ツアー・オブ・ジャパン参戦など国内でもお馴染みのオーストラリアのプロコンチネンタルチーム「ドラパックプロサイクリング」。国内では「レモネード・ベルマーレ」。そのチームバイクであるスウィフトカーボンのハイエンドモデル、ULTRAVOX TIのインプレッションをお届けしよう。



スウィフトカーボン ULTRAVOX TIスウィフトカーボン ULTRAVOX TI photo:MakotoAYANO/cyclowired.jp
スウィフトカーボン(SWIFT CARBON)は「世界中で最も高性能なバイクを生み出し、それぞれのモデルを適切な価格で世に送り出すこと。そして、ユーザーのサイクルライフをより豊かなにすること」をモットーに掲げる新興ブランド。わずか8年前に創業したばかりと歴史は浅いものの、既に31もの国々で展開され、高い評価を得てきた。現在ラインアップされるのは4種類のロードバイクを含む全8モデルで、いずれもが競技での使用を前提としたレーシングバイクである。

そんなスウィフトカーボンの創業者が、現在のCEOである南アフリカ人のマーク・ブルウェット氏。アフリカ人プロサイクリストのパイオニアの1人として知られ、1990年代には6年間に渡ってフランスとポルトガルのプロチームに所属。また、キャプテンとしてナショナルチームを率いるなど、今日この頃の様にアフリカ大陸出身の選手がトップレベルのレースで活躍するようになる礎を築きあげてきた人物だ。

一方で、競技生活と平行してブルウェット氏が熱心に取り組んでいたのが「デザイン」である。幼いことよりランプを自作するなどものづくりに強い興味を持ち、学生時代には工業デザインを専攻していた。現役引退後は自国で自転車用品輸入会社に勤務したものの、業務として訪れた中国でカーボンフレームの製造現場を視察したのをキッカケにデザイナーとしての夢が再燃。競技自転車の製造に取り組むことになる。

ボリューム感ある造りのダウンチューブボリューム感ある造りのダウンチューブ XXSサイズでは84mmと非常に短いヘッドチューブXXSサイズでは84mmと非常に短いヘッドチューブ エアロ形状のフロントフォーク。ヘッドチューブとのインテグレーテッドデザインとあわせて空気抵抗を低減しているエアロ形状のフロントフォーク。ヘッドチューブとのインテグレーテッドデザインとあわせて空気抵抗を低減している


そうして立ち上がったのがスウィフトカーボン。世界のカーボンフレーム工場と呼ばれる中国は廈門市(アモイ)に拠点を置き、開発から生産、品質管理までを一括で行うことで、ユーザーやプロチームからのフィードバックを瞬時に取り入れることを可能とした。また創業時より大幅に規模が拡大した現在もなお、ブルウェット氏は現場で指揮をとり続け、現役時代に得たノウハウをプロダクトに落としこんでいるという。

さて、今回インプレッションするULTRAVOX TIはオーストラリアのプロコンチネンタルチーム「ドラパックプロサイクリング」がメインバイクとして使用するフラッグシップ。複数の大手ブランドでフレーム設計に携わってきたデザイナーが設計を行い、1つの性能に特化することなく剛性、空力、快適性、軽量性とロードバイクに求められる全てを高め、バランスを追求したオールラウンドモデルである。

すらっと伸びたトップチューブ。新興ブランドながら伝統的なホリゾンタルスタイルを採用するすらっと伸びたトップチューブ。新興ブランドながら伝統的なホリゾンタルスタイルを採用する レーシングバイクという位置付けながらグラフィックは手が込んでいるレーシングバイクという位置付けながらグラフィックは手が込んでいる

チェーンステー後端をやや上方にオフセットさせることでトラクションを稼ぎだすチェーンステー後端をやや上方にオフセットさせることでトラクションを稼ぎだす PF30規格のBBシェルにあわせて目一杯拡幅されたダウンチューブとシートチューブ、チェーンステーPF30規格のBBシェルにあわせて目一杯拡幅されたダウンチューブとシートチューブ、チェーンステー


