イスタンブールのブルーモスク前でエンディングを迎えたツアー・オブ・ターキー。残り1.5kmで登場した石畳の登りで飛び出したルイス・マスボネ(スペイン、カハルーラル)が、迫り来る集団を振り切る逃切り勝利を飾りました。



エティックス・クイックステップを先頭にボスポラス橋を通過エティックス・クイックステップを先頭にボスポラス橋を通過 photo:Kei Tsuji
最前列に並ぶクリスチャン・デュラセック(クロアチア、ランプレ・メリダ)最前列に並ぶクリスチャン・デュラセック(クロアチア、ランプレ・メリダ) photo:Kei Tsuji出走サイン台に上がるエティックス・クイックステップ出走サイン台に上がるエティックス・クイックステップ photo:Kei Tsuji


スタート後すぐにガラタ橋を渡るスタート後すぐにガラタ橋を渡る photo:Kei Tsujiツアー・オブ・ターキーを締めくくる第8ステージは、ヨーロッパ側のイスタンブール旧市街にあるブルーモスク(スルタンアフメト・モスク)と大聖堂アヤソフィア前をスタートし、都会の喧噪を抜けてボスポラス海峡をまたぐボスポラス橋(第一ボスポラス大橋)を渡ってUターン。大橋をもう一度渡ってヨーロッパ側に戻り、旧市街を取り囲む9.1kmの周回コースを8周する。

逃げるエドゥアルド・グロス(ルーマニア、NIPPOヴィーニファンティーニ)ら4名逃げるエドゥアルド・グロス(ルーマニア、NIPPOヴィーニファンティーニ)ら4名 photo:Kei Tsuji「ヨーロッパとアジアを結ぶレース」というネーミングがぴったり当てはまるレイアウトだが、シンプルにフィニッシュを迎えないところがツアー・オブ・ターキー。わざわざ周回を離れて市街地の石畳坂(全長200m/勾配6%)を駆け上がり、いくつものテクニカルコーナーを経てブルーモスク前にフィニッシュする。

大勢のサイクリストが沿道に駆けつけた大勢のサイクリストが沿道に駆けつけた photo:Kei Tsujiお世辞にもスムーズとは言えないイスタンブールの舗装は、朝方に降った雨によって半分濡れた状態。降水確率60%ほどの思わしくない空模様の下、149名がブルーモスク前でスタートサインを済ませた。

イスタンブール旧市街を背に進むクリスチャン・デュラセック(クロアチア、ランプレ・メリダ)らイスタンブール旧市街を背に進むクリスチャン・デュラセック(クロアチア、ランプレ・メリダ)ら photo:Kei Tsuji第一ボスポラス大橋に差し掛かる頃(16km地点)には4名の先行が決まる。今にも雨粒が落ちてきそうな重い空気を切り裂いて、ケニー・デケテレ(ベルギー、トップスポートフラーンデレン)、ボリス・ファレー(ベルギー、ロット・ソウダル)、エドゥアルド・グロス(ルーマニア、NIPPOヴィーニファンティーニ)、カルロス・キンテロ(コロンビア、コロンビア)が飛び出した。

集団はエティックス・クイックステップのコントロール下に置かれ、タイム差を2分前後に抑え込んで追走する。レース中盤からはサウスイーストやバルディアーニCSFも集団先頭に陣取り、物珍しくレースを見守る観光客や、交通規制に伴う大渋滞に囲まれたイスタンブールの周回コースを行く。

集団後方ではマーク・カヴェンディッシュ(イギリス、エティックス・クイックステップ)やダニエーレ・ベンナーティ(イタリア、ティンコフ・サクソ)らが忙しなくコミッセールカー(審判車)やチームカーの間を行き交った。周回コースに登場する工事区間や荒れた路面、横断する観客の危険性を訴えたがレースはそのまま続行。

タイム差が縮小し始めたラスト29km地点で集団内にトラブルを巻き起こしたのは、工事区間や観客ではなく、コースに迷い込んだ犬だった。犬に衝突する形で落車したのは総合2位のダヴィデ・レベッリン(イタリア、CCCスプランディポルコウィチェ)。第3ステージを制した43歳の大ベテランはレースに復帰できずにそのまま救急車に乗り込み、エースの復帰を待ったアシスト3名は集団復帰を諦めてバイクを降りている。CCCスプランディポルコウィチェは完走者2名という散々な結果で最終ステージを終えた。



