1級山岳ペイルスルド峠の頂上が見えた瞬間、クリス・フルーム(イギリス、チームスカイ)が飛び出した。不意打ちアタックを成功させ、下りを目一杯攻めたフルームが独走勝利。得意のピレネーで早速マイヨジョーヌを獲得した。



チームスカイを先頭に超級山岳トゥールマレー峠を登るプロトンチームスカイを先頭に超級山岳トゥールマレー峠を登るプロトン photo:Kei Tsuji
ツール・ド・フランス2016第8ステージツール・ド・フランス2016第8ステージ image:A.S.O.ツール・ド・フランス2016第8ステージツール・ド・フランス2016第8ステージ image:A.S.O.


曇り空のポーの街をスタートしていく曇り空のポーの街をスタートしていく photo:Kei Tsujiピレネー2日目のツール・ド・フランス第8ステージ。ポーからルルドを経て山岳地帯に分け入ると、そこからはフィニッシュまで登りと下りしかない。後半120kmに登場するカテゴリー山岳は4つ。史上81回目の登場となる超級山岳トゥールマレー峠を皮切りに、2級山岳ウルケット・ダンシザン、1級山岳ヴァル・ルーロン峠、1級山岳ペイルスルド峠が休む間もなく登場する。

超級山岳トゥールマレー峠を先頭で登るティボー・ピノ(フランス、FDJ)ら超級山岳トゥールマレー峠を先頭で登るティボー・ピノ(フランス、FDJ)ら photo:Kei Tsuji山頂フィニッシュではないが、最終峠の1級山岳ペイルスルド峠はフィニッシュ地点バニェール・ド・リュションから15.5kmしか離れていない。獲得標高差が4,350mに達する最高気温30度の熱い1日は今大会最速のアタック合戦で始まった。

快晴の超級山岳トゥールマレー峠を登るプロトン快晴の超級山岳トゥールマレー峠を登るプロトン photo:Kei Tsujiフルームが「今日はスタートからフィニッシュまでトイレ休憩する暇さえなかった」と振り返るほどのアタックの応酬は、結局トゥールマレー峠の麓に設置された中間スプリントポイントまで延々と続いた。レース最初の1時間の平均スピードは登り基調だったにも関わらず51km/hをマークしている。

超級山岳トゥールマレー峠を登る先頭のティボー・ピノ(フランス、FDJ)ら超級山岳トゥールマレー峠を登る先頭のティボー・ピノ(フランス、FDJ)ら photo:Kei Tsujiマイヨヴェール奪回を狙うペーター・サガン(スロバキア、ティンコフ)も中間スプリントポイントに向けて動いたものの、ここはマイケル・マシューズ(オーストラリア、オリカ・バイクエクスチェンジ)が先頭通過。サガンは14番手通過で2ポイント獲得にとどまっている。

中間スプリントポイント通過時に飛び出していた先頭グループが吸収されると、続いてティボー・ピノ(フランス、FDJ)とラファル・マイカ(ポーランド、ティンコフ)がアタック。前日にライバルたちから3分のタイムを失ったピノと2014年の山岳王マイカがタッグを組み、登坂距離19km/平均勾配7.4%のトゥールマレー峠に挑んだ。

トニ・マルティン(ドイツ、エティックス・クイックステップ)が単独でブリッジを成功させて先頭は3名に。チームスカイがペースを抑えるメイン集団から2分20秒先行し、ピノを先頭に「ジャック・ゴデ記念賞」が設定された標高2,115mの頂上に到着する。このトゥールマレー峠でメイン集団は約50名に縮小。総合1位グレッグ・ファンアフェルマート(ベルギー、BMCレーシング)や総合3位ジュリアン・アラフィリップ(フランス、エティックス・クイックステップ)は集団から脱落した。

先頭3名は長いダウンヒルを経て次なる2級山岳ウルケット・ダンシザンに向かったが、チームスカイが総合争いにおいて危険な存在になり得るピノを警戒したためタイム差は縮小する。登坂距離8.2km/平均勾配4.9%のウルケット・ダンシザンを登りきった時点でタイム差は1分10秒。ピノとマイカ、マルティンの後ろにメイン集団の足音が聞こえてきた。



