パヴェが登場するツール・ド・フランス第5ステージは冷たい雨に見舞われた。濡れた路面で落車した前回覇者のクリス・フルーム(チームスカイ)がリタイアするという大波乱の展開となる中、ラース・ボーム(ベルキン)が区間優勝。総合首位のヴィンチェンツォ・ニーバリ(アスタナ)は3位でゴールし、リード拡大に成功した。



第5ステージのスタート地点はベルギーのイペール第5ステージのスタート地点はベルギーのイペール (c)CorVos
スタート地点に集合したクリスティアン・プリュドム氏、エディ・メルクス氏、ベルナール・イノー氏、ベルナール・テネブ氏スタート地点に集合したクリスティアン・プリュドム氏、エディ・メルクス氏、ベルナール・イノー氏、ベルナール・テネブ氏 photo:A.S.O.元チームメイト同士のヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、アスタナ)とペーター・サガン(スロバキア、キャノンデール)元チームメイト同士のヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、アスタナ)とペーター・サガン(スロバキア、キャノンデール) photo:A.S.O.



ツール・ド・フランス2014第5ステージツール・ド・フランス2014第5ステージ image:A.S.O.2010年以来4年ぶりにパヴェ(石畳)が登場する第5ステージはまさかの雨。加えて気温14度と春のクラシックさながらのハードなコンディションとなった。これを受け、レース開始前に通過する予定だった9つのパヴェ区間のうちモンサンぺヴェル(セクター7、1000m)とオルシ(セクター5、1400m)がキャンセルに。ステージの全長は3km短縮され、152.5kmで争われた。

雨の中スタートしたプロトン雨の中スタートしたプロトン photo:A.S.O.なお、この日に合わせて多くのチームがパヴェ用のバイクを用意。7月にも関わらず、厚手のレインウェアを着こんだ194名の選手たちは現地時間13:48にスタート。パヴェ区間に突入するまでは落ち着いた展開になると思われていたが、序盤から落車が頻発する予想以上に慌ただしい一日となった。

レース開始直後から逃げ始めた強力な9名の先頭集団レース開始直後から逃げ始めた強力な9名の先頭集団 photo:A.S.O.緊張感漂う集団から飛び出したのは9名のライダー。トニ・マルティン(ドイツ、オメガファーマ・クイックステップ)や、リエーベ・ヴェストラ(オランダ、アスタナ)、マークス・ブルグハート(ドイツ、BMCレーシング)らを含む強力な逃げ集団は徐々にタイム差を拡大していく。

集団内で走るヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、アスタナ)集団内で走るヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、アスタナ) photo:A.S.O.ちなみに、最後にパリ~ルーベで雨が降ったのは12年前の2002年のこと。その時に参加したライダーが今ツールには4名出走しており、その内の2名であるサミュエル・ドゥムラン(フランス、AG2Rラモンディアール)とマシュー・ヘイマン(オーストラリア、オリカ・グリーンエッジ)も先頭9名の中に入っている。

先頭9名に合流を試みるジョヴァンニ・ヴィスコンティ(イタリア、モビスター)とブリース・フェイユ(フランス、ブルターニュ・セシェ)先頭9名に合流を試みるジョヴァンニ・ヴィスコンティ(イタリア、モビスター)とブリース・フェイユ(フランス、ブルターニュ・セシェ) photo:A.S.O.メイン集団はアスタナ、ティンコフ・サクソ、ロット・ベリソル、ネットアップ・エンデューラがコントロール。途中ジョヴァンニ・ヴィスコンティ(イタリア、モビスター)とブリース・フェイユ(フランス、ブルターニュ・セシェ)が飛び出し、先頭9人への合流を図るも程なく吸収された。

逃げが決まってもなおピリピリとした雰囲気が続き、120km地点でクリス・フルーム(イギリス、チームスカイ)とティボー・ピノ(フランス、FDJ.fr)が一緒に落車。ただ、フルームは第4ステージと逆側に転んだため痛めた左手の症状は悪化しなかったため、再スタートを切った。一方の逃げ集団ではマルティンとハニエル・アセベド(コロンビア、ガーミン・シャープ)が落車。そのままアセベドはメイン集団にドロップし、先頭集団は8人に人数を減らした。

残り100kmを切ったころから、ポイント賞ジャージを着るペーター・サガン(スロバキア)を勝たせたいキャノンデールが集団をコントロールし、ペースアップを試みるも有力スプリンターが次々と落車。

