ホイールにも力を入れるヴィットリアより、フルカーボン製クリンチャー/チューブレスモデルが登場。最先端のナノ素材により強度アップを図ったリムや、タイヤの保持力を高めるリム設計など、独自機構を多く採用したローハイトモデル「Qurano30C」をインプレッションした。



ヴィットリア Qurano30Cヴィットリア Qurano30C
プロ御用達のレーシングモデルを含むバラエティ豊富なタイヤ群に加え、2015年よりオリジナルホイールの展開を開始したヴィットリア。そのロード用ラインアップ中でハイエンドモデルに位置づけられるのが、フルカーボン製の「Qurano(キュラーノ)」シリーズだ。

今回インプレッションを行う「Qurano30C」は、クリンチャーとチューブレスの両方に対応するローハイトモデル。フロントが28mm、リアが30mmと前後でリムハイトを変えており、リアのリムはオフセット仕様としている。なお、Qurano30C以外にも、Quranoシリーズのクリンチャー/チューブレスモデルには、リムハイトの高い「46C」と「60C」がラインアップされる。

最先端のナノ素材グラフェンにより、強度を高めている最先端のナノ素材グラフェンにより、強度を高めている ヴィットリアタイヤに合わせて設計された左右非対称のリム断面形状「Speedlock」ヴィットリアタイヤに合わせて設計された左右非対称のリム断面形状「Speedlock」

ブレーキ面は極めて平滑な仕上がり。丸みを帯びた断面形状で空気抵抗を低減しているブレーキ面は極めて平滑な仕上がり。丸みを帯びた断面形状で空気抵抗を低減している ニップルは、整備性に優れる外出し仕様ニップルは、整備性に優れる外出し仕様


「Qurano30C」の特徴は、その高い安全性にある。かつては脆弱なイメージが強かったフルカーボンクリンチャーリムも、技術の進歩により、現在では高強度を実現することが可能となった。しかし、ヴィットリアを名乗る以上、生半可な強度では許されない。そこで「Qurano30C」のカーボンリムに取り入れられたのが「グラフェン」という最先端のナノ素材である。

この「グラフェン」は、炭素原子が六角形の蜂の巣状に結合した2次元構造の極めて薄い素材で、鋼鉄の200倍という脅威の強度を有している。ヴィットリアでは、一般的なカーボンにグラフェンを適量配合することで、スポーク穴周辺および横方向の強度、耐熱性を大きく向上させることに成功。タイヤの空気圧制限は10Barと、カーボンクリンチャーとしては異例の高耐圧性を誇る。

フランジ幅を目一杯広げたフロントハブフランジ幅を目一杯広げたフロントハブ リアハブは左右でフランジ径を変更し、テンションバランスの最適化を図ったリアハブは左右でフランジ径を変更し、テンションバランスの最適化を図った

スポークはサピムCX-RAYをベースとしたカスタム品スポークはサピムCX-RAYをベースとしたカスタム品 Switch ITテクノロジーにより、フリーボディは工具なしで簡単に外すことができるSwitch ITテクノロジーにより、フリーボディは工具なしで簡単に外すことができる


そして、「Qurano30C」はヴィットリアタイヤとのマッチングにもこだわっている。リム幅は、近年主流の23~25mm幅のタイヤにあわせて24.5mmとワイド。万が一パンクした際にもタイヤがリムから脱落しないよう、ヴィットリアタイヤのビード形状に合わせて設計された「Speedlock」という左右非対称のリム断面形状を採用している。これらの独自テクノロジーにより、「Qurano30C」はカーボンチューブラーに迫る堅実性と走行性能を手に入れているのだ。

独自設計のハブはイタリア国内で製造されるアルミ削り出し製だ。フロントは目一杯フランジ幅を広げ、リアは左右で直径が異なるハイローフランジとすることで、ホイールの組み立て剛性向上に貢献。各部のベアリングは、「EZO」で知られる国内メーカーの北日本精機製としている。

