ピナレロのフラッグシップであるドグマシリーズに新規登場したK8をインプレッション。一足先にデビューしたK8-Sからサスペンションを取り除き、より身軽になった北のクラシック/グランフォンド向けの一台をテストした。



ピナレロ DOGMA K8(903/カーボンスカイ)ピナレロ DOGMA K8(903/カーボンスカイ) (c)Makoto.AYANO/cyclowired.jp
自転車競技の盛んな北イタリアはトレヴィーゾを拠点に、本社と開発製造拠点、そして地元に根ざしたショップを展開するピナレロ。イタリアナンバーワンブランドの一つとして成功してきたその歴史の中で、幾多の輝かしい勝利を生み出してきたことは周知の通りだ。近年ではクリス・フルームとブラドレー・ウィギンズによるツール・ド・フランス制覇、ルイ・コスタによる世界選手権優勝など、グランツールからスプリント、クラシックレースまで、持ち前のオールラウンドな性能で幾多の勝利をサポートしてきた。

そんな輝かしい戦績を量産してきたのは、言わずもがな、同社のフラッグシップ機であるDOGMA(ドグマ)シリーズ。2002年に世界初の量産マグネシウム合金製フレームとして独特な形状のONDAシステムを掲げデビューし、2009年には世界初の左右非対称形状を持つフルカーボンフレーム、DOGMA 60.1へと進化。そして2014年には形状を一新してDOGMA F8へとフルモデルチェンジを遂げ、その独特な形状をミドルグレードへと波及させてきた。

高い衝撃吸収能力を生み出すリアバック。F8とは大きく異なるフォルムだ高い衝撃吸収能力を生み出すリアバック。F8とは大きく異なるフォルムだ ドグマのアイデンティティたる左右非対称構造を踏襲。見た目にもその差がよく分かるドグマのアイデンティティたる左右非対称構造を踏襲。見た目にもその差がよく分かる 緩やかな曲線で構成された、専用フロントフォーク緩やかな曲線で構成された、専用フロントフォーク


ディスクブレーキ仕様や、超軽量山岳決戦用のXlightなど様々なバリエーションが用意されている現在のドグマラインナップ。プロに対しては「北のクラシック」向け、一般に対してはグランフォンド(欧州の厳しい長距離山岳ロングライドイベント)向けのDOGMA K8シリーズが3種類用意されていることが特徴で、今回インプレッションを行う「K8」は、その中でも2017年モデルとして追加された最新バージョンだ。

ピナレロのパリ〜ルーベ/グランフォンド用バイクの歴史は、2011年に登場したKOBH60.1に端を発する。チームスカイからの「北のクラシックのためにドグマのSUV版を作って欲しい」というリクエストに応えたもので、2015年にはシートステーにサスペンションを搭載した「K8-S」がデビューし、世間を驚かせたことは記憶に新しい。

内側に屈曲させることで高い振動吸収性を取り込んだシートステー内側に屈曲させることで高い振動吸収性を取り込んだシートステー ピナレロのみに独占供給される「T1100-1K CARBON Nanoalloy」のロゴが光るピナレロのみに独占供給される「T1100-1K CARBON Nanoalloy」のロゴが光る

シートポストの固定力を増すためにF8よりもネジの数を増やしているシートポストの固定力を増すためにF8よりもネジの数を増やしている 非常に薄く扁平させた板バネのような「FLEXSTAYS」非常に薄く扁平させた板バネのような「FLEXSTAYS」


高い柔軟性・快適性は北のクラシックはもちろん、3週間にわたって過酷なレースが続くグランツールを走り抜くために必要不可欠な要素だ。しかし極端に荒れた路面でなければサスペンションは必要ない。そう考えたピナレロはDOGMA F8をベースに、DOGMA K8-Sの柔軟性を取り込んだバイクの開発に着手した。そうしてK8は生み出され、2016年のパリ〜ルーベにてデビュー、後の正式発表に繋げることとなった。

一見したK8のルックスは、現在のドグマシリーズの流れを色濃く受け継ぐものだ。卵形の後ろ半分を切り落としたような断面形状の「Flatback」を使ったフレーム各部、ブレーキキャリパーやボトルが生む空気抵抗を最小限に留めるような形状などはF8そのもの。横方向の剛性と空力に配慮した、緩やかな曲線を持つ大股のフロントフォークはドグマシリーズのアイデンティティと呼べる部分だ。

BB規格は近年のピナレロに共通するイタリアン式BB規格は近年のピナレロに共通するイタリアン式 ドロップ部分をシェイプさせたMostのステム一体式ハンドルバードロップ部分をシェイプさせたMostのステム一体式ハンドルバー


対してリアセクションは大幅な改革がもたらされており、例えばシートステーにはK8-Sと同様に、非常に薄く扁平させた板バネのような「FLEXSTAYS」を採用。大きく湾曲したONDAデザインのシートステーとあわせて、重量増なく振動をつぶさに吸収してくれるシステムだ。

