ヨークシャー名物の急坂が連続して登場するツール・ド・ヨークシャー最終日は精鋭たちによるアタック合戦に。チームスカイ勢の攻撃を抑え込んだトマ・ヴォクレール(フランス、ディレクトエネルジー)がステージ優勝を飾るとともに総合優勝に輝いた。



歓声に包まれた街中をメイン集団が進む歓声に包まれた街中をメイン集団が進む photo:Kei Tsuji
最終ステージは雨降るミドルズブラをスタート最終ステージは雨降るミドルズブラをスタート photo:Kei Tsujiポイント賞ジャージで最終日を走るダニー・ファンポッペル(オランダ、チームスカイ)ポイント賞ジャージで最終日を走るダニー・ファンポッペル(オランダ、チームスカイ) photo:Kei Tsuji


ツール・ド・ヨークシャー2016第3ステージツール・ド・ヨークシャー2016第3ステージ image:A.S.O.ツール・ド・ヨークシャーを締めくくる第3ステージはミドルズブラをスタート。北海に面し、民謡「スカボロー・フェア」の舞台であるスカボロー(現地の発音はスカーブラに近い)に向かう198kmは今大会最難関の山岳コースだ。

レース序盤に先行するマルコ・ハラー(オーストリア、カチューシャ)らレース序盤に先行するマルコ・ハラー(オーストリア、カチューシャ)ら photo:Kei Tsujiクリーブランドヒルズと呼ばれる標高400m前後のダイナミックな丘陵地帯を進むコースにはカテゴリー山岳が6つ設定されている。順に1級、2級、1級、1級、2級、2級が続き、加えて勾配が平気で20%を超えるような名もない急坂が連発。もちろん登ったら同じだけ急勾配の下りが登場する。

鈴なりの観客に見守られてレースは進む鈴なりの観客に見守られてレースは進む photo:Kei Tsuji日曜日だけに通過する街や山岳は大勢の観客に埋め尽くされ、その他の区間は吹きっさらしの強風。どんよりと立ち込める灰色の雲からは雨粒も落ち、気温が常に10度以下という過酷な最終ステージは10名の逃げで幕開けた。

ネイサン・ハース(オーストラリア、ディメンションデータ)やマルコ・ハラー(オーストリア、カチューシャ)を含む逃げは最大2分のリード。前半の山岳ポイントを荒稼ぎしたハースが山岳賞トップに躍り出たが、レース中盤にかけてチームスカイ率いるメイン集団が容赦なくタイム差を削り取る。この日3つ目のカテゴリー山岳、1級山岳グロスモントを前に逃げは吸収された。

交通標識によると最大勾配33%(実際は20%程度)の1級山岳グロスモントでチームスカイがペースを上げるとメイン集団は一気に縮小。さらにその直後の横風区間でエシュロンが形成され、メイン集団は9名(チームスカイ5名)にまで絞られた。



1級山岳グロスモント通過後の横風区間でチームスカイがペースアップ1級山岳グロスモント通過後の横風区間でチームスカイがペースアップ photo:Kei Tsuji
最大勾配33%をうたう1級山岳グロスモント(実際は20%ほど)最大勾配33%をうたう1級山岳グロスモント(実際は20%ほど) photo:Kei Tsujiチームスカイの横風攻撃によってエシュロンが形成されるチームスカイの横風攻撃によってエシュロンが形成される photo:Kei Tsuji
ルーク・ロウ(イギリス、チームスカイ)率いる20名ほどのメイン集団ルーク・ロウ(イギリス、チームスカイ)率いる20名ほどのメイン集団 photo:Kei Tsuji


先頭集団内で走るトマ・ヴォクレール(フランス、ディレクトエネルジー)先頭集団内で走るトマ・ヴォクレール(フランス、ディレクトエネルジー) photo:Kei Tsujiその後、ヴォクレールを含む17名が先頭に追いつき、休む間も無く次の1級山岳ロビンフッドベイでセルジュ・パウエルス(ベルギー、ディメンションデータ)がアタックしたが決まらない。フィニッシュまでの最後の1時間に差し掛かり、残り28km地点の2級山岳ハレウッドデイルでレースは動いた。

スプリントでロッシュを引き離すトマ・ヴォクレール(フランス、ディレクトエネルジー)スプリントでロッシュを引き離すトマ・ヴォクレール(フランス、ディレクトエネルジー) photo:Kei Tsuji急勾配の登りでニコラス・ロッシュ(アイルランド、チームスカイ)、アダム・イェーツ(イギリス、オリカ・グリーンエッジ)、ステフェン・クルイスウィク(オランダ、ロットNLユンボ)が先行開始。ここにヴォクレールとアントニー・トゥルジ(フランス、コフィディス)が追いつき、5名で残り10kmサインを通過する。