フリーボディには「Switch IT」という独自テクノロジーを取り入れており、これにより、スプロケットを取り付けたまま工具無しでフリーボディを交換できる。ニュートラルサポートの経験に基づき開発されたアイデアであるもの、コンポーネントの異なるバイクを複数台所有しているホビーユーザーにとっても大きなメリットとなるだろう。

各部のベアリングは「EZO」で知られる国内メーカーの北日本精機製各部のベアリングは「EZO」で知られる国内メーカーの北日本精機製 リムにはQRコードが貼られ、オンライン登録することで最大3年の保証が受けられるリムにはQRコードが貼られ、オンライン登録することで最大3年の保証が受けられる

ニップル回しなどがセットになったホイール用携帯工具などが付属するニップル回しなどがセットになったホイール用携帯工具などが付属する 保管や持ち運びに便利なヴィットリアロゴ入りホイールバッグ保管や持ち運びに便利なヴィットリアロゴ入りホイールバッグ


ストレートプル仕様のエアロスポークは、サピムCX-RAYをQurano用にカスタムした専用品。フロントは16本のラジアル組、リアは21本の2:1組としている。ニップルはメンテナンス性に優れる外出し仕様。リムテープ込みの実測重量はフロントが649g、リアが841g、前後セットで1,490gだ。

付属品はQRレバー、ホイールバッグ、ブレーキシュー、バルブエクステンダー、ホイールメンテナンス用携帯工具。リムに貼られたQRコードを用いてオンライン登録をすることで最大3年間の保証を受けることができる。また専門工具が修理は国内にヴィットリアホイール専門のサービスセンターに任せることができるなど、サポート体制は万全となっている。

ヴィットリア初となるフルカーボン製クリンチャー/チューブレスホイール「Qurano30C」の実力はいかに。早速インプレッションに移ろう。なお、今回のテストではタイヤにヴィットリア新型CORSA(23C)を組み合わせた。



ー インプレッション

タイヤにはCORSAクリンチャーの23Cを組み合わせテストを行ったタイヤにはCORSAクリンチャーの23Cを組み合わせテストを行った
「自社タイヤとのマッチングが強み 安定感と数値以上の軽快な走りを持ったホイール」
錦織大祐(フォーチュンバイク)


全体的にカチッとしていて、挙動が掴みやすいというのが、インプレッションを終えてみての印象です。これ以上に軽量だと、ホイールの挙動にクセが出てしまうことがりますが、Qurano30Cの場合にはビタっとしていて、とにかく安心。数値的には軽量ではなく、クライミングホイールにありがちなヒラヒラ感もないのですが、入力に対してすっとスピードが伸びてくれるため、数値以上の軽快感を覚えました。スポーク数が少ないなど、特異な点が見当たらないだけに不思議ですね。

「自社タイヤとのマッチングが強み 安定感と数値以上の軽快な走りを持ったホイール」錦織大祐(フォーチュンバイク)「自社タイヤとのマッチングが強み 安定感と数値以上の軽快な走りを持ったホイール」錦織大祐(フォーチュンバイク) ブレーキングの挙動を含め、不安を感じる点がなく、レーシングホイールを買ってみたいという初~中級者には非常に良い着地点となるでしょう。シチュエーションが変わろうとも安心感は変わらないため、より沢山走れて、走ったことの無いフィールドにも足を伸ばそうと言う気にさせてくれます。購入したライダーをステップアップさせてくれるような味付けは、高く評価できますし、恐らくヴィットリアも狙っているのでしょう。

全体の造りを見るに耐久性も充分に確保されてそうですね。リアハブのラチェット音が大きいのが気にはなり、ラチェットの切り返しで爪がずれないかどうか意図的に試してみたものの、これと言った不安な感じもなく、素早く掛かってくれます。ペダリングに対する得手不得手はなく、踏み込んでも回しても軽快でした。ヒルクライムやロングライドをはじめ、様々な用途に対応する懐の深さがありますね。リムハイトは低いものの、著しく空気抵抗を受けているという感触はありません。

