合計4回に分けてお送りした海外ロードレースのプレーバックシリーズもいよいよ最終回。リオ五輪からブエルタ・ア・エスパーニャ、そしてロード世界選手権まで、シーズン終盤を振り返ります。



8月

ファンアフェルマートを中心に、メダリストたちファンアフェルマートを中心に、メダリストたち (c)CorVos2016年はオリンピックイヤー。ブラジルのリオ五輪(8月5日〜8月21日)の男子ロードレースで、グレッグ・ファンアフェルマート(ベルギー)が金メダルを獲得した。厳しい登りを含むテクニカルコースでニーバリやポートといった有力勢が落車リタイアする中、アタック合戦を切り抜けたファンアフェルマートがヤコブ・フグルサング(デンマーク)とラファル・マイカ(ポーランド)とのスプリント勝負に勝利した。日本勢は新城幸也が27位、内間康平が途中リタイア。そしてアンナ・ファンデルブレゲン(オランダ)が勝利した女子ロードレースで與那嶺恵理が17位フィニッシュ。

1位 ファビアン・カンチェラーラ(スイス)1位 ファビアン・カンチェラーラ(スイス) photo:Bettini続く個人タイムトライアルの栄冠はファビアン・カンチェラーラ(スイス)の手に。全長54.6km、レース時間1時間12分を超える戦いでトム・ドゥムラン(オランダ)とクリス・フルーム(イギリス)を下したカンチェラーラが自身2度目の金メダルを獲得した。

ハイペースで最後の登りをこなすチームスカイハイペースで最後の登りをこなすチームスカイ photo:Kei Tsujiスペインのブエルタ・ア・ブルゴスではスタジエール(研修生)としてNIPPOヴィーニファンティーニから出場したU23全日本チャンピオン小林海がエスケープ。接戦の末にアルベルト・コンタドール(スペイン、ティンコフ)が1秒差の総合優勝に輝いた。

1級山岳ペーニャ・カバルガを先頭で登るナイロ・キンタナ(コロンビア、モビスター)1級山岳ペーニャ・カバルガを先頭で登るナイロ・キンタナ(コロンビア、モビスター) photo:TDWsport/Kei TsujiASOが主催するノルウェーのアークティック・レース・オブ・ノルウェーは山頂フィニッシュ勝者のジャンニ・モスコン(イタリア、チームスカイ)が総合優勝。最終ステージでジョン・デゲンコルブ(ドイツ、ジャイアント・アルペシン)が2月の交通事故後初となる勝利を飾っている。そのデゲンコルブをサイクラシックス・ハンブルグで下したのはカレイブ・ユアン(オーストラリア、オリカ・バイクエクスチェンジ)だった。先頭でフィニッシュしたナセル・ブアニ(フランス、コフィディス)に降格処分が与えられたため、2番手フィニッシュの22歳ユアンが表彰台の真ん中に立っている。

ブエルタ史上初めて表彰台に上がった別府史之(トレック・セガフレード)ブエルタ史上初めて表彰台に上がった別府史之(トレック・セガフレード) photo:TDWsport/Kei Tsuji別府史之(トレック・セガフレード)と新城幸也(ランプレ・メリダ)が揃って出場したグランツール最終戦ブエルタ・ア・エスパーニャは8月20日にスペイン北西部のガリシア地方で開幕。チームスカイによる開幕チームTT制覇で始まったレースは、マイヨロホの持ち主を日々変えながら後半戦へと向かう。最大勾配24%の1級山岳カンペローナ山頂フィニッシュでツール・ド・フランス総合3位のナイロ・キンタナ(コロンビア、モビスター)が首位に立った。

