雨に見舞われたエネコ・ツアー最終日。スリッピーな激坂ミュール・ファン・ヘラールツベルヘンを含む難コースでエドヴァルド・ボアッソンハーゲン(ノルウェー、ディメンションデータ)が勝利し、ニキ・テルプストラ(オランダ、エティックス・クイックステップ)が逆転総合優勝に輝いた。



ミュール・ファン・ヘラールツベルヘンを駆け上がるニキ・テルプストラ(オランダ、エティックス・クイックステップ)らミュール・ファン・ヘラールツベルヘンを駆け上がるニキ・テルプストラ(オランダ、エティックス・クイックステップ)ら photo:Tim de Waele


ミュール・ファン・ヘラールツベルヘンを駆け上がるペーター・サガン(スロバキア、ティンコフ)ミュール・ファン・ヘラールツベルヘンを駆け上がるペーター・サガン(スロバキア、ティンコフ) photo:Tim de Waeleベルギー西部フランドル地方ボルネムからヘラールツベルヘンまで、合計17カ所の急坂が詰め込まれた197.8kmコースで行われたエネコ・ツアー最終第7ステージ。最後はヘラールツベルヘンを起点にした周回コースを走る。

雨に濡れたミュール・ファン・ヘラールツベルヘンでバイクを押す雨に濡れたミュール・ファン・ヘラールツベルヘンでバイクを押す photo:Tim de Waeleロンド・ファン・フラーンデレンなどのフランドルクラシックでお馴染みの急坂が多数登場。最大勾配が19.8%に達する「ミュール・ファン・ヘラールツベルヘン(ミュール・カペルミュール)」が4回登場するのが特徴で、登りの中腹(激坂区間手前)にフィニッシュラインが引かれている。

落車し、その後リタイアしたローハン・デニス(オーストラリア、BMCレーシング)落車し、その後リタイアしたローハン・デニス(オーストラリア、BMCレーシング) photo:Tim de Waeleスタート時は太陽が顔をのぞかせたが、レース中盤からフランドル地方は雨雲に覆われる。降り始めた雨によって、ただでさえ難易度の高い石畳の急坂を含むコースが鋭い牙を向くことになる。

ボアッソンハーゲンとともに飛び出すニキ・テルプストラ(オランダ、エティックス・クイックステップ)ボアッソンハーゲンとともに飛び出すニキ・テルプストラ(オランダ、エティックス・クイックステップ) photo:Tim de Waele1時間半におよぶアタック合戦の末に抜け出したのは、ディフェンディングチャンピオンのティム・ウェレンス(ベルギー、ロット・ソウダル)やビネル・アナコナゴメス(コロンビア、モビスター)を含む9名の逃げグループ。しかしBMCレーシングの集団コントロールによって逃げグループのリードは2分で頭打ちに。

ペーター・サガン(スロバキア、ティンコフ)を含む追走グループペーター・サガン(スロバキア、ティンコフ)を含む追走グループ photo:Tim de Waele最初の「ミュール・ファン・ヘラールツベルヘン」で逃げグループとメイン集団はともに崩壊。先頭ではウェレンスが独走し、総合逆転を狙うティンコフがメイン集団の主導権を握ってペースを上げる。するとリーダージャージを着るローハン・デニス(オーストラリア、BMCレーシング)が平坦区間で落車。チームカーの到着遅れにより再スタートに時間がかかり、すぐさま数分のタイムを失ったデニスはしばらくの追走ののちリタイアした。ロード世界選手権の個人タイムトライアルで優勝候補に挙げられるデニスは右半身に打撲や切り傷を負ったが、幸い骨折は免れている。

石畳が敷かれた登りで先頭グループを率いるオリバー・ナーセン(ベルギー、IAMサイクリング)石畳が敷かれた登りで先頭グループを率いるオリバー・ナーセン(ベルギー、IAMサイクリング) photo:Tim de Waele降り続く雨によって落車が多発し、先頭ではアタックが繰り返され、集団が複数に分裂した状態で進む荒れた展開。序盤からの逃げは吸収され、先行を図ったアンドレ・グライペル(ドイツ、ロット・ソウダル)らは落車でチャンスを失う。

最終ステージを制したエドヴァルド・ボアッソンハーゲン(ノルウェー、ディメンションデータ)最終ステージを制したエドヴァルド・ボアッソンハーゲン(ノルウェー、ディメンションデータ) photo:Tim de Waele断続的なアタックの末、やがてニキ・テルプストラ(オランダ、エティックス・クイックステップ)を含む9名の先頭グループが徐々にリードを広げ始めた。ペーター・サガン(スロバキア、ティンコフ)やグレッグ・ファンアフェルマート(ベルギー、BMCレーシング)、トム・ドゥムラン(オランダ、ジャイアント・アルペシン)、ゼネク・スティバル(チェコ、エティックス・クイックステップ)、ジョン・デゲンコルブ(ドイツ、ジャイアント・アルペシン)を含む追走グループは協調体制を築けず、先頭グループとのタイム差はすぐさま30秒を超えてしまう。