他ブランドのカーボンクリンチャーと比較しての大きな特長は、やはりヴィットリアのタイヤにあわせて設計されていること。今回は新型CORSAの23Cを7Barでセットしましたが、このコンビネーションは路面状況やトラクションの掛かり具合がとても掴みやすかったですね。

わざとこじってもタイヤもリムもヨレないですし、タイヤのコンパウンドは喰いつくけど他の動きが追従してこないということもありませんでした。今回は試せなかったのですが、恐らく比較的低圧な状態でグイグイとトラクションを掛けても、タイヤもリムもヨレることはないはず。走っている限りでは、どこか特定の箇所に強い剛性を感じると言うことはなかったのですが、タイヤ+リムの安心感は大きかったですね。

「新型CORSAとのコンビネーションは、路面状況やトラクションの掛かり具合がとても掴みやすい」「新型CORSAとのコンビネーションは、路面状況やトラクションの掛かり具合がとても掴みやすい」 そして、リム側の空気圧制限がCORSAと同じく最大10Barとなっている点も、競合製品に対しての大きな特長ですね。カーボンクリンチャーにCORSAを装着しても、リムの空気圧制限が低いために、タイヤにとってのベストな空気圧にセットできない場合がありますし、空気圧制限を知らないで上限値以上の圧を使用してリムを破壊してしまうケースを多く見てきました。

しかし、Qurano30Cであればリムの空気圧制限をほぼ気にすることなく、最適なセッティングを見つけ出すことができます。走りにも感じられましたが、ホイールを運用するという面でもQurano30Cは非常に安心感が高いといえるでしょう。競合製品と比較しても安心感という面においては、一歩飛び抜けた存在と言えます。

先ほども述べましたが、Qurano30Cがオススメなのはレーシングホイールを買ってみたいという初~中級者ですね。剛性、空力、軽さなど完成車の標準ホイールにありがちな不満をすべて解消してくれることでしょう。また、女性サイクリストに特に多いのですが「軽くて速いホイールが欲しいけど、ディープリムは横風に煽られそうで不安」という方にもピッタリ。このホイールが嫌いという方は、よっぽど好きなホイールが別にあるか、想像もつかないような理由があるのでは?と考えてしまうくらいに、良いホイールでした。

「オールマイティーに使えるカーボンクリンチャー 数値だけでは分からない良さがある」
吉田幸司(ワタキ商工株式会社 ニコー製作所)


メーカー側の説明通りにリム自体には剛性があり、踏んだら淀みなく転がってくれます。価格的にも性能的にも競合する製品が多いホイールですが、その中でも充分に戦闘力がありますね。ハイトが低いということでヒルクライムにはうってつけですが、強度的な不足はなさそうですし、決戦用としてだけではなく日常使いにもよいでしょう。クリンチャーですから扱いやすいという点でも、普段履きに向くでしょう。

「オールマイティーに使えるカーボンクリンチャー 数値だけでは分からない良さがある」吉田幸司(ワタキ商工株式会社 ニコー製作所)「オールマイティーに使えるカーボンクリンチャー 数値だけでは分からない良さがある」吉田幸司(ワタキ商工株式会社 ニコー製作所) リムに加えて、フリーボディなどにもしっかりとした剛性があり、スポークの組み方のバランスも良好。重量の割に加速性能も高く、リアはガシっとパワーを受けて止め、フロントは軽快に追従してくれるため、スプリントも良く伸びます。35km/h以上での巡航になると、もう少しリムハイトが欲しいなと感じることはありますが、オールラウンドに使うことができ、1本で何でもこなしたいという方にはピッタリですね。