更にシートポストはヤグラの下側後方部分を削ぎとったような新型の「AIR8」を採用。快適性向上についての具体的な数字は公開されていないが、直接体重が掛かる部分だけに優秀な乗り心地を期待させてくれる。衝撃を考慮して締め付けネジが3本に増やされていることも、長期的に見れば嬉しい部分だ。

ヤグラの下側後方部分を削ぎとったような新型の「AIR8」シートポストヤグラの下側後方部分を削ぎとったような新型の「AIR8」シートポスト フレーム各部は「Flatback」断面形状を用いて高い空力性能を生み出しているフレーム各部は「Flatback」断面形状を用いて高い空力性能を生み出している 砂時計のような形状の、空力を意識したヘッドチューブ砂時計のような形状の、空力を意識したヘッドチューブ


ジオメトリーについては「DOGMA K8-S」に準じており、通常よりも15mm程長い420mmのシートステーや、72mmとやや大きめのハンガー下がりによって、ハンドリングや挙動の安定性を向上している。素材は東レフラッグシップカーボンで、自転車メーカーとしてはピナレロのみに独占供給される「T1100-1K CARBON Nanoalloy」を引き続き採用した。

販売はフレームセットでのみ行われ、価格は税抜き615,000円とK8-Sと比較して10万円以上安価になっている。テストバイクのアッセンブルはデュラエースDi2とフルクラムのRACING ZERO CARBON。タイヤはヴィットリアのコルサ(23c)だ。ピナレロのグランフォンドシリーズに新登場した、期待のフラッグシップモデルの真価を問いたい。



ー インプレッション

「F8よりもマッチするユーザーが広い。上質な乗り味のスーパーバイク」藤岡徹也(シルベストサイクル)

通常バージョンのドグマF8をテストした経験があるのですが、F8はかなり踏み味が硬く、加速が鋭い一方で脚への負担が強いと感じていました。でも、このK8はしなやかな乗り味が持ち味で、より一般ユーザー向けなのではと感じました。前三角のデザインはF8同様なのに、ここまで乗り味が変わったのかと驚きました。

そのしなやかさを生み出しているのはリアの柔軟性ですね。とてもバネ感が強く、踏み込むとギュワッと前に伸びてくれる。でも一瞬タメがあるから筋肉に対してガツーンと衝撃が来ず、結果的にプッシュし続けても脚残りが良いんです。ふわふわとした印象が無いのに速い。F8とは性格が異なるものの、レーシングバイクという位置付けで全く問題無いほど良く走るバイクだと感じます。

「F8よりもマッチするユーザーが広い。上質な乗り味のスーパーバイク」藤岡徹也(シルベストサイクル)「F8よりもマッチするユーザーが広い。上質な乗り味のスーパーバイク」藤岡徹也(シルベストサイクル)
そして路面からの突き上げの大部分をカットしてくれるため、乗り心地に関してもかなり優秀と言えるでしょう。段差でどかっとサドルに腰を下ろして通過してみても、衝撃の角が取れて楽に感じます。比較的硬めなホイールが付いていましたが、優秀ですね。

私はNIPPOの選手としてベルギーで走っていましたが、やはりあの地方の石畳って別格なんです。その辺りの砂利道とは天と地ほどの差があって、慣れていないと普通に走ることすらできません。このK8は振動吸収性だったり、直進安定性、衝撃の伝え方など、北のクラシック用に開発されたという謳い文句は伊達じゃないな、と思いました。あの地域を走るのであれば、こうした自転車は必要になってくるんです。

そしてK8はハンドリングもかなり良いですね。直進安定は高いのに、ダウンヒルでアールのきついコーナーを曲がってもアンダーステアが出ず、すごく乗りやすい。ヘッド部分がかなり硬いことも影響しているのでしょう。イタリアンバイクよろしく安定感も高いですし、細かい凹凸にあまり気を使う必要がありません。リアがしなる分、スプリントの加速感こそF8に譲りますが、それ以外だったら何でもこなせてしまうスーパーバイクだと感じました。

それからバイクのインプレッションからは外れるものの、ハンドルの出来がかなり良かったことを付け加えておきたいですね。エアロ形状の上ハンドルも、握りがシェイプされている下ハンドル部分持ちやすい。ブレーキレバーとの距離が近く不安がありませんし、操作を行いやすい良い製品です。

F8は健脚のホビーレーサーでないと乗りこなせない印象がありましたが、K8を楽しめるユーザー層はかなり幅広いと言えるでしょう。高価でペイントも綺麗だから飾っておきたくなりますが、ガンガン乗り倒してこそ価値がある自転車です。各所もソツがなく、唯一小さいネジ3本で止めるシートポストだけは整備性が良いとは言えないものの、しっかりとカーボン用の滑り止めを塗布してあげればOKです。高級感としなやかな乗り心地、そしてスピードを兼ね備えた上質な一台でした。

「究極の一台。とにかくスピードの掛かりが良く、そしてスムーズ」渡辺匡(スポーツサイクルサカモト)