素材には自転車用としてはお馴染みの東レ製T1000、T800、T700という3種類のカーボンを採用。これらを適材適所で組み合わせ、レイヤリングを最適化し、チューブの断面形状を部位ごとに細かく変化させることでレーシングマシンとして走行性能を追求している。

剛性を担うのはヘッドチューブ~ダウンチューブ~BB~チェーンステーに掛けてと、シートチューブのBB側のフレーム下部。いずれのチューブもねじれ剛性に優れるスクエア形状とし、シートチューブ及びチェーンステーは非対称設計に。加えて、BBシェルにはPF30規格を採用し、接続する各チューブと接触面積を大きく取ると同時に、チェーンステー間距離を最大限に拡幅することで駆動ロスを抑制し、加速性能を向上させた。

一方でフレーム上部は快適性を担う。後方へ向けて扁平率を高めるトップチューブや、極めて薄い造りとしながらもエンド付近をツイストさせたシートステー、やや上方にせり上がったチェーンステーの後端によって、縦方向の柔軟性のみを向上。横方向やねじれ方向の剛性を確保することでパワーロスを最小限に留めている。

ツイストされたシートステーの先端によって垂直方向の柔軟性と横剛性を両立ツイストされたシートステーの先端によって垂直方向の柔軟性と横剛性を両立 左右非対称設計のチェーンステー左右非対称設計のチェーンステー


フレーム同様に直線的なデザインとされたフロントフォークはエアロダイナミクスを重視。厚みを抑えることで前方投影面積を低減したブレード形状と、ショルダー部分とヘッドチューブのインテグレーテッドデザインによって気流の乱れを抑え、エアフローを滑らかに。もちろん運動性能の向上も忘れられておらず、下側1-1/2インチのテーパード設計などによって高速走行時の優れた安定性とナチュラルな操作性を実現した。

また、新興ブランドながら細部にもこだわって作られているULTRAVOX TI。他ブランドの多くがアルミ製とするディレーラーハンガーを敢えて高強度なチタン製とすることでシフトの軽快感を追求。ケーブル類は全て内装ながらも、リアディレーラー用シフトワイヤーの出口をチェーンステーの側面に設けるなど各グロメットの取り付け位置や角度にこだわることでスムーズかつ自然なルーティングを可能としている。

そして、信頼性の高さもULTRAVOX TIの特徴の1つであり、生涯保障が付帯する。なお、実際に2014シーズン中にドラパックへと100本以上を供給したものの返品は一切なかったという逸話もある。

シートチューブ、トップチューブ、シートステーの接続部を風船の様に拡げることで強度を高めているシートチューブ、トップチューブ、シートステーの接続部を風船の様に拡げることで強度を高めている 縦方向の柔軟性を高めた細身のシートステー縦方向の柔軟性を高めた細身のシートステー 過剛性を抑えるべく中央付近から断面積を拡大させたシートチューブ過剛性を抑えるべく中央付近から断面積を拡大させたシートチューブ


サイズはXXS、XS、S、M、L、XLの6種類が揃い、カーボンフレームながらジオメトリーはサイズごとに細かく調整されている。特にトップチューブ長505mmの最小サイズXXSはヘッドチューブ長が84mmと短く設定され、小柄なライダーにあってもアグレッシブなライディングポジションを可能としている。

販売パッケージは3種類が設定されており、スラムRED22完成車、シマノUltegra Di2完成車、フレームセットがラインアップされる。今回の試乗車はコンポーネントをシマノ105、ホイールをマヴィックCOSMIC CARBON ULTIMATEとしている。

新興ブランドながら、老舗トップブランドと遜色ない戦績を残しているスウィフトカーボン社。そのフラッグシップロードであるULTRAVOX TIは果たしてどんな性能をもっているのだろうか。早速インプレションに移ろう。



ーインプレッション

「バネ感のあるバランスがとれた1台 クリテからアップダウンに富んだラインレースまで幅広く対応してくれる」
小畑郁(なるしまフレンド神宮店)


むやみに硬すぎることなく、必要十分な剛性感の中にもバネ感のあるバランスがとれたバイクですね。この乗り味はプロレースの様に長距離走った後でのスプリント性能を重視したものでしょう。剛性が過多ですと200km走ってゴール前勝負となった時に力を掛けにくいということがありますから。ULTRAVOX TIは真の意味でプロユースのバイクといえますね。

