1級山岳ラ・マドーヌ・デュテルで繰り広げられたトップライダーたちによるアタック合戦。イルヌール・ザッカリン(ロシア、カチューシャ)が山頂を制し、2位のゲラント・トーマス(イギリス、チームスカイ)が総合首位に立った。



雪を冠したアルプス山脈をバックに走る雪を冠したアルプス山脈をバックに走る photo:Tim de Waele


パリ〜ニース2016第6ステージパリ〜ニース2016第6ステージ image:A.S.O.プロヴァンスの峠を7つ数珠繋ぎにしたパリ~ニースのクイーンステージ(最難関ステージ)。5つの2級山岳と2つの1級山岳が断続的に登場する177kmコースの獲得標高差は3750mに及ぶ。最後に待ち構えるのはパリ〜ニース初登場の(ツール・ド・フランスでも未使用の)1級山岳ラ・マドーヌ・デュテル(登坂距離15.3km/平均勾配5.7%)山頂フィニッシュだ。

ニースをスタートする選手たちニースをスタートする選手たち photo:Tim de Waele山岳ポイントを量産可能なステージだけに、すでに総合で順位を落としているクライマーたちが序盤からアタックを連発。シリル・ゴティエ(フランス、AG2Rラモンディアール)やニキ・テルプストラ(オランダ、エティックス・クイックステップ)ら7名が飛び出し、ここにトーマス・デヘント(ベルギー、ロット・ソウダル)とアンドリュー・タランスキー(アメリカ、キャノンデール)が追いついて先頭は9名。メイン集団とのタイム差は2分30秒以内に抑え込まれた。

逃げグループを率いるニキ・テルプストラ(オランダ、エティックス・クイックステップ)逃げグループを率いるニキ・テルプストラ(オランダ、エティックス・クイックステップ) photo:Tim de Waeleレース中盤の1級山岳アスクロ峠で逃げグループの人数は絞り込まれるとともに、メイン集団ではティンコフのコントロールがスタートする。アスクロ峠の下りで逃げていたタランスキーが落車してリタイア。やがて先頭ではフィニッシュまで36kmを残してアントワーヌ・デュシェーヌ(カナダ、ディレクトエネルジー)が独走を開始した。

2日連続逃げ、そして2日連続で終盤に独走したデュシェーヌは続く2つの2級山岳を先頭通過。力尽きてすぐさまメイン集団に吸収されたが、その積極的な走りによってデュシェーヌは山岳賞トップに躍り出ている。

コンタドールをスプリントポイントで解き放つなど戦略的な走りを見せたティンコフに代わって、チームスカイが集団先頭に立つとメイン集団はぐんぐんと人数を減らしていく。フィニッシュまで20kmを残してマイヨジョーヌのマイケル・マシューズ(オーストラリア、オリカ・グリーンエッジ)は脱落。残り15kmを切り、いよいよ最後の1級山岳ラ・マドーヌ・デュテルの登坂が始まった。



山がちなプロヴァンスを走るプロトン山がちなプロヴァンスを走るプロトン photo:Tim de Waele
プロヴァンスの田舎町を通過するプロヴァンスの田舎町を通過する photo:Tim de Waeleティンコフがメイン集団をコントロールティンコフがメイン集団をコントロール photo:Tim de Waele


先頭グループでレースを進めるアルベルト・コンタドール(スペイン、ティンコフ)先頭グループでレースを進めるアルベルト・コンタドール(スペイン、ティンコフ) photo:Tim de Waeleチームスカイがロッシュ、ボズウェル、スウィフト、エナオモントーヤ、トーマス、ニエベという鉄壁の布陣で集団先頭を固めて登坂を開始。チームスカイ勢の徹底的なペースメイクによって集団の人数がさらに減る中、沈黙を切り裂いたのはラファル・マイカ(ポーランド、ティンコフ)のアタックだった。

献身的な走りを見せるセルジオルイス・エナオモントーヤ(コロンビア、チームスカイ)献身的な走りを見せるセルジオルイス・エナオモントーヤ(コロンビア、チームスカイ) photo:Tim de Waele残り10kmで2014年のツール・ド・フランス山岳王マイカがコンタドールを連れてペースアップし、そのまま残り6kmまで仕事を続ける。そしてマイカがメイン集団を10名まで絞り込んだところでコンタドールがアタックを仕掛けた。

先頭グループでレースを進めるアルベルト・コンタドール(スペイン、ティンコフ)先頭グループでレースを進めるアルベルト・コンタドール(スペイン、ティンコフ) photo:Tim de Waele一時は数十メートルのリードを得たコンタドールだったが、セルジオルイス・エナオモントーヤ(コロンビア、チームスカイ)がチームリーダーのトーマスの様子を何度も確認しながら一定ペースを保って合流。ここにリッチー・ポート(オーストラリア、BMCレーシング)とザッカリンが追いついて先頭は5名に。ロメン・バルデ(フランス、AG2Rラモンディアール)を始めとする後続グループが追いつきかけたところで再びペースを上げる。

