国内にも本格的なロードシーズンが到来。3月15日、栃木県宇都宮市郊外にてJプロツアー開幕戦「JBCF宇都宮クリテリウム」が開催された。落車頻発により波乱の展開となったレースは集団スプリントに持ち込まれ、TeamUKYOの窪木一茂が優勝。1週間前に不慮の事故により亡くなった後輩和田力へ勝利を捧げた。



故・和田力選手への黙祷故・和田力選手への黙祷 photo:Yuya.Yamamoto涙をこらえながらマイクを握るマトリックスパワータグの安原昌弘監督涙をこらえながらマイクを握るマトリックスパワータグの安原昌弘監督 photo:Yuya.Yamamotoマトリックスパワータグの選手を先頭1周のニュートラルの後、アクチュアルスタートが切られたマトリックスパワータグの選手を先頭1周のニュートラルの後、アクチュアルスタートが切られた photo:Yuya.Yamamoto昨年に引き続き、国内最高峰のロードレースシリーズ「Jプロツアー」の開幕戦となったのは宇都宮クリテリウム。地元を代表する人気チームで昨季は年間チーム総合優勝を獲得した「宇都宮ブリッツェン」、6月の全日本選手権開催地を本拠とし全日本王者の佐野淳哉を擁す「那須ブラーゼン」、今季Jプロツアーへの昇格を果たした「HONDA栃木」の地元3チームがホストを務めた。

このレースは「エンターテインメント性溢れる”魅せるイベント”」を目指し、宇都宮ブリッツェンを運営するサイクルスポーツマネジメント株式会社をレース運営に深く参画。弱虫ペダルの渡辺航先生によるトークショーや選手らを招いてのステージイベント、企業や地元商工会のブース、フードコート、出張動物園など他のJBCFレースとは異なる華やかな雰囲気の中開催された。

「宇都宮クリテ」の舞台となったのは、宇都宮駅から車でおよそ20分ほどの郊外にある清原工業団地内に設けられたオールフラットの特設コース。今年はバックストレートにヘアピンが追加され、1周当たりの距離は300m伸びて3.0kmに。一日を通して空を厚い雲が覆ったものの多くの観客が詰めかけ、主催者発表によれば来場者数は昨年より4,000人増の約11,000人に。

レース方式はカテゴリーごとに異なる。E1、E2、E3のエリートクラスは隔周回に設けられたポイントの獲得合計点で競うポイントレース、最高峰カテゴリーであるJプロツアーとJフェミニンはゴールの順位で競う純粋なクリテリウムレース(ニュートラル有り)だ。

Jプロツアーはスタート前に、1週間前の3月8日にトレーニング中の不慮の事故によって亡くなったマトリックスパワータグ所属の故・和田力選手へ黙祷が捧げられる。その後、マトリックスパワータグを代表して安原昌弘監督がマイクを握り「本日は貴重なお時間を割いて頂きありがとうございました。和田力という大きな選手がいた事を忘れないで下さい」と涙をこらえながら述べた。

そして、定刻どおり13時ちょうどに号砲。左腕に喪章をつけたマトリックスパワータグの8名の選手たちを先頭とした1周のニュートラル走行の後、アクチュアルスタートが切られた。



序盤から飛び出しを図る動きが頻発した序盤から飛び出しを図る動きが頻発した photo:Yuya.Yamamotoスカイダイブ・ドバイからチームUKYOに移籍したオスカル・プジョルが先頭を引くスカイダイブ・ドバイからチームUKYOに移籍したオスカル・プジョルが先頭を引く photo:Makoto.AYANO

今年より新設されたバックストレートのヘアピン今年より新設されたバックストレートのヘアピン photo:Yuya.Yamamoto
12周目のスプリント賞はとちおとめ20パック12周目のスプリント賞はとちおとめ20パック photo:Yuya.Yamamoto約1kmのホームストレートには大勢の観客が集まった約1kmのホームストレートには大勢の観客が集まった photo:Yuya.Yamamoto



2人で逃げに出た雨澤毅明(那須ブラーゼン)とサルバドール・グアルディオラ(スペイン、TeamUKYO)2人で逃げに出た雨澤毅明(那須ブラーゼン)とサルバドール・グアルディオラ(スペイン、TeamUKYO) photo:Makoto.AYANO
アタックしたロイック・デリアック(キナン)、佐野淳哉(那須ブラーゼン)、サルバドール・グアルディオラ(スペイン、TeamUKYO)アタックしたロイック・デリアック(キナン)、佐野淳哉(那須ブラーゼン)、サルバドール・グアルディオラ(スペイン、TeamUKYO) photo:Makoto.AYANO残り3周に入るスタート/ゴール地点で発生した大落車残り3周に入るスタート/ゴール地点で発生した大落車 photo:Yuya.Yamamotoレースは序盤からアタックが頻発。是が非でも勝利したいマトリックスパワータグからは永良大誠が、ホストチーム勢からは阿部嵩之(宇都宮ブリッツェン)、雨澤毅明(那須ブラーゼン)、川田優作(Honda栃木)が、新チームKINANからは野中竜馬やロイック・デリアック(フランス)が飛び出しを図る。しかしながら、オスカル・プジョル(スペイン)や土井雪広らTeamUKYOが強力にメイン集団を牽引したことによってメイン集団に引き戻される。

