今回のインプレッションで取り上げるのは、ボントレガーより登場した新型レーシングタイヤ「R4」シリーズ。その特徴は最新のハイグリップコンパウンドに、伝統的なコットンベースの320TPIケーシングを組み合わせたこと。ラインアップされるチューブラーとオープンチューブラーの2タイプ双方をテストした。



ボントレガー R4 320 クリンチャーボントレガー R4 320 クリンチャー photo:So.Isobe/cyclowired.jp
登場から一世紀が過ぎてもなお日進月歩で進化を続ける競技用自転車。その中でも特に高性能化が顕著なパーツの1つにタイヤがあげられる。形状や構造の変化に対する自由度が全くないながらも、新素材の開発、幅やトレッドパターンの最適化、リムとの相性を考慮した設計などによって改良が続けられてきた。

ポリアミド合成繊維で強化した320TPIのコットンケーシングは非常にしなやかポリアミド合成繊維で強化した320TPIのコットンケーシングは非常にしなやか ボントレガー R4 320 クリンチャー(700 x 25C)の幅は24.6mmボントレガー R4 320 クリンチャー(700 x 25C)の幅は24.6mm しかしここ数年、プロレース界で使用されるタイヤにおいては進化に逆らうトレンドが見られる。フレーム及びホイールの高剛性化による衝撃吸収性の低下や、科学的アプローチによる見直しなど様々な要因が考えられるが、多くのチームが高密度なケーシングを採用した昔ながらのチューブラタイヤを採用するチームが増えてきたのである。その流れを汲むかの様に誕生したのが、今回インプレッションを行うボントレガー 「R4」シリーズだ。

R4シリーズにおいて肝となるケーシングには、コットンをベースに、柔軟性に優れるポリアミド合成繊維で強化したボントレガーの独自開発素材を採用。それぞれの糸を極限まで細くすることで繊維密度を業界最高クラスの320TPIを実現し、衝撃吸収性とトラクション性能の向上を果たしている。

トレッドはシンプルなシングルコンパウンド。タイヤ自体の変形により転がり抵抗とコーナリンググリップを両立する一方で、1つのトレッド面に複数の種類のコンパウンドを配したタイヤに発生しやすいひび割れなどを防止し、耐久性を高めている。トレッドパターンは一見して完全なスリックに見えるものの、実際には梨地。ケーシングとトレッドの間には耐パンク性を高めるHard-Case Liteを挿入した。

見た目からも真円度が高いことが伺い知ることができるボントレガー R4 チューブラー見た目からも真円度が高いことが伺い知ることができるボントレガー R4 チューブラー photo:So.Isobe/cyclowired.jp
また、その見た目はハンドメイドの高級チューブラーにも共通する雰囲気を醸しだしているが、それらに共通する防水処理の手間は必要なく、出荷段階でコーティング済み。トレッドをケーシングに貼り付ける際の接着剤のはみ出しもなく、非常に高い精度で生産されていることが伺い知れる。

ラインアップはチューブラーとオープンチューブラー(クリンチャー)の2種類で、トレッドは共通。チューブラーはケーシングの振動吸収性を引き立たせるラテックスチューブを使用している。サイズはチューブラーが700 x 23Cと700 x 25Cの2種類、オープンチューブラーが700 x 25Cの1種類という展開だ。

今回のインプレッションではチューブラーとオープンチューブラーは共に25Cをテストした。チューブラーのテストホイールはボントレガーのAeolus 3で、幅と重量の実測値は23.6mm/289g。オープンチューブラーに用いたのはシマノWH-7900-C24-CLで、こちらは24.6mm/224.5g。なお空気圧は7barを基準としている。



ーインプレッション

R4 320 クリンチャー「25Cクリンチャーのベンチマークになりうる軽快なタイヤ」
小畑郁(なるしまフレンド)

近年主流になってきている25Cというサイズですが、まだまだ研究開発が進んでおらずベタベタとした軽快感に乏しいものが多いというのが現状です。しかし今回R4をテストしてみて、よく転がる一方で物理的な重さが気にならないタイヤがついに出てきたなと感心させられました。

まず、転がりの良さは25Cという太さとオープンチューブラー構造の組み合わせが大きな要因になっていますね。今回はテストできませんでしたが、低圧で使用してもよく転がってくれるでしょう。個人的にはオープンチューブラータイプのタイヤが好みでよく使用しているのですが、トレッドでグリップさせるタイヤが好みという方はややネバネバしていると感じるかもしれませんので、好みが別れるところです。

R4 320 クリンチャー「25Cクリンチャーのベンチマークになりうる軽快なタイヤ」小畑郁(なるしまフレンド)R4 320 クリンチャー「25Cクリンチャーのベンチマークになりうる軽快なタイヤ」小畑郁(なるしまフレンド)
造りと同じく、グリップ感やその挙動も非常にオーソドックスで扱い易いですね。イタリアンブランドのオープンチューブラーよりもコーナリング時のグリップに粘りがあって、ビギナーの方でも安心できるのではないでしょうか。今回は7barでテストしましたが、空気圧を落としてもダルくなりにくいため、グリップを重視するならばもう少し低圧で乗ってあげると良いでしょう。

快適性についても良好で320TPIの高密度なケーシングとエアボリュームによって、振動をしっかりと吸収してくれます。そしてサイドウォールを黒くせずアメサイドのままとし、ケーシングの柔軟性を維持したこともしなやかさに繋がっているのでしょう。

