自身5回目となるロンド・ファン・フラーンデレンを走ったフミこと別府史之(トレックファクトリーレーシング)にフォーカス。3度めの完走にはならなかったが、チームのために持てる力をフルに使い走ったようだ。



ブルージュのマルクト広場をスタートしていく別府史之(トレックファクトリーレーシング)ブルージュのマルクト広場をスタートしていく別府史之(トレックファクトリーレーシング) photo:Makoto.AYANO


異例のラストミニッツ・セレクション。役割は平坦路でのアシスト

別府史之(トレックファクトリーレーシング)がロンドのスタートに並ぶ別府史之(トレックファクトリーレーシング)がロンドのスタートに並ぶ photo:Makoto.AYANO過去10年の大会を支配してきたボーネンとカンチェラーラの不在。しかし言い換えればどのチーム、選手にも勝利のチャンスがあるため、スタート地点のマルクト広場から数百メートル離れたチームバス駐車エリア。どのチームも念入りに作戦会議を行い、選手たちはなかなかバスから出てこなかった。スタートまで15分を切った時、ようやくフミも姿を表した。

トレックファクトリーのエースは2度のロンド覇者ステイン・デヴォルデル(ベルギー)トレックファクトリーのエースは2度のロンド覇者ステイン・デヴォルデル(ベルギー) photo:Makoto.AYANOフミのロンド出場が公表されたのは前日のことと、異例の直前決定だった。フミは2011年に日本人選手として初めて完走(120位)を果たし、2013年には84位になっている。

チームから出場の可能性を言い渡されたのは火曜のこと。トレックファクトリーはロンドの王者カンチェラーラをE3ハレルベークの負傷(腰骨の骨折)により失った。そしてヘルト・ステーグマンスも先の日曜に開催されたヘント・ウェヴェルヘムで負傷。

2度のロンド覇者ステイン・デヴォルデルで上位を狙うためのメンバー再構築の結果、フミに白羽の矢が立った。フミはディスカバリーチャンネル入りした頃にこの近辺のワレヘムに住んでいたため、このパヴェ一帯は土地勘がある。そのことも選考の要因となったようだ。

フミがロンドを84位で完走したのは2年前(当時はオリカ・グリーンエッジ所属)。しかしチームを移籍してからは、北のクラシックはプログラムに入っていなかった。

スタート前にフミはこう語った。「2年ぶりのロンドはめっちゃ楽しみです。プログラムがジロ(・デ・イタリア)にシフトしてから何か物足りなさを感じていたので、3週間のレースに無いものを感じたいと思います。西フランドル3日間レースに出たとき、ディレク・デモル監督には『クラシックに出ると自分の中で何かが変わる』と話していたんです。でももう機会は無いだろうと思っていた。チームに負傷者が出て、出場を言われたのは火曜のこと。カタルーニャを走ってコンディションも上がっていたので不安はないです。

チームとして命じられている役割は逃げに乗ることと、ステイン(デヴォルデル)のアシストをすること。2年前は向かい風でしたが、今年は追い風気味なので逃げたいとも思います。ステインも一日に300kmも乗り込みを重ねて勝利へのモチベーションも高いので、ワクワクします。今回走るメンバーは”チームワーカー”ばかり。今日の自分のゴールはまずチームの仕事に徹すること。そして2年前はクワレモントの手前まで先頭集団に居ることができたので、今回はそれを上回る走るをしたい」。

フミがスタートに選んだのはドマーネでなくエアロロードバイクのマドンフミがスタートに選んだのはドマーネでなくエアロロードバイクのマドン photo:Makoto.AYANOトレック本社からはジョン・バーグ社長も来てチームに帯同。王者スパルタクスは不在なれど、チームには決してレースを投げている雰囲気はなかった。

コルトレイク、そしてパヴェの待つオウデナールデのエリアへと進んでいくトレックファクトリーはチームスカイとともに前方に固まって位置し、フミも集団の先頭に留まって長く引いた。トレックのバイクとしてはパヴェ用のバイクはドマーネだが、フミがスタートに選んだのはエアロロードバイクのマドン。つまり序盤の舗装の平坦区間で仕事をすることをメインに考えた機材選択だった。



「チームの仕事に徹して満足。やっぱり北のクラシックが好き」

集団前方を固める別府史之(トレックファクトリーレーシング)ら集団前方を固める別府史之(トレックファクトリーレーシング)ら photo:Makoto Ayano
序盤からパヴェに入るまでの長い時間に脚を使ったからか、2度めの周回路のパヴェの急坂でバラけた集団から徐々に後退。フミはオウデナールデのゴールに辿り着くことはできなかった。

オウデ・クワレモントを登る別府史之(トレックファクトリーレーシング)オウデ・クワレモントを登る別府史之(トレックファクトリーレーシング) photo:Makoto.AYANO5回目のロンドを走り終えた別府史之。リタイアしたが仕事には満足気だ5回目のロンドを走り終えた別府史之。リタイアしたが仕事には満足気だ photo:Makoto.AYANO「2回めのオウデ・クワレモントでいったんやめたんですが、もう一度走りだしてパテルブルグを越えたところでポポヴィッチとともにレースから外れ、チームバスに戻りました。今日は序盤から全力で集団を引いていました。チームメイトたちにも評価してもらえ、ステイン(デヴォルデル)には『おかげでいい位置でパヴェに突入することができたよ』と感謝してもらっています。

力を出しきったので後悔は無いです。もちろん自分のレースもしたかったというのはありますが、チーム全員でステインをプッシュして勝ちにいってもらうというのがチームオーダーだったので、その走りをしたまでです。早いうちに全力を出し切ってしまったけれど、それもチームオーダー。最後の周まで行くことはできたけど、チームのレースという点では意味が無いのでやめました。残念だったのはニュートラルカーにはねられたサージェントが鎖骨を折る怪我をしてしまったことです。

今日走って改めてわかったのは、僕はやっぱりクラシックが好きだということ。パヴェもうまく走れるし、ポジションどりもうまくできる。楽しめました」。

5度目のロンド出場は完走とはならなかったが、チームの仕事を果たしたことで表情は満足気だった。この後、ジロ・デ・イタリア前に出場の可能性があるレースは、ブラバンツペイルとアムステル・ゴールドレース。フレッシュ・ワロンヌとリエージュ〜バストーニュ〜リエージュにもリザーブとして名前が入っているという。

トレックファクトリーレーシングとしては今回のロンドで負傷者がまた増えたことで、フミにジロ前の出場機会が増えることになるかもしれない。

photo&text:Makoto.AYANO