優れたカーボンテクノロジーで多くのトレンドをつくりだしてきたスコット。今回紹介する、「FOIL (フォイル)」もロードバイクの新たな時代の方向性を指し示した名車の一つ。熟成を重ねたエアロロードに今一度、フォーカスを当ててみよう。



スコット FOIL20スコット FOIL20 photo:MakotoAYANO/cyclowired.jp
2004年にフレーム重量880gという当時としては信じられないほど軽量でありながら、プロツアーでの使用に耐えうるだけの剛性を持ったレースバイク、CR1を発表したスコット。軽量・高剛性というテーマに対する一つの模範解答を並み居る老舗ブランドの前に突きつけたのだ。

その後、更に研鑽を重ね、アンダー800gを実現したADDICTを発表。軽量化競争で追いすがる競合他社を一蹴する開発力の高さを見せつけた。現在、市場に存在する軽量バイクは、すべからくスコットの影響を大なり小なり受けていると言ってもあながち間違いではないだろう。

中央部がくびれたヘッドチューブ中央部がくびれたヘッドチューブ 翼断面形状のフォークブレード翼断面形状のフォークブレード ダウンチューブ上部からワイヤーが内蔵されるダウンチューブ上部からワイヤーが内蔵される


ライトウェイトロードというカテゴリに一石を投じたスコットが、次なるフロンティアとして目を付けたのが、エアロダイナミクスという分野。そしてスコットはCR1と同様に、この分野においても革新を成し遂げることに成功した。2012年に発表されたそれこそが、今回紹介するFOILなのだ。

FOIL以前のエアロロードバイクと言えば、NACA(航空宇宙諮問委員会)によって飛行機向けに提唱されたモデルや縦横比に基づいた「NACA断面」と呼ばれる翼断面形状を採用しているものが全てであった。平べったく成形されたチューブで、空気を切り裂くようなデザインのエアロロードは見た目にもインパクトがあり、扁平チューブにあらずんばエアロロードにあらずということが、メーカーとユーザー双方の常識であった。

ブレーキケーブルはヘッドチューブから内蔵ブレーキケーブルはヘッドチューブから内蔵 ハンドルやステムはシンクロスを採用ハンドルやステムはシンクロスを採用

真上から見ると異なった表情を見せてくれる真上から見ると異なった表情を見せてくれる 複雑な形状のチェーンステー複雑な形状のチェーンステー


ただ、縦に厚く横に薄いチューブを持つ当時のエアロロード達は、空力性能に優れる一方で、横剛性が低く、また突き上げが強くなるというデメリットから逃れられなかった。つまり、エアロダイナミクスと反応性や快適性はトレードオフの関係であり、どれもを手に入れることはできなかったのだ。そう、FOILの登場までは。

FOILの最大の特長は「F01テクノロジー」と名付けられた各チューブの形状にある。今では「カムテール」と言った方が馴染み深い人も多いだろう、従来のNACA断面の後端を切り落としたかのようなデザインにより、軽く、剛性に優れながらも高いエアロダイナミクスを持ったチューブを実現したのだ。

リアシフトケーブルはエンドから出される流行の形リアシフトケーブルはエンドから出される流行の形 PF86を採用するBBPF86を採用するBB


発表当時、そんなうまい話があるの?と思った人も少なくは無かっただろう。それほど、当時の感覚からすると信じられないようなテクノロジーだったということだ。そんな夢の様なバイクを開発するため、スコットはメルセデス・ベンツF1チームとパートナシップを組んだ「スコット・エアロダイナミックサイエンス」と命名されたチームを発足させ、膨大な時間を風洞実験に費やした。60種類以上ものチューブ形状がテストされ、ロードバイクの速度域における空力性能の最大化が求められていったという。

そして、スコットの目指す方向性が正しかったことは、その後のエアロロードバイクのチューブ形状はNACA断面からカムテールへと移行していったという事実を見ても明らかだ。エアロでありながら、自然なフィーリングを持ち、登りでも軽量オールラウンドバイクと遜色なく戦うことができるというのが、FOIL以降のエアロロードに求められる要件となった。

リアセクションは細身な仕上がりリアセクションは細身な仕上がり 専用のエアロシートピラーはリッチー製専用のエアロシートピラーはリッチー製 カムテール形状のダウンチューブはかなりのボリューム感だカムテール形状のダウンチューブはかなりのボリューム感だ


そんな、エアロ新時代をもたらしたFOILも今年で4年目を迎える。2年、あるいは1年ごとにモデルチェンジが加えられる昨今のカーボンレースバイクのライフサイクルの中では、異例の長寿モデルと言えるだろう。このことからもFOILのコンセプトがいかに先進的であったかがうかがい知れる。

