連続する7つの山岳を越える厳しいステージで輝いたのはツール前哨戦ドーフィネで事前勝利を挙げていたバルデ。山岳ポイント大量獲得を狙って逃げたロドリゲスは最後の失敗にかかわらず「本物の水玉ジャージ」を獲得。そしてフルームは相変わらず強い。



ナポレオン街道を行くメイン集団はマイヨ・ジョーヌ擁するチームスカイがコントロールするナポレオン街道を行くメイン集団はマイヨ・ジョーヌ擁するチームスカイがコントロールする photo:Makoto.AYANO
今日も序盤は風光明媚なナポレオン街道を走る。昨日は逆だったが、かつて将軍が地中海からパリを目指した進路と同じ向きに北上する。街道の両脇には地層の褶曲でできた巨大な岩山がそびえ立ち、宇宙を感じさせるような景観が広がる。

スタートの街ギャップを出てすぐのさっそくのアタックで29人もの選手たちが逃げを形成した。早めに逃げておけば逃げ切りチャンスは生まれる。総合争いとは別の、ステージをどうしても勝ちたい多くのチームと選手たちが鉄の意志でアタックを繰り広げた結果だ。

29人の大きな逃げグループがナポレオン街道を行く29人の大きな逃げグループがナポレオン街道を行く photo:Makoto.AYANO先頭にたってプロトンを引くチームスカイとマイヨ・ジョーヌのクリス・フルーム先頭にたってプロトンを引くチームスカイとマイヨ・ジョーヌのクリス・フルーム photo:Makoto.AYANO


今ツールのステージで最多、じつに7つもの山岳ポイントがあるこの日、そのなかに山岳賞ジャージを狙うホアキン・ロドリゲス(カチューシャ)が入ったことは何の不思議もなかった。昨日も総合タイム差を開くようにしっかり遅れているから、もはやフルームとチームスカイたちにマークされはしない。プリートはこの日もちろんステージ優勝も狙える。2つの目標に向かい、意欲を見せる。

今日のコースの話題はフィニッシュ10km手前に位置する2級山岳ラセ・ド・モンヴェルニエ。スイッチバックの繰り返し(3.4kmの距離に17のヘアピンコーナー)で、ツールに登場した「新しい道」としてツール公式プログラムの表紙にもなり、大きく取り上げられてきた。しかし写真で壮大に見える上りは実際には非常にコンパクトで、箱庭的。距離も短くターンが多すぎて、アタックも決めらにくいというものだったようだ。

快晴に恵まれ、大勢の観客が見守ったグランドン峠快晴に恵まれ、大勢の観客が見守ったグランドン峠 photo:Makoto.AYANO
分断しながらグランドン峠へと向かう逃げグループ分断しながらグランドン峠へと向かう逃げグループ photo:Makoto.AYANOグランドン峠を行くロメン・バルデ(AG2Rラモンディアール)とビネル・アナコナゴメス(モビスター)グランドン峠を行くロメン・バルデ(AG2Rラモンディアール)とビネル・アナコナゴメス(モビスター) photo:Makoto.AYANO


勝負どころとなる最高標高のグランドン峠は、下って登り返す「峠内の峠」を含むが、実質的には上り距離が50km近い壮大な峠だ。雄大な風景の中、登ってくるプロトンが見渡せるため人気が高く、詰めかけた観客は非常に多かった。

カラフルな人垣のなか、頂上付近をランデブーで通過するロメン・バルデ(フランス、AG2Rラモンディアール) とビネル・アナコナゴメス(コロンビア、モビスター) 。バルデは「まるでサッカースタジアムに居るようで、声援の大きさも信じられないぐらいだった」と大観衆の中を走った感想を話した。