積極的に先頭グループを牽くアルベルト・コンタドール(スペイン、ティンコフ)積極的に先頭グループを牽くアルベルト・コンタドール(スペイン、ティンコフ) photo:TDWsport/Kei Tsujiキンタナは超級山岳コバドンガ山頂フィニッシュで更にリードを拡大することに成功。しかし続く最大勾配18%の1級山岳ペーニャ・カバルガではクリス・フルーム(イギリス、チームスカイ)がステージ優勝を飾って一矢報いる。ツールでも総合争いを繰り広げたキンタナとフルームが再び激突する白熱の展開となる。

レースが大きく動いたのは、ロバート・ヘーシンク(オランダ、ロットNLユンボ)が勝利したクイーンステージではなく、その翌日の第15ステージだった。総合6位アルベルト・コンタドール(スペイン、ティンコフ)によるスタート直後のアタックにキンタナらが加わり、フルームらを振り切ってそのままフィニッシュまで逃げ切る驚きの展開。キンタナから3分30秒遅れたフルームは第19ステージ個人TTで挽回するも、マイヨロホには1分23秒届かなかった。

第20ステージの最終山岳決戦でコンタドールを振り切ったエステバン・チャベス(コロンビア、オリカ・バイクエクスチェンジ)が総合3位に浮上し、フルームを徹底マークしたキンタナが大会制覇に王手。初のブエルタ総合優勝を果たしたキンタナがマイヨロホを着てマドリードに凱旋した。最終ステージで12位と13位に入った新城と別府はそれぞれ総合106位と総合120位で完走。別府は第18ステージで逃げに乗り、日本人初のブエルタ敢闘賞を獲得している。



総合トップスリー。ナイロ・キンタナ(コロンビア、モビスター)がトロフィーを掲げる総合トップスリー。ナイロ・キンタナ(コロンビア、モビスター)がトロフィーを掲げる photo:CorVos


9月

総合表彰台 3位ドゥムラン、1位クミングス、2位デニス総合表彰台 3位ドゥムラン、1位クミングス、2位デニス photo:Kei Tsujiイギリス最大のステージレースであるツアー・オブ・ブリテンは、第2ステージで逃げ切りを果たしたスティーブ・クミングス(イギリス、ディメンションデータ)とジュリアン・ヴェルモト(ベルギー、エティックス・クイックステップ)が有利に総合争いを繰り広げた。

グレッグ・ファンアフェルマート(ベルギー、BMCレーシング)を下したペーター・サガン(スロバキア、ティンコフ)が余裕のガッツポーズグレッグ・ファンアフェルマート(ベルギー、BMCレーシング)を下したペーター・サガン(スロバキア、ティンコフ)が余裕のガッツポーズ photo:TDWsport/Kei Tsuji2年連続でクイーンステージを制したワウト・ポエルス(オランダ、チームスカイ)や同ステージ2位のローハン・デニス(オーストラリア、BMCレーシング)らの追撃を振り切ったクミングスが総合優勝。トニ・マルティン(ドイツ、エティックス・クイックステップ)は第7ステージ個人TTで勝利し、世界選手権に向けて弾みをつけている。

ミュール・ファン・ヘラールツベルヘンを駆け上がるニキ・テルプストラ(オランダ、エティックス・クイックステップ)らミュール・ファン・ヘラールツベルヘンを駆け上がるニキ・テルプストラ(オランダ、エティックス・クイックステップ)ら photo:Tim de WaeleカナダのUCIワールドツアー2連戦はパンチャーたちの独壇場に。グランプリ・シクリスト・ド・ケベックはペーター・サガン(スロバキア、ティンコフ)が貫禄の勝利。すると、続くグランプリ・シクリスト・ド・モンレアルでは、ケベック2位のファンアフェルマートが優勝し、サガンが2位に。好調サガンはヨーロッパ選手権でも優勝し、直後のエネコ・ツアーではステージ2勝の活躍を見せた。

