2016/07/21(木) - 16:23
スイスを訪れるツールの2日目。牧歌的な風景とモンブランの白い頂きが迎える山岳ステージで輝いたのはロシアの才能として期待を集めるザッカリンだった。キンタナの攻撃は不発、フルームとスカイの走りは今日も崩れず。
陽光がまぶしいベルン。プロヴァンスに冷たい風が吹いたぶんを取り戻すかのような暑さがスイスで続く。ティンコフのチームカーで忙しそうに準備するのは宮島正典マッサー。クーラーボックスに氷をぎっしり詰め込み、ボトルや補給食を揃える。
「さすがスイス、いい氷が調達できました」と笑う宮島さん。前半はホテル直行でのマッサージが主な仕事だったが、後半は中野さんと交代でステージ途中の補給も行うのだとか。ボトルベストなどユニークなアイデアを生み出すティンコフだが、今回はヘルメットの下に着ける冷却パッドを持ち込んだ。ボトルで水をかけ、気化熱により頭頂部を冷やすのだという。アームバンドと首周りに巻くネクタイ式のものもあり、暑がりの選手には好評なのだという。
路上に補給に出ることでレースも見れる。「サガンは今日アタックしますか?」の問に「行くでしょう!」。またユキヤがアタックを試みることを伝えると「それが楽しみなんです」とチームを超えて応援。でも、今日は残された数少ないチャンスに誰もがアタックしたい日。
スプリンターたちは走りながらの休養の日だが、ブライアン・コカール(ディレクトエネルジー)には新たなミッションが与えられた。FSAが今年中に発表する新型ワイヤレス電動コンポーネントのプロトタイプが取り付けられたバイクで走ることだ。FSA担当者によれば、F&Rメカはシートチューブから伸びるケーブルで接続されるが、シマノのDi2に似たボタンを装備するレバーとはANT+無線で繋がれている。
この日はコカールの他コフィディスとボーラアルゴン18の選手も使用し、実戦テストするという。製品版の正式発表は秋のユーロバイクにて。近年のコンポ戦争は熾烈を極めてきた。
ユネスコ世界遺産になっている美しいベルンの旧市街をスタートしていくプロトン。カンチェラーラももちろん先頭に、大きな時計塔のある華やかな大通りを駆け抜けていった。その後は予想通りのアタック合戦。スイスの山村を繋ぐ道での壮絶な時間が続いた。
前日の休息日に「アタックするなら明日でしょう」と話した新城幸也(ランプレ・メリダ)も、もちろんこの闘いに参加。しかし逃げはなかなか決まらない。
ペーター・サガン、ラファル・マイカ、そして地元にフィニッシュするスティーブ・モラビート(FDJ)など脚もモチベーションもある大御所がたくさん動くと11人の強力な逃げグループができた。マイヨヴェールとマイヨアポアを含む逃げ。
沿道には「Merici FABIAN」とカンチェラーラへの感謝を示すメッセージや、スイスアルプスならではのデコレーション、水着のスイス美女たちが様々な応援スタイルでツールの通過を歓迎する。ツール・ド・スイスやロマンディで自転車レースはお馴染み。しかしツールはスイス人にもやはり特別な存在だ。
終盤に続く1級山岳フォルクラ峠(13km/平均7.9%)と超級山岳フィノー・エモッソン(10.4km/平均8.4%)の組み合わせは今大会最難関とも言われる。下りも得意なマイカとパンタノの2人が抜け出したのは15ステージと同様。そこにイルヌール・ザッカリン(カチューシャ)が合流した。マイヨアポアに15ステージ覇者。この日はコロンビアの独立記念日ということでパンタノは再びハッスル。キンタナにも期待だ。
ツール初登場のエモッソンの上りは頂上フィニッシュが近づくにつれ勾配を増し、休息日明けの選手たちの脚を試す。ラスト数キロは山の切れ間にモンブランの白い頂が望める。ツールに採用される道としては異例の細さの上り勾配で、ザッカリンが独走に持ち込んだ。
マイカらと同様に逃げた第15ステージはコンタクトレンズが外れたことで道がよく見えなくなり、下りを攻められなかったために勝利を逃したザッカリン。今日は最後までサングラスをしっかり掛けてレンズの脱落を防いで走った。
