今春の北のクラシックにあわせてフルモデルチェンジを果たしたトレックのエンデュランスロードバイク「Domane(ドマーネ)」シリーズ。独自開発の振動吸収機構「IsoSpeed」をフロントにも装備し、更に快適性を高めたセカンドグレードの「Domane SL」をインプレッションした。



トレック Domane SL 6トレック Domane SL 6 (c)Makoto.AYANO/cyclowired.jp
トレックが、石畳クラシックを得意とするファビアン・カンチェラーラ(スイス、トレック・セガフレード)のリクエストに応え開発したエンデュランスロードが「Domane」シリーズである。開発にあたって重要視されたのは、乗り心地を高めつつも、より少ない力で大きな推進力を得ること。

かつてのフレーム設計のセオリーに則れば、乗り心地を高めるためにはフレーム剛性を落とす必要があるが、どうしてもペダリング効率や反応性が引き換えとなってしまう。しかし、どんなに石畳の上を快適に走れたとしても、アタックやスプリントに反応できないバイクでは、ロンド・ファン・フラーンデレンやパリ~ルーベで勝つことはできない。石畳のクラシックで使用されるバイクには、快適性とフレーム剛性の双方が高いレベルで求められるのだ。

ペイントは、落ち着いた雰囲気が漂うマットな質感の仕上げとなっているペイントは、落ち着いた雰囲気が漂うマットな質感の仕上げとなっている フォークコラムの変形を利用したフロント版IsoSpeedにより快適性を高めたフォークコラムの変形を利用したフロント版IsoSpeedにより快適性を高めた 振動吸収性に貢献するベンド形状のフロントフォーク振動吸収性に貢献するベンド形状のフロントフォーク


そこで、Domaneのためにトレックが開発したのが「IsoSpeedテクノロジー」である。シートチューブをトップチューブ&シートステーから切り離し、シートチューブのみを前後方向にしならせることで、ペダリング剛性を損なうことなく衝撃吸収性を向上させることに成功。ドマーネはロンド・ファン・フラーンデレン2勝にパリ~ルーベ1勝、ツール・ド・フランスでのマイヨジョーヌ獲得と、カンチェラーラに多くの栄光をもたらした。

そして初代の登場から4年。2016シーズン限りで引退を決めたカンチェラーラの花道を飾るべく、スパルタクスのキャリア最後の石畳クラシックに向けて、トレックは新型となる2代目Domaneを投入。ルーベとロンドでは勝利に結びつけられなかったものの、長距離の砂利道がコースに組み込まれた「ストラーデ・ビアンケ」で、カンチェラーラと共に2代目Domaneはデビューウィンを飾り、その優位性を証明した。

DomaneシリーズのアイコンであるリアのIsoSpeedDomaneシリーズのアイコンであるリアのIsoSpeed 緩やかなカーブが与えられたダウンチューブ緩やかなカーブが与えられたダウンチューブ

トレック独自のワイドシェルBB「BB90」を採用。トレック独自のワイドシェルBB「BB90」を採用。 シマノDi2のバッテリーはダウンチューブ内に収められるシマノDi2のバッテリーはダウンチューブ内に収められる


カンチェラーラらトレック・セガフレードのライダーが駆るのはハイエンドモデルの「Domane SLR」。フォークコラムの変形を利用したフロント版IsoSpeedテクノロジーと、シートチューブの変形具合を調整できるスライダー式アジャスターにより、さらなる快適性の向上を果たした最上級の1台だ。

今回インプレッションを行うのは、セカンドグレードの「Domane SL」。シートチューブのスライダー式アジャスターの搭載は見送られたものの、フロント版IsoSpeedテクノロジーはそのまま採用。エンドに向けて急激に細くなるフロントフォークなどとあわせて、快適性を向上させている。

リアエンドなどにはフェンダーマウントを装備リアエンドなどにはフェンダーマウントを装備 ボントレガー製ダイレクトマウントブレーキを装備するボントレガー製ダイレクトマウントブレーキを装備する


一方で、Power Transfer Constractionにより、ヘッドチューブからダウンチューブ、BB、チェーンステイにかけての剛性を強化。トレック独自のBB90や重量剛性比に優れるOCLV500シリーズカーボンの採用と合わせて、競技者をも満足させる反応性やペダリング効率を手に入れた。

ジオメトリーは従来モデルと同様に、ホイールベースをやや長くとり、フォークベンドとトレイル量をコントロール。またBBハイトをやや低めとすることで、直進時とコーナリング時の双方で高い安定性を実現した。また、ダウンチューブ内にバッテリーを内蔵することでシマノDi2コンポのスマートな組み付けを可能としたControl Centerや、トレック独自のSeat Mast構造も、SLRより引き継がれている。