今回インプレッションをお届けするのはそんなFOILの末弟モデル、FOIL20だ。多少の重量増と引き換えに扱いやすさを向上させることで、ビギナーにも乗りこなしやすいバランスを持った「HMFカーボン」によって製作されたフレームにシマノ105を組み合わせた戦略モデルをインプレライダーの2人はどう見るのか。それではインプレッションに移ろう。



―― インプレッション

「純粋な速さを求めている雰囲気が感じられる」鈴木雅彦(サイクルショップDADDY)

乗った瞬間に、踏み出しの軽さに驚きました。BBハイトが高いのか、すこし目線や腰の位置が高いイメージです。とはいっても、特に落ち着きがないというわけではありません。全体の剛性感はかなり硬めですね。トップラインとボトムラインの剛性がバランス良く仕上げられています。

フレームのどこかが突出して硬いということは無いですが、全体的に硬くしなりが少ないので、重いギアをかけたダッシュを繰り返すと脚にダメージが残りやすいかもしれません。一定ペースを維持するような走り方のほうが向いているのではないでしょうか。

「純粋な速さを求めている雰囲気が感じられる」鈴木雅彦(サイクルショップDADDY)「純粋な速さを求めている雰囲気が感じられる」鈴木雅彦(サイクルショップDADDY)
登りでもずっと軽いギアで淡々と登り続けるのが得意なバイクだと思います。踏み出しの軽さは低速域での吹きあがりの良さにも繋がっており、速度が抑えられがちなヒルクライムにはうってつけ。何度もアタックをするよりも、マイペースを刻むクライマーにとっては良い選択になるでしょう。

ただ、もう少し安定感があると、より初心者にも扱いやすいバイクに仕上がっていたのではないかと思います。前輪が近く感じるような、クイックなハンドリングなので、切り返しの多い峠の下りなどは得意だと思いますが、テクニックも求められる自転車でもあります。ブレーキングに関しても、全く問題なく制動力をフレーム全体で受け止めてくれます。

基本的には硬く、テクニカルな自転車ですので全くの初心者でグランフォンドやロングライドに出たいという人にとっては、少しミスマッチですね。イメージとしては、体力があってレースで上位を狙っていきたいという、競技志向の人にぜひ乗っていただきたいバイクです。それこそ実業団でも十分対応できるだけのスペックだと思います。

モデルイヤーが長いということもあり、いわゆる「軽く、硬い」レースバイクとして進化を遂げてきた系譜に位置するバイクだと、感じます。ここ1年ほどのレースバイクはもう少ししなりのある方へと戻ってきていますが、このバイクからは純粋な速さを求めている雰囲気が感じられますね。なので、脚がある内はとても楽しいバイクです(笑)

でも、快適性も一定レベルは確保されていて、不快な振動は取り去ってくれますね。ラグジュアリーとは言えませんが、踏んだ時の硬さから来るイメージに対しては十分合格点をあげられるのではないでしょうか。路面の状況も掴みやすいので、レースバイクとして不満が出ることは無いでしょう。

フレーム性能が癖のないフラットな味付けなので、ヒルクライムであればフルクラムRacing Zeroのような硬くて軽いホイールでフレームの得意なところを伸ばしてあげるといいでしょう。オールラウンドに走りたいのであればカンパニョーロBORAをはじめとした50mm程度のディープリムを組み合わせれば、乗り心地も良くなりますし、すこししなりも生まれてくるので長距離ライドもこなしやすくなるでしょうね。


「レースの基本を押さえた自転車」山添悟志(WALKRIDE コンセプトストア)

The・レーシングバイクという印象ですね。一踏み目から軽さを感じました。エアロロードなのですが、山岳もいけるヒルクライムバイクのように漕ぎが軽やか。でも、ギア比を上げて踏んでいっても全く問題ないですし、エアロロード特有の癖もない、ニュートラルな乗り味でした。

「レースの基本を押さえた自転車」山添悟志(WALKRIDE コンセプトストア)「レースの基本を押さえた自転車」山添悟志(WALKRIDE コンセプトストア) 扁平形状のチューブを使うエアロロードでは、ギアをかけてバイクをこじるようなダンシングをするとワンテンポ反応が遅れるような、モッサリ感があるものですがFOILにはそういった要素は感じなかったですね。正直、エアロロードという枠組みで見ると、登りは切り捨てているのかな、などと思っていました。でも、実際はオールラウンドなロードレーサーがベースにあって、より空力性能を磨き上げたバイクというのが最も近いと思いますね。