ジロ・デ・イタリアでは最終盤の山岳の下りで落車し、岩場に転がり落ちた。骨折とともにジロのポディウムも失うリタイアの失意を経験。このツールに向けて回復しての挑戦だ。「勝ったことに驚きはない。そのためにトライしたから」。
2004年ツールでのセルゲイ・イワノフのステージ勝利以来のチームカチューシャとロシア人の勝利。TTにも強いオールラウンダーのザッカリンは、レースを経るごとに進化する走りを見せ、驚きのリザルトを更新し続けてきた。
2015年からカチューシャ入りした187cm・67kgの痩身のロシア人ライダーは、2015年のツール・ド・ロマンディ総合優勝でブレイク。今春はパリ〜ニースでゲラント・トーマスを(コンタドールをも)破って勝利。ロマンディでは斜行で降格になるも走りではナイロ・キンタナを負かしている。ジロ・デ・イタリアのステージ勝利と、落車がなければモノにできたであろう総合ポディウム。今後、フルームらとマイヨ・ジョーヌを争う存在に確実になるだろうと言われている。
RusVeloチームを経てカチューシャ入りしたザッカリンは、ロシアのチームでツール・ド・フランスを制するという目標をもつカチューシャがもっとも大切に考えるタレントだ。19歳の時にはドーピングで2年の出場停止期間を経た。過ちを認め、償い、その時からは生まれ変わったと言うザッカリン。ソチ五輪での国家ぐるみのドーピングが明るみに出たロシアの国家プロジェクトに関連付けた質問が飛ぶのはしかたのないことだ。
リオ五輪のコースはすでに試走済み。ザッカリン向けのハードコースにメダル獲得の期待は大きい。
総合優勝争いのグループで、この日マイヨジョーヌのクリス・フルームとチームスカイに一矢報いることができたのはかつてのチームメイトのリッチー・ポート(BMCレーシング)だけ。アタックしたポートにはフルームのみが追従でき、フルームも昨年までのチームメイトに従って抜かすことなくフィニッシュを迎える。フルームはかつて献身的に働いてくれた旧友の走りを讃えた。ワウト・ポエルスをはじめチームスカイは今日も鉄壁の走りだった。
予想されたナイロ・キンタナのアタックは不発。どころか、さらにフルームにタイム差を広げられるという結果になった。「正しいタイミングを待つ」としてここまでアタックすることを引き延ばしてきたキンタナは、結局はフルームとスカイに歯がたたないことを露呈した。
キンタナは言う。「調子が良いと感じていたのでもっと良い走りができると思っていたんだ。でも今日は最後の登りで身体の反応が悪かった。できる限りのことはした。残りのステージに向けてリカバリーして調子を戻したい。例年通りであれば、調子が最も上がるのは終盤のステージだ。今日は単にバッドデーだったのだと思う」。
先送りしたメンバーを上りで待たせたアスタナのチームワークも失敗。ラスト6kmの早過ぎる段階でファビオ・アルを孤立させてしまい、アタックへと繋げられなかった。噂されたモビスターとアスタナの共同戦線も、あったのか無かったのか、機能せず。ライバルたちはただタイムを失うだけのステージになってしまった。
総合2位のモレマもフルームに対し40秒のタイムを失う。序盤の平坦路の速さにやられ、フォルクラ峠ですでに調子を落とす徴候があったという。そしてこの日がバッド・デイだったと主張するが、3位アダム・イェーツとは22秒、4位キンタナとは12秒の差に。これまでの年のように、この傾向が続けばポディウムスポットは危険にさらされる予感だ。2013年ツールでは第2休息日に総合2位にいたが、その後の難関ステージで結局は6位に脱落している。その轍を踏まなければ良いが。
前日のインタビュー時に「今日逃げずしてどうする」と話した新城幸也(ランプレ・メリダ)だが、インタビューを終えての言葉は「でも皆が行きたいはずなんですよね。逃げに乗れなかったら、30位ぐらいのグループで登ったら勘弁してもらえますかね(笑)」だった。
結果的には26分15秒遅れのグループで67位。いいグループでは帰ってきたが、目標は達成できず。残された次のチャンスでの逃げを期待することにしよう。
photo&text:Makoto.AYANO in Finhaut-Emosson, Switzerland
