プロ通算525勝を誇る史上最強のロードレーサーが自らの名を冠したバイクブランドがエディ・メルクスである。そのラインアップの中から、独特なフォルムを持つセカンドグレードのロードレーシングモデル「Sanremo76」をインプレッションした。



エディ・メルクス Sanremo76エディ・メルクス Sanremo76 photo:Makoto.AYANO
16年に渡る現役生活の中で制したレースの数は525。100年以上に渡る自転車競技史において空前絶後の勝利数を誇るのが、ベルギー人のエディ・メルクス氏である。偉大なチャンピオンと讃えられる選手は他にも多くいるが、こと勝利数という点では、メルクス氏の右に出るものはおらず、その圧倒的な強さからつけられたニックネームは「カニバル(人喰い鬼)」。現役を退いて40年が経とうとする現在においてもロードレース界に多大な影響力を持っている。

メルクス氏が525勝を成し得た背景には、様々な要因が挙げられる。その中の1つが、機材への異様なまでのこだわりだ。デローザの創業者である名匠ウーゴ氏に年間50本ものフレームをオーダーし、カンパニョーロには特注チタン製パーツを造らせるなど、機材に関する逸話は数知れず。そして、現役引退後にウーゴ氏の手ほどきを受け立ち上げたのが、エディ・メルクス社である。

約30年前に創業して以来、メルクス氏の経験を取り入れたレーシングバイクを造り続け、クイックステップやトップスポート・フラーンデレンといったトップチームが同社のバイクを使用。ここ数年は目立った新モデルの発表がなく、勢いの無かったエディ・メルクス社だったが、2年ほど前よりベルギービールのPALM社が経営に参画したことにより復調。ラインアップを拡充した。

三角形断面のダウンチューブには、メルクスのロゴが記される三角形断面のダウンチューブには、メルクスのロゴが記される テーパードデザインのヘッドチューブは、コントローラブルかつ安定したハンドリングに貢献テーパードデザインのヘッドチューブは、コントローラブルかつ安定したハンドリングに貢献 三角形断面のベンドフォーク三角形断面のベンドフォーク


エディ・メルクスの現行モデルは、メルクス氏のキャリアの中でもターニングポイントとなったレースの開催地と年号をその車名に冠している(EMX-525は除く)。今回インプレッションする「Sanremo76」は、メルクス氏が積み重ねてきた勝利の中で最後のビッグレースである1976年のミラノ~サンレモに由来する。

現行ラインアップにおける「Sanremo76」の位置づけは、セカンドグレードのレーシングモデル。角の立った多角形断面のチューブ形状などを、プロユースのハイエンドモデルEMX-525から踏襲しつつも、やや剛性を落とすことでホビーレーサー向けに仕上げている。

素材となるカーボンは、トン数などの詳細が明かされていないものの、高品質なものが使用されているという。フレームとフォークは共にモノコック構造をとり、EPS(発泡ポリスチレン)法で成型される。このEPS法とは、バルーンよりも高い圧力を掛け成型できる工法のことで、強度低下の原因となるフレーム内面のシワの発生を抑えている。フレーム単体で1,000g、フォーク単体で380gと超軽量なバイクとは言えないが、その代わりに、べルギーの激しいレース環境に耐える堅実性を手に入れている。

快適性を担うベントしたトップチューブ快適性を担うベントしたトップチューブ インテグレーテッドデザインのヘッド周りインテグレーテッドデザインのヘッド周り

左右非対称設計のチェーンステー左右非対称設計のチェーンステー 目一杯拡幅されたBBシェルはBB86規格を採用する目一杯拡幅されたBBシェルはBB86規格を採用する


ペダリング剛性を担うのはフレームのボトムライン。三角形断面のダウンチューブや、目一杯に拡幅されたBB86規格のBBシェル、そこから伸びる三角形断面のアシンメトリックチェーンステーにより、優れた駆動効率を実現した。