残り1kmでアタックするリッチー・ポート(オーストラリア、BMCレーシング)残り1kmでアタックするリッチー・ポート(オーストラリア、BMCレーシング) photo:Tim de Waeleエナオモントーヤの献身的な走りによって先頭グループはまとまったまま走り、サイモン・イェーツ(イギリス、オリカ・グリーンエッジ)だけが何とか追いついて先頭6名。残り1kmサインが見えたところでポートが数回アタックを繰り出したが決まらない。残り400mからのコンタドールのアタックも決まらず、カウンターアタックでトーマスとザッカリンが抜け出した。

トーマスを下したイルヌール・ザッカリン(ロシア、カチューシャ)トーマスを下したイルヌール・ザッカリン(ロシア、カチューシャ) photo:Tim de Waele勢いある走りで先頭に立ったトーマスだったが「このレースのために高地トレーニングを積んできた」というザッカリンのスプリントが伸びる。フィニッシュライン10m手前で先頭に出たザッカリンが勝利。ビッグネームが集うパリ〜ニースのクイーンステージで26歳が金星をつかんだ。

「チームの働きは素晴らしかった。一日中ずっとチームメイトに守られ、自分の仕事は最後の登りを全力で攻めることだった。残り6kmと残り500mの勾配がきついことをあらかじめ確認していたので、力をセーブしてクリア。残り200mからのスプリントで全力を出したんだ。明日はこの総合表彰台のポジションを守りたい」とザッカリンは語る。2015年ツール・ド・ロマンディの総合優勝者で、ジロ・デ・イタリアでステージ優勝を飾っているロシアのオールラウンダーがその資質を改めて示した。

最終日を前に総合首位に立ったのはザッカリンと同タイムでフィニッシュしたトーマス。「アンビリーバブルな気持ち。幸い今日は脚の調子が良く、コンタドールのアタックに反応することが出来た。徹底的に自分のために走ってくれたセルジオルイス(エナオモントーヤ)には感謝してもしきれない。今日走ったエリアはよく知っていて、とにかくトラブルにだけは巻き込まれないように気をつけて走った。コンタドールとリッチーが動くのを待ち続け、何とか彼らに食らいつき、スプリントに向けて体力を温存する作戦が功を奏したよ」と新リーダーは語っている。

コンタドールから15秒、ザッカリンから20秒、ポートから21秒のリードを得ているトーマスは「ステージ優勝を逃したことは悔やまれるけど、リッチー(ポート)とコンタドールに対して数秒奪ったことは歓迎すべき。マイヨジョーヌ獲得は良いサプライズだ。まだ多くの峠が残っているので総合争いは終わっていない。コンタドールもリッチーもザッカリンも実績のある強力なライダーであり、最後の最後まで闘いは続く。今はとにかく出来るだけ長く寝て、明日に向けてリカバリーに励みたい」と締めくくった。

選手コメントはレース公式サイトより。



パリ~ニース2016第6ステージ結果
1位 イルヌール・ザッカリン(ロシア、カチューシャ)                4h45’11”
2位 ゲラント・トーマス(イギリス、チームスカイ)
3位 アルベルト・コンタドール(スペイン、ティンコフ)                  +01”
4位 リッチー・ポート(オーストラリア、BMCレーシング)                 +07”
5位 セルジオルイス・エナオモントーヤ(コロンビア、チームスカイ)            +10”
6位 サイモン・イェーツ(イギリス、オリカ・グリーンエッジ)               +20”
7位 ルイ・コスタ(ポルトガル、ランプレ・メリダ)                    +31”
8位 ロメン・バルデ(フランス、AG2Rラモンディアール)
9位 ヨン・イサギーレ(スペイン、モビスター)
10位 トニー・ギャロパン(フランス、ロット・ソウダル)
93位 別府史之(日本、トレック・セガフレード)                    +25’35”

個人総合成績
1位 ゲラント・トーマス(イギリス、チームスカイ)                 24h10’26”
2位 アルベルト・コンタドール(スペイン、ティンコフ)                  +15”
3位 イルヌール・ザッカリン(ロシア、カチューシャ)                   +20”
4位 リッチー・ポート(オーストラリア、BMCレーシング)                 +21”
5位 トム・ドゥムラン(オランダ、ジャイアント・アルペシン)               +32”
6位 ヨン・イサギーレ(スペイン、モビスター)                      +37”
7位 セルジオルイス・エナオモントーヤ(コロンビア、チームスカイ)            +39”
8位 サイモン・イェーツ(イギリス、オリカ・グリーンエッジ)               +44”
9位 トニー・ギャロパン(フランス、ロット・ソウダル)                  +51”
10位 ロメン・バルデ(フランス、AG2Rラモンディアール)                +1’00”

ポイント賞
1位 マイケル・マシューズ(オーストラリア、オリカ・グリーンエッジ)

山岳賞
1位 アントワーヌ・デュシェーヌ(カナダ、ディレクトエネルジー)

チーム総合成績
1位 チームスカイ

text:Kei Tsuji
photo:Tim de Waele