雨に見舞われた昨年とは打って変わり、爽やかな晴天に恵まれたツール・ド・おきなわ2009。先週まで雨が続いたが、この日は蒸し暑さを感じないほどの爽やかな気候で、地元の人が過ごしやすいとさえ言うほどだ。

やんばるの熱帯雨林のジャングルのなか走るチャンピオンレースの集団やんばるの熱帯雨林のジャングルのなか走るチャンピオンレースの集団 photo::Makoto.AYANO

ツール・ド・おきなわに集合した約3千800人あまりのサイクリストたちの頂点にたつ最高峰のチャンピオンレースは、国内トップチームと海外招待チーム20チーム・100人によって争われる。

朝7時に出走し、スタート間もない序盤、本部半島でアタックが開始される。海岸沿いの平坦路で差を広げた15人がメイン集団に約7分前後の差をつけて先行する。

普久河ダムの2回目の上りをこなす逃げ集団普久河ダムの2回目の上りをこなす逃げ集団 photo::Makoto.AYANO先頭グループの15人
伊丹健治(チームブリヂストン・アンカー)
福島晋一(梅丹本舗-グラファイトデザイン)
菊池誠晃(梅丹本舗-グラファイトデザイン)
ダニエル・ブラウンステイン(ドラパック・ポルシェ)
阿部嵩之(シマノレーシング)
飯野嘉則(シマノレーシング)
清水良行(ブリッツェン宇都宮)
ジャン・チェンジェ(韓国ナショナルチーム)
五十嵐丈士(チーム沖縄)
澤田賢匠(マトリックスパワータグ・コラテック)
真鍋和幸(TEAM NIPPO-COLNAGO)
チェンキンワイ(香港プロサイクリングチーム)
栂尾大知(パールイズミ・スミタ・ラバネロ)
ラース・プリア(Le Tua)

ペースの上がらないメイン集団 逃げ集団との差は開き続けたペースの上がらないメイン集団 逃げ集団との差は開き続けた photo::Makoto.AYANO一回目の普久川ダムの上りへ入る時点で、このメンバーとメイン集団のタイム差は6分30秒差。しかし辺戸岬通過時には9分ほどに広がり、2回目の普久川ダムへもこの15名で上ることになる。後方集団の動きが活性化しないなかで、既にレースは先行グループの選手たちの間で争われることが決まったという雰囲気になった。

ブラウンステイン(ドラパック・ポルシェ)が機材故障によるバイク交換で遅れ、澤田、チェン、脱落して人数を減らした逃げグループが2回目の普久川ダムをクリア。勝負は9人に絞られた。
福島晋一が頂上を先頭で越えると同時にやや飛び出すかたちになった。レースはここから後半戦の東海岸のアップダウンへ。

逃げを打つ福島晋一(EQA・梅丹本舗・グラファイトデザイン)逃げを打つ福島晋一(EQA・梅丹本舗・グラファイトデザイン) photo::Makoto.AYANO単独で逃げる福島は、第1グループに30秒ほどの差を持って先行する。後続からは好調の福島を逃がすまいとする阿部、伊丹がアタックを掛けて合流しようとするが、グループはそれを許さず、結果的にペースアップを呼び福島に迫る。

先行する福島が10kmほど逃げてから集団に吸収されると、代わって飛び出したのはボンシャンス飯田のキャプテンでもある五十嵐(チーム沖縄選抜で出場)。この動きに、下りを利用したアタックで菊池が追いつく。

菊池と五十嵐はしばらくランデブーを続けるが、やがてハイペースについていけなくなった五十嵐を置いて、菊池が一人逃げに入る。

菊池は粘り、約20kmに渡って有銘まで逃げ続けた。グループの先頭ではシマノレーシングの飯野が捨て駒となり、好調の阿部のために先行する菊池との差を詰めた。

最後の勝負どころ、源河の三段坂へ。上りに入った時点で菊池が先行。シマノレーシングは飯野がここまでのアシストの働きで力尽き、阿部に勝負を託す。その差は20秒ほどに。ここからは上りでの脚比べ勝負が始まる。