モスクが立ち並ぶ旧市街の周回コースに入るモスクが立ち並ぶ旧市街の周回コースに入る photo:Kei Tsuji
ヴァレンス水道橋を通過するプロトンヴァレンス水道橋を通過するプロトン photo:Kei Tsujiイスタンブール中心の幹線道路を進むイスタンブール中心の幹線道路を進む photo:Kei Tsuji
ステージ4勝目を狙うマーク・カヴェンディッシュ(イギリス、エティックス・クイックステップ)ステージ4勝目を狙うマーク・カヴェンディッシュ(イギリス、エティックス・クイックステップ) photo:Kei Tsuji常にランプレ・メリダが集団前方に位置常にランプレ・メリダが集団前方に位置 photo:Kei Tsuji
タンカーが行き交うボスボラス海峡を進むタンカーが行き交うボスボラス海峡を進む photo:Kei Tsuji


犬と接触して落車したダヴィデ・レベッリン(イタリア、CCCスプランディポルコウィチェ)犬と接触して落車したダヴィデ・レベッリン(イタリア、CCCスプランディポルコウィチェ) photo:Kei Tsuji逃げが残り5kmで吸収されるといよいよスプリンターチームのポジション争いが激化。周回コースを離れて石畳坂が始まる1.5kmに向けてエティックス・クイックステップやオリカ・グリーンエッジがリードアウト。テクニカルコーナーを抜けて登りが始まると同時に、ビューティーズオブターキースプリント賞ジャージを着るルイス・マスボネ(スペイン、カハルーラル)が勢いよく飛び出した。

リーダージャージを着て走るクリスチャン・デュラセック(クロアチア、ランプレ・メリダ)リーダージャージを着て走るクリスチャン・デュラセック(クロアチア、ランプレ・メリダ) photo:Kei Tsuji登りで一気にリードを広げたマスボネを、カヴェンディッシュを引き連れるマーク・レンショー(オーストラリア、エティックス・クイックステップ)が追う。しかしそのギャップは埋まらず、ブルーモスク前の連続テクニカルコーナーを先頭で抜けたマスボネが追いすがるカヴェンディッシュらを振り切った。

マスボネを懸命に追撃するマーク・カヴェンディッシュ(イギリス、エティックス・クイックステップ)マスボネを懸命に追撃するマーク・カヴェンディッシュ(イギリス、エティックス・クイックステップ) photo:Kei Tsuji「スタートの時点ではカルロス・バルベロのスプリントしか考えっていなかったものの、重要なコーナーを先頭で抜けたところでアタックした。カルロスが『止まるな!行け!行け!』と言ったので、そのまま止まらずに行ったんだ」とマスボネは語る。

2014年ブエルタ・ア・エスパーニャで2度敢闘賞を獲得している26歳は、ステージ3位に入ったチームメイトのカルロス・バルベロ(スペイン)とともにトルコのレジェップ・タイイップ大統領も登場した表彰式に登場。さらにビューティーズオブターキースプリント賞ジャージと、チーム総合優勝のメダルを受け取った。

総合優勝に輝いたのは「今日もいつものように落ち着いて走った」と語る27歳のクリスチャン・デュラセック(クロアチア、ランプレ・メリダ)。しかし前夜に38度の熱と腹痛に見舞われたため、デュラセックは最終ステージのスタートが危うい状況だったと打ち明ける。「やるしかないと自分に言い聞かせた。実際に、昨日のステージと同じぐらい厳しかったよ」。安堵の表情を浮かべながらデュラセックは大統領からターコイズジャージを受け取った。



集団を振り切ってフィニッシュするルイス・マスボネ(スペイン、カハルーラル)集団を振り切ってフィニッシュするルイス・マスボネ(スペイン、カハルーラル) photo:Kei Tsuji
大統領の登場で物々しい雰囲気に包まれた表彰式大統領の登場で物々しい雰囲気に包まれた表彰式 photo:Kei Tsuji山岳賞バレンシア、ポイント賞カヴェンディッシュ、総合優勝デュラセック、スプリント賞マスボネ山岳賞バレンシア、ポイント賞カヴェンディッシュ、総合優勝デュラセック、スプリント賞マスボネ photo:Kei Tsuji


NIPPOヴィーニファンティーニの山本元喜と黒枝士揮はそれぞれ総合123位と総合138位で完走。大会を通したチームの最高位は第4ステージのダニエーレ・コッリ(イタリア)の2位だった。