またリムと同じくグラフェンが添加されたCORSAタイヤとの組み合わせでは、とても良く転がってくれます。ホイールとタイヤの挙動に一体感があることから、コーナリングでは素早く抜けられるラインをトレースできました。ブレーキング性能も非常に優れており、数多あるカーボンホイールの中でも上位に来るレベルといえるでしょう。ハブ自体の回転も軽いように感じました。

リムが硬いだけ、縦の突き上げが強いのは確かです。ただ、疲労への影響は小さく、走行性能によって得られるメリットの方が大きいですね。また、ホイール全体の組み立て剛性が高すぎて、無駄に脚が削られるという様なことはないはず。恐らくどんなフレームとも相性は良いと思います。あらゆる組み合わせでバイクの持つ性能を引き出してくれるでしょう。

まとめると、重量的には100g以上軽い競合製品もありますが、Qurano30Cはカーボンクリンチャーとしては非常に高い安心感を持っています。アルミホイールにも同等重量の製品がありますが、数値的なスペックや価格だけにとらわれず、是非機会があれば自分のバイクに装着して試乗していただきたいです。

セッティングについては、今回のインプレで使用した23Cタイヤでも良いのですが、せっかくワイドリムを採用してますので、25C程度の太いタイヤも履かせてみたいですね。

チューブレス対応ということで、ヴィットリアから登場予定のCORSA SPEED(チューブレスレディ)との組み合わせも非常に気になるところ。扱いづらいというイメージから、チューブレスを敬遠されている方は少なくありませんが、転がりの他にも高速コーナーでの食いつきや、パンク時の空気抜けが緩やかで安全であることなど、多くのメリットがあります。Qurano30Cを買った方は、是非チューブレスで使用してもらいたいところ。その他、ブレーキシューの位置が決められてますから、他ホイールからの交換の際には気をつけたいですね。

ヴィットリア初のクリンチャーホイール「Qurano30C」ヴィットリア初のクリンチャーホイール「Qurano30C」
ヴィットリア Qurano30C
リム形式:クリンチャー
リム素材:G+Carbon
リム高さ:フロント28mm、リア30mm
リム外幅:24.5mm
ハ ブ:アルミ合金製(フロント104g、リア260g)
ベアリング:フロント2個/リア4個(国産)
対応スプロケット:シマノ11s/スラム、カンパニョーロ
実測重量:フロント649g、リア841g、前後セット1,490g
付属品:QRレバー、ホイールバッグ、ブレーキシュー、バルブエクステンダー、携帯工具
価 格:230,000円(税抜)



インプレライダーのプロフィール

錦織大祐(フォーチュンバイク)錦織大祐(フォーチュンバイク) 錦織大祐(フォーチュンバイク)

幼少のころより自転車屋を志し、都内の大型プロショップで店長として経験を積んだ後、2010年に東京錦糸町にフォーチュンバイクをオープンさせた新進気鋭の若手店主。台湾をはじめとした世界各国の自転車メーカーと繋がりを持ち、実際の製造現場で得た見聞をユーザーに伝えることを信条としている。シマノ鈴鹿ロードに18年連続で出場する一方、普段はロングライドやスローペースでのサイクリングを楽しむ。

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吉田幸司(ワタキ商工株式会社 ニコー製作所)吉田幸司(ワタキ商工株式会社 ニコー製作所) 吉田幸司(ワタキ商工株式会社 ニコー製作所)

名古屋に店舗を構えるワタキ商工株式会社 ニコー製作所の4代目店長を務める。一般企業に勤めてから入社した経験を活かし常に"外側からの視点"に注意を払い、初心者さんが気軽に入店しやすい雰囲気づくりを心がけている。週末にはロードやシクロクロス、トライアスロンなど多岐にわたってイベントを開催し、お客さん同士が仲良くなれるような場を提供している。ショップでは「当たり前のことを当たり前にやる」ことをモットーに作業を行い、お客さんが乗りやすいバイクを提供している。

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ウェア協力:アソス
アイウェア協力:カブト

photo:Makoto.AYANO
text&photo:Yuya.Yamamoto