ベルギーとオランダを舞台にしたエネコ・ツアーには新城も出場。第3ステージで逃げに乗った新城はメイン集団に対して抵抗を続けたが、残り150mで吸収される。個人TTとチームTTでリードを広げ、リーダージャージを着て最終ステージに挑んだデニスだったが、雨に濡れたテクニカルコースで落車してリタイア。激坂ミュール・ファン・ヘラールツベルヘンの山頂フィニッシュでエドヴァルド・ボアッソンハーゲン(ノルウェー、ディメンションデータ)が優勝を飾り、ステージ2位のニキ・テルプストラ(オランダ、エティックス・クイックステップ)が総合優勝を果たした。



ケベック市内の周回コースを舞台にしたGPケベックケベック市内の周回コースを舞台にしたGPケベック photo:TDWsport/Kei Tsuji


10月

3名によるスプリントで勝利したエステバン・チャベス(コロンビア、オリカ・バイクエクスチェンジ)3名によるスプリントで勝利したエステバン・チャベス(コロンビア、オリカ・バイクエクスチェンジ) photo:Tim de WaeleUCIワールドツアー最終戦のイル・ロンバルディアではコロンビア人初のモニュメント優勝者が誕生。アタックが続発した山岳レースを締めくくる3名のスプリントでエステバン・チャベス(コロンビア、オリカ・バイクエクスチェンジ)が勝利し、ジロ・デ・イタリア総合2位とブエルタ・ア・エスパーニャ総合3位に続く好成績でブレークスルーのシーズンを締めくくった。

UCI男子チームTT トニ・マルティン(ドイツ、エティックス・クイックステップ)が先頭を引くUCI男子チームTT トニ・マルティン(ドイツ、エティックス・クイックステップ)が先頭を引く photo:Kei Tsujiロード世界選手権は中東カタールで初開催。いずれのカテゴリーも真っ平らな人工島「ザ・パール」の周回コースでフィニッシュを迎えた。

トム・ボーネン(ベルギー)率いる第1集団が後続を引き離すトム・ボーネン(ベルギー)率いる第1集団が後続を引き離す photo:Kei Tsuji / TDWsportカタールらしい暑さに見舞われた8日間の日程はボエルス・ドルマンスの女子チームタイムトライアル制覇と、エティックス・クイックステップの男子チームタイムトライアル制覇でスタート。平均スピード56.426km/で平坦コースを走りきったベルギーチームが、過去2年間BMCレーシングに奪われていたタイトルを取り戻した。

集団スプリントを制したペーター・サガン(スロバキア)集団スプリントを制したペーター・サガン(スロバキア) photo:Kei Tsuji / TDWsportエティックス・クイックステップの勝利の立役者マルティンは、エリート男子個人タイムトライアルで3年ぶり4度目のタイトルを獲得している。

エリート女子ロードレースでは與那嶺恵理が序盤からソロエスケープ。最終的な集団スプリントで20歳のアマリー・ディデリクセン(デンマーク)が勝利し、吉川美穂が21位、梶原悠未が64位でレースを終えている。

エリート男子ロードレースは、前半の横風区間で始まった強豪国のペースアップによって25名の精鋭集団が逃げ切る展開に。新城と別府が後方の集団に取り残される中、ベルギーやイギリス、オーストラリア、ノルウェー勢が主導権を握ってスプリント勝負に持ち込み、ディフェンディングチャンピオンのサガンが勝利で締めくくった。大会連覇は史上6人目の快挙。

実質的な海外レース最終戦となったアブダビツアーでマーク・カヴェンディッシュ(イギリス、ディメンションデータ)がスプリント2勝。クイーンステージ制覇のタネル・カンゲルト(エストニア、アスタナ)が総合優勝に輝いている。アブダビツアーは2017年から開催時期を2月に移し、UCIワールドツアーレースとして開催される。



ヤス・マリーナ・サーキットで開催されたアブダビツアー最終ステージヤス・マリーナ・サーキットで開催されたアブダビツアー最終ステージ (c)www.abudhabitour.com




text:Kei Tsuji