アレクサンダー・クリストフ(ノルウェー、カチューシャ)、アレッサンドロ・ペタッキ(イタリア、オメガファーマ・クイックステップ)、アンドレ・グライペル(ドイツ、ロット・ベリソル)、ここまでステージ3勝のマルセル・キッテル(ドイツ、ジャイアント・シマノ)、アルノー・デマール(フランス、FDJ.fr)の順に濡れた路面に叩き付けられた。この間に1分半程度を推移してきた先頭8名とメイン集団のタイム差は3分台に拡大した。

そして、68km地点でクリス・フルーム(イギリス、チームスカイ)がこの日2回目の落車を喫し、痛めた左手が悪化。石畳や本格的な山岳を走らずして、悲痛な面持ちでリタイアを決めた。



2度の落車を喫したクリス・フルーム(イギリス、チームスカイ)はこの後リタイアとなった2度の落車を喫したクリス・フルーム(イギリス、チームスカイ)はこの後リタイアとなった photo:A.S.O.ダニエーレ・ベンナーティ(ティンコフ・サクソ)がコンタドール集団の牽引役だダニエーレ・ベンナーティ(ティンコフ・サクソ)がコンタドール集団の牽引役だ photo:Makoto.AYANO



この日は落車が頻発したこの日は落車が頻発した (c)CorVos先頭8名は2分15秒のタイム差を持って最初のパヴェ区間であるカルフール・ド・ラルブル(第9セクター、1100m)に突入する。後方ではティンコフ・サクソがコントロールを始め、中切れが発生。カルフール・ド・ラルブルを通過するころには、25名の第2集団が形成される。

パンクしたタイヤを滑らせながらコーナーを曲がるセプ・ファンマルク(ベルギー・ベルキン)パンクしたタイヤを滑らせながらコーナーを曲がるセプ・ファンマルク(ベルギー・ベルキン) (c)CorVosこの中にはマイヨジョーヌのヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、アスタナ)やアルベルト・コンタドール(スペイン、ティンコフ・サクソ)らが含まれる一方で、アレハンドロ・バルベルデ(スペイン、モビスター)や ティージェイ・ヴァンガーデレン(アメリカ、BMCレーシング)は追走を余儀なくされた。

フグルサングがマイヨジョーヌのニーバリをアシストしながら最後のパヴェ区間を走るフグルサングがマイヨジョーヌのニーバリをアシストしながら最後のパヴェ区間を走る photo:Makoto.AYANO続く第8セクターのエンヌヴラン・ポンティボー(1400m)ではメイン集団でステージ優勝を狙うクラシックハンターが徐々に動きを見せ、セプ・ファンマルク(ベルギー、ベルキン)がペースアップ。

マッテオ・トレンティンがミカル・クヴィアトコウスキー(右)をアシストしながら走るマッテオ・トレンティンがミカル・クヴィアトコウスキー(右)をアシストしながら走る photo:Makoto.AYANOここでコンタドールが遅れ始めた一方、アシストの数を揃えたニーバリは持ち前のバイクコントロールテクニックを発揮しながらクラシックハンターたちに食らいつく。

ニーバリ、ファンマルク、サガン、ファビアン・カンチェラーラ(スイス、トレックファクトリーレーシング)ら26名のメイン集団と、コンタドールがいる集団とのタイム差は残り43km地点で50秒に。第6セクターのベルセ(1400m)ではアンドリュー・タランスキー(アメリカ、ガーミン・シャープ)ら3名の落車と共に、ファンマルクとボームがアタックすると26名はさらに細分化。

ベルキンの2名は追い上げてきたニーバリやカンチェラーラ、一度遅れたミカル・クヴィアトコウスキー(ポーランド、オメガファーマ・クイックステップ)らと合流し、10名程度の小集団が形成。

スタートから逃げ続ける先頭集団からはニーバリをアシストするためにヴェストラが離脱し、残り28km地点でマルティンら4人はニーバリらに吸収される。

この後、20km地点からボーム、サガン、クヴィアトコウスキーの3人がアタックするも決まらず。すると残り11.5km地点から三度ボームが飛び出す。この動きに追従できたのはヤコブ・フグルサング(デンマーク、アスタナ)、二ーバリ、ウェストラのアスタナの3名のみ。ここまで動きのないカンチェラーラやサガンは全く反応できず。先頭4名と後続の差は一気に開き、決定的なものとなった。



残り11km地点からアタックを仕掛けたラース・ボーム(オランダ、ベルキン)残り11km地点からアタックを仕掛けたラース・ボーム(オランダ、ベルキン) (c)CorVos
ステージ優勝のラース・ボーム(オランダ、ベルキン)ステージ優勝のラース・ボーム(オランダ、ベルキン) (c)CorVos勝機を逃したペーター・サガン(スロバキア、キャノンデール)とファビアン・カンチェラーラ(スイス、トレックファクトリーレーシング)勝機を逃したペーター・サガン(スロバキア、キャノンデール)とファビアン・カンチェラーラ(スイス、トレックファクトリーレーシング) (c)CorVos



