インターハイロードを独走で制したのは林祐作(名古屋高)。シード選手でも強化指定選手でもない1年生が、ラスト1周を力強い走りで逃げて優勝。学校対抗総合は別府商業・別府翔青高校が優勝。



林祐作(名古屋)が1周を独走して優勝林祐作(名古屋)が1周を独走して優勝 photo:Hideaki TAKAGI
8周100kmの戦い

全国高校総体自転車競技選手権大会最終日4日目ロードレースが、8月2日(火)、広島県中央森林公園で行われた。スタート地点は出入り口ゲートとの中間付近で1.6km+12.3kmx8周=100kmで行われた。気温は32度程まで上がったが湿度が高く、これもレースの動向を左右する。

この高校生ロードレーサーの誰もが夢見る舞台に出場したのは、全国から選ばれた144人の選手。3月の選抜大会優勝そして6月の全日本個人TTジュニアチャンピオンの大町健斗(安芸府中)は大本命で地元でのレース。大会直前までに行われたツール・ド・ラビティビでネイションズポイントを獲得した蠣崎優仁(伊豆総合)と重満丈(北中城)。シード選手である選抜大会の上位陣やJCF強化指定選手ら強豪勢がそろって参加した。

選抜大会優勝の大町健斗(安芸府中)らシード選手が最前列に選抜大会優勝の大町健斗(安芸府中)らシード選手が最前列に photo:Hideaki TAKAGI2周目 メイン集団2周目 メイン集団 photo:Hideaki TAKAGI

6人が逃げるが4周目に吸収

3周目 6人が逃げる3周目 6人が逃げる photo:Hideaki TAKAGI9時に100kmのレースがスタート。序盤からアタックがかかるが散発的な動き。常に数人が逃げる展開に。動きができたのは3周目。6人が逃げる。メンバーは蠣崎、吉岡衛(奈良北)、小野寛斗(横浜)、中谷亮太(北科大)、西原裕太郎(榛生昇陽)、服部泰之(伊豆総合)。6人は30秒から45秒の差をつける。しかし4周目後半にペースを上げたメイン集団がこれを吸収し振り出しに。

5周目から逃げた強力な3人

5周目の上りで次の動きができる。抜け出した花田聖誠(昭和一学園)が吸収され、次に栗原諒(前橋工)が単独抜け出す。それを亀谷昌慈(岐阜第一)と花田が1周弱かけて追走し6周目中盤で追いつき先頭は3人に。メイン集団は40秒から最大1分差までタイム差が広がる。アジア選3位の花田と選抜5位の亀谷らの逃げは要注意だが、メイン集団は大町を中心に攻撃とけん制を繰り返し追走の動きにならない。

7周目に入っても先頭3人と60人ほどのメイン集団のタイム差は40秒から最大1分差になる。残り周回が少なくなりJプロツアーなどなら1周でせいぜい30秒差を詰めるのがせいいっぱいだが、高温多湿の条件とメンバーや動き次第で「1周で1分差を詰めることは可能」との判断が選手間にあった。メイン集団は活性化し大町ら数人が抜け出す場面もあるがメイン集団が吸収することを繰り返す。

5周目 上りでペースを上げる栗原諒(前橋工)5周目 上りでペースを上げる栗原諒(前橋工) photo:Hideaki TAKAGI6周目へ 追走で抜け出した花田聖誠(昭和一学園)と亀谷昌慈(岐阜第一)6周目へ 追走で抜け出した花田聖誠(昭和一学園)と亀谷昌慈(岐阜第一) photo:Hideaki TAKAGI

7周目に単独抜け出した亀谷昌慈(岐阜第一)

先頭でも動きがあり、頂上手前で先頭3人から亀谷が抜け出す。後方の2名のうち花田はメカトラブルを起こし停止。メイン集団から抜け出していた大町と奥村十夢(榛生昇陽)も、そして花田もメイン集団に吸収され、そののちに栗原も吸収される。先頭で逃げる亀谷と、20人ほどとなったメイン集団の構図で最終周回へ向かう。