ロッシュとの一騎打ちを制したトマ・ヴォクレール(フランス、ディレクトエネルジー)ロッシュとの一騎打ちを制したトマ・ヴォクレール(フランス、ディレクトエネルジー) photo:Kei Tsujiそして最後の2級山岳オリバーズマウントでロッシュがアタック。チームスカイの仕事を完遂すべくロッシュが勝負に出たが、ヴォクレールを振り切るには至らなかった。

3位争いのスプリントはアダム・イェーツ(イギリス、オリカ・グリーンエッジ)3位争いのスプリントはアダム・イェーツ(イギリス、オリカ・グリーンエッジ) photo:Kei Tsujiフィニッシュまで6kmを残した最後の2級山岳を終えて先頭はロッシュとヴォクレール。遅れたイェーツ、クルイスウィク、トゥルジの追走を振り切って、観客であふれたスカボローのフィニッシュ地点にやってくる。

「冷静にいろんなシナリオを考えながら集中して勝負に挑んだ。彼(ロッシュ)には『一緒に協力して行こう。そしてスプリントで勝負しよう』と言ったんだ」というヴォクレールが残り300mで早めのスパート。ロッシュはこの加速に対抗できず、歓声とため息が入り混じるフィニッシュラインにヴォクレールが先頭で飛び込んだ。

「今日はチームスカイがレースを支配していた。風が強かったのでアタックのタイミングを待ち続けた。もし早めにアタックしていたらチームスカイの前に敗れ去っていたと思う。最後は経験が生きた。登りでリードを広げることは出来なかったものの、平坦路で後続を引き離せると確信していた」と、ヴォクレールは記者会見で勝利への道筋を一つ一つ丁寧に説明する。

「自分は今シーズンすでに42レースを消化していて、最も多くのレースを走っている選手だと思う。ツール・ド・フランスにも匹敵するほど熱狂的な観客が集まるこのヨークシャーで大きな勝利を手にしたことを嬉しく思う。お世辞ではなく、ヨークシャーの雰囲気は最高だったよ」とヴォクレール。1年前のヨークシャーを総合3位で終えているヴォクレールが、最終日に総合優勝を射止めた。



フィニッシュ後も舌が出たままのトマ・ヴォクレール(フランス、ディレクトエネルジー)フィニッシュ後も舌が出たままのトマ・ヴォクレール(フランス、ディレクトエネルジー) photo:Kei Tsuji大勢の観客が詰めかけたスカボローのフィニッシュ地点大勢の観客が詰めかけたスカボローのフィニッシュ地点 photo:Kei Tsuji
ツール・ド・ヨークシャー2016総合表彰台 2位ロッシュ、1位ヴォクレール、3位トゥルジツール・ド・ヨークシャー2016総合表彰台 2位ロッシュ、1位ヴォクレール、3位トゥルジ photo:Kei Tsuji


ツール・ド・ヨークシャー2016第3ステージ結果
1位 トマ・ヴォクレール(フランス、ディレクトエネルジー)         4h51’57”
2位 ニコラス・ロッシュ(アイルランド、チームスカイ)
3位 アダム・イェーツ(イギリス、オリカ・グリーンエッジ)           +09”
4位 アントニー・トゥルジ(フランス、コフィディス)
5位 ステフェン・クルイスウィク(オランダ、ロットNLユンボ)
6位 ラーシュペッテル・ノルダーグ(ノルウェー、チームスカイ)         +41”
7位 ジャンニ・モスコン(イタリア、チームスカイ)
8位 クリストファー・ユールイェンセン(デンマーク、オリカ・グリーンエッジ) +1’09”
9位 ベン・ヘルマンス(ベルギー、BMCレーシング)
10位 ニキアス・アルント(ドイツ、ジャイアント・アルペシン)

個人総合成績
1位 トマ・ヴォクレール(フランス、ディレクトエネルジー)         13h05’16”
2位 ニコラス・ロッシュ(アイルランド、チームスカイ)             +06”
3位 アントニー・トゥルジ(フランス、コフィディス)              +16”
4位 アダム・イェーツ(イギリス、オリカ・グリーンエッジ)           +17”
5位 ステフェン・クルイスウィク(オランダ、ロットNLユンボ)          +21”
6位 ラーシュペッテル・ノルダーグ(ノルウェー、チームスカイ)         +52”
7位 ジャンニ・モスコン(イタリア、チームスカイ)               +53”
8位 ニキアス・アルント(ドイツ、ジャイアント・アルペシン)         +1’13”
9位 セルジュ・パウエルス(ベルギー、ディメンションデータ)         +1’20”
10位 ディオン・スミス(ニュージーランド、ワンプロサイクリング)      +1’21”

ポイント賞
1位 ディラン・フルーネヴェーヘン(オランダ、ロットNLユンボ)

山岳賞
1位 ネイサン・ハース(オーストラリア、ディメンションデータ)

チーム総合成績
1位 チームスカイ

text&photo:Kei Tsuji in Scarborough, United Kingdom