超級山岳トゥールマレー峠の頂上に差し掛かるラファル・マイカ(ポーランド、ティンコフ)とティボー・ピノ(フランス、FDJ)超級山岳トゥールマレー峠の頂上に差し掛かるラファル・マイカ(ポーランド、ティンコフ)とティボー・ピノ(フランス、FDJ) photo:Kei Tsuji
超級山岳トゥールマレー峠をクリアする新城幸也(ランプレ・メリダ)超級山岳トゥールマレー峠をクリアする新城幸也(ランプレ・メリダ) photo:Kei Tsuji超級山岳トゥールマレー峠のダウンヒルに差し掛かる超級山岳トゥールマレー峠のダウンヒルに差し掛かる photo:Kei Tsuji
チームスカイを先頭に1級山岳ヴァル・ルーロン峠を登るチームスカイを先頭に1級山岳ヴァル・ルーロン峠を登る photo:Kei Tsuji


1級山岳ヴァル・ルーロン峠でメイン集団に吸収されたラファル・マイカ(ポーランド、ティンコフ)1級山岳ヴァル・ルーロン峠でメイン集団に吸収されたラファル・マイカ(ポーランド、ティンコフ) photo:Kei Tsuji続く登坂距離10.7km/平均勾配6.8%の1級山岳ヴァル・ルーロン峠で逃げはリードを失い、頂上まで6kmを残してピノとマルティンが吸収。諦めずに逃げ続けたマイカの頂上先頭通過はチームスカイ勢によって阻まれている。しかしこのヴァル・ルーロン峠を3番手で通過する粘りの走りが功を奏し、マイカが山岳賞ランキングトップに躍り出た。

1級山岳ペイルスルド峠の頂上まで3kmを残してアタックするセルジオルイス・エナオモントーヤ(コロンビア、チームスカイ)1級山岳ペイルスルド峠の頂上まで3kmを残してアタックするセルジオルイス・エナオモントーヤ(コロンビア、チームスカイ) photo:Kei Tsujiヴァル・ルーロン峠の下りで落車したウィルコ・ケルデルマン(オランダ、ロットNLユンボ)はメイン集団に復帰。集団が30名強に絞られた状態でいよいよ最後の1級山岳ペイルスルド峠の登坂が始まる。アシストを揃えるチームスカイがアタックを許さないペースを刻み、ピレネーらしい開放的な登坂距離7.1km/平均勾配7.8%の登りを進んだ。

1級山岳ペイルスルド峠でアタックするナイロ・キンタナ(コロンビア、モビスター)1級山岳ペイルスルド峠でアタックするナイロ・キンタナ(コロンビア、モビスター) photo:Kei Tsujiレースが一気に加熱したのはペイルスルド峠の頂上まで3kmを残した地点。セルジオルイス・エナオモントーヤ(コロンビア、チームスカイ)のアタックを切っ掛けにセレクションが始まる。

1級山岳ペイルスルド峠の下りでアタックするクリス・フルーム(イギリス、チームスカイ)1級山岳ペイルスルド峠の下りでアタックするクリス・フルーム(イギリス、チームスカイ) photo:Kei Tsuji約10名に絞られた集団からはダニエル・マーティン(アイルランド、エティックス・クイックステップ)やロメン・バルデ(フランス、AG2Rラモンディアール)がアタックしたものの、チームスカイとモビスターによって封じ込められる。ナイロ・キンタナ(コロンビア、モビスター)のアタックも決まらない。集団後方ではワレン・バーギル(フランス、ジャイアント・アルペシン)やアルベルト・コンタドール(スペイン、ティンコフ)が脱落した。

決定的なアタックが生まれないまま、ペイルスルド峠の頂上が近づいたところで突如フルームが加速した。13名の精鋭集団から数秒先行して頂上をクリアしたフルームがそのまま独走に持ち込む。