おそらく、縦方向と横方向の剛性バランスがちょうど良い塩梅になっているのではないでしょう。BB周りも過剰な硬さは抑えられつつも、しっかりと力を受け止めてくれるので、レーサーにとってはとても良いフィーリングだと思います。

スプリントでも非常に反応がよいですし、集団からの飛び出しや登り返しといった瞬間的なパワーが求められる部分においても、遅れることなく踏んだ瞬間から前に進んでいくダイレクトな感覚があります。

ジオメトリーもしっかりとハンドルを下げることができますし、レーシングポジションをとった時に最高の運動性能を発揮するように設計されているな、という印象です。ステアリング周りの剛性もしっかりしているので、コーナーも切れ味よく回っていきますね。

そのようにハンドリングもしっかりとしていますし、ブレーキも良く効いてくれます。完成車で105のキャリパーが付いてくるのですが、ハードブレーキングでもビビったりすることなく止まってくれるという点からも、レースの基本を押さえた自転車だと感じました。

その上で、エアロ効果にも優れるというバイクです。高い速度で本領を発揮するのは間違いないですね、40km/hから50km/hと高速で進む集団にいると、多くのアドバンテージをもたらしてくれるでしょう。ハンドリングもせわしなく動くということも無く、集団走行でも安心できると思います。

快適性に関しては、そこまで秀でているわけではありません。エアロ形状のシートピラーは縦方向に長いためか、少しゴツゴツ空いた感覚を伝えてきます。ただ、この形状であることを考えると、むしろかなり健闘している方だとは思います。

完成車のままでも、十分レースで戦えるだけの力はもっていると思います。さらに上を目指していくのであれば、ハイトの高いエアロホイールを合わせると良いのではないでしょうか。ロードレース全般をこなせるので、35mmくらいのハイトであればどんなシチュエーションでも過不足ない性能を発揮してくれるでしょうね。

実業団登録者のエリートカテゴリであれば、全く問題なく戦うことができるフレームですが、完成度が高いので競技者から初心者まで乗り手を選ぶことはないでしょう。これからレースを始めたいという人にもお勧めできる、エントリーレーサーですね。

スコット FOIL20スコット FOIL20 photo:MakotoAYANO/cyclowired.jp
スコット FOIL20
フレーム:FOIL HMFIMP、F01 AERO Carbon tech、Road Race geometry、Replaceable Dropout、
STD Seattube / INT BB
フォーク:FOIL HMF1 1/8" - 1 1/4" Carbon steererIntegrated Carbon Dropout
コンポーネント:シマノ 5800系105
ハンドル:シンクロス RR2.0 Anatomic 31.8mm
ステム:シンクロス FL2.0
シートポスト:リッチー FOIL aero PRO Carbon
サドル:シンクロス RR2.0
ホイール:シンクロス RR2.0
サイズ:XXS/47、XS/49、S/52、M/54、L/56、XL/58、XXL/61
重 量:7.4kg(Sサイズ、実測重量)
価 格:360,000円(税抜)



インプレライダーのプロフィール

鈴木雅彦(サイクルショップDADDY)鈴木雅彦(サイクルショップDADDY) 鈴木雅彦(サイクルショップDADDY)

岐阜県瑞浪市にあるロードバイク専門プロショップ「サイクルショップDADDY」店主。20年間に及ぶ競輪選手としての経験、機材やフィッティングに対するこだわりから特に実走派ライダーからの定評が高い。現在でも積極的にレースに参加しツール・ド・おきなわ市民50kmで2007、09、10年と3度の優勝を誇る。一方で、グランフォンド東濃の実行委員長を努めるなどサイクルスポーツの普及活動にも力を入れている。

CWレコメンドショップ
サイクルショップDADDY


山添悟志(WALKRIDE コンセプトストア)山添悟志(WALKRIDE コンセプトストア) 山添悟志(WALKRIDE コンセプトストア)

神奈川県厚木市に2014年にオープンしたロード系プロショップ、WALKRIDE コンセプトストアの店主。脚質はスプリンターで、過去にいわきクリテリウムBR-2で優勝した経験を持つ。走り系ショップとして有名だが、クラブ員と一緒にグルメツーリングを行うなど、「自転車で走る楽しみ」も同時に追求している。

CWレコメンドショップ
WALKRIDE コンセプトストア


ウェア協力:ルコックスポルティフ

text:Naoki.YASUOKA
photo:Makoto.AYANAO