福島晋一を追う逃げ集団福島晋一を追う逃げ集団 photo::Makoto.AYANO追走グループからは伊丹と阿部がじわじわと抜け出し、菊池を捉えると、パスしてそのまま快調に上り続ける。大型体型の阿部は伊丹のハイペースに時折顔をゆがませてあえぐが、喰らいつく。源河の頂上を越えてからゴールまでの平坦路は約20kmと長いため、伊丹も阿部を突き放すことなくペースを保つ。

2人に置いていかれた菊池に代わって、後方から福島が再びペースを挙げ、ひとりで先行する2人を追い込む。じわじわと迫るが、その差は頂上で30mほど。源河のピークを越えて視界に2人を捉えつつも、あと少しのところでその差を詰め切れなかった。

海岸沿いを独走する菊池誠晃(梅丹本舗-グラファイトデザイン)海岸沿いを独走する菊池誠晃(梅丹本舗-グラファイトデザイン) photo::Makoto.AYANO下りきって西海岸線に出た阿部と伊丹の2人は均等に先頭交代をこなしローテーションを行う。名護市街地へと入り、ラスト5kmの熱帯植物園の上りでもアタックすることなく、勝負はゴールスプリントへ持ち越しとなった。レース後の取材では2人はゴールまでは協力していくことで合意し、後方との差を詰められないように飛ばし続けたという。

2日間の総合優勝の行方がかかったゴールスプリント。前日のTTで伊丹に4秒上回るタイムを出していた阿部がタイム差なしの同着なら総合優勝を獲得することができた。

源河の坂で抜け出した阿部嵩之(シマノレーシング)と伊丹健治(チームブリヂストン・アンカー)源河の坂で抜け出した阿部嵩之(シマノレーシング)と伊丹健治(チームブリヂストン・アンカー) photo::Makoto.AYANO阿部先行でラスト500mに入った2人だが、後方から伊丹がスプリントを掛けると、阿部はついていくことができなかった。スピードに乗り、伸びた伊丹が阿部を突き放してゴールに飛び込んだ。

同着の判定ではなく、ゴールで2秒のタイム差がついた結果となった。総合優勝の栄冠は伊丹の手に渡った。まだ21歳の伊丹はU23の優勝も獲得。

2人には追いつくことができなかったものの、3位は福島。そのすぐ後ろには、逃げグループを捉えた清水都貴、中島康晴(EQA・梅丹本舗・グラファイトデザイン)が小集団の頭を取り、それぞれ4,5位に入った。

阿部嵩之(シマノレーシング)と伊丹健治(チームブリヂストン・アンカー)が協力し合いながらゴールを目指す阿部嵩之(シマノレーシング)と伊丹健治(チームブリヂストン・アンカー)が協力し合いながらゴールを目指す photo::Makoto.AYANO4連覇のかかったなか、積極的なレース展開でレースを作ったエキップアサダは、3,4,5位フィニッシュという苦い結果を出すに留まった。

優勝した伊丹は、フランスでの活動を中心にしているクライマータイプの選手だ。国内での過去の主な戦績は、2008年のジャパンカップのオープンクラス優勝がある。
前日、藤野智一監督は伊丹をチーム内の好調の選手のうちのひとりとして名を挙げていたが、この日は朝から調子が優れなかったため、チームオーダーでは沖縄出身のチームメイト 普久原奨のアシストにまわる予定だったという。しかし走るうちに回復し、調子が上がってきたという。

伊丹健治(チームブリヂストン・アンカー)が阿部嵩之(シマノレーシング)を下して優勝伊丹健治(チームブリヂストン・アンカー)が阿部嵩之(シマノレーシング)を下して優勝 photo:Hideaki.TAKAGI「まだ実感が沸かないけれど、この勝利は嬉しい。阿部選手とはゴールまで協力していくいき、ゴール勝負をしようと途中で申しあわせた。ゴールスプリントは得意というわけでは無いから勝てる自信は大きくなかった。このレースで終了というわけでなく、また来週の熊本国際ロードレースまで調子を維持したい。この勝利は来年につながると思う。