「普段からよくチームメイトたちと下りで千切りあう練習をしていた。その成果を活かしたかった。今日は下りで差をつけるためにアウターチェーンリングを53Tではなく54Tにしていたんだ。このペイルスルド峠の下りは初めてだったけど映像で予習済みだった。少しでもスピードを上げるために工夫しながら走った」というフルームが、空気抵抗を減らすために屈んでトップチューブに座り、なおかつペダリングを続ける走りでライバルたちから25秒ものリードを奪う。

フィニッシュ地点バニェール・ド・リュションの街中に入り、平坦区間で少しリードを失ったもののフルームは独走を継続。最終的にフルームは後続を13秒引き離してフィニッシュ。今大会1勝目を飾るとともに、この日25分以上遅れたファンアフェルマートからマイヨジョーヌを奪った。



13秒リードを保ってフィニッシュするクリス・フルーム(イギリス、チームスカイ)13秒リードを保ってフィニッシュするクリス・フルーム(イギリス、チームスカイ) photo:Kei Tsuji


13秒遅れの集団はダニエル・マーティン(アイルランド、エティックス・クイックステップ)を先頭にフィニッシュ13秒遅れの集団はダニエル・マーティン(アイルランド、エティックス・クイックステップ)を先頭にフィニッシュ photo:Kei Tsujiチームメイトたちと喜びを分かち合い、感極まる表情を見せたフルームは「アタックは予定していなかったけど、チームメイトたちの献身にどうにかして応えたかったんだ。登りで何度かアタックがかかったものの決まらなかった。だから下りを利用してアタックした。リスクを負ったけど攻めすぎることはなかった。アドレナリンが分泌されているのを感じたよ。なんてレースは楽しいんだと思った」と、レース後すぐのインタビューで語っている。下りフィニッシュでの勝利は今回が初めて。

痛々しい姿でフィニッシュしたピエール・ロラン(フランス、キャノンデール・ドラパック)痛々しい姿でフィニッシュしたピエール・ロラン(フランス、キャノンデール・ドラパック) photo:Kei Tsuji「マイヨジョーヌに再び袖を通すことができて嬉しいけど、少し力を使いすぎた気もする。明日はハードなステージだ」と総合リーダーの座についたフルームは語る。総合2位アダム・イェーツ(イギリス、オリカ・バイクエクスチェンジ)と総合3位ホアキン・ロドリゲス(スペイン、カチューシャ)との総合タイム差は16秒。以下、34秒以内に13名がひしめいている状態だ。この日はバーギルとコンタドールが1分41秒、下りで落車したピエール・ロラン(フランス、キャノンデール・ドラパック)やケルデルマンが1分45秒のタイムを失っている。

グルペット最後尾でフィニッシュするベルンハルト・アイゼル(オーストリア、ディメンションデータ)とマーク・カヴェンディッシュ(イギリス、ディメンションデータ)グルペット最後尾でフィニッシュするベルンハルト・アイゼル(オーストリア、ディメンションデータ)とマーク・カヴェンディッシュ(イギリス、ディメンションデータ) photo:Kei Tsujiこの日のタイムリミットは44分38秒。前半のトゥールマレー峠で遅れ、ベルンハルト・アイゼル(オーストリア、ディメンションデータ)のアシストを受けて走ったカヴェンディッシュは39分24秒遅れのグルペットでフィニッシュし、マイヨヴェールを守った。

第8ステージまでを終えてイギリス人がステージ5勝目。しかも総合ワンツーがイギリス人。さらにマイヨジョーヌ、マイヨヴェール、マイヨブランまでイギリス人が占める結果に。序盤に集団から脱落したミカエル・モルコフ(デンマーク、カチューシャ)が今大会最初のリタイア者となっている。



エナオモントーヤと勝利を喜ぶクリス・フルーム(イギリス、チームスカイ)エナオモントーヤと勝利を喜ぶクリス・フルーム(イギリス、チームスカイ) photo:Kei Tsuji
マイヨジョーヌに袖を通したクリス・フルーム(イギリス、チームスカイ)マイヨジョーヌに袖を通したクリス・フルーム(イギリス、チームスカイ) photo:Kei Tsujiフィニッシュした新城幸也(ランプレ・メリダ)が観客にボトルをプレゼントフィニッシュした新城幸也(ランプレ・メリダ)が観客にボトルをプレゼント photo:Kei Tsuji