総合表彰台の真ん中に立つニキ・テルプストラ(オランダ、エティックス・クイックステップ)総合表彰台の真ん中に立つニキ・テルプストラ(オランダ、エティックス・クイックステップ) photo:Tim de Waeleサガンらを引き離した先頭グループはその後、「ミュール・ファン・ヘラールツベルヘン」でのテルプストラのアタックの結果、ボアッソンハーゲン、ヤッシャ・ズタリン(ドイツ、モビスター)、オリバー・ナーセン(ベルギー、IAMサイクリング)の4名に絞られた。

総合5位(27秒遅れ)テルプストラ、総合12位(39秒遅れ)ズタリン、総合20位(51秒遅れ)ナーセン、総合63位(2分10秒遅れ)ボアッソンハーゲンという、総合優勝にも影響する4名の先行。石畳の登りでズタリンが脱落してもなおテルプストラ、ナーセン、ボアッソンハーゲンが力強く逃げ続け、サガンを含む追走グループを45秒引き離したままフィニッシュへの登りに差し掛かる。

総合がかかったテルプストラとナーセンをスプリントで引き離したのは「残り200mまで体力を温存して一気に仕掛けた」というボアッソンハーゲン。3名でのスプリントで勝利したノルウェーチャンピオンがUCIワールドチーム残留を狙うディメンションデータに貴重なUCIワールドツアーレース勝利をもたらした。

「今日は理想的なレース展開だった。鍵を握るポイントでは必ず正しいポジションにつけていたし、ハードな展開は自分向きだった。雨でとても難しいコンディションだったので一瞬たりとも集中力を切らすことができなかった。強力なメンバーで抜け出してから、エネルギーを無駄にしないよう心がけながらエスケープ。目標としていた総合争いに絡めていなかったので、ステージ優勝へのモチベーションが高かった」と、勝利したボアッソンハーゲンは語る。

デニスのリタイアによって宙に浮いたリーダージャージは、ステージ2位に入ったテルプストラの手に。ともに逃げたナーセンと31秒差、そしてサガンと1分00秒差でテルプストラが逆転総合優勝に輝いた。

「今日はエティックスは総合を狙う上で何枚もカードを残していた。だから数で勝負する作戦だった。降り始めた雨はチームにとってアドバンテージで、攻撃を繰り返してライバルたちを苦しめた。先頭グループで好ペースを刻んでくれたボブ(ユンヘルス)に感謝。最後は総合優勝を確実なものにするためにライバルたちと協力して逃げた。ミュール・ファン・ヘラールツベルヘンはロードレースにおける特別な場所であり、ここでの総合優勝が意味するものは多い。キャリアにおける輝かしい1日になった」と、エティックス・クイックステップにシーズン52勝目をもたらしたテルプストラは語っている。

悪天候の厳しいコンディションによってこの日は76名がリタイアし、完走者は84名。新城幸也(ランプレ・メリダ)は2分08秒差のステージ43位に入り、総合42位でヨーロッパ最終戦を終えている。新城の次戦はカタールで開催されるロード世界選手権の予定だ。

選手コメントは各チーム公式サイトより。






エネコ・ツアー2016第7ステージ結果
1位 エドヴァルド・ボアッソンハーゲン(ノルウェー、ディメンションデータ)4h33’36”
2位 ニキ・テルプストラ(オランダ、エティックス・クイックステップ)     +01”
3位 オリバー・ナーセン(ベルギー、IAMサイクリング)
4位 トム・ドゥムラン(オランダ、ジャイアント・アルペシン)         +42”
5位 グレッグ・ファンアフェルマート(ベルギー、BMCレーシング)
6位 ペーター・サガン(スロバキア、ティンコフ)               +46”
7位 ウィルコ・ケルデルマン(オランダ、ロットNLユンボ)
8位 ヨス・ファンエムデン(オランダ、ロットNLユンボ)            +48”
9位 ヨン・イサギーレ(スペイン、モビスター)
10位 デミトリ・グルージェフ(カザフスタン、アスタナ)

個人総合成績
1位 ニキ・テルプストラ(オランダ、エティックス・クイックステップ)  22h43’26”
2位 オリバー・ナーセン(ベルギー、IAMサイクリング)            +31”
3位 ペーター・サガン(スロバキア、ティンコフ)              +1’00”
4位 グレッグ・ファンアフェルマート(ベルギー、BMCレーシング)      +1’02”
5位 ヨス・ファンエムデン(オランダ、ロットNLユンボ)           +1’03”
6位 ウィルコ・ケルデルマン(オランダ、ロットNLユンボ)          +1’11”
7位 ゼネク・スティバル(チェコ、エティックス・クイックステップ)     +1’15”
8位 ヨン・イサギーレ(スペイン、モビスター)               +1’19”
9位 トム・ドゥムラン(オランダ、ジャイアント・アルペシン)        +1’22”
10位 ボブ・ユンヘルス(ルクセンブルク、エティックス・クイックステップ) +1’31”
42位 新城幸也(日本、ランプレ・メリダ)                 +4’24”

スプリント賞
1位 ペーター・サガン(スロバキア、ティンコフ)             109pts
3位 ディラン・フルーネヴェーヘン(オランダ、ロットNLユンボ)      66pts
2位 エドヴァルド・ボアッソンハーゲン(ノルウェー、ディメンションデータ)61pts

チーム総合成績
1位 エティックス・クイックステップ                  67h26’20”
2位 モビスター                             +1’15”
2位 ロットNLユンボ                           +1’29”

text:Kei Tsuji
photo:Tim de Waele