アルプス山岳2日目は曇空の朝を迎え、続いた酷暑も少しは収まりそうな気配。グルノーブルを抜けて四方を山に囲まれたロタレ峠に差し掛かるころに軽いシャワーがあったが、それだけで済んだ。



ロータレ峠のつづら折れを行くメイン集団ロータレ峠のつづら折れを行くメイン集団 photo:Makoto.AYANO
中間スプリントポイントを獲得したマイヨヴェールのペーター・サガン(スロバキア、キャノンデール)中間スプリントポイントを獲得したマイヨヴェールのペーター・サガン(スロバキア、キャノンデール) photo:A.S.O.スタート前には昨日のゴールに向けての駆け引きの一件について、アレハンドロ・バルベルデ(スペイン、モビスター)がティボー・ピノ(フランス、FDJ.fr)に謝罪したという。バルベルデは今季モビスター入りしたフランス人のジョン・ガドレに仲介を頼み、ピノに謝りに行ったという。

ビール、女装、原始人、バナナ、海賊のコスプレで応援ビール、女装、原始人、バナナ、海賊のコスプレで応援 photo:Makoto.AYANOイーゼルからオートアルプスへ。ラルプ・デュエズの麓の村ブールドワザンを通過し、ガリビエ峠の入口にもなる三叉路にあるロタレ峠へ。標高2,058mに向かう80kmあまりのこの長い上りで17人のアタックが決まった。

この日も沿道に姿を現した悪魔おじさんこの日も沿道に姿を現した悪魔おじさん photo:A.S.O.ロタレ峠と続くイゾアール峠のポイントを獲得してマイヨアポアのためのKOMポイントを早めに加算したいホアキン・ロドリゲス(スペイン、カチューシャ)がファーストアタッカー。40km地点のスプリントポイントを目的としたペーター・サガン(スロバキア、キャノンデール)も入ったが、ポイント獲得後も同僚アレッサンドロ・デマルキのためにそのまま集団に残り働いた。

昨日2位のリベンジをしたいラファル・マイカ(ポーランド、ティンコフ・サクソ)、昨年のラルプ・デュエズステージ覇者クリストフ・リブロン(フランス、AG2Rラモンディアール)、チームスカイのゲラント・トーマス(イギリス)とミケル・ニエベ(スペイン)による”プランC”など、ステージとジャージ狙いの思惑の混じった逃げ集団。

アスタナはメイン集団のペースを先頭でつくるも、その逃げを危険視しない落ち着いたペースセッティング。しかし混沌としてきた総合上位争い。AG2Rは勾配が厳しくない山頂フィニッシュの前に山岳でレースをハードにしたいと、イゾアール峠でアタックしてライバルを苦しめた。

イゾアール峠を越えてからは総合10位のレオポルド・ケーニッヒ(チェコ)のポジションを守るためにネットアップ・エンデューラがペースアップ。逃げグループではロドリゲスがイゾアールを先頭通過してツール創設者アンリ・デグランジュ賞と賞金5,000ユーロをポケットに。



ジロとの連戦にも好調を維持するマイカのプロ初勝利

1級山岳リゾルで、逃げ集団からのアレッサンドロ・デマルキ(イタリア、キャノンデール)、ロドリゲスとのバトルから抜けだしたマイカはハイピッチを刻み、後方で総合争いの駆け引きを展開するニーバリたちのグループに24秒差をもって逃げ切った。昨ステージ2位のリベンジ成功。コンタドールがリタイヤで去ってからのチームに明かりをもたらした。

独走でゴールを目指すラファル・マイカ(ポーランド、ティンコフ・サクソ)独走でゴールを目指すラファル・マイカ(ポーランド、ティンコフ・サクソ) (c)CorVos
独走でリゾルに向かうラファル・マイカ(ポーランド、ティンコフ・サクソ)独走でリゾルに向かうラファル・マイカ(ポーランド、ティンコフ・サクソ) photo:Makoto.AYANO「アルベルトが去ってから、チームはステージ優勝を狙って走っていた。今日は朝のミーティングで、逃げに乗ってステージ優勝を掴んでみせるとリース監督とチームメイトに話していた」とマイカ。2013年ジロ・デ・イタリアで7位、そして2014年は6位になった実力者だが、これがプロ入り初勝利。2013年ジャパンカップでの3位はお馴染みのところだ。