総合優勝を逃した阿部は「最後まで伊丹選手に着いていければ総合優勝できることは分かっていたんですが、その力が無かった。レースをもっとうまく走れるように、学ぶことが多いです」と初参戦のツール・ド・おきなわを振り返った。しかし長らくおきなわで好成績を挙げられなかったシマノレーシングとしては嬉しい表彰台だ。

チャンピオンレース優勝の伊丹健治(チームブリヂストン・アンカー)、2位阿部嵩之(シマノレーシング)、3位福島晋一(EQA・梅丹本舗・グラファイトデザイン)チャンピオンレース優勝の伊丹健治(チームブリヂストン・アンカー)、2位阿部嵩之(シマノレーシング)、3位福島晋一(EQA・梅丹本舗・グラファイトデザイン) photo::Makoto.AYANO終始好調ぶりを見せた福島晋一だが、2人に追いつけなかったことが悔やまれる。福島は言う

「あそこ(普久河ダムの2回目の上り地点)からのアタックは早すぎて、後にひびくことは分かっていたんですが、それでももしかすると最後まで行けるんじゃないかと思ってしまうぐらい今回は自分の調子が良かった。」

「チームは良く動いたが、結果を残せなかったのは残念。もっと確実に勝てる走りをするべきだったのでしょう。まだまだ自分にも青いところがある。しかしまだまだ積極的に走るつもりなので応援して欲しい」


エキップアサダはレースを創りながらもチーム4連覇を逃す結果になった。レースに「たら・れば」はないが、追いついていればゴールスプリントのある福島が2人に勝つ可能性は大いにあった。そして最後に9分差を一気に詰めた清水・中島らエキップ・アサダ勢の追撃は驚異的だった。

第一優勝候補だった期待の宮澤崇史は、序盤に落車に見舞われてしまい、復帰して完走するも結果を残す走りはできなかった。負傷の様子は未確認だが、宮澤は次週に控える熊本国際ロードの出場は怪我の状況次第だと自身のブログでつづっている。

男子チャンピオンレース 200km
1位 伊丹健治(チームブリヂストン・アンカー)5時間00分19秒
2位 阿部嵩之(シマノレーシング)+02秒
3位 福島晋一(EQA・梅丹本舗・グラファイトデザイン)+2分03秒
4位 清水都貴(EQA・梅丹本舗・グラファイトデザイン)+2分07秒
5位 中島康晴(EQA・梅丹本舗・グラファイトデザイン)
6位 飯島誠(チームブリヂストン・アンカー)
7位 鈴木真理(シマノレーシング)
8位 ユェン・インホン(香港)
9位 井上和郎(TEAM NIPPO-COLNAGO)
10位 清水良行(UTSUNOMIYA BLITZEN)

個人総合時間賞
1位 伊丹健治(チームブリヂストン・アンカー)5時間01分22秒
2位 阿部嵩之(シマノレーシング)+03秒
3位 福島晋一(EQA・梅丹本舗・グラファイトデザイン)+2分04秒
4位 清水良行(UTSUNOMIYA BLITZEN)+2分15秒
5位 鈴木真理(シマノレーシング)
6位 佐野淳哉(TEAM NIPPO-COLNAGO)+2分16秒
7位 清水都貴(EQA・梅丹本舗・グラファイトデザイン)+2分17秒
8位 井上和郎(TEAM NIPPO-COLNAGO)
9位 中島康晴(EQA・梅丹本舗・グラファイトデザイン)
10位 飯島誠(チームブリヂストン・アンカー)+2分18秒

個人総合ポイント賞
1位 阿部嵩之(シマノレーシング)
2位 伊丹健治(チームブリヂストン・アンカー)
3位 福島晋一(EQA・梅丹本舗・グラファイトデザイン)

個人総合山岳賞
1位 ジャン・チャンジェ(韓国)
2位 阿部嵩之(シマノレーシング)
3位 プリア・ラース(ルトゥーア・サイクリングチーム)

団体総合時間賞
1位 シマノレーシング
2位 チームブリヂストン・アンカー
3位 EQA・梅丹本舗・グラファイトデザイン

photo&text:Makoto.AYANO