1997年から18年間プロ選手として活動し、ファンに惜しまれつつもUSAプロチャレンジで現役を引退したイェンス・フォイクト(ドイツ、トレックファクトリーレーシング)。引退レースを終えた42歳の大ベテランには「苦しみやストレス、落車リスクのない生活」が待っている。



デンバーの周回コースを逃げるイェンス・フォイクト(ドイツ、トレックファクトリーレーシング)デンバーの周回コースを逃げるイェンス・フォイクト(ドイツ、トレックファクトリーレーシング) photo:Tim de Waele


大歓声を集めるイェンス・フォイクト(ドイツ、トレックファクトリーレーシング)大歓声を集めるイェンス・フォイクト(ドイツ、トレックファクトリーレーシング) photo:Tim de WaeleUSAプロチャレンジの最終日、つまりキャリア最終日に、フォイクトは大会2度目のエスケープを試みた。結果的に逃げ切りは叶わず、大集団スプリントに飲み込まれることとなったが、最後の最後までフォイクトらしさは健在だった。

終盤にかけて独走するイェンス・フォイクト(ドイツ、トレックファクトリーレーシング)終盤にかけて独走するイェンス・フォイクト(ドイツ、トレックファクトリーレーシング) photo:Tim de Waele「バイクの上では最後の最後までプロフェッショナルでいたかった。今日は逃げ切りのチャンスが有ると思ったので、そのチャンスに懸けて逃げに乗ったんだ。最後の瞬間まで集団を恐れさせるような存在でいたかった。最後のチャンスに挑み、全力を出し、また残り数キロで吸収された。キャリアの中でこれを何回繰り返したんだろうか」と最終レースを走り切ったフォイクトは語っている。

大歓声を受けて登りを進むイェンス・フォイクト(ドイツ、トレックファクトリーレーシング)大歓声を受けて登りを進むイェンス・フォイクト(ドイツ、トレックファクトリーレーシング) photo:Tim de Waeleフォイクトは1997年にプロデビュー。クレディアグリコルやチームCSC、サクソバンク、レオパード・トレックを経て今に至る。今年、オグレディとヒンカピーと並ぶ歴代最多タイの17回目のツール・ド・フランス出場を果たした。

18年間のキャリアの中でツール・ド・フランス区間2勝、ジロ・デ・イタリア区間1勝をはじめ、ツアー・オブ・ポローニュやバイエルン・ルントファート、ツアー・オブ・ジャーマニー、ツール・メディテラネアンなどの短いステージレースで総合優勝。クリテリウム・アンテルナシオナルでは5回総合優勝に輝いている。

「実直なハードワークが人々を惹き付けたのだと思う。どんな小さな勝利の裏にもハードワークがある。そこにはラッキーな勝利や小手先の勝利なんてない。キャリアの中で何度も何度も失敗を繰り返してきたし、2回も逃げ切りに失敗した今週のように、数えきれないほどフィニッシュ手前で逃げが捕まった。でも決して諦めなかった。時には落車するときだってある。でもその度に立ち上がり、埃を払ってまた走り出した。酷い落車もあったし、輝かしい栄光も多々あった。私のキャリアは特別な瞬間に満ちていた」。リザルト以上に印象的な走りを残してきたフォイクトはそう語る。

「子供用のような小さいバイクに乗ってツール・ド・フランスを20kmほど走ったり、大怪我を負ってヘリコプターで病院に搬送されたり、その12週間後に次のレースのスタートラインに並んだり、子供が6人もいるトップアスリートは他にいないかも知れない。苦しみやストレス、落車のリスクから今こうして解放されたんだ。自分らしく全力を出し切った今、長くて大きなホリデーが待っている」。

今後フォイクトは妻のステファニーと6人の子ども達、マルク、ジュリアン、アドリアーナ、キム、マヤ、ヘレンとともに引退後の生活を送る。「次の予定?まずは自分が経営する本屋に行って、痛みを伴わない生活の中、静かでゆったりとした時間を過ごしたい。もしかしたらディスカバリーチャンネルから仕事が回ってきて、ライオンやサメの番組でコメンテーターをしているかもね」。長い苦痛の日々に今ようやく終止符が打たれた。



引退するイェンス・フォイクト(ドイツ、トレックファクトリーレーシング)のために用意されたトレック・マドン7シリーズ引退するイェンス・フォイクト(ドイツ、トレックファクトリーレーシング)のために用意されたトレック・マドン7シリーズ photo:Tim de Waele
フォイクトのキャリアを表現しているストライプがシートステーにもフォイクトのキャリアを表現しているストライプがシートステーにも photo:Tim de Waeleフォイクトのキャリアを表現しているストライプと「脚よ黙れ、身体も黙れ」フォイクトのキャリアを表現しているストライプと「脚よ黙れ、身体も黙れ」 photo:Tim de Waele打ち砕かれた魂の数打ち砕かれた魂の数 photo:Tim de Waele



text:Kei Tsuji

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