休息日空けのステージはツール11日目にして初めての快晴が訪れ、待ち望んだ太陽がようやく顔を出した。ようやく7月のフランスらしい天気。ツールはこうでなくては。



トマ・ヴォクレール(ユーロップカー)は子どもとの時間を大切にするトマ・ヴォクレール(ユーロップカー)は子どもとの時間を大切にする photo:Makoto.AYANO子供連れでスタート地点に現れた ニキ・テルプストラ(オメガファーマ・クイックステップ)子供連れでスタート地点に現れた ニキ・テルプストラ(オメガファーマ・クイックステップ) photo:Makoto.AYANO

友人たちとくつろぐアルテュール・ヴィショ(FDJ.fr)友人たちとくつろぐアルテュール・ヴィショ(FDJ.fr) photo:Makoto.AYANO
ツールを訪れた家族と一緒に過ごした選手も多かったようで、スタートを待つ間、家族と過ごす時間を名残惜しく楽しむ選手たち。トマ・ヴォクレール(ユーロップカー)は子供とつないだ手をなかなか離せない。ユーロップカーの応援シャツを着た子供の背中には、父が獲得した敢闘賞の赤ゼッケンがついていた。ニキ・テルプストラ(オメガファーマ・クイックステップ)は子供をハンドルに乗っけてスタートサインへ。

マルセル・キッテル(ジャイアント・シマノ)はヘルメットをかぶる前にヘアースタイルがバッチリ決まっているマルセル・キッテル(ジャイアント・シマノ)はヘルメットをかぶる前にヘアースタイルがバッチリ決まっている photo:Makoto.AYANO柔らかな日差しに上下真っ白なジャージが眩しいのは、フランスの期待を担うスリムで2枚目な青年ロメン・バルデ(AG2Rラモンディアール)だ。チームはマイヨ・ブランのバルデに加えてラ・プランシュデルフィーユで活躍したためチーム総合1位の黄色いヘルメットと黄色いゼッケンで揃える。

もう少し山岳が厳しくなるアルプスとピレネーではAG2R旋風が吹き荒れそうだ。ピノのFDJ.fr、ブリース&ロメン・フェイユ兄弟のブルターニュ・セシェなど、フランス勢の上がり調子もその姿に伺うことができる。

マイヨブランを着たロメン・バルデ(AG2Rラモンディアール)マイヨブランを着たロメン・バルデ(AG2Rラモンディアール) photo:Makoto.AYANO休息日明けはヴィラージュ(招待客用の歓談スペース)が賑わうのはいつものこと。友人や家族たちとテーブルを囲み、おしゃべりを楽しんだり、昨日までの新聞を読んだり。しかし今日も最初からアタックがかかって速いペースでレースが進行することは前もってわかっているので、あまりのんびりしているわけにもいかない。

「逃げが決まるまでたぶん1時間ぐらいはかかるんじゃないでしょうか。決して楽なコースではないので、気を抜くことはできないですね」とユキヤも昨日のインタビューの際に話していた。こっそりとウォームアップに励む選手たちもちらほら。

この日から夏用のメッシュジャージに着替えたチームが多かったこの日から夏用のメッシュジャージに着替えたチームが多かった photo:Makoto.AYANOアルプスの西端、スイス国境に近いジュラ山地へと入っていくこのステージ。地域のプロモーションに地元自治体が用意した「JURA」と書かれたピンクの旗があちこちに翻り、さながらジロのようだった。山村独特の応援風景の可愛らしさもツールに華を添える。

パリまで1873km。路上で示す看板だが距離はだいたい正確パリまで1873km。路上で示す看板だが距離はだいたい正確 photo:Makoto.AYANOパリまで1800kmを切って、ここからは後半戦へ。午後になると気温は上昇、30度近い暑さに。寒かったここまでのツールとの差に、身体がうまく順応できなかった選手も多かったようだ。

スイスが近づいたというのにファビアン・カンチェラーラ(トレックファクトリーレーシング)はシーズン後半戦に備えるために休息日のうちに家に帰ってしまった。代わりにハッスルしたのが白地に赤十字のスイスナショナルチャンピオンジャージを着るマルティン・エルミガー(IAMサイクリング)。落車の怪我でリタイアしたエースのマティアス・フランクのぶんまで活躍しなければ。

山岳ポイントが後半に集中するこのコース。サガンのステージ勝利のためにキャノンデールは大きなタイム差を許さない。なにしろ公式プログラムにも今日は「サガンのような選手のためのステージ」と明記してあるほど。

3人の逃げから粘ったエルミガーが単独でシュー峠へ向かうと、沿道のスイス人観客たちも大いに盛り上がる。1分差で追うヤン・バケランツ(オメガファーマ・クイックステップ)、トムイェルテ・スラグテル(ガーミン・シャープ)、ニコラス・ロッシュ(ティンコフ・サクソ)。いずれもパンチ力のあるライダーが動き出す。