7周目 メイン集団から抜け出す大町健斗(安芸府中)と奥村十夢(榛生昇陽)7周目 メイン集団から抜け出す大町健斗(安芸府中)と奥村十夢(榛生昇陽) photo:Hideaki TAKAGI7周目 頂上手前で先頭に立つ亀谷昌慈(岐阜第一)7周目 頂上手前で先頭に立つ亀谷昌慈(岐阜第一) photo:Hideaki TAKAGI

最終周回に独走した林祐作(名古屋)

最終周回の8周目、補給区間そしてコントロールラインを過ぎてばらばらになった集団先頭から林がアタックしコース前半の下り基調のカーブ区間へ入る。見通しの悪いカーブが連続するこの区間で林は一気に後続と差をつけ30秒前を行く亀谷を追う。上り区間に入り先行していた亀谷に林が追いつく。一緒に逃げようと林は亀谷に声をかけるが脚を攣っていた亀谷は下がっていく。

亀谷に代わって先頭に出た林は衰えないペダリングで坂を上り、ラスト3kmの頂上でメイン集団との差は40秒。しかしラスト2km地点では頂上でアタックし抜け出した浜田大雅(藤井寺工科)との差は25秒に縮まる。さらに集団も猛追し差は縮まる。しかしラスト500mから林は踏み直し10秒を保ってフィニッシュ。浜田も2位に残る。メイン集団はスプリントとなり、後続を1秒以上離す圧倒的な走りで日野泰静(松山城南)が3位に入った。

最終周回 ”三連トンネル”でメイン集団から抜け出した林祐作(名古屋)が亀谷昌慈(岐阜第一)に追いつく最終周回 ”三連トンネル”でメイン集団から抜け出した林祐作(名古屋)が亀谷昌慈(岐阜第一)に追いつく photo:Hideaki TAKAGI最終周回 林祐作(名古屋)が先頭を独走する最終周回 林祐作(名古屋)が先頭を独走する photo:Hideaki TAKAGI

メイン集団の攻防と抜け出した亀谷と林

大本命とされた大町は結局抜け出すことができず、集団の中でフィニッシュ。レースは数人が最大1分差で逃げる展開が続いたが、メイン集団は牽制状態となり道幅いっぱいに広がる場面も多かった。逃げたい大町らが攻撃するがこれを逃さない集団が吸収する一連の動きを繰り返し、集団スプリント狙いの展開に向かっていった。

しかしそれでも逃げたのは林と亀谷だ。5周目から3周を逃げた亀谷は「2人の息が上がっているように感じたので」7周目に単独アタック。しかしこの時点で脚を攣っていた亀谷は最終周回上り区間でについにストップしてしまった。いっぽうの林はカーブが連続する区間で一気に差を広げ、同じ中京圏で走る亀谷とともにフィニッシュを目指す予定だった。その亀谷がともに走れる状態ではなかったが、そこからも力強いペダリングは衰えず、猛追する集団から逃げきった。

フィニッシュ後、亀谷の後輪は大きく振れていてとても手で回せないほどロック状態にあった。レース中盤に他選手と接触した場面があったという。これが無ければ、これに気づいていたら違った展開になったことは間違いない。

ラスト3kmで抜け出した浜田大雅(藤井寺工科)が2位、スプリントを制した日野泰静(松山城南)が3位ラスト3kmで抜け出した浜田大雅(藤井寺工科)が2位、スプリントを制した日野泰静(松山城南)が3位 photo:Hideaki TAKAGI4位以下のフィニッシュ4位以下のフィニッシュ photo:Hideaki TAKAGI