「バネ感のあるバランスがとれた1台 クリテからアップダウンに富んだラインレースまで幅広く対応してくれる」小畑郁(なるしまフレンド神宮店)「バネ感のあるバランスがとれた1台 クリテからアップダウンに富んだラインレースまで幅広く対応してくれる」小畑郁(なるしまフレンド神宮店) 設計自体は近年のトレンドにそっており、フレームの下部が剛性を担う一方で、上部はチューブの断面形状を扁平させることで縦の柔軟性を持たせています。中でもバランスのとれた乗り味の決め手となっているのがボリュームを抑えたトップチューブで、硬すぎず柔らかすぎず絶妙な剛性感でした。これに高剛性のフロントフォークを組み合わせることで、登りダンシングでの高い軽快感を実現しているのでしょう。

硬すぎるとダンシングが長続きしないものですが、このバイクの場合にはギアをかけながら長い時間左右にバイクを振ることができます。一方で、ハイケイデンスのシッティングでも軽やかにバイクが前に進んでくれました。幅広いペダリングスキルを許容でき、乗り手を選ばないバランスのとれた1台といえますね。

バランスの良さは下り性能にも現れており、初めてのバイクで適性サイズよりも小さいとなると大抵は何かしらの違和感を覚えるのですが、至ってニュートラルで不安を覚えることはありませんでした。平地巡航は高速域での維持がやや苦手という印象ですが、やや重めのエアロホイールを組み合わせれば打ち消すことができるレベルですね。その分だけ加速性能には優れており、重いギアでやんわりと加速しても、アタックの如くギアを選んで鋭く踏み込んでもバイクが瞬時に反応してくれますし、軽量ホイールを装備することでその性能がより引き立つでしょう。

また、このバイクの大きな特徴であるジオメトリーについてですが、今回試乗したサイズはヘッドチューブ長が85mmながら見た目的にも乗り味的にも破綻しておらず、非常にニュートラル。スローピングしていないことからサドル高に対する許容範囲がやや狭いですが、それでも小柄な方には有力な選択肢の1つになるるでしょう。

メカニック的な視点では、ワイヤリングがやや複雑なのが気になるところ。ただ、これはスウィフトカーボンに限らず、新興ブランドならどこでもあることで、今後の改良に期待したいところですね。メカに自信のない方はショップにメンテナンスを任せるべきでしょう。

総じて、何度も加減速を繰り返す様なクリテリウムから、アップダウンに富んだラインレースまで、ありとあらゆるタイプのロードレースに対応してくれる1台といえるでしょう。新興ブランドながら完成度が高く、ドラパックが使い続けるのも納得できる性能があります。各メーカーのハイエンドと遜色ない性能を考えると、シリアスレーサーであればどんな方にも最適。また国内ではそれほど台数の多くないブランドですから、一味違ったバイクが欲しいと言う方にもおすすめですね。

「一言で例えるならばピュアレーシングマシン あらゆるタイプの乗り方に対応する懐の広い1台」
山崎嘉貴(ブレアサイクリング)


一言で例えるならばピュアレーシングマシンで、勝つことを宿命として誕生したバイクですね。ただ多くのレースモデルとは異なり、ニュートラルで扱いやすくライダーに対するキャパシティーが広いと感じました。どの様なペダリングをしてもBB周りが抵抗することなくスッと入力を出力に変換してくれました。

恐らく、この乗り味は全体的に均一な剛性分布と安定性を重視したジオメトリーの組み合わせによるものでしょう。カーボン自体は非常に硬質ですが、シートアングルとヘッドアングルを共に寝かせ気味とすることで、素材の角を取っていると感じました。またシート角を寝かせたことで、小さいサイズにあってもサドルのセットバックを大きくとれるというメリットもありますね。

