本日1月28日から翌1月29日にかけて、ルクセンブルクはベルヴォーでシクロクロス世界選手権が開催される。エリート男子は優勝候補筆頭の2人は懸念材料を抱えており、その行方は混沌としたものに。日本からは沢田時ら9人が出場。沢田、小坂光、坂口聖香のコメントと共にレースをプレビューする。



地元の子供たちに囲まれるマテュー・ファンデルポール(オランダ)地元の子供たちに囲まれるマテュー・ファンデルポール(オランダ) photo:CorVos


雪と氷に覆われたルクセンブルク、ベルヴォーのアップダウンコース

ダイナミックなアップダウンを有するルクセンブルク・ベルヴォーの世界選手権コースダイナミックなアップダウンを有するルクセンブルク・ベルヴォーの世界選手権コース photo:Shuhei.Takenouchi試走段階から落車が頻発している凍ったキャンバー区間試走段階から落車が頻発している凍ったキャンバー区間 photo:belgiancyclingteamワウト・ファンアールト(ベルギー)と、マテュー・ファンデルポール(オランダ)ワウト・ファンアールト(ベルギー)と、マテュー・ファンデルポール(オランダ) photo:CorVos記者会見に臨む現世界王者ワウト・ファンアールト(ベルギー)記者会見に臨む現世界王者ワウト・ファンアールト(ベルギー) photo:belgiancyclingteam片足を出して凍ったキャンバーをクリアするマテュー・ファンデルポール(オランダ)片足を出して凍ったキャンバーをクリアするマテュー・ファンデルポール(オランダ) photo:CorVos怪我から復活したラース・ファンデルハール(オランダ)怪我から復活したラース・ファンデルハール(オランダ) photo:CorVosコースを試走する2008年の世界王者、ラース・ボーム(オランダ)コースを試走する2008年の世界王者、ラース・ボーム(オランダ) photo:CorVos優勝候補筆頭のマリアンヌ・フォス(オランダ)優勝候補筆頭のマリアンヌ・フォス(オランダ) photo:CorVosアルカンシエルを決める大一番、シクロクロス世界戦の舞台となるのはフランス国境に面したルクセンブルクの工業都市ベルヴォー。ヨーロッパのビッグレースとしては珍しく、初めてシクロクロスレースを招聘する地での開催であり、非常にアップダウンに富むテクニカルコースが話題。アメリカ王者のスティーブン・ハイド(キャノンデール・シクロクロスワールド)は「気が狂ったコース」と表現している。

週末の現地天気予報は概ね雪。最低気温が-6℃と冷え込む一方、最高気温は5℃止まりであり、スノー&アイスコンディションとなった金曜日の公式練習と状況は変わらないと見られている。練習日には凍結した長いキャンバー区間で落車が頻発しており、過酷なコンディションとなること間違いない。

絶対王者の不調、アルカンシエル争いの行方は?

エリートの絶対的優勝候補と目されていたのは、現世界王者ワウト・ファンアールト(ベルギー)と前世界王者マテュー・ファンデルポール(オランダ)の2人。今シーズン序盤から激しく火花を散らしてきた2人だが、ファンアールトは1月初めに覚えた膝の違和感をワールドカップ第8戦で悪化させ、その後のレースをキャンセル。一方ファンデルポールも年末のレースで激しくクラッシュし数戦をスキップ。1月中旬には復帰したものの、1週間前のワールドカップで不調にあえぐなど懸念材料を抱えている状態だ。

アルカンシエルを守りたいベルギー陣営だが、今季好調だったヨーロッパ王者トーン・アールツはレース中の落車で肩甲骨と鎖骨を折りシーズン終了に。ベルギー代表監督を務めるルディ・デビー氏は「アルカンシエル争いはオープンな状態だ。しかしやはり地脚のあるファンアールトとファンデルポールの戦いにもつれ込むと思う」とコメントする。