選手たちのコメント

優勝した林祐作(名古屋)はまだ高校1年優勝した林祐作(名古屋)はまだ高校1年 photo:Hideaki TAKAGI優勝した林は2010年の小橋勇利(現シマノレーシング)以来の1年生での優勝。「勝った瞬間はあり得ないというか自分が驚いていました。三段坂の手前で亀谷さんに追いつき「一緒に行きませんか」と声をかけたのですが、脚が攣って無理と言われたので単独で行きました。自分も脚が攣っていましたが後ろとは1分と言われたので坂を越えたら何とかと思って頑張って踏みました」とコメント。中学から始めた自転車競技は4年目。昨年の四日市ジュニア中学生男子2位、シマノ鈴鹿中学生男子優勝の成績がある。

「あと10秒が届かなかった」と悔しがるのはEQADSの準所属選手でもある2位の浜田。「今日はアタックしようと思ったけれども吸収されたりで。しかも予想と違って集団で推移したので後半に向けて備えました。届かなかったのは悔しいですが、でも2位という結果を出せたことは嬉しいです」と語る。

また、3位の日野は「コーナーが終わってからみんなと同じくスプリントを開始しました。最後は前の人に届かず悔しいです。3位ですが満足はしていません」とコメント。

「力が無かった、ただそれだけです」と肩を落とすのは優勝候補筆頭だった大町。「今晩からベルギーで走るために移動します。花田と蠣崎も合流します。1か月向こうで走って絶対に勝ちたいです。強くなって日本に戻ります」とコメント。次の国内でのレースは9月の都道府県大会(愛媛県)だ。

実績のある選手たちが攻撃とけん制を繰り返す中、一瞬のタイミングを見逃さず力強くペダルを踏み続け優勝した林、攻撃しつつもラスト3kmでアタックした2位の浜田、そしてスプリントに懸けた3位の日野と、それぞれに自分の力を出し切った3人が上位に並んだ。とくに林、日野そして4位の小野寺慶(真岡工)はまだ1年生。これからが大いに期待される。

優勝した林祐作(名古屋)がチームメイトに労われる優勝した林祐作(名古屋)がチームメイトに労われる photo:Hideaki TAKAGI浜田大雅(藤井寺工科)は自ら創部して2年目で2位に浜田大雅(藤井寺工科)は自ら創部して2年目で2位に photo:Hideaki TAKAGI

別府商業・別府翔青高校が学校対抗総合優勝

学校対抗総合はトラック上位5校のロードでのポイント加算がなかったため変動なく、別府商業・別府翔青高校が優勝した。なお2位の岐阜第一は、ロードでラスト4kmまで先頭を走っていた亀谷が7位以内に入っていれば逆転で総合優勝だった。しかし同校の松村光浩監督は「一瞬だけロード個人優勝と総合逆転という夢を見ましたが、まずは攻める走りをした亀谷をよくやったと称えたいです。総合にはまだまだ力が足りません」と語った。

会場では来年2017年のインターハイ会場が発表された。トラックは福島県いわき市のいわき平競輪場で、ロードは石川町の公道で行われる。日程はトラックが7月27日(木)~29日(土)、ロードが同30日(日)が予定されている。

個人ロードレース表彰個人ロードレース表彰 photo:Hideaki TAKAGI学校対抗総合表彰学校対抗総合表彰 photo:Hideaki TAKAGI




結果
個人ロードレース 100km 
1位 林祐作(名古屋高)2時間41分46秒5
2位 浜田大雅(藤井寺工科)+09秒
3位 日野泰静(松山城南)+10秒
4位 小野寺慶(真岡工)+11秒
5位 松本大志(高松工芸)+12秒
6位 篠田幸希(前橋工)
7位 重満丈(北中城)
8位 栗原悠(千原台)
9位 川嶋祐輔(暁)
10位 西原裕太郎(榛生昇陽)

学校対抗総合成績

1位 別府商業・別府翔青 30点
2位 岐阜第一 29点
3位 静岡北 21点
4位 福井科学技術 18点
5位 吉田 17点
6位 榛生昇陽 17点
7位 氷見 14点
8位 浦和工 13点

photo&text:高木秀彰