振動吸収性を狙って、シートステーはやや細身とされている振動吸収性を狙って、シートステーはやや細身とされている BBに掛けて拡幅するシートチューブBBに掛けて拡幅するシートチューブ 大径のシートポストを小径のシートチューブに被せるトレック独自のSeat Mast構造大径のシートポストを小径のシートチューブに被せるトレック独自のSeat Mast構造


ディスク仕様とリムブレーキ仕様が用意されるうち、今回インプレッションを行うのはダイレクトマウント規格のリムブレーキに対応する「Domane SL 6」だ。メインコンポーネントにはシマノULTEGRAを採用し、ボントレガー製のブレーキを組み合わせている。その他、コンポーネント以外のパーツを全てボントレガーで固めており、完成車重量は7.88kg(56cm)をマーク。早速インプレッションに移ろう。



ー インプレッション

「高級セダンのように静かで居住性の良いバイク」上萩泰司(カミハギサイクル)

高級セダンのように、静かで居住性の良いバイクですね。自転車がたてる音がほとんど気にならないほど静かで、周りの景色や路面状況、ペダリングに集中することができます。ハイエンドモデルのSLRを100kmほど試乗する機会があったのですが、比較するとSLのほうがよりマイルドに感じました。SLRのようなパリッとした感じはありませんが、代わりに良い意味の柔らかさがあり、むしろSLのほうが「Domaneらしいな」という印象です。

「高級セダンのように静かで居住性の良いバイク」上萩泰司(カミハギサイクル)「高級セダンのように静かで居住性の良いバイク」上萩泰司(カミハギサイクル) やはりDomane SLが得意とするのは、ロングライドやグランフォンドといった様な長距離・長時間のライドですね。ただ、レースでも長距離であればDomane SLの持ち味が活きてきます。成績を狙うのであればEmondaやMadone 9、Domane SLRに軍配が上がりますが、例えばツール・ド・おきなわの長距離クラスで完走を目指すという方であれば、かえってDomane SLのほうがピッタリくることでしょう。

誰が乗っても走りやすいと感じるでしょうから、ターゲットユーザーは幅広いですね。ロードバイクビギナーという方にも、2台目によりロングライド向きのバイクが欲しいと言う中級者にも、長年ロードに乗ってきたベテランにも、満足して頂けるはず。表彰台を狙うような一部のシリアスレーサーを除き、誰にでもおすすめすることができます。

フロントまわりの振動吸収性は、フォーク先端の高い柔軟性にフロントのIsoSpeedが加わったことで向上していますね。フォークコラムが動くということでフロントのIsoSpeedに不安を感じる方は少なくありませんが、体感できるほど大きくは変形しませんし、例えばダンシング時に不自然なねじれが発生したりということもありません。むしろ、ヘッド周辺にはしっかりとした剛性感があり、振動吸収性と安定感をうまく両立できています。クイックさはありませんが、寝かせ気味のヘッド角とあわせて、高速コーナーでも高い安定感を発揮してくれます。

バイク全体の剛性感は必要十分です。ジオメトリーやカーボンのレイアップ、BB90がうまく組み合わさって総合的に剛性を出している印象です。反応性は高いとは言えませんが、力を一旦貯めこんでグワッと放出するイメージで、平地巡航はスピードの維持が容易。ダンシングで軽快にというよりは、それこそカンチェラーラのようにシッティングでトルクをかけながらグイグイ走ると、より性能を引き出すことができます。登りも、ダンシングを織り交ぜながらというよりも、腰を落ち着けて淡々と走ったほうがバイクにあっていると感じました。

標準装備の28Cタイヤは、見た目はなんだかクロスバイクのようで走りも重いのかなと予想していましたが、実際に走ってみると太さも重さも感じません。同時に、エアボリュームがあることから、段差や舗装の荒れたところを臆せず走ることができ、多少ラインをミスして路面状況が悪いところに入ってしまっても、タイヤが大いに助けてくれます。レースならば7気圧ぐらいでしょうし、長距離ならもう少し落としても良いでしょう。

シマノULTEGRA装備で41万円という価格は妥当といえるでしょう。標準付属のホイールはやや重めですから交換してあげたいところ。シマノのWH-9000-C35-CLのように、リムハイトが35mm程度でスチールスポーク採用のホイールがマッチしそうです。

「まるで絨毯の上を走っているような高い振動吸収性が特徴」生駒元保(bicycle store RIDEWORKS)