ファンアールトは怪我の状態を明らかにしていないが、「やはりファンデルポールがライバル。しかし彼は一度波から外れると表彰台も狙わなくなることは、これまでのレースで明らか」と事前の記者会見で語っている。凍結したテクニカルコースが、堅実な走りのファンアールトか、アグレシッブかつやや危うさを感じさせるファンデルポールのどちらに向くのか興味は尽きない。

そんな中、アルカンシエル争いの名乗りを上げたのがオランダのラース・ファンデルハール。今シーズン序盤の負傷でレースをキャンセルする時期を経たが、年末に復帰。1月1日からのテレネット・フィデア移籍と共に調子を上げ、1週間前のワールドカップでは全盛期以上の走りを見せ独走勝利を飾っている。

その他好調をキープしているのは、コフィディスに所属しロードと兼業するフランスのエース、クレメン・ヴェンチュリーニだ。先のフランス選手権で初勝利し、今シーズンは後半にかけて積極的な走りが目立っている。

エースの調子が心配されるものの、最も選手層が厚いのはベルギーで変わりない。”職人”ケヴィン・パウエルスを筆頭に、トム・メーウセン、ローレンス・スウィーク、マイケル・ファントーレンハウト、ティム・メルリエなど、ときにアシストにも回る強豪選手が揃う。現にヨーロッパ選手権ではチーム力でアールツの勝利を生み出しており、シクロクロス大国の底力は侮れない。

また、ロットNL・ユンボに所属している2008年の世界王者、ラース・ボーム(オランダ)も昨年に続いて出場する。ゼネク・スティバル(チェコ、クイックステップフロアーズ)は完全にロード転向しており、過去にアルカンシエル経験のある選手は優勝候補の2人を除けばボームのみ。ファンデルポール、コルヌ・ファンケッセルやファンデルハールと共にオランダ復権を目指す。

女子エリートでは元世界王者タリタ・デヨング(ベルギー)は1週間前のワールドカップでの負傷によってスタートせず。帰ってきた王者マリアンヌ・フォス(オランダ)が優勝候補筆頭だ。フォスは復帰以降ベルギー王者のサンヌ・カントらを向こうに回しながら勝利を重ねており、2006年、2009年、2010年、2011年、2012年、2013年、2014年に続く8度目のアルカンシエルは近い存在にある。オランダは他にもソフィー・デボワやルシンダ・ブランドなど、強力な選手を揃えており、その層は最も厚い。

他にもケイティ・コンプトン擁するアメリカや、エヴァ・リヒナー(イタリア)、カテリーナ・ナッシュ(チェコ)らが優勝候補だ。

世界選手権に挑む9名の日本選手

大一番に挑む日本人選手は計9名。男子エリートの沢田時(ブリヂストンアンカー)、前田公平(弱虫ペダルシクロクロスチーム)、小坂光(宇都宮ブリッツェンシクロクロスチーム)の3名を筆頭に、男子U23の織田聖(弱虫ペダルサイクリングチーム)、男子ジュニアの村上功太郎(松山工業高校)、女子エリートに武田和佳(Liv)と今井美穂、與那嶺恵理(FDJ Nouvelle-Aquitaine Futuroscope)の3名と女子U23の坂口聖香(パナソニックレディース)が、日本から、そして現地ベルギー人スタッフのバックアップを受けてスタートラインに並ぶ。以下に沢田、小坂、坂口3選手のコメントを紹介する。

沢田時(男子エリート):「ライバルのミスを上手く利用し進めたい」

コースを試走する沢田時(ブリヂストンアンカー)コースを試走する沢田時(ブリヂストンアンカー) photo:Shuhei.Takenouchiコースの試走をしてみて、マウンテンバイクを含めて今まで自分が走ってきたキャリアの中で一番危険なコースという印象を受けました。コース全体が雪と氷に覆われていて非常に滑りやすいです。世界選手権という場なので、安全に走るというだけでは通用しませんし、レース中にどこまで自分の殻を破る気持ちで挑めるかで順位が変わってくると思います。