その後、9周目でサルバドール・グアルディオラ(スペイン、TeamUKYO)と雨澤の2名が飛び出し、この日初めての逃げが成立する。一方、逃げを送り込めなかったKINANやレモネードベルマーレがコントロールするメイン集団では全日本王者の佐野淳哉(那須ブラーゼン)や増田成幸(宇都宮ブリッツェン)ら複数の有力選手を含む大落車が発生。これにより横山航太(シマノレーシング)ら数名がレースを降りることに。

後続の混乱をよそに順調にタイム差を稼ぐグアルディオラと雨澤の先頭2名。しかし、一旦のペースダウンのあとに再度加速し始めたメイン集団には敵わず。一時15秒弱のタイム差を稼ぐも14周目に吸収。残り5周で佐野が集団を飛び出し、デリアックと先ほどまで逃げていたグアルディオラが合流するが、この強力な逃げ集団も1周ほどで宇都宮ブリッツェンらのコントロールによって後続に吸収され、集団は再度1つに。

勝負は枚数を揃えた宇都宮ブリッツェン、TeamUKYO、KINANを中心とした集団スプリントで決すると思われた矢先。100名弱を残したメイン集団では、残り3周に差し掛かるホームストレートで2車線の道路が塞がるほど大規模な集団落車が発生する。そして、混乱が収まりきらないホームストレートに戻ってきたメイン集団と、ニュートラルによってレースに復帰しようとする選手たちが絡み、再び大きな落車が引き起こされてしまう。なお、この大落車について「人数が多すぎる」「現場の統制が取りきれていない」などの原因を指摘する声が選手たちから上がっている。JBCFには選手たちから強く改善が求められることになるはずだ。選手の側もニュートラルからの復帰方法など根本的なルールを習得しておく必要がある。

上記の落車で宇都宮ブリッツェンはスプリントに長ける大久保陣、鈴木真理、鈴木譲の3名を失い、フィニッシュへと戻ってきたメイン集団はTeamUKYOが完全に支配。新加入のパブロ・ウルタスン(スペイン)のリードアウトから発射された窪木一茂(TeamUKYO)が、吉田隼人(マリックスパワータグ)を交わして優勝。波乱の開幕戦を制した。



TeamUKYOがリードする形で最終局面へと突入するTeamUKYOがリードする形で最終局面へと突入する photo:Yuya.Yamamoto窪木一茂(TeamUKYO)の左から吉田隼人(マトリックスパワータグ)が迫る窪木一茂(TeamUKYO)の左から吉田隼人(マトリックスパワータグ)が迫る photo:Yuya.Yamamoto

吉田隼人(マトリックスパワータグ)を交わした窪木一茂(TeamUKYO)が波乱の開幕戦を制す吉田隼人(マトリックスパワータグ)を交わした窪木一茂(TeamUKYO)が波乱の開幕戦を制す photo:Yuya.Yamamoto


表彰台 左から2位吉田隼人(マトリックスパワータグ)、優勝窪木一茂(TeamUKYO)、3位パブロ・ウルタスン(スペイン)表彰台 左から2位吉田隼人(マトリックスパワータグ)、優勝窪木一茂(TeamUKYO)、3位パブロ・ウルタスン(スペイン) photo:Yuya.Yamamoto自身初のルビーレッドジャージを獲得した窪木一茂(TeamUKYO)自身初のルビーレッドジャージを獲得した窪木一茂(TeamUKYO) photo:Yuya.Yamamoto優勝した窪木は、故・和田力選手の日本大学時代の先輩であり、卒業後も和歌山県代表のチームメイトとして共にトラック競技に打ち込んできた。「出走するか迷ったほど。今日はなんとかチームの仕事をこなせればと考えていました」と本調子でなかったことを明かしたうえで、「でも朝食の時に和田の話題が出てきて、土井選手から『調子どうこうじゃなくて、和田の分までがんばろうぜ』と言ってもらい、胸がいっぱいになった。マトリックスさんもそうだとは思ったけど、僕たちが和田のためにできることは勝つこと。だから精一杯頑張れました」と語った。