photo:Kei.TSUJI, TimDeWaele
陽光がまぶしいベルン。プロヴァンスに冷たい風が吹いたぶんを取り戻すかのような暑さがスイスで続く。ティンコフのチームカーで忙しそうに準備するのは宮島正典マッサー。クーラーボックスに氷をぎっしり詰め込み、ボトルや補給食を揃える。
「さすがスイス、いい氷が調達できました」と笑う宮島さん。前半はホテル直行でのマッサージが主な仕事だったが、後半は中野さんと交代でステージ途中の補給も行うのだとか。ボトルベストなどユニークなアイデアを生み出すティンコフだが、今回はヘルメットの下に着ける冷却パッドを持ち込んだ。ボトルで水をかけ、気化熱により頭頂部を冷やすのだという。アームバンドと首周りに巻くネクタイ式のものもあり、暑がりの選手には好評なのだという。
路上に補給に出ることでレースも見れる。「サガンは今日アタックしますか?」の問に「行くでしょう!」。またユキヤがアタックを試みることを伝えると「それが楽しみなんです」とチームを超えて応援。でも、今日は残された数少ないチャンスに誰もがアタックしたい日。
スプリンターたちは走りながらの休養の日だが、ブライアン・コカール(ディレクトエネルジー)には新たなミッションが与えられた。FSAが今年中に発表する新型ワイヤレス電動コンポーネントのプロトタイプが取り付けられたバイクで走ることだ。FSA担当者によれば、F&Rメカはシートチューブから伸びるケーブルで接続されるが、シマノのDi2に似たボタンを装備するレバーとはANT+無線で繋がれている。
この日はコカールの他コフィディスとボーラアルゴン18の選手も使用し、実戦テストするという。製品版の正式発表は秋のユーロバイクにて。近年のコンポ戦争は熾烈を極めてきた。
ユネスコ世界遺産になっている美しいベルンの旧市街をスタートしていくプロトン。カンチェラーラももちろん先頭に、大きな時計塔のある華やかな大通りを駆け抜けていった。その後は予想通りのアタック合戦。スイスの山村を繋ぐ道での壮絶な時間が続いた。
前日の休息日に「アタックするなら明日でしょう」と話した新城幸也(ランプレ・メリダ)も、もちろんこの闘いに参加。しかし逃げはなかなか決まらない。
ペーター・サガン、ラファル・マイカ、そして地元にフィニッシュするスティーブ・モラビート(FDJ)など脚もモチベーションもある大御所がたくさん動くと11人の強力な逃げグループができた。マイヨヴェールとマイヨアポアを含む逃げ。
沿道には「Merici FABIAN」とカンチェラーラへの感謝を示すメッセージや、スイスアルプスならではのデコレーション、水着のスイス美女たちが様々な応援スタイルでツールの通過を歓迎する。ツール・ド・スイスやロマンディで自転車レースはお馴染み。しかしツールはスイス人にもやはり特別な存在だ。
終盤に続く1級山岳フォルクラ峠(13km/平均7.9%)と超級山岳フィノー・エモッソン(10.4km/平均8.4%)の組み合わせは今大会最難関とも言われる。下りも得意なマイカとパンタノの2人が抜け出したのは15ステージと同様。そこにイルヌール・ザッカリン(カチューシャ)が合流した。マイヨアポアに15ステージ覇者。この日はコロンビアの独立記念日ということでパンタノは再びハッスル。キンタナにも期待だ。
ツール初登場のエモッソンの上りは頂上フィニッシュが近づくにつれ勾配を増し、休息日明けの選手たちの脚を試す。ラスト数キロは山の切れ間にモンブランの白い頂が望める。ツールに採用される道としては異例の細さの上り勾配で、ザッカリンが独走に持ち込んだ。
マイカらと同様に逃げた第15ステージはコンタクトレンズが外れたことで道がよく見えなくなり、下りを攻められなかったために勝利を逃したザッカリン。今日は最後までサングラスをしっかり掛けてレンズの脱落を防いで走った。
ジロ・デ・イタリアでは最終盤の山岳の下りで落車し、岩場に転がり落ちた。骨折とともにジロのポディウムも失うリタイアの失意を経験。このツールに向けて回復しての挑戦だ。「勝ったことに驚きはない。そのためにトライしたから」。
