スペイン・ポンフェラーダにて開催中のロード世界選手権を取材している田中苑子フォトグラファーによる現地レポート。女子ジュニアロードで好成績をマークした坂口聖香と梶原悠未に密着し、その言葉とともにレースを振り返る。



レース前にウォーミングアップをするジュニア女子カテゴリー2選手レース前にウォーミングアップをするジュニア女子カテゴリー2選手 photo:Sonoko.Tanakaスタート前にイタリアメディアの写真撮影に応じるスタート前にイタリアメディアの写真撮影に応じる photo:Sonoko.Tanaka

スタートラインで緊張した面持ちをみせる梶原悠未スタートラインで緊張した面持ちをみせる梶原悠未 photo:Sonoko.Tanaka


冬を思わせるキーンと冷えた空気に包まれて迎えた世界選手権、個人ロードレース種目の初日。21日から開催されていたタイムトライアル種目では、何度もにわか雨などの不安定な天気に見舞われたが、25日の公式練習日を経て、季節が1つ進んだ印象を受ける。気温10℃の午前9時、真っ青に澄み渡った空のもと、ロードレース種目最初のカテゴリーとなる女子ジュニアがスタートした。

地元の小学生たちがポンフェラーダ城前で観戦する地元の小学生たちがポンフェラーダ城前で観戦する photo:Sonoko.Tanaka熱心なファンが登坂区間で大騒ぎ熱心なファンが登坂区間で大騒ぎ photo:Sonoko.Tanaka全カテゴリーで使われるポンフェラーダ近郊の周回コースは1周18.2km。ポンフェラーダ中心地をスタートして観光名所になっているポンフェラーダ城を横目に長い上り区間が始まる。

集団のまま登坂区間を越える。何度もアタックがかかるが決まらない集団のまま登坂区間を越える。何度もアタックがかかるが決まらない photo:Sonoko.Tanakaスタートとゴール地点が同じ場所なのだから、上りと下りの量は同じはずだが、緩くて長い上りと、急でテクニカルな下りという組み合わせから、上りのほうが幾分多いように感じられる。また上り区間は幅が広く見通しのいいストレートが多いこともあって、女子ジュニアのレースでは決定的な逃げはできず、徐々に集団は人数を減らす形で進行した。

先頭集団で登坂区間を行く坂口聖香先頭集団で登坂区間を行く坂口聖香 photo:Sonoko.Tanaka女子ジュニアカテゴリーには、日本から坂口聖香(日本体育大学)と梶原悠未(筑波大学付属坂戸高校)が出走した。坂口がジュニアカテゴリー2年目(最終年)、梶原が1年目となる。坂口はロードレースだけでなく、シクロクロスにも積極的に取り組み、22日に開催された雨のなかの個人タイムトライアルでは、抜群のバイクテクニックを披露して19位でゴールしている。

世界選手権への出場は2回目、急勾配な登坂区間が周回コースに組み込まれた昨年はトップから3分48秒遅れの36位で、「世界との差や危機感を感じました」と話している。今年の4月には大学に進学し、新しい環境のもとで、日々競技生活に向き合っている。

一方の梶原は、自転車競技を始めたのは去年の5月。「水泳をやっていたけど、高校では新しい経験をしたい」とあえて水泳部のない高校に進学し、顧問の先生の熱意に触れて、自転車競技を始めたという経緯がある。ペダリング技術や持久力には定評があり、今年の全日本選手権では圧倒的な強さで独走のすえに優勝した新星だ。

2選手は、世界選手権出場に先駆けて、現在スイスやイタリアを拠点にJOCのスポーツ指導者研修に参加している小田島梨絵氏の働きかけにより、スイスのワールドサイクリングセンターでUCIが初めて行ったジュニア女子を対象とした4週間のトレーニング合宿に参加、国際色豊かな参加者とともに日々トレーニングに打ち込んだ経緯がある。

トレーニング内容は、筋力トレーニング、ペダリングスキルをはじめ、日本では経験できないような長い上りや、集団内での体当たりを含めた場所取りなど、かなり実戦的なもので、また合宿を通して、彼女たちにはたくさんの友だちができ、レース中にマークすべき選手が誰だかわかるようになったと言う。

話しをレースに戻すと、その後、周回数を重ねるごとにどんどんと先頭集団の人数は減ったが、日本人2選手はしっかりと先頭集団に残った。最後は集団ゴールスプリントの展開となり、坂口が13位、梶原が18位でゴールラインを横切った。



13位でゴールした坂口聖香。トップとのわずかな差に悔しさが滲む13位でゴールした坂口聖香。トップとのわずかな差に悔しさが滲む photo:Sonoko.Tanaka
ゴール後に悔しさを滲ませる坂口聖香ゴール後に悔しさを滲ませる坂口聖香 photo:Sonoko.Tanakaレース後に話をする小田島梨絵と梶原悠未レース後に話をする小田島梨絵と梶原悠未 photo:Sonoko.Tanaka



坂口は「先頭集団のいい位置にいましがた、残り300メートルで、急に前にいたイタリアの子たちが止まり、ちょうどその後ろにいたので失速。路線を変更して追いつく頃には、もう前でスプリントが始まっていた状態でした。ちょっとキツいなと思いながらも、右側から大きくスプリントをかけましたが、届かなかったですね…」と振り返る。そして、坂口のすぐ目の前で、勝者が世界チャンピオンとなり、大きくガッツポーズを掲げた。「いいところで勝負できていたし、勝者が目の前にいたので、本当に悔しいです。でも、ここまで(勝負できる位置に)残ると楽しいな、と走りながら思っていました」と続ける。

レース後は一緒にトレーニング生活を送った友人たちが彼女の周りを取り囲み、互いの健闘を讃え合う姿が見られた。競技レベルの向上だけでなく、もっと大切なものを得たことは一目瞭然だった。U23カテゴリーのない女子にとって、ジュニアとエリートカテゴリーの差は大きいが、悔しさのなかにも、あと少しで世界のトップに届いたという大きな自信をもって、エリートカテゴリーに上がってほしいと思う。



坂口聖香とブラジル人、セルビア人の友人たち坂口聖香とブラジル人、セルビア人の友人たち photo:Sonoko.Tanakaレース後にワールドサイクリングセンターで合宿した仲間と抱き合う坂口聖香レース後にワールドサイクリングセンターで合宿した仲間と抱き合う坂口聖香 photo:Sonoko.Tanaka

仲のよい坂口聖香と梶原悠未がゴール後に笑顔で写真撮影に応じる仲のよい坂口聖香と梶原悠未がゴール後に笑顔で写真撮影に応じる photo:Sonoko.Tanaka


また梶原は「スプリント力がないので、前に出て早がけするように言われていましたが、脚が残っていなかった」と話す。しかし、競技を始めて1年半ほどで世界のトップ20に入ったことは、素晴らしい成績と言えるだろう。「集団走行が苦手なので、もっと怖いかな、と思っていたけど、そういうふうには思わず、自分の成長を感じることができました。来年もまた、去年より成長したと思える世界選手権にしたいと思います」と抱負を語り、「自転車競技に出会って本当に良かったと思うし、そのきっかけをくれ、ここまで指導してくださった顧問の先生に感謝しています」と笑顔を見せた。

ロードレース初日、日本ナショナルチームは若い2選手の清々しい活躍で、幸先のいいスタートを切った。あいにく午後のU23カテゴリーでは、日本は出場枠を獲得することができなかったが、明日27日のジュニア男子、エリート女子、28日のエリート男子に、大きな笑顔のバトンを託した。

text&photo:Sonoko.Tanaka