ツール・ド・フランス2016第8ステージ結果
1位 クリス・フルーム(イギリス、チームスカイ)             4h57’33”
2位 ダニエル・マーティン(アイルランド、エティックス・クイックステップ)   +13”
3位 ホアキン・ロドリゲス(スペイン、カチューシャ)
4位 ロメン・バルデ(フランス、AG2Rラモンディアール)
5位 ロマン・クロイツィゲル(チェコ、ティンコフ)
6位 ファビオ・アル(イタリア、アスタナ)
7位 アダム・イェーツ(イギリス、オリカ・バイクエクスチェンジ)
8位 アレハンドロ・バルベルデ(スペイン、モビスター)
9位 バウク・モレマ(オランダ、トレック・セガフレード)
10位 リッチー・ポート(オーストラリア、BMCレーシング)
11位 ナイロ・キンタナ(コロンビア、モビスター)
12位 ティージェイ・ヴァンガーデレン(アメリカ、BMCレーシング)
13位 ルイス・マインティーズ(南アフリカ、ランプレ・メリダ)
16位 ワレン・バーギル(フランス、ジャイアント・アルペシン)        +1’41”
17位 アルベルト・コンタドール(スペイン、ティンコフ)
24位 ピエール・ロラン(フランス、キャノンデール・ドラパック)       +1’45”
26位 ウィルコ・ケルデルマン(オランダ、ロットNLユンボ)
69位 ジュリアン・アラフィリップ(フランス、エティックス・クイックステップ)+25’54”
86位 グレッグ・ファンアフェルマート(ベルギー、BMCレーシング)      
140位 新城幸也(日本、ランプレ・メリダ)                  +34’43”

マイヨジョーヌ(個人総合成績)
1位 クリス・フルーム(イギリス、チームスカイ)             39h13’04”
2位 アダム・イェーツ(イギリス、オリカ・バイクエクスチェンジ)        +16”
3位 ホアキン・ロドリゲス(スペイン、カチューシャ)
4位 ダニエル・マーティン(アイルランド、エティックス・クイックステップ)   +17”
5位 アレハンドロ・バルベルデ(スペイン、モビスター)             +19”
6位 ナイロ・キンタナ(コロンビア、モビスター)                +23”
7位 ファビオ・アル(イタリア、アスタナ)
8位 ティージェイ・ヴァンガーデレン(アメリカ、BMCレーシング)
9位 ロメン・バルデ(フランス、AG2Rラモンディアール)
10位 バウク・モレマ(オランダ、トレック・セガフレード)

マイヨヴェール(ポイント賞)
1位 マーク・カヴェンディッシュ(イギリス、ディメンションデータ)      204pts
2位 マルセル・キッテル(ドイツ、エティックス・クイックステップ)      182pts
3位 ペーター・サガン(スロバキア、ティンコフ)               177pts

マイヨアポワ(山岳賞)
1位 ラファル・マイカ(ポーランド、ティンコフ)               31pts
2位 ティボー・ピノ(フランス、FDJ)                    30pts
3位 クリス・フルーム(イギリス、チームスカイ)               22pts

マイヨブラン(ヤングライダー賞)
1位 アダム・イェーツ(イギリス、オリカ・バイクエクスチェンジ)      39h13’20”
2位 ルイス・マインティーズ(南アフリカ、ランプレ・メリダ)          +18”
3位 ワレン・バーギル(フランス、ジャイアント・アルペシン)         +1’35”

チーム総合成績
1位 BMCレーシング                            117h40’16”
2位 チームスカイ                              +1’34”
3位 モビスター                               +4’54”

ステージ敢闘賞
ティボー・ピノ(フランス、FDJ)

リタイア
ミカエル・モルコフ(デンマーク、カチューシャ)

text&photo:Kei Tsuji in Bagnères-de-Luchon, France
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