メイン集団の追走スピードは速く、逃げはなかなか決まらないメイン集団の追走スピードは速く、逃げはなかなか決まらない photo:Makoto.AYANO
すると「アラシロ・ディスタンセ」の競技無線が入る。沖縄のように暑くなることを望んだユキヤだが、どうやら長いステージレースで誰もが陥る、体調が底をつく「悪い日」にあたったようだ。この日は逃げに乗るかもとのことで、フィアンセの飯島美和さんが大会が手配するフォトグラファーモトに乗っていたが、残念ながら調子の波は合わなかったようだ。

こぶのような小さな山がいくつも続くステージ最終盤。パンチャーたちのアタックが続く。トニー・ギャロパン(フランス、ロット・ベリソル)はこのあたり一帯で元プロ選手父親と、話題の彼女マリオン・ルッスさんらと一緒に以前トレーニング合宿をしたことがあって、このステージ後半の山の連続する一帯は馴染みの土地だったという。そのときに覚えていたカテゴリーなしの坂でアタックを決めた。

しかし走る前にはこの日は大逃げが決まるものと思っていたギャロパンは、まさか自分がステージ勝利を狙うことになるとは予想していなかった。アタックに出る前、逃げる3人を捕まえる集団にいたギャロパンはそのとき自身の調子の良さを感じて監督車を呼び、確認のためゴール前5kmのコースマップを見せてもらっていたという。

 ツールの峠を可愛くした看板「マドレーヌ峠が好き」 ツールの峠を可愛くした看板「マドレーヌ峠が好き」 photo:Makoto.AYANO今年もツールはジュラ地方に入る。スイスが近いので女性の応援も少しスイス風今年もツールはジュラ地方に入る。スイスが近いので女性の応援も少しスイス風 photo:Makoto.AYANO

音楽に合わせて踊る陽気な応援隊音楽に合わせて踊る陽気な応援隊 photo:Makoto.AYANOベルギー国旗を振ってベルギーチームと選手を応援する観客ベルギー国旗を振ってベルギーチームと選手を応援する観客 photo:Makoto.AYANO


ギャロパンのアタックはペーター・サガン(キャノンデール)、マイケル・ロジャース(ティンコフ・サクソ)、ミカル・クヴィアトコウスキー(オメガファーマ・クイックステップ)が逃さなかった。いったんこの3人に捕まったギャロパンだが、「サガンと一緒に最後まで行っては勝ち目はない」と、ふたたびラスト2.5kmでアタックする。

キャノンデール、ランプレ・メリダ、ジャイアントシマノの補給部隊キャノンデール、ランプレ・メリダ、ジャイアントシマノの補給部隊 photo:Makoto.AYANO私の方は「ゴールは独走、もしくは逃げ切りグループの勝負になるだろう」と期待して、フィニッシュの街オヨナのラスト2.5kmの直線路でカメラを構えることにしていた。ギャロパンが最後のアタックをした、まさにその場所。おかげでそのアタックの一部始終を定点観察できる幸運に恵まれた。

ためらいなく、すべてを賭けて加速していくギャロパン。その後方には対照的な、躊躇する3人の姿。この期に及んでもサガンをゴールまで連れて行きたくないクヴィアトコウスキーとロジャース。前に出たがらないサガン。戦術的に仕方がないが、ネガティブな3人はギャロパンを逃してしまう。

ペーター・サガン(キャノンデール)を含む追走グループから逃げ、オヨナの街へと入るトニー・ギャロパン(ロット・ベリソル)ペーター・サガン(キャノンデール)を含む追走グループから逃げ、オヨナの街へと入るトニー・ギャロパン(ロット・ベリソル) photo:Makoto.AYANO
ためらう3人の後方には、ダニエル・オス(BMCレーシング)が鬼の形相で引く、長く伸びた集団が続く。ギャロパンがアタックしたその直線の先には、コーナーを越えてから勢いのつく500mの下りが待っていた。ラスト2.5kmがずっと平坦でなかったこともギャロパンに味方した。

逃げるギャロパンら4人を追ってスピードを上げるメイン集団逃げるギャロパンら4人を追ってスピードを上げるメイン集団 photo:Makoto.AYANOいい場所で、いいタイミングで最後のアタックに賭けたギャロパン。ちなみにラスト3kmがゴールに向けて少し下っていることは、(ギャロパンの確認した)コースマップにはプロフィールマップ入りで小さく記されている。