「一言で例えるならばピュアレーシングマシン あらゆるタイプの乗り方に対応する懐の広い1台」山崎嘉貴(ブレアサイクリング)「一言で例えるならばピュアレーシングマシン あらゆるタイプの乗り方に対応する懐の広い1台」山崎嘉貴(ブレアサイクリング)
また、キャパシティーの広さは得意とするシチュエーションにも通じています。硬すぎるバイクですと、登りできつくなってきてインナーに落としてケイデンスが高くなる際に失速感を覚えることがありますが、このバイクの場合にはそれがありません。ですから、ホビーレーサーにとってはヒルクライムにピッタリといえますね。重量こそ900gと近年のハイエンドとしては決して軽いとはいえませんが、それを感じさせないほどに軽快な走りをしてくれます。

その一方で決して剛性が低いということもなく、低ケイデンスでギアを掛けて踏んでもロス無く推進力に変換してくれます。加速についても頭打ち感がなく、どんどんとスピードが伸びていってくれます。平地巡航性能についても申し分ないと感じました。

今回は適性サイズよりも小さな試乗車でしたが、乗りにくいと感じることはありませんでした。下りもアグレッシブに攻めることができましたし、このままテクニカルなダウンヒルで有名な群馬CSCでレースしても良いと感じたほど。つまり適性サイズならば非常に高い走行安定性を得られるはずです。

ただ、個人的にはハンドル周りの硬さが気になりました。試乗車のXXSサイズは小柄なアグレッシブなポジションを実現しやすい反面、過剛性気味で長く走ると一般的なバイクよりも身体へのダメージが大きのではと感じました。私ならば、ダンシングする際には腕というよりも体幹で振ることを心がけ、振動吸収性に優れるカーボン製ハンドルをアッセンブルすることで疲労の蓄積を抑えます。とはいっても購入に際して留意するほどでもありませんし、サイズ固有の問題である可能性が大きいですね。

用途的には最初に述べたとおりレースユースが最適で、どの様なプロファイルのコースにも対応してくれます。アッセンブリーについては硬めでシャキシャキとした乗り味のホイールと相性が良いでしょう。カンパニョーロBORA 35や各社のアルミリムのハイエンドモデルがマッチするはずです。

スウィフトカーボン ULTRAVOX TIスウィフトカーボン ULTRAVOX TI photo:MakotoAYANO/cyclowired.jp
スウィフトカーボン ULTRAVOX TI
カーボン素材:東レT1000/T800/T700
リアディレーラーハンガー:チタン製
ヘッドチューブ:上側1-1/8" / 下側1-1/2"
ボトムブラケット:PF30
シートポスト径:27.2mm
フロントディレイラー台座:直付
フレーム重量:900g(サイズM)
サイズ:XXS、XS、S、M、L、XL
カラー:Blue、Black
税別価格:
スラムRED22完成車(Blue) 769,000円
シマノUltegra Di2完成車(Black) 618,000円
フレームセット(Blue) 368,000円
フレームセット(Black) 343,000円



インプレライダーのプロフィール

小畑郁(なるしまフレンド)小畑郁(なるしまフレンド) 小畑郁(なるしまフレンド)

その圧倒的な知識量と優れた技術力から国内No.1メカニックとの呼び声高いなるしまフレンド神宮店の技術チーフ。勤務の傍ら精力的に競技活動を行っており、ツール・ド・おきなわ市民210kmでは2010年に2位、2013年と2014年に8位に入った他、国内最高峰のJプロツアーではプロを相手に多数の入賞経験を持つ。現在もなお、メカニックと競技者の双方の視点から自転車のディープで果てしない世界を探求中。

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なるしまフレンド


山崎嘉貴(ブレアサイクリング)山崎嘉貴(ブレアサイクリング) 山崎嘉貴(ブレアサイクリング)

長野県飯田市にある「ブレアサイクリング」店主。ブリヂストンアンカーのサテライトチームに所属したのち、渡仏。自転車競技の本場であるフランスでのレース活動経験を生かして、南信州の地で自転車の楽しさを伝えている。サイクルスポーツ誌主催の最速店長選手権の初代優勝者でもあり、走れる店長として高い認知度を誇っている。オリジナルサイクルジャージ”GRIDE”の企画販売も手掛けており、オンラインストアで全国から注文が可能だ。

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ウェア協力:GRIDE

text:Yuya.Yamamoto
photo:Makoto.AYANAO