峠に駆けつけたブルターニュ地方出身選手のサポーターたち峠に駆けつけたブルターニュ地方出身選手のサポーターたち photo:Makoto.AYANO「声援は?もっともっと!」のゼスチャーで登るブラム・タンキンク(ロットNLユンボ)「声援は?もっともっと!」のゼスチャーで登るブラム・タンキンク(ロットNLユンボ) photo:Makoto.AYANO

遅れたティボー・ピノ(フランス、FDJ)に大声援が送られる遅れたティボー・ピノ(フランス、FDJ)に大声援が送られる photo:Makoto.AYANOトレンティンらに完全アシストされて走るマーク・カヴェンディッシュ(エティックス・クイックステップ)。目指すはパリのスプリント勝利だトレンティンらに完全アシストされて走るマーク・カヴェンディッシュ(エティックス・クイックステップ)。目指すはパリのスプリント勝利だ photo:Makoto.AYANO


バルデらふたりの独走のきっかけになったのは、先頭を争っていたグループの一人のヤコブ・フグルサングがモーターサイクルと絡んで落車したことだった。ラスト2kmでバラけた先頭グループからバルデとアナコナ(モビスター)が抜け出すことに。このペン記者を載せたモトは大会主催者が記者を日替わりで載せるために用意している、大会側のスタッフが運転しているもの。

リプレイを見る限り、モトは最初、走る選手たちのグループに割って入る進路変更でライダー・ヘシェダル(キャノンデール・ガーミン)を危うく引っ掛けそうになり、さらに追い抜いていく際、フグルサングが横に振った進路と運悪くかち合ってしまったように見えた。モトのドライバーはレース後、危険な運転をしたとして審判から除外処分を受けている。

役に立ったドーフィネでの予習

逃げグループからグランドン峠へ向け抜けだしたロメン・バルデ(AG2Rラモンディアール)とビネル・アナコナゴメス(モビスター)逃げグループからグランドン峠へ向け抜けだしたロメン・バルデ(AG2Rラモンディアール)とビネル・アナコナゴメス(モビスター) photo:Makoto.AYANOロランを33秒振り切ってフィニッシュに飛び込むロメン・バルデ(フランス、AG2Rラモンディアール)ロランを33秒振り切ってフィニッシュに飛び込むロメン・バルデ(フランス、AG2Rラモンディアール) photo:Tim de Waeleバルデがクリテリウム・ドーフィネで同コースを走った際に逃げ切り勝利を飾ったのは前日のステージのこと。しかしバルデは今日のコースもドーフィネで一部使われたことで良く知っていた。バルデは軽量ながらテクニックに秀で、下りが得意。長いテクニカルなダウンヒルでの能力的な余裕がアナコナゴメスとの差をつけた。

「僕は下りが得意。だからフィニッシュラインを越えるとき余力を残していた。このステージはドーフィネで知り尽くしていたんだ。とても長いけど、暗記しているほどしっかり覚えていた。ラスト数キロの細部までしっかり把握していたんだ」とバルデ。

昨年のツールでポディウムに近づきながらも総合6位に終わったバルデの今年のツールでの目標は「総合5位」というものだった。しかしその計画も第10ステージ、ピレネーでの最初の山頂フィニッシュのラ・ピエール・サンマルタンでの脱落と、連日の暑さのための体調不良により完全に潰えてしまっていた。しかし第12ステージのプラトー・ド・ベイユで3位フィニッシュして調子を戻したことを証明。マンドのジャラベール山へフィニッシュする第14ステージではティボー・ピノ(FDJ)との「フランス人ワン・ツーフィニッシュ」を目前に、スティーブ・クミングス(MTNキュベカ)に出し抜かれる。

クリテリウム・ドーフィネでの勝利から、同コースを走った際に逃げ切り勝利を飾った昨日のアルプス初日プラ・ルーでは当然優勝候補の呼び声高くありながら、ハンガーノックに陥り、再び辛酸をなめた。それら失敗の悔しさを今日の勝利への起爆剤にした。