また、レースについては「チームメイトの助けがあったからこそ今日は勝てた。僕は最後の200mをただ全力でもがき切っただけです」とコメント。最後に今シーズンの目標について「個人としては来年のリオ五輪に向けてトラックも頑張りつつ、全日本選手権も狙って行きたい。チームとしてはJプロツアーの年間個人3連覇とチーム優勝を狙います」と意気込んだ。

対して僅差の2位となった吉田隼人は「(スプリントのタイミングが早すぎたと指摘され)本当はあと1人リード選手が欲しかった。チームとして悪かったポイントは話さずともわかっているし、次につながる走りができた。(和田選手が亡くなったことを受けて)宇都宮クリテを棄権することも考えたが、(マトリックスの)辻義光社長から『前を向いていこう』という言葉をもらい、結果的に今日走ることができて良かったと思う。」とコメントした。

Jプロツアー総合リーダーの証であるルビーレッドジャージはもちろん窪木が、U23対象のピュアホワイトジャージは城田大和(宇都宮ブリッツェン)が獲得。次戦は4月12日に開催される伊吹山ヒルクライムだ。

弱虫ペダル作者渡辺航先生のトークショーで盛り上がった弱虫ペダル作者渡辺航先生のトークショーで盛り上がった photo:Makoto.AYANOステージイベントにも大勢の観客が訪れたステージイベントにも大勢の観客が訪れた photo:Makoto.AYANO

フードゾーンは家族連れの観客なども楽しめたフードゾーンは家族連れの観客なども楽しめた photo:Makoto.AYANO栃木の味を堪能していってください!栃木の味を堪能していってください! photo:Makoto.AYANO




第2回 JBCF 宇都宮クリテリウム 結果
P1(3.0km×20周=60km)
1位 窪木一茂(TeamUKYO)            
2位 吉田隼人(マトリックスパワータグ)
3位 パブロ・ウルタスン(スペイン、TeamUKYO)
4位 野中竜馬(KINAN Cycling Team)
5位 畑中勇介(TeamUKYO)
6位 中里仁(レモネードベルマーレ)
7位 増田成幸(宇都宮ブリッツェン)
8位 中村龍太郎(イナーメ信濃山形)
9位 小畑郁(なるしまフレンドレーシングチーム)
10位 木村圭佑(シマノレーシング)
1h23'43"







+1"



F(3.0km×8周=24km)
1位 吉川美穂(ASAHI MUUR ZERO)       
2位 豊岡英子(パナソニックレディース)
3位 針谷千紗子(Live GARDEN BICI STELLE)
4位 岡本二菜(スミタ・エイダイ・パールイズミ・ラバネロ)
5位 知野真央(Neilpryde - Nanshin Subaru Cycling)
6位 金子広美(イナーメ信濃山形-EFT)
38'48"



+1"



E1(3.0km×14周=42km)
1位 風間博之(サイクルフリーダムレーシング)          
2位 佐藤信哉(VC Fukuoka)
3位 所司純一(CycleRacingTeam MOJYUMA Area07)
4位 小野康太郎(スミタ・エイダイ・パールイズミ・ラバネロ)
5位 大野二美雄(ACQUA TAMA)
6位 青柳雅人(セオレーシング)
15Pts
15
7
6
5
5


E2(3.0km×12周=36km)
1位 渡邉正光(LinkTOHOKU)
2位 半澤雄高(LinkTOHOKU)
3位 伊藤卓馬(なるしまフレンド)
4位 伊藤晋一(G.S.POSITIVO)
5位 小野寺慶(ブラウ・ブリッツェン)
6位 大橋聖二(Honda 栃木 JET)
20Pts
10
6
5
4
4


E3 1組目(3.0km×5周=15km)
1位 石川雅望(TRC PANAMAREDS)        
2位 八幡光哉(Team SPORTS KID)
3位 渋谷明TRC PANAMAREDS) 
4位 水戸部圭一郎(NSR)
5位 吉田勝雅(ALTOPIANO)
6位 阿部航大(ブラウ・ブリッツェン)
11Pts
8
3
3
1
1


E3 2組目(3.0km×5周=15km)
1位 森田裕紀(LinkTOHOKU)         
2位 山田大介(スミタ・エイダイ・パールイズミ・ラバネロ)
3位 島崎 一也(シャークアイランド)
4位 和田清秀(ALTOPIANO)
5位 小田島篤(湾岸サイクリング・ユナイテッド)
6位 田村武士(TRC PANAMAREDS)
6Pts
5
5
4
3
1



text:Yuya.Yamamoto
photo: Makoto.AYANO, Yuya.Yamamoto

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