この日も集団前方でスタートを待つ山本元喜と黒枝士揮(NIPPOヴィーニファンティーニ)この日も集団前方でスタートを待つ山本元喜と黒枝士揮(NIPPOヴィーニファンティーニ) photo:Kei Tsuji連日レース序盤のアタック合戦に加わり、第4ステージで逃げに乗った山本元喜は「8日間のステージレースで体調が崩れるぐらい追い込めました」と、少し風邪気味でのイスタンブール凱旋。

山本元喜と黒枝士揮(NIPPOヴィーニファンティーニ)山本元喜と黒枝士揮(NIPPOヴィーニファンティーニ) photo:Kei Tsuji「自分はアタックして逃げる選手」と自覚する山本は「今は集団の雰囲気を感じれるようになりました。今回は逃げ切りが決まらなかったものの、延々とアタックが続く状況を経験したことは今後のレースに生きると思います。自分の脚質的にスプリントでは対抗できないので、せめてスプリンターが越えれる登りは越えないといけない。ペダリングを回転重視に変更したことで前よりも登れるようになりましたが、(登りの力が)あともう一歩必要だと感じました」とコメントする。

一方、スプリンターとしてチームの隊列に加わった黒枝は「UCIワールドチームが多く出場しているレースで、スピード域の違うスプリントを経験出来ました。とにかくスピード域が高かった」と、エティックス・クイックステップをはじめとするトップチームのスピードに言及する。

そこで黒枝が感じたのは「登れるスプリンターになる必要性」。今回初めてカヴェンディッシュらと肩をつき合わした黒枝は「これまで体重の軽さと瞬発力で走っていたけど、平坦なスプリントではパワー負けしてしまう。スプリントしたいと思っていたものの、小さいし体重も軽いので大集団では厳しい。逆に体重の軽さを生かしたスプリンターとして、登坂力を磨くべきだと感じました」と語る。2人はそれぞれ課題を見出し、トップ選手が集う8日間のUCIヨーロッパツアーHCステージレースを終えた。



ツアー・オブ・ターキー2015第8ステージ結果
1位 ルイス・マスボネ(スペイン、カハルーラル)               2h45’03”
2位 マーク・カヴェンディッシュ(イギリス、エティックス・クイックステップ)
3位 カルロス・バルベロ(スペイン、カハルーラル)
4位 アレッサンドロ・ペタッキ(イタリア、サウスイースト)
5位 ダニエーレ・コッリ(イタリア、NIPPOヴィーニファンティーニ)
6位 ダニエーレ・ラット(イタリア、ユナイテッドヘルスケア)
7位 ダヴィデ・アッポローニオ(イタリア、アンドローニジョカトリ)
8位 エドゥアルド・プラデス(スペイン、カハルーラル)
9位 ロイ・ヤンス(ベルギー、ワンティ・グループグベルト)
10位 マグナス・コルトニールセン(デンマーク、オリカ・グリーンエッジ)
67位 黒枝士揮(日本、NIPPOヴィーニファンティーニ)              +58”
95位 山本元喜(日本、NIPPOヴィーニファンティーニ)             +1’16”

個人総合成績
1位 クリスチャン・デュラセック(クロアチア、ランプレ・メリダ)       28h21’23”
2位 エドゥアルド・セプルベダ(アルゼンチン、ブルターニュ・セシェ)        +32”
3位 ジェイ・マッカーシー(オーストラリア、ティンコフ・サクソ)         +1’14”
4位 アレックス・カノアルディラ(コロンビア、コロンビア)            +1’30”
5位 セルジュ・パウエルス(ベルギー、MTNキュベカ)               +1”32”
6位 ミルコ・セルヴァッジ(イタリア、ワンティ・グループグベルト)        +2’05”
7位 エンリーコ・バルビン(イタリア、バルディアーニCSF)            +2’08”
8位 トマシュ・マルチンスキー(ポーランド、トルク・セケルスポール)       +2’20”
9位 アダム・ハンセン(オーストラリア、ロット・ソウダル)            +2’18”
10位 ハビエル・メヒアス(スペイン、ノボノルディスク)

ポイント賞
マーク・カヴェンディッシュ(イギリス、エティックス・クイックステップ)

山岳賞
フアンパブロ・バレンシア(コロンビア、コロンビア)

ビューティーズオブターキースプリント賞
ルイス・マスボネ(スペイン、カハルーラル)

チーム総合成績
カハルーラル

text&photo:Kei Tsuji in Istanbul, Turkey