一方で、振動吸収性やトラクション性能を担うのはフレーム各部の独特の造形だ。縦方向への柔軟性と横剛性のバランスをとるために、三角形断面のトップチューブを中央付近で屈折させ、シートステーはブレーキ取付部付近だけを薄くしている。また、BB側半分を小径化したシートチューブや、大きく横方向に扁平したチェーンステーのリアエンド側も、ライドクオリティの向上に貢献している。

ハンドル及びステムは高剛性なデダ・エレメンティM35ハンドル及びステムは高剛性なデダ・エレメンティM35 車名は、メルクス氏最後のビッグレースでの勝利である1976年のミラノ~サンレモに由来する車名は、メルクス氏最後のビッグレースでの勝利である1976年のミラノ~サンレモに由来する


フレーム各部の独特の造形と合わせて注目したいのが、一見してどこにあるのか分からないインテグレーテッドシートクランプだ。トップチューブ裏に隠すように設置されており、空気抵抗の低減と美観性の向上に寄与。締付け機構には臼を用いており、固定力は充分に確保されている。組み合わせるカーボンシートポストは台形断面の専用品。セットバックは20mmと大きく取られている。

ヘッドチューブは、下側ベアリング径が1.5インチのテーパード設計とし、剛性を高めるべく後方にリブを設けたような形状とすることでステアリング剛性を高めている。ベルギーのパヴェから、山岳コースの急峻な下りまで、あらゆる地形でコントローラブルかつ安定感高いハンドリングを実現した。フロントフォークは、ヘッドチューブとのインテグレーテッドデザインにより空気抵抗を低減。ブレードは三角形断面とし、緩やかにベンドさせている。

シートクランプはトップチューブの裏側に隠されているシートクランプはトップチューブの裏側に隠されている ブレーキ取付部のみを薄くすることで、剛性バランスを調整しているブレーキ取付部のみを薄くすることで、剛性バランスを調整している ワイドリム採用のフルクラム RACING QUATTROがアッセンブルされるワイドリム採用のフルクラム RACING QUATTROがアッセンブルされる


ジオメトリーは、レーシーなポジションにセッティングできるよう、トップチューブに対してヘッドチューブがやや短めとなっている。サイズはXS、S、M、L、XLの5種類展開で、乗り味が変化しないようにサイズごとに形状やカーボンレイアップを細かく変えているという。タイヤクリアランスは25cまでに対応。工場出荷前には全てのフレームがCT検査に掛けられており、走行性能のみならず品質にも妥協がない。

販売パッケージは、シマノ105完成車、ULTEGRA完成車、フレームセットの3種類を用意。2種類の完成車は「パーツにも妥協を許さない」という方針から、コンポーネントはフルシマノで揃えられている。そして、ホイールのフルクラムRacing Quattroを筆頭に、ハンドル及びステムは高い剛性を誇るデダ・エレメンティTrentacinque、サドルはプロも多く使用するプロロゴ Scratch 2と、充実のパーツアッセンブルだ。今回のインプレッションでは、105完成車を使用した。早速インプレッションに移ろう。



ー インプレッション

「荒地での走りを重視したバイク 振動の収束が早く、そして適切な剛性も有る」
錦織大祐(フォーチュンバイク)


ベルギーの石畳でいかに進むかを考えて設計されたバイク、というのが試乗を終えての印象ですね。トラクションをかけ続けるためにも、荒れた路面ではシッティングで走らざるをえないことが多くありますが、そういった場面でSanremo76が持つ「適切な剛性感」と「振動の収束の速さ」が活きてきます。

「荒地での走りを重視したバイク 振動の収束が早く、そして適切な剛性も有る」錦織大祐(フォーチュンバイク)「荒地での走りを重視したバイク 振動の収束が早く、そして適切な剛性も有る」錦織大祐(フォーチュンバイク)
絶対的な剛性は高め。そして、路面からの衝撃や振動を一旦は拾うものの、それらを収束させるまでに掛かる時間が極めて短いのです。この外乱が収束するスピードの高さは、フロントとリアのどちらにも感じることができました。間違いなくイイといえる乗り味なのですが、一言では表現できない不思議さがあります。