究極ですね。非の打ち所がありません。振動吸収性が良いという謳い文句ですが、全然コンフォートというイメージではなく、ピュアレーシングバイクだと思えてしまうほどに掛かりが良いバイクです。F8の乗り味はそのままに振動吸収性だけ底上げしたような印象で、どこまでも踏み続けたくなってしまうほどにスピードの乗りが素晴らしいですね。

F8に対して路面からの突き上げが段違いで優れているのに、それでいてパワーが逃げている印象も無いんです。ギアの大小に関わらず鋭く車体が前に進み、ギアの繋がりもスムーズに感じるし、突っ掛かり感やスピードの打ち止め感はどこまでも感じませんでした。F8よりもリアのしなりを感じるものの、その差は僅か。乗った人をその気にさせる妖刀のような雰囲気はF8から何ら変わらりません。

「究極の一台。とにかくスピードの掛かりが良く、そしてスムーズ」渡辺匡(スポーツサイクルサカモト)「究極の一台。とにかくスピードの掛かりが良く、そしてスムーズ」渡辺匡(スポーツサイクルサカモト)
これは恐らく車体、特にBB周辺の硬さによるものでしょう。私がどれだけ踏んでもビクともしませんし、だから平地・登り問わず加速感の鋭さは変わらないんです。F8との価格差も大きくありませんし、これならばどちらを選んでも間違いがない。

F8と比べて若干しなり感があるため、レース一本で考えているならF8、山岳グランフォンドもやりたいという方ならK8をお勧めしますが、その差が本当に活きてくるのはプロや、セミプロのレベルだと感じます。基本的に両車の性能は近しいところにあると言って間違いはないでしょう。

今回のバイクアッセンブルで唯一気になったのが、少し重さを感じたRACING ZERO CARBON。踏み心地が軽いフレームですから、お金が許すのであればマヴィックのコスミックカーボンアルチメイトなど、軽量ディープリムを組み合わせたいですね。そうすればレースもヒルクライムもロングライドにも行けてしまう、夢のマシンが完成です。

ガシガシ踏みたくなってしまう乗り味ですので、フロントギアは53-39Tを使ってあげたいし、そのギアを踏める脚を作りたいと思わされます。デメリットとしてはいつの間にか脚がなくなってしまう性格であること、そしてコラムカットが作業しにくいので、ポジションが決まっている方専用という2点でしょうか。

ハンドリングに関してもシャープで、一般的なレーシングバイクと全く同じレベル。日本国内の舗装路だったらどんな場所これ一台でこなせてしまうと感じます。これに乗ったらピナレロならドグマ一択!て感じてしまうはずですよ。一言で言えば、究極。開発に尋常ではないほどの資金を投入していると感じさせるほどの完成度を味わうことができました。

ピナレロ DOGMA K8(903/カーボンスカイ)ピナレロ DOGMA K8(903/カーボンスカイ) (c)Makoto.AYANO/cyclowired.jp
ピナレロ DOGMA K8
素 材:Torayca® T1100 1K Nanoalloy™ Carbon/アシンメトリック
フォーク:ONDA™ F8 Torayca® T1100 1K Nanoalloy™ 1"1/8-11/2インテグラル/アシンメトリック
リアステー:FLEXSTAY Torayca® T1100 1K /アシンメトリック
BB規格:イタリアン
サイズ:44SL、46.5SL、50、51.5、53、54、55、56、57.5、59.5
カラー:903/カーボンスカイ、901/カーボンレッド
付属品:AIR8 フルカーボンシートポスト、エアロヘッドセット
税抜価格:615,000円(スタンダード)、687,000円(MY WAY)



インプレッションライダーのプロフィール

藤岡徹也(シルベストサイクル)藤岡徹也(シルベストサイクル) 藤岡徹也(シルベストサイクル)

シルベストサイクルみのおキューズモール店で店長を務める28歳。プロロードレーサーとしてマトリックスやNIPPOに所属し国内外のレースを転戦。ツール・ド・フクオカでは優勝、ツール・ド・熊野の個人TTで2位などの実績を持つ。今もシルベストの一員として実業団レースに参戦中。スタッフとして乗り方や最適なアイテムの提案、走行会を通じて「自転車の楽しさを伝える」ことをモットーに活動している。

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渡辺匡(スポーツサイクルサカモト)渡辺匡(スポーツサイクルサカモト) 渡辺匡(スポーツサイクルサカモト)

新潟県三条市のスポーツサイクル サカモトで、メカニック作業から接客まで幅広く担当する。自転車にのめり込んだきっかけはオートバイレースのトレーニング。ロードバイクやMTB、小径車などジャンルを問わず探求し、特にブロンプトンに関しては造詣が深い。接客では製品のメリットとデメリットを丁寧に説明した上で、ユーザーに適したサービスや製品を提案することを大切にしている。

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ウェア協力:ピアソン

text:So.Isobe
photo:Makoto.AYANO
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投稿者: Chris Froome
出版社: Viking (2015)
装丁: ペーパーバック, 352 ページ
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装丁: ペーパーバック, 352 ページ
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