「ピノと逃げたあの日、僕は戦術的な失敗で勝利を逃した。それが悔しくて、今日はどうしても勝ちたかったんだ。スタートからアタックの応酬で狂ったように速く、トリッキーだった。逃げに乗るのは苦労した。でも勝つためには痛みを乗り越えなければいけなかったんだ。でも皆が少し疲れているようにも感じた。誰にとっても苦しかったステージだと思う」。

夢に見たツールの初勝利。ワレン・バーギルを引き離したことで総合も10位に上げた。目標の総合5位は遠いが、まだひとつぐらいは上げる余地がありそうだ。バウク・モレマ(トレックファクトリー)とは+46秒差。

グランドン峠では決定的なアタックは掛けられなかったヴィンチェンツォ・ニーバリ(アスタナ)グランドン峠では決定的なアタックは掛けられなかったヴィンチェンツォ・ニーバリ(アスタナ) photo:Makoto.AYANO相変わらず下を向いて走るクリス・フルーム(チームスカイ)相変わらず下を向いて走るクリス・フルーム(チームスカイ) photo:Makoto.AYANO

舌を出しながらグランドン峠を登るトマ・ヴォクレール(ユーロップカー)舌を出しながらグランドン峠を登るトマ・ヴォクレール(ユーロップカー) photo:Makoto.AYANOグランドン峠頂上付近は大勢の観客たちで盛り上がったグランドン峠頂上付近は大勢の観客たちで盛り上がった photo:Makoto.AYANO


グランドン峠でのコンタドールのアタックも引き戻し、キンタナ、ニーバリ、そしてマイカとコンタドールのコンビネーションアタック。それらすべてのアタックを支配下に置いたチームスカイとフルーム。もはや強すぎて揺るがない、賭けのアタックさえ許さない鉄壁の強さだ。コンタドールはギャップでの休息日にチームスカイのチーム力について、「山で強いのは数人だけで、崩す余地はある」と話していたが、自身の調子が上がり切らない今、もはや歯がたたないことを実感したのかもしれない。ニーバリとコンタドールはもはやステージ優勝にフォーカスしているのだとしても、スカイからは「危険分子」とマークされているから逃げることさえ許してもらえない。

マイヨ・アポワにフォーカスするプリート

この数日は赤い水玉ジャージ「マイヨ・アポワ・ブラン・ルージュ」を着続けていながらも、それはマイヨ・ジョーヌとマイヨアポワを両方保持するフルームのもので、プリート自身のものではなかった。多くの山岳が連なる今日のステージでポイント積算を続けるが、誤算はグランドン峠の補給地点でチームスタッフの差し出すミュゼットを取り損ねたことだった。

山岳ポイントを集めながら走るホアキン・ロドリゲス(カチューシャ)山岳ポイントを集めながら走るホアキン・ロドリゲス(カチューシャ) photo:Makoto.AYANO山岳賞トップに立ったホアキン・ロドリゲス(スペイン、カチューシャ)山岳賞トップに立ったホアキン・ロドリゲス(スペイン、カチューシャ) photo:Tim de Waele

サンジャン・ド・モーリエンヌへと下るプロトンサンジャン・ド・モーリエンヌへと下るプロトン photo:Makoto.AYANO
理由は短い平坦区間に設定された補給ゾーンで、通過時にスピードが出ていたため。そのツケが頂上までの上りで出てしまった。結果、最大のポイントが待つグランドン頂上付近で失速。厳しい表情でバルデらに遅れを喫して通過。ステージ勝利のチャンスさえも逃してしまった。

獲得山岳ポイントでフルームを抜き、バルデとは同ポイント。バルデの1勝に対し2勝というステージ勝利数で上回るためジャージ着用の権利があるが、まだ完全にはプリートのものではない。ステージ優勝にこだわったバルデだが、マイヨアポアに興味を持たない理由はない。

text:Makoto.AYANO in FRANCE
photo:Makoto.AYANO,Kei Tsuji,Tim de Waele,CorVos