表彰台に立つラファル・マイカ(ポーランド、ティンコフ・サクソ)表彰台に立つラファル・マイカ(ポーランド、ティンコフ・サクソ) photo:A.S.O.マイカのツール出場は今年が初。ジロからの「Wツール」だ。マイカは、バイオロジカル・パスポートの問題でツール出場メンバーから1週間前に外されたロマン・クロイツィゲル(チェコ)の代役としてメンバーに急遽選ばれたという報道がされていたことを否定。「クロイツィゲルが出場していても、ツールメンバーになる可能性があることはリース監督やコーチとの話では最初からあったことだ」と話した。

昨日「ジロの疲労を感じている」と話していたマイカ。ここまでのツールは序盤1週を静かに過ごしてフレッシュな状態で山岳を迎えた。コンタドールの山での最後のアシスト役を期待されたが、仕えるエースはリタイヤ。チームの目標はステージ狙いになった。

「これは僕のプロ初勝利で、とても嬉しい。でもツールはまだ長いから、多分チャンスはまた来る」。



総合争いを諦めていない37歳のベテラン ペロー

ニーバリの後方でジャンクリストフ・ペロー(フランス、AG2Rラモンディアール)が必死に食らいつくニーバリの後方でジャンクリストフ・ペロー(フランス、AG2Rラモンディアール)が必死に食らいつく photo:A.S.O.マイカから24秒遅れでフィニッシュしたヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、アスタナ)、そして最後はゴール前で2秒離されるもニーバリに食らいついたジャンクリストフ・ペロー(フランス、AG2Rラモンディアール)が3位。ペローはマイヨブランのチームメイト、ロメン・バルデ(フランス)のアシストとして自身の結果を犠牲にするのではなく、自身のために走っていることも示した。

「これは僕にとってミニ勝利だね」と語るペロー。37歳のベテランでMTBクロスカントリーの北京五輪銀メダリスト。昨年のツールでは最終日4日前の個人TTで落車して鎖骨を骨折、リタイヤ。おかげでフランス人最高位をバルデに明け渡している。ペローは総合6位につけた。個人TTの得意なペローにも表彰台の可能性は大いにある。「バルデとの間に緊張感やライバル関係があるか?」ストーリーに仕立てたいメディアが質問するも、ペローは否定した。



16秒差のピノとバルデのマイヨブラン争い

4位争いのティボー・ピノ(FDJ.fr)、ロメン・バルデ(AG2R)、ティージェイ・ヴァンガーデレン(BMC)、フランク・シュレク(トレック)4位争いのティボー・ピノ(FDJ.fr)、ロメン・バルデ(AG2R)、ティージェイ・ヴァンガーデレン(BMC)、フランク・シュレク(トレック) photo:Makoto.AYANO
バッド・デイをタイム差無しで終えたティボー・ピノ(フランス、FDJ.fr)バッド・デイをタイム差無しで終えたティボー・ピノ(フランス、FDJ.fr) photo:A.S.O.ゴールに向かってバトルを繰り広げたバルデとピノ。バルデがラスト250mで仕掛けたがピノが対処。逆に先着した。ニーバリには26秒をさらに失ったが、引き離したティージェイ・ヴァンガーデレン(アメリカ、BMCレーシング)には4秒の差を開いた。

地面に座り混んで疲れきった表情を見せるロメン・バルデ(フランス、AG2Rラモンディアール)地面に座り混んで疲れきった表情を見せるロメン・バルデ(フランス、AG2Rラモンディアール) photo:A.S.O.この日、ピノはバッド・デイに苦しんでいたという。しかしタイム差無しでマイヨブラン争いは持ち越し。ペローはイゾアール峠でアタックしたチームの戦略が対ピノにあったことを明かした。

「ティボーは速いダウンヒルに苦しんでいた。彼はフランス人だけど、これはレース。我々は上りで速い彼を下りで引き離そうとしたんだ。僕らは過激に攻めてヒートップしていた。それがベストな戦略かは分からないけど、うまくいったと思う。やってみる価値はあった」。