すごく楽しいバイクですね。登り、下り、平坦巡航、スプリントとあらゆるシチュエーションでソツなく走ってくれるレーシングバイクでありながら、快適性も高い。意図的にガタガタした道に行ってみても、振動が身体に伝わってこず、まるで絨毯の上を走っているよう。ロングライド派の方はもちろんのこと、登り下りを含むハイテンポなライドを好む方におすすめですね。癖が無く、誰にとっても扱いやすいので、初心者の方にも良いでしょうし、「ロードバイクって楽しい」と思ってもらえるはずです。

快適性に大きく貢献しているのが28Cのタイヤですね。28Cはクロスバイクの定番サイズですが、このタイヤはロードレーサーらしい軽快さやロードインフォメーションはそのままに、振動吸収性だけが高まっている印象で、太いことによるデメリットが感じられません。当たり前ですが、23Cや25Cとは空気圧のセッティングが異なってきますから、初めて28Cタイヤを使うと言う方はセッティングに少々コツが必要です。空気圧を上げすぎても跳ねるということはありませんが、コーナーの喰いつき感などを考慮すると、体重60kgなら6気圧程度が楽しいな、と感じました。

「まるで絨毯の上を走っているような高い振動吸収性が特徴」生駒元保(bicycle store RIDEWORKS)「まるで絨毯の上を走っているような高い振動吸収性が特徴」生駒元保(bicycle store RIDEWORKS)
タイヤが太い割りに踏んだ時の反応は悪くありませんし、BB周りの剛性が高いおかげか、平地ではスピードを維持しやすい印象を受けました。長距離なレースほど、如何に最後まで脚を残せるかが重要になってきますが、このバイクであれば最後まで脚を残せそうですね。リアセンターが長いことから直進安定性は高めですが、コーナリングは素直であり、この点もストレスの低減に繋がっています。

登りは、軽いギアでクルクルと回せばスイスイとテンポよく走ってくれます。標準でそこそこ重量のあるホイールがセットされていますが、その重さを感じさせません。タイヤやフロントのIsoSpeedが変にしなるということもなく、ダンシングも軽快でした。

総じて、41万円とやや値ははりますが、実際に乗ってみて納得できる性能がありました。パーツアッセンブルについては、ハンドルの握りやすさが気に入りました。ただ、ボントレガーオリジナルのブレーキは、メカメカしいルックスで格好良いのですが、特に高速域で急激に制動力が立ち上がってしまうため、操作には少々慣れを要しますね。タイヤを25Cに変えるとよりレーシーな乗り味になるのかもしれません。ホイールはリムハイト30~40mmのものがおすすめですね。

トレック Domane SL 6トレック Domane SL 6 photo:Makoto.AYANO
トレック Domane SL 6 
フレーム素材:500 Series OCLV Carbon
BB:BB90
メインコンポーネント:シマノ ULTEGRA
ブレーキ:ボントレガー:ボントレガー Speed Stop(ダイレクトマウント)
ホイール:ボントレガー Race Tubeless Ready
サイズ:50、52、54、56、58、60cm
完成車重量(サイズ56):7.88 kg
カラー:Matte Viper Red/Pinot Red、Black Pearl/Crystal White
価 格:410,000円



インプレッションライダーのプロフィール

上萩泰司(カミハギサイクル )上萩泰司(カミハギサイクル ) 上萩泰司(カミハギサイクル )

愛知県下に3店舗を展開するカミハギサイクルの代表取締役を務める。20年以上のショップ歴を持つベテラン店長だ。ロードバイクのみならず、MTBやシクロクロスなど様々な自転車の楽しみ方をエンジョイしている。中でも最近はトライアスロンに没頭しているとのことで、フランクフルトのアイアンマンレースで完走するなど、その走力は折り紙つき。ショップのテーマは"RIDE with Us"。お客さんと共に自転車を楽しむことができるお店づくりがモットー。

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カミハギサイクル

生駒元保(bicycle store RIDEWORKS)生駒元保(bicycle store RIDEWORKS) 生駒元保(bicycle store RIDEWORKS)

兵庫県芦屋市に店舗を構えるbicycle store RIDEWORKSの店長を務める。スポーツバイク歴は30年。ショップスタッフ歴は16年ほどで、2010年3月より現職に。普段はお客さんと共にトライアスロンやロングライドなどの各イベントに参加し、自転車の楽しさを伝えている。ショップとしてのモットーは「機材にもサイクリストにも愛情を持って接すること」。愛車はスペシャライズドVenge ViasやシーポCATANA、シエロのMTB、ズッロなど、マスプロ系からハンドメイドまで多岐に渡る。

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ウェア協力:マヴィックアソス
シューズ&ヘルメット協力:ジロ

text:CW編集部
photo:Makoto.AYANO