大変難しいコースなので、全ての選手がミス無しで走るのは不可能だと思います。逆に言えば、狙うならそこだと思っています。いくら経験豊かな選手でもこの氷のコースに焦る気持ちがあるでしょうから、ライバルたちのミスに自分も巻き込まれるのではなく、上手く利用して前に上がることができれば、スタートが後方になってしまう日本選手の位置からでも逆転は狙えるでしょう。その点自分は楽しみな部分ではありますね。

小坂光(男子エリート):「自分のペースで走ることが大切なコース」

ワールドカップを前にアップする小坂光(宇都宮ブリッツェンシクロクロスチーム)と沢田時(ブリヂストンアンカー)ワールドカップを前にアップする小坂光(宇都宮ブリッツェンシクロクロスチーム)と沢田時(ブリヂストンアンカー) photo:Shuhei.Takenouchi路面の下が完全に凍っていて、常に滑りやすい状況に気を遣いながら走るようなコースになりますね。なかなか日本では経験のない初めてのコース環境に、みんな慌てているような状況ではあります。入念に試走をしてコースに慣れることで、ミスを最小限に抑えるのが結果を出すには一番いいのかなと思います。実際、自分もかなり入念に試走をしました。

試走の段階で不安を持っていると本番でもミスは出てくるので、そういうところを意識して試走ができました。みんなでまとまってお互いの走りやラインを見たり、他の国の上手い選手に付いて走ったり、とにかくみな上手く走れるようになりたいという気持ちを強く持って走れています。日本選手団全体でまとまっていて、良い空気感はありますね。

自分としても、これまで走ってきたレースの中で一番難しいコースだと感じるところなので、覚悟して望みたいと思っています。やはり落ち着いてミスを最小限に抑えて走っていくのが大事で、少しずつ前に上がっていけるように走れれば良いですね。あまりパックで走ってもメリットはないので、自分の走りに集中して周りに囚われずにペースを守って走りたいと思います。

まわりの走りを見ていると、マテュー始め速い選手が多くいるので、現実的な目標としては完走というところです。そういうレベルのコースだと思うので、まずはその目標が果たせれば、自分にとってもかなり自信になると思いますね。

坂口聖香(女子U23):「目標は10位以内。気負うことなく走れば結果はついてくるはず」

コースを試走する坂口聖香(パナソニックレディース)コースを試走する坂口聖香(パナソニックレディース) photo:Shuhei.Takenouchiコース中難しい場所や、滑って危ないなと感じるセクションが多く、試走を重ねたもののレース中のイメージができにくいという印象でした。自分の走りというよりも、落車など様々な障害を一つ一つ乗り越えていかないとレースで結果はついてこないように思います。アンダー23女子の選手は比較的レース経験が少ないですし、でもそこで躊躇していたらどんどんリズムが悪くなってしまう。だからある意味での潔さが求められるかなと思いますね。

目標は以前から掲げている10位以内。まだ私はチャレンジャーですし、その数字を気負わず、自分自身にブレーキを掛けることなく走ることができれば今持っている力を出せるはずです。

以下は世界選手権の開催スケジュールと、UCI公式YOUTUBEチャンネルで生中継されるURL。第1競技は日本時間の19時からスタートする男子ジュニアだ。



シクロクロス世界選手権2017放送スケジュール
1月28日(土)

11:00 (日本時間19:00)男子ジュニア
https://www.youtube.com/watch?v=BofMvMgToo0

13:00 (日本時間21:00 ) 女子U23
https://www.youtube.com/watch?v=HxmGwO0rwS4

15:00 (日本時間23:00 ) 女子エリート
https://www.youtube.com/watch?v=SpPfsB1rwpw

1月29日(日)
11:00 (日本時間19:00) 男子U23
https://www.youtube.com/watch?v=StablfkjuKg

15:00 (日本時間23:00) 男子エリート
https://www.youtube.com/watch?v=ouPejyxfHYg

text:So.Isobe
photo:CorVos,Shuhei.Takenouchi


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