というのも、自転車の設計では剛性と振動吸収性は相反する性能としてバランスをとるもので、どちらかを高めれば、他方が犠牲になるというのが一般的です。一方、Sanremo76の場合には、独立した性能として「剛性」と「振動吸収性」をそれぞれ突き詰めているように感じとれました。踏めばロス無く進むのに、路面からの衝撃でバイクが乱れることがないのです。

[img_assist|nid=200880|title=他に類を見ない複雑な造形を見せるシートチューブ|desc=|link=node|align=right|width=300|height=]不思議だけど確実に良いといえる乗り味は、カーボンの設計自由度を最大限に利用した複雑なフレーム設計によるものなのでしょう。細部を見てみると、様々なバイクメーカーの設計を参考にして、全部入りにした様な設計になっていますね。

正直なところ、試乗してみるまでどんなバイクなのか検討がつきませんでした。「ヘッド周りは剛性を稼ぐためにボリュームを持たせているけど、トップチューブは縦の変形を促すためにリアへ向けてベンドさせて、リアへ向けて小径化している」「BBシェルを幅広にして剛性を上げたかと思えば、シートチューブは細く、横方向の動きを強く抑えているという感じはなさそう」などなど……。

実際に乗ってみても、どの造形がどう作用しているのかが、はっきりと分からなかったのですが、全体的な乗り味は全く破綻していません。また、カーボン素材の配合やレイアップの役割も大きいと考えられます。

先ほども述べた通りに剛性は高く、踏み込んだ瞬間に縦方向への硬さを感じるものの踏み切れないほどではなく、いたずらに脚が削られる感じはありません。登りでも入力しやすく、シッティングでくるくる回していてもスポイルしているという印象がありません。

平地での性能は、レーシングフレームとしても充分なレベルにあります。特別掛かりが良いわけではないものの、40km/hぐらいまで加速してからのスピード維持は得意とするところ。コーナリングは、僅かにアンダー気味で、オンザレールよりも1段外側の走行ラインをなぞるイメージです。フォーク自体はクセがなく、フレームとの剛性バランスも良好でした。

敢えて粗を探すとすれば、トップチューブ後方のケーブル出口の配置に無理が有るかなという程度で、完成度はとても高いといえるでしょう。個人的にはフレーム単体で50万円でも驚くことはないですし、105仕様で30万円近辺の自転車とはとても思えません。シマノ105をフルセットで採用し、デダ・エレメンティのM35ハンドルやフルクラムのRACING QUATTROホイールを装備するなど、パーツアッセンブルを考えるとさらにお買い得といえます。

様々な用途に向きますから、普段はロングライドだったりグループライドがメインだけど、たまにはサーキットレースやヒルクライムにも出場したりという方にオススメですね。

「高速域での安定感が魅力的なバイク ヘッド周りの高剛性が安心に繋がっている」
吉田幸司(ワタキ商工株式会社 ニコー製作所)


高速域で発揮される安定感が魅力のバイクですね。時速35km/hぐらいまで上げることで安定感がグッと増します。ベルギーのパヴェを想定して開発しているのか、国内の荒れた路面ぐらいではビクともしません。テストコースの中にも荒れた路面の下りがあったのですが、「もっと攻められる」とバイクが言っているような気がするほど安定していました。「踏み始めから速い」という様な分かりやすさはないですが、素直に良いバイクといえますね。

「高速域での安定感が魅力的なバイク ヘッド周りの高剛性が安心に繋がっている」吉田幸司(ワタキ商工株式会社 ニコー製作所)「高速域での安定感が魅力的なバイク ヘッド周りの高剛性が安心に繋がっている」吉田幸司(ワタキ商工株式会社 ニコー製作所) 全体的に剛性は高めで、その中でも特にヘッドチューブ周りの硬さが際立っており、これがコーナリング時の高い安定感に繋がっていると考えられます。いきなりパーツアッセンブルの話になってしまいますが、クランプ径が35mmと通常よりも太いハンドル&ステムを使っていることからも推察できるように、操作系の安定性を第一に考えているのでしょうし、その通りのライドフィールに仕上がっています。ただ、私の様な軽量級ライダーの中には硬すぎると感じる方がいるかもしれません。