総じて最適な用途はレースですね。低圧でも転がって、グリップと快適性に優れる万能タイヤですが、やはりアメサイドのケーシングは汚れやすく、傷つきやすいことに加え、丁寧に扱ってもやや寿命が短いという点では決戦用といえるでしょう。このタイヤを自分の店で扱えないのが本当に惜しいくらいですね。

R4 チューブラー 「トレッドでグリップを稼ぐクリンチャーの様な乗り味のタイヤ」
山崎嘉貴(ブレアサイクリング)


イタリアンブランドのトラディショナルなチューブラーを更にソフトにしたタイヤというのが第一印象ですが、腰があってしなやかというチューブラーの一般的な乗り味とは異なります。ケーシングのしなやかさというよりも、標準よりも幅広なトレッドによって接地面積が大きくなったことが、よりソフトに感じた要因です。

トラディショナルな高級チューブラーといえばケーシングの変形によってコーナリンググリップを稼ぎ、振動を吸収するのが常ですが、R4はそうではありません。タイヤ自体が変形せずとも快適性が高く、トレッドが路面に食いついてグリップしてくれます。これはまさしく現代的なクリンチャータイヤの乗り味。トレッドが薄いことによるソリッド感も一般的なチューブラーにはないものですね。

R4 チューブラー 「トレッドでグリップを稼ぐクリンチャーの様な乗り味のタイヤ」山崎嘉貴(ブレアサイクリング)R4 チューブラー 「トレッドでグリップを稼ぐクリンチャーの様な乗り味のタイヤ」山崎嘉貴(ブレアサイクリング)
クリンチャーにしか乗ったことがないという方の中には、ケーシングを潰してバイクを大きく倒す必要のあるチューブラーの乗り方に違和感を覚えるという意見も少なくないですが、R4であれば、すんなり馴染めると思います。ハンドリングもニュートラルで、いきなり切れ込む様なことはありません。転がり性能も満足できるレベルに仕上がっています。なお、空気圧は体重60kgの私で6~6.5Barの間にベストがあると感じました。70kgのライダーであれば7Bar程度でしょうか。

用途的にはエンデューロから登録系のレースまで様々なシチュエーションに対応してくれるでしょう。ただ、今回はテストできなかったのですが、砂や油が浮いたスリックタイヤにとって苦手な路面状況でどこまでグリップしてくれるのかが気になるところ。また、個人的な経験から推察するにスリックであるが故に磨り減って接地面が更に大きくなった時に転がりを始めとした性能低下が他ブランドよりもやや早いかもしれません。

総じて性能を考慮すれば、価格は適切といえるでしょう。イタリアンブランドの様な茶色いアメサイドというわけではなく、ケーシング部分が白くクラシカル過ぎないため、最新鋭のカーボンフレームと組み合わせやすいという点も評価できるポイントですね。それでいて、しっかりとコーティングが施されているため、チューブラーにありがちなケーシングの硬化も少なそうです

また、アメリカンブランドらしくホイールとの組み合わせも考えて設計されているのではと感じました。今回のテストホイールとの組み合わせは非常に安心できるパッケージでしたから、Aeolusチューブラーを購入したら先ずはこのタイヤを履かせることをおすすめしたいですね。R4を使い終わっても標準パッケージとして、その後のタイヤ選びの指標になってくれることでしょう。

ボントレガー R4 チューブラーボントレガー R4 チューブラー photo:So.Isobe/cyclowired.jp

ボントレガー R4 チューブラー 
サイズ:700 x 23C、700 x 25C
ケーシング:コットン/ポリアミド合成繊維(320TPI)
インナーチューブ:ラテックス
実測重量:280.5g(23C)、289g(25C)
価 格:11,900円(税込)

ボントレガー R4 320 クリンチャー
サイズ:700 x 25C
ケーシング:コットン/ポリアミド合成繊維(320TPI)
実測重量:224.5g
価 格:8,900円(税込)




インプレライダーのプロフィール

山崎嘉貴(ブレアサイクリング)山崎嘉貴(ブレアサイクリング) 山崎嘉貴(ブレアサイクリング)

長野県飯田市にある「ブレアサイクリング」店主。ブリヂストンアンカーのサテライトチームに所属したのち、渡仏。自転車競技の本場であるフランスでのレース活動経験を生かして、南信州の地で自転車の楽しさを伝えている。サイクルスポーツ誌主催の最速店長選手権の初代優勝者でもあり、走れる店長として高い認知度を誇っている。オリジナルサイクルジャージ”GRIDE”の企画販売も手掛けており、オンラインストアで全国から注文が可能だ。

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小畑郁(なるしまフレンド)小畑郁(なるしまフレンド) 小畑郁(なるしまフレンド)

その圧倒的な知識量と優れた技術力から国内No.1メカニックとの呼び声高いなるしまフレンド神宮店の技術チーフ。勤務の傍ら精力的に競技活動を行っており、ツール・ド・おきなわ市民210kmでは2010年に2位、2013年と2014年に8位に入った他、国内最高峰のJプロツアーではプロを相手に多数の入賞経験を持つ。現在もなお、メカニックと競技者の双方の視点から自転車のディープで果てしない世界を探求中。

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ウェア協力:GRIDE

text:Yuya.Yamamoto
photo:So.Isobe, Makoto.AYANAO
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