスグローエ)が入ったため、UAEチームエミレーツはスピードを弱めずに追走する。

2つのスプリントポイントを先頭通過したコンラッドはボーナスタイム6秒を獲得するとともに中間スプリント賞でも上位にジャンプアップ。第3スプリントに興味を示した中間スプリント賞ジャージを擁するNIPPOヴィーニファンティーニやクイックステップフロアーズの牽引によって残り29km地点で逃げは吸収された。

トレインを組んだクイックステップフロアーズはジュリアン・アラフィリップ(フランス)を完璧なタイミングで解き放ち、第3スプリントを先頭通過させる。こうしてボーナスタイム3秒を獲得したアラフィリップは総合9位から総合5位にジャンプアップ。

さらにこの第3スプリントを2番手通過したコンラッドさらにボーナスタイムを2秒上積みし、総合24位から総合トップ10まで急激に順位を上げた。さらにコンラッドはこの日の獲得ポイントだけで中間スプリント賞トップの座をカノラから奪っている。



ヤス・マリーナ・サーキットを走るヤス・マリーナ・サーキットを走る photo:Kei Tsuji / TDWsport
雨の中、ライトアップされたサーキットを走るプロトン雨の中、ライトアップされたサーキットを走るプロトン photo:Kei Tsuji / TDWsport「ヤス・ヴァイスロイ・アブダビ」の下を通過するルイ・コスタ(ポルトガル、UAEチームエミレーツ)ら「ヤス・ヴァイスロイ・アブダビ」の下を通過するルイ・コスタ(ポルトガル、UAEチームエミレーツ)ら photo:Kei Tsuji / TDWsport
降りしきる雨の中を走るルイ・コスタ(ポルトガル、UAEチームエミレーツ)降りしきる雨の中を走るルイ・コスタ(ポルトガル、UAEチームエミレーツ) photo:Kei Tsuji / TDWsport


水しぶきを上げながらホームストレートを駆け抜ける水しぶきを上げながらホームストレートを駆け抜ける photo:Kei Tsuji / TDWsport集団後方の選手にダッシュのインターバルを強いるコーナーの多いサーキット。一列棒状になった集団の先頭ではオリカ・スコットやボーラ・ハンスグローエがトレインを組んでスピードをさらに上げる。残り1kmアーチを通過し、ロジャー・クルーゲ(ドイツ、オリカ・スコット)を先頭に残り200mの最終コーナーを立ち上がった。

3つ目のスプリントポイントに向けて隊列を組むクイックステップフロアーズ3つ目のスプリントポイントに向けて隊列を組むクイックステップフロアーズ photo:Kei Tsuji / TDWsport開幕前から同じサーキットでオリカ・スコットが繰り返し行っていたリハーサルがはまった。後方から早めに仕掛け、自力でポジションを上げるマーク・カヴェンディッシュ(イギリス、ディメンションデータ)の姿を一目確認し、ユアンがクルーゲの後ろから加速する。雨の影響か、少し左右にスライドしながらも加速を続けたユアンがカヴェンディッシュを振り切った。

先頭で列車を走らせるオリカ・スコットとボーラ・ハンスグローエ先頭で列車を走らせるオリカ・スコットとボーラ・ハンスグローエ photo:Kei Tsuji / TDWsport「初日に落車し、2日目に早とちりで勝利を逃すという失態を犯したけど、最後にこうしてチームの働きに報いることができてよかった。今日はフィニッシュラインを超えるのを確認してから手を挙げた。世界最高峰のカヴェンディッシュやグライペル、キッテルに勝った意味は大きい。自分の進化を感じるし、これからも勝ち続けたい」。今シーズンの勝利数でキッテルに並ぶ5勝目を飾ったユアンはそう語る。

ロジャー・クルーゲ(ドイツ)がカレイブ・ユアン(オーストラリア、オリカ・スコット)を発射ロジャー・クルーゲ(ドイツ)がカレイブ・ユアン(オーストラリア、オリカ・スコット)を発射 photo:Kei Tsuji / TDWsport身長193cmのクルーゲと身長165cmの小柄なユアンのタッグは今シーズンの台風の目になるだろう。ユアンは「これからヨーロッパに渡り、ティレーノ〜アドリアティコ、ミラノ〜サンレモ、ヘント〜ウェヴェルヘムに出場する予定。そしてシーズンの大きな目標であるジロ・デ・イタリアに備える。サンレモは勉強のために走るけど、もちろん勝負に残れば勝利を狙うよ」と語っている。

先頭でスプリントを繰り広げるカレイブ・ユアン(オーストラリア、オリカ・スコット)とマーク・カヴェンディッシュ(イギリス、ディメンションデータ)先頭でスプリントを繰り広げるカレイブ・ユアン(オーストラリア、オリカ・スコット)とマーク・カヴェンディッシュ(イギリス、ディメンションデータ) photo:Kei Tsuji / TDWsportアブダビツアー期間中は、2014年にUCIワールドチームの共同出資によって誕生したVelon(ヴェロン)が積極的にレース中の走行データやオンボード映像を収集。公開されたデータによるとユアンの最終スプリントのトップスピードは64.1km/h。5秒間の最大出力は1224w(体重61kg)。残り1kmの所要時間は1分10秒で、平均スピードは51.8km/h、平均出力490wだった。なお、カヴェンディッシュとグライペルがユアンよりも速いトップスピードをマーク。この日は完全なウェットコンディションだったにもかかわらず、全体の平均スピードが46.859km/hに達している。