ヘッド周りと比較すると、BB周りの剛性はほどほど。平地で飛ばしても、脚にお釣りがくるようなことはありません。ひとたび加速すれば、ホイールの特性と相まって気持ちよく巡航することができ、高速域からの加速はスムーズに伸びてくれます。巡航時は、意図的に回したり踏み込んだりする必要はなく、90rpm程度のケイデンスでペダリングしてあげると良いでしょう。

軽量なクライミングバイクの走りとは異なる雰囲気ですが、ヒルクライムもスムーズに走ってくれます。BB周りに的確な剛性があり、パワフルで体重があるライダーが乗っても、フレームが負けることはまず無いはず。

そして、全体の剛性が高く、シートポストに至っては他に類を見ないほど太いものの、快適性は充分に確保されています。シートステー上部を始めとした独特の設計に、素材と積層を加えた3つのファクターがうまく噛み合っていることが、この絶妙なバランスに繋がっているのでしょう。

このバイクがオススメなのは、がっちりとした体格のハイパワー系のライダーですね。また、他人とは違う特徴を持ったバイクが欲しい方にも良いでしょう。105仕様のカーボンバイクで30万円オーバーはやや割高ですが、パーツアッセンブルが充実しており、フレームとの相性も良好。吊るしのままで乗り続けられるという点は評価できるポイントですね。

エディ・メルクス Sanremo76エディ・メルクス Sanremo76 photo:Makoto.AYANO
エディ・メルクス Sanremo76 シマノ105完成車
フレーム:カーボンモノコック(1,000g)
フォーク:カーボンモノコック(380g)
コンポーネント:シマノ 105(F52x36、R11-28)
ハンドル/ステム:デダ・エレメンティ M35
サドル:プロロゴ Scratch 2
ホイール:フルクラム RACING QUATTRO
タイヤ:ヴィットリア RUBINO PRO 700x25C
サイズ:XS、S、M、L、XL
カラー:SILVER RED BLACK
価 格:318,000(税別)
※ULTEGRA完成車(税別368,000円)とフレームセット(278,000円)は受注発注品



インプレライダーのプロフィール

錦織大祐(フォーチュンバイク)錦織大祐(フォーチュンバイク) 錦織大祐(フォーチュンバイク)

幼少のころより自転車屋を志し、都内の大型プロショップで店長として経験を積んだ後、2010年に東京錦糸町にフォーチュンバイクをオープンさせた新進気鋭の若手店主。台湾をはじめとした世界各国の自転車メーカーと繋がりを持ち、実際の製造現場で得た見聞をユーザーに伝えることを信条としている。シマノ鈴鹿ロードに18年連続で出場する一方、普段はロングライドやスローペースでのサイクリングを楽しむ。

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フォーチュンバイクHP

吉田幸司(ワタキ商工株式会社 ニコー製作所)吉田幸司(ワタキ商工株式会社 ニコー製作所) 吉田幸司(ワタキ商工株式会社 ニコー製作所)

名古屋に店舗を構えるワタキ商工株式会社 ニコー製作所の4代目店長を務める。一般企業に勤めてから入社した経験を活かし常に"外側からの視点"に注意を払い、初心者さんが気軽に入店しやすい雰囲気づくりを心がけている。週末にはロードやシクロクロス、トライアスロンなど多岐にわたってイベントを開催し、お客さん同士が仲良くなれるような場を提供している。ショップでは「当たり前のことを当たり前にやる」ことをモットーに作業を行い、お客さんが乗りやすいバイクを提供している。

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ウェア協力:アソス
アイウェア協力:カブト

photo:Makoto.AYANO
text:Yuya.Yamamoto
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の画像 Eddy Merckx: The Cannibal
メーカー: Ebury Digital
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