集団を振り切ったトニー・ギャロパン(フランス、ロット・ベリソル)が両手を挙げる集団を振り切ったトニー・ギャロパン(フランス、ロット・ベリソル)が両手を挙げる photo:Tim de Waele昨年、ツール第2ステージのコルシカ島アジャクシオのゴールで逃げ切ったベルギーの友人ヤン・バケランツ(当時はチームメイト)の勝利を思い起こさせる僅差での逃げ切り勝利。バケランツはその勝利でマイヨジョーヌを獲得したが、ギャロパンはマイヨジョーヌを着て・失ってからの勝利。

マイヨジョーヌでフランスじゅうを喜ばせた若者が、再び喜びの勝利を手にした。ギャロパンは言う「マイヨジョーヌ獲得とステージ優勝はまた違った感覚がある。でもステージに勝ったことのほうが大きい」。「最後まで信じなければいけないんだ。フィニッシュラインの数メートル手前で捕まる選手たちのシーンを何度見てきたことか。マイヨジョーヌを獲得したときは残り5kmからそのことを考えていたから心の準備は出来ていた。でも今日は最後の最後まで成功を確信出来なかった。ラスト100mで振り返ってようやく勝利が確信できたんだ」。

ツールでのマイヨジョーヌとステージ勝利。昨年のクラシカ・サンセバスチャンの勝利とあわせ、ギャロパンは期待の若手からスター選手の仲間入りを果たしたようだ。



「誰もが僕をマークして協力してくれない」フラストレーションを溜めるサガン

これまでの11ステージで合計8回のトップ10入り。しかも2位が2回。マイヨヴェールのポイントはさらに積算し、2位ブライアン・コカールの164ポイントに対し301ポイントという大差で緑のジャージを着続けるサガン。素晴らしくもほろ苦い結果に、やはり勝てないことへのフラストレーションが溜まる。この日はツールに同行しているガールフレンドの誕生日で、ステージ勝利をプレゼントしたいと思っていたのだ。

スタート前にコースマップを念入りに確認するペーター・サガン(キャノンデール)だったが...スタート前にコースマップを念入りに確認するペーター・サガン(キャノンデール)だったが... photo:Makoto.AYANOステージ優勝にはこの日も届かなかったステージ優勝にはこの日も届かなかった photo:Tim de Waele


「ガールフレンドの誕生日にステージ優勝したかった」「ガールフレンドの誕生日にステージ優勝したかった」 photo:Makoto.AYANOサガンは言う。「今日は彼女の誕生日だったから、彼女のためにステージを勝ちたいと思っていたんだ。彼女には花束と新しいマイヨヴェールを渡したけど...」。ステージの優勝候補と言われ、逃げに乗りつつも最終局面ではゴールに一緒に行くことを逃げ仲間たちに拒まれた。サガンはそのことを理解しつつも結果には不満気だ。

「今日はロジャースがアタックして、続いてクヴィアトコウスキー。そしてギャロパンが行った。そのとき僕も行けたけれど、でも全員のアタックに対応することなんて不可能だ。誰も僕とは協力したがらないのが勝つことを難しくしている。皆、僕がスプリントに強いのがわかっているから、負けると判っていて一緒に行きたくはないんだ。」

「でも、これが自転車競技だ。それは知っていた。たぶん、このツールでステージ優勝を挙げることは難しい。でもパリまでマイヨをキープする以上に、もっといいことにトライし続けるつもりだ。僕にできるのは緒戦し続けること」。サガンはおそらくは明日もアタックを仕掛けることを暗にほのめかした。



ユキヤのバッド・デイ

山岳でシュー峠で遅れたユキヤは18分25秒遅れの133位で、チームメイトのアレクサンドル・ピショとともにフィニッシュ。ユーロップカーは意気込みをもって臨んだステージだったが、逃げには選手を送り込めなかった。ユキヤにとっては悪い日だったようだ。

険しい峠道にやや苦しむ新城幸也(ユーロップカー)険しい峠道にやや苦しむ新城幸也(ユーロップカー) photo:Makoto Ayano
「今日は、スタート直後からヤバイっ、と思うくらいの絶不調だった。もっと遅れることを覚悟したけど、何とかこの位置でゴールできた。今日のコースは好きなコースだったんだけど...。ツール期間中はこういう日もある。明日は大丈夫だと思う」とコメントしている。

3級山岳シュー峠では苦しみからかうつむいてしまっていたが、最後の3kmではカメラを見つけてニッコリ笑いかける余裕を見せた。「休むと調子が狂う」と話していたユキヤ。暑さを味方に明日は調子を取り戻すだろう。第12ステージは逃げに向くプロフィールだ。

ようやく夏の日差しを取り戻したツール。明日も晴れの予報で、南下を続けるため加速度的に暑くなることを期待しよう。主役たちが減ったぶん、ステージごとの闘いが盛り上がると面白い。

photo&text:Makoto.AYANO in FRANCE
photo:CorVos,TimDeWale,A.S.O,
※新城幸也のコメントはユキヤ通信より