2004年ツールでのセルゲイ・イワノフのステージ勝利以来のチームカチューシャとロシア人の勝利。TTにも強いオールラウンダーのザッカリンは、レースを経るごとに進化する走りを見せ、驚きのリザルトを更新し続けてきた。
2015年からカチューシャ入りした187cm・67kgの痩身のロシア人ライダーは、2015年のツール・ド・ロマンディ総合優勝でブレイク。今春はパリ〜ニースでゲラント・トーマスを(コンタドールをも)破って勝利。ロマンディでは斜行で降格になるも走りではナイロ・キンタナを負かしている。ジロ・デ・イタリアのステージ勝利と、落車がなければモノにできたであろう総合ポディウム。今後、フルームらとマイヨ・ジョーヌを争う存在に確実になるだろうと言われている。
RusVeloチームを経てカチューシャ入りしたザッカリンは、ロシアのチームでツール・ド・フランスを制するという目標をもつカチューシャがもっとも大切に考えるタレントだ。19歳の時にはドーピングで2年の出場停止期間を経た。過ちを認め、償い、その時からは生まれ変わったと言うザッカリン。ソチ五輪での国家ぐるみのドーピングが明るみに出たロシアの国家プロジェクトに関連付けた質問が飛ぶのはしかたのないことだ。
リオ五輪のコースはすでに試走済み。ザッカリン向けのハードコースにメダル獲得の期待は大きい。
総合優勝争いのグループで、この日マイヨジョーヌのクリス・フルームとチームスカイに一矢報いることができたのはかつてのチームメイトのリッチー・ポート(BMCレーシング)だけ。アタックしたポートにはフルームのみが追従でき、フルームも昨年までのチームメイトに従って抜かすことなくフィニッシュを迎える。フルームはかつて献身的に働いてくれた旧友の走りを讃えた。ワウト・ポエルスをはじめチームスカイは今日も鉄壁の走りだった。
予想されたナイロ・キンタナのアタックは不発。どころか、さらにフルームにタイム差を広げられるという結果になった。「正しいタイミングを待つ」としてここまでアタックすることを引き延ばしてきたキンタナは、結局はフルームとスカイに歯がたたないことを露呈した。
キンタナは言う。「調子が良いと感じていたのでもっと良い走りができると思っていたんだ。でも今日は最後の登りで身体の反応が悪かった。できる限りのことはした。残りのステージに向けてリカバリーして調子を戻したい。例年通りであれば、調子が最も上がるのは終盤のステージだ。今日は単にバッドデーだったのだと思う」。
先送りしたメンバーを上りで待たせたアスタナのチームワークも失敗。ラスト6kmの早過ぎる段階でファビオ・アルを孤立させてしまい、アタックへと繋げられなかった。噂されたモビスターとアスタナの共同戦線も、あったのか無かったのか、機能せず。ライバルたちはただタイムを失うだけのステージになってしまった。
総合2位のモレマもフルームに対し40秒のタイムを失う。序盤の平坦路の速さにやられ、フォルクラ峠ですでに調子を落とす徴候があったという。そしてこの日がバッド・デイだったと主張するが、3位アダム・イェーツとは22秒、4位キンタナとは12秒の差に。これまでの年のように、この傾向が続けばポディウムスポットは危険にさらされる予感だ。2013年ツールでは第2休息日に総合2位にいたが、その後の難関ステージで結局は6位に脱落している。その轍を踏まなければ良いが。
前日のインタビュー時に「今日逃げずしてどうする」と話した新城幸也(ランプレ・メリダ)だが、インタビューを終えての言葉は「でも皆が行きたいはずなんですよね。逃げに乗れなかったら、30位ぐらいのグループで登ったら勘弁してもらえますかね(笑)」だった。
結果的には26分15秒遅れのグループで67位。いいグループでは帰ってきたが、目標は達成できず。残された次のチャンスでの逃げを期待することにしよう。
photo&text:Makoto.AYANO in Finhaut-Emosson, Switzerland
photo:Kei.TSUJI, TimDeWaele
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