フランス人期待の若者同士によるマイヨブラン争い。2人を分かつのは16秒差。バルデより総合力があり、TTがやや得意とされるピノに対し、バルでは休息日をおいてからの最終週のピレネー山岳に向けて自信をのぞかせる。今日はタイム差を付けられなかったバルデは、ピレネーでならタイム差をもっと開けると考えている。「ピレネーは僕がもっとも好きな山。大きな野望もある。僕はいい位置にいる。アタックする用意はできている」。



メカトラで遅れたバルベルデ

1級山岳リゾルを登るアレハンドロ・バルベルデ(スペイン、モビスター)とヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、アスタナ)1級山岳リゾルを登るアレハンドロ・バルベルデ(スペイン、モビスター)とヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、アスタナ) photo:Tim de Waeleマイカに1分24秒遅れ、ニーバリには1分遅れて10位でフィニッシュしたバルベルデ。まさかの脱落に総合2位の座は守ったが、総合3位のバルデとの差はわずか13秒になった。最終盤の遅れの原因がメカトラにあったことをバルベルデは話す。

10位に沈んだアレハンドロ・バルベルデ(モビスター)10位に沈んだアレハンドロ・バルベルデ(モビスター) photo:Makoto.AYANO「ラスト3kmぐらいの地点でピノの前輪が僕のリアメカ(ディレイラー)にぶつかったんだ。そのあと変速がうまくいかなくなって、歯飛びが起きるようになった。おかげで大きなギアを使わざるを得なくなった。それは小さいギアよりも歯飛びが起きにくいから。僕にとってベストな日じゃなかった」。

バルベルデは言う。「ニーバリがもっとも強い。それに続く他の選手の実力は拮抗している。僕のライバルはピノとバルデ。そしてヴァンガーデレンもだ。もちろん今日も難しい日だった。でも昨日はうまくいって小さな差をつけられた」。

モビスターのエウセビオ・ウンスエ監督は言う。「今日も見たとおりニーバリの強さは際立っているが、パリでの表彰台を狙うバルベルデを含む他の5人の力は同じようなレベルにある。ピレネーとタイムトライアで勝負は決まる。最終局面でのトラブルは、それが些細なことでも勝負に大きな影響がある。そして他の選手達はその恩恵に預かる。秒差が重要になってくる」。



ニーバリは来年のダブルツールの可能性を示唆

ホアキン・ロドリゲス(スペイン、カチューシャ)と談笑するヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、アスタナ)ホアキン・ロドリゲス(スペイン、カチューシャ)と談笑するヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、アスタナ) photo:A.S.O.マイヨジョーヌのニーバリへの質問は、すでにツールの優勝をほぼ決めているからか、ライバルが居なくなったからか、冷たいものが多くなってきている。「コンタドールが居なくなって、この勝利は価値が安くなると思うか?」との記者の問いに、「そしてクリス・フルーム(イギリス、チームスカイ)もだ」と皮肉を込めて注釈してからニーバリは応える。

「なぜ安くなると? 昨年はコンタドールもフルームも出場したレースで多く勝ってきて、出なかったのはツールだけだ。今年は最高の準備と調子でツールにやってきた。価値が下がる要素はなにもないと思う。2013年はジロで勝ち、ブエルタで2位の素晴らしいシーズンだった。僕はコンタドールやフルームに何も劣るところはないと思っている。

ツール前のクリテリウム・ドゥ・ドーフィネでフルームとコンタドールには着いて行けなかったことを指摘され、「僕はツールで最高の状態になるようにやって来た。ドーフィネでは他の選手達が良かったが、もしそれをやると、そのとき強かった選手が、今は弱くなるんだ」とピークの合わせ方を説明しながら答えた。

24秒遅れでフィニッシュするヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、アスタナ)24秒遅れでフィニッシュするヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、アスタナ) photo:Tim de Waele
来年のジロ・デ・イタリアとツール・ド・フランスの「ダブルツール」の可能性についても質問された。
「若い時にそれをしたことはあるけど、僕は今肉体的にもずっと成熟している。僕の来年のチャレンジはジロとツールの両方を目標にすること。でもそれはまだチームとは話していない。シーズンを終えてからよく話し合ってプランを組み立てないとね。ジロとツールの両方に出るというアイデアは排除するものじゃないね」。


photo&text:Makoto.AYANO in FRANCE
photo:CorVos,TimDeWale,A.S.O
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