大歓声の波とともにヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、アスタナ)が3級山岳サンタンナ・ディ・ヴィナディオを駆け上がった。ニーバリの2度目のジロ制覇と山本元喜(NIPPOヴィーニファンティーニ)の完走が確実なものになったジロ第20ステージの現地レポート。



地面に座ってスタートを待つアレハンドロ・バルベルデ(スペイン、モビスター)地面に座ってスタートを待つアレハンドロ・バルベルデ(スペイン、モビスター) photo:Kei Tsuji
肋骨にヒビを負ったステフェン・クルイスウィク(オランダ、ロットNLユンボ)がウォーミングアップ肋骨にヒビを負ったステフェン・クルイスウィク(オランダ、ロットNLユンボ)がウォーミングアップ photo:Kei Tsuji
エステバン・チャベス(コロンビア、オリカ・グリーンエッジ)の両親が登場エステバン・チャベス(コロンビア、オリカ・グリーンエッジ)の両親が登場 photo:Kei Tsuji


前日の現地レポートで「ルーポ・ウルフィーはフランスで販売されない」と書いたが、販売禁止なのはマスコットだけではなく関連グッズすべてだった。いつも「たった5ユーロで公式グッズが手に入る!」という甲高いイタリア語のアナウンスを大音量で流すオフィシャルの販売車はフランスに入国せず。そのおかげでスタート地点ギレストルはいつもよりグッと静かな朝を迎えた。

イタリア国内で警備にあたるカラビニエーリ(国家憲兵)やポリツィア(警察)は比較的ジロに優しいイメージだが、フランスのジャンダルマリー(国家憲兵)はとにかく厳しい。前日の第19ステージでは「上からの指示」の一点張りで1級山岳リスルの麓のロータリーを封鎖し、一部のチーム関係者やオーガナイザー、プレスがフィニッシュにたどり着けないという異例の事態も発生している。

標高2715mの1級山岳ボネット峠を越える第20ステージのフィニッシュ地点はフランス国境に近い細い山道を走った先にある教会サンタンナ・ディ・ヴィナディオ。ジロ初登場のこの聖地で2016年のマリアローザが事実上決まる。頂上付近の駐車スペースが限られているという理由で、一部の関係車両を除いて車両の進入は禁止された。チームバスは18km下った麓の街に駐車しており、フィニッシュ後の選手たちは自走で下山する。

もちろん一般の観客の車両も当日は進入禁止で、険しい山道を徒歩か自転車で登らなければならない。フォトグラファーやジャーナリストといったプレスは麓に駐車し、用意されたシャトルバスでフィニッシュに向かうのだが、圧倒的にシャトルバスのキャパシティーが足りていないというジロにありがちなシチュエーション。そこに長時間シャトルバスを待ち続けている招待客も加わって、主催者との間で怒号が飛んだ。関係者全員が無事に時間通りフィニッシュにたどり着いたのかどうかは定かではない。そして下山にものすごく時間がかかったことは言うまでもない。



標高2715mの1級山岳ボネット峠の頂上に近づくメイン集団標高2715mの1級山岳ボネット峠の頂上に近づくメイン集団 photo:Kei Tsuji
1級山岳ロンバルダ峠の下りに突入するヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、アスタナ)1級山岳ロンバルダ峠の下りに突入するヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、アスタナ) photo:Kei Tsuji
大歓声を受けてフィニッシュを目指すヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、アスタナ)大歓声を受けてフィニッシュを目指すヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、アスタナ) photo:Kei Tsuji


2日前の第18ステージの時点でマリアローザから4分43秒遅れていたニーバリがついにマリアローザを着た。イタリアメディアによる批判の矛先に立っていたシチリア生まれのチャンピオンが、低迷からの復活、そして最後のチャンスを生かして逆転という漫画のようなシナリオを果たして見せた。

沿道に駆けつけたイタリア人たちの熱狂ぶりは凄まじく、残り10km地点の1級山岳ロンバルダ峠でニーバリがエステバン・チャベス(コロンビア、オリカ・グリーンエッジ)を置き去りにしたとの情報に歓喜し、タイム差が44秒を超えたところで我を失い、その後しばらくしてやってきたイタリアチャンピオンに最大限のボリュームで声援を送った。麓から頂上まで、ニーバリの登坂スピードに合わせて歓声の波が押し寄せてきた。キリスト教の聖地がそこまで大きな声援に包まれたことはきっと今だかつてない。

アスタナのジュゼッペ・マルティネッリ監督は「アルプスでは何かを動きを発明しなければならない」と2日前のインタビューで語っていた。その言葉通りのニーバリの逆転劇。フィニッシュに駆けつけたアレクサンドル・ヴィノクロフGMも終始ご機嫌だった。今シーズン限りでの移籍が噂されているニーバリにヴィノクロフGMは残留を説得したい考えだ。

開幕からドゥムラン、キッテル、ブランビッラ、ユンヘルス、アマドール、クルイスウィク、チャベスが着まわし、最終的にニーバリが手にしたマリアローザ。最終週に入って、しかも最後の4ステージで3人がマリアローザを着るのは1913年以来史上2回目の出来事。1大会で8人がマリアローザを着るのは1981年以来史上2回目だ。また、最終日前日にマリアローザを獲得し、最終日だけマリアローザを着て走るのは2000年のステファノ・ガルゼッリ以来となる。

下山の大渋滞を避けるために、レース後の表彰式、ドーピング検査、記者会見、番組出演を慌ただしくこなしたニーバリはヘリで宿泊先のホテルまで移動している。


ニーバリの表彰を笑顔で見守るアレクサンドル・ヴィノクロフGMニーバリの表彰を笑顔で見守るアレクサンドル・ヴィノクロフGM photo:Kei Tsuji
観客の声援に応えながらフィニッシュを目指すディエゴ・ウリッシ(イタリア、ランプレ・メリダ)観客の声援に応えながらフィニッシュを目指すディエゴ・ウリッシ(イタリア、ランプレ・メリダ) photo:Kei Tsuji
観客から奪ったピンクのアフロを被って走るアダム・ハンセン(オーストラリア、ロット・ソウダル)観客から奪ったピンクのアフロを被って走るアダム・ハンセン(オーストラリア、ロット・ソウダル) photo:Kei Tsuji
最終山岳ステージを走り終えた山本元喜(NIPPOヴィーニファンティーニ)最終山岳ステージを走り終えた山本元喜(NIPPOヴィーニファンティーニ) photo:Kei Tsuji


山本元喜(NIPPOヴィーニファンティーニ)は45分遅れのグルペットでフィニッシュした。「ほっとした」というのが最初の言葉。「タイムアウトだけ気にしながら走っていました。細くてガードレールのない下りが怖かった」。そう言って(実際にはもっと長いコメントを取ったが「完走後」の内容だったので明日掲載します)山本は大会最後の山頂フィニッシュを後にした。ジロ完走まで残り1ステージだ。

4度目のグランツール総合優勝をほぼ確実なものにしたニーバリはマリアローザを着てトリノに凱旋する。ジロ最終日はあいにくの雨模様。雷を伴う強い雨が降る予報も出ており、濡れたトリノの周回コースでフィナーレを迎えることになりそうだ。

text&photo:Kei Tsuji in Vinadio, Italy