そしてアブダビツアー総合優勝のタイトルはルイ・コスタ(ポルトガル、UAEチームエミレーツ)の手に。「雨のサーキットは厄介だったけど、チームメイトのおかげでトラブルなく走ることができた。UAEに大きな勝利をもたらすことができて本当によかった。この好調子を次戦のティレーノ〜アドリアティコにつなげたい」と第3代覇者はコメントしている。

この日、別府史之(トレック・セガフレード)は集団内の80位、小石祐馬(NIPPOヴィーニファンティーニ)はパンク出遅れながらも138位で走り終えている。2日連続で落車した窪木一茂(NIPPOヴィーニファンティーニ)はDNFに終わった。別府と窪木は日本代表としてアジア選手権に出場するため、レース翌日にUAEからバーレーン入りする。



最終ステージを制したカレイブ・ユアン(オーストラリア、オリカ・スコット)最終ステージを制したカレイブ・ユアン(オーストラリア、オリカ・スコット) photo:Kei Tsuji / TDWsport
チームメイトと喜ぶカレイブ・ユアン(オーストラリア、オリカ・スコット)チームメイトと喜ぶカレイブ・ユアン(オーストラリア、オリカ・スコット) photo:Kei Tsuji / TDWsport総合表彰台、2位イルヌール・ザカリン(ロシア、カチューシャ・アルペシン)、1位ルイ・コスタ(ポルトガル、UAEチームエミレーツ)、3位トム・デュムラン(オランダ、サンウェブ)総合表彰台、2位イルヌール・ザカリン(ロシア、カチューシャ・アルペシン)、1位ルイ・コスタ(ポルトガル、UAEチームエミレーツ)、3位トム・デュムラン(オランダ、サンウェブ) photo:Kei Tsuji / TDWsport
各賞の受賞者がF1グランプリでも使用される表彰台に上がる各賞の受賞者がF1グランプリでも使用される表彰台に上がる photo:Kei Tsuji / TDWsport


アブダビツアー2017第4ステージ結果
1位 カレイブ・ユアン(オーストラリア、オリカ・スコット)     3h03’06”
2位 マーク・カヴェンディッシュ(イギリス、ディメンションデータ)
3位 アンドレ・グライペル(ドイツ、ロット・ソウダル)
4位 ニッコロ・ボニファツィオ(イタリア、バーレーン・メリダ)
5位 マッテーオ・ペルッキ(イタリア、ボーラ・ハンスグローエ)
6位 ロジャー・クルーゲ(ドイツ、オリカ・スコット)
7位 ジュリアン・アラフィリップ(フランス、クイックステップフロアーズ)
8位 アレクサンダー・ポルセフ(ロシア、ガスプロム・ルスヴェロ)
9位 キール・レイネン(アメリカ、トレック・セガフレード)
10位 リック・ツァベル(ドイツ、カチューシャ・アルペシン)

個人総合成績
1位 ルイ・コスタ(ポルトガル、UAEチームエミレーツ)         15h42’21”
2位 イルヌール・ザカリン(ロシア、カチューシャ・アルペシン)        +04”
3位 トム・デュムラン(オランダ、サンウェブ)                +16”
4位 バウケ・モレマ(オランダ、トレック・セガフレード)           +38”
5位 ジュリアン・アラフィリップ(フランス、クイックステップフロアーズ)   +53”
6位 ラファル・マイカ(ポーランド、ボーラ・ハンスグローエ)         +56”
7位 ジョージ・ベネット(ニュージーランド、ロットNLユンボ)
8位 ファビオ・アル(イタリア、アスタナ)
9位 ドメニコ・ポッツォヴィーヴォ(イタリア、アージェードゥーゼール)
10位 パトリック・コンラッド(オーストリア、ボーラ・ハンスグローエ)   +1’07”

ポイント賞
1位 マーク・カヴェンディッシュ(イギリス、ディメンションデータ)     53pts
2位 カレイブ・ユアン(オーストラリア、オリカ・スコット)         36pts
3位 アンドレ・グライペル(ドイツ、ロット・ソウダル)           30pts

ヤングライダー賞
1位 ジュリアン・アラフィリップ(フランス、クイックステップフロアーズ)15h43’14”
2位 ルイス・マインティーズ(南アフリカ、UAEチームエミレーツ)      +22”
3位 カルロス・ベローナ(スペイン、オリカ・スコット)

スプリント賞
1位 パトリック・コンラッド(オーストリア、ボーラ・ハンスグローエ)    21pts
2位 マルコ・カノラ(イタリア、NIPPOヴィーニファンティーニ)       17pts
3位 マヌエーレ・モーリ(イタリア、UAEチームエミレーツ)         16pts

チーム総合成績
1位 UAEチームエミレーツ                        47h09’36”
2位 アージェードゥーゼール                        +46”
3位 ロットNLユンボ                            +53”

text&photo:Kei Tsuji in Abu Dhabi, UAE