愛息子と共にポディウムに上るラース・ボーム(オランダ、ベルキン)愛息子と共にポディウムに上るラース・ボーム(オランダ、ベルキン) photo:A.S.O.4名となった先頭集団からは再度ボームがアタック。そのまま逃げ切って、自身初となるツールでのステージ優勝を飾った。2位は献身的なアシストが光ったフグルサング。3位はニーバリで、他の総合勢に対して大幅なリードを築くことに成功している。

ボームは「まるで夢の中にいるようだ。それも雨に濡れたパリ~ルーベの石畳を走るステージで勝てたなんて本当に特別なことだ。ここ数年で何度もパリ~ルーベが雨になることを願っていたし、ツールではあるけれどそれが現実になった。ただ単純にファンタスティックだ。」とコメント。

総合勢ではユルゲン・ファンデンブロック(ベルギー、ロット・ベリソル)がボームから2分02秒遅れ、ゲラント・トーマス(イギリス、チームスカイ)と共に追い上げたリッチー・ポルト(オーストラリア、チームスカイ)が2分11秒遅れ、タランスキーが2分22秒遅れ、バルベルデが2分28秒遅れ、そしてコンタドールが2分54秒遅れでフィニッシュ。また、新城幸也(ユーロップカー)は22分40秒遅れで石畳ステージを乗り切っている。



ツール・ド・フランス2014第5ステージ結果
1位 ラース・ボーム(オランダ、ベルキン)
2位 ヤコブ・フグルサング(デンマーク、アスタナ)
3位 ヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、アスタナ)
4位 ペーター・サガン(スロバキア、キャノンデール)
5位 ファビアン・カンチェラーラ(スイス、トレックファクトリーレーシング)
6位 イェンス・ケウケレール(ベルギー、オリカ・グリーンエッジ)
7位 ミカル・クヴィアトコウスキー(ポーランド、オメガファーマ・クイックステップ)
8位 リエーベ・ヴェストラ(オランダ、アスタナ)
9位 マッテオ・トレンティン(イタリア、オメガファーマ・クイックステップ)
10位 シリル・ルモワンヌ(フランス、コフィディス)
175位 新城幸也(日本、ユーロップカー)
3h18'35"
+19"

+1'01"


+1'07"
+1'09"
+1'21"
+1'45"
+22'40"


マイヨジョーヌ(個人総合成績)
1位 ヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、アスタナ)
2位 ヤコブ・フグルサング(デンマーク、アスタナ)
3位 ペーター・サガン(スロバキア、キャノンデール)
4位 ミカル・クヴィアトコウスキー(ポーランド、オメガファーマ・クイックステップ)
5位 ファビアン・カンチェラーラ(スイス、トレックファクトリーレーシング)
6位 ユルゲン・ファンデンブロック(ベルギー、ロット・ベリソル)
7位 トニー・ギャロパン(フランス、ロット・ベリソル)
8位 リッチー・ポルト(オーストラリア、チームスカイ)
9位 アンドリュー・タランスキー(アメリカ、ガーミン・シャープ)
10位 アレハンドロ・バルベルデ(スペイン、モビスター)
133位 新城幸也(日本、ユーロップカー)
20h26'46"
+02"
+44"
+50"
+1'17"
+1'45"

+1'54"
+2'05"
+2'11"
+30'59''


マイヨヴェール(ポイント賞)
1位 ペーター・サガン(スロバキア、キャノンデール)
2位 マルセル・キッテル(ドイツ、ジャイアント・シマノ)
3位 ブライアン・コカール(フランス、ユーロップカー)
185pts
135pts
121pts


マイヨアポワ(山岳賞)
1位 シリル・ルモワンヌ(フランス、コフィディス)
2位 ブレル・カドリ(フランス、AG2Rラモンディアール)
3位 イェンス・フォイクト(ドイツ、トレックファクトリーレーシング)
6pts
5pt
4pt


マイヨブラン(新人賞)
1位 ペーター・サガン(スロバキア、キャノンデール)
2位 ミカル・クヴィアトコウスキー(ポーランド、オメガファーマ・クイックステップ)
3位 ロメン・バルデ(フランス、AG2Rラモンディアール)
20h27'30"
+00'06''
+01'27''


チーム総合成績
1位 アスタナ
2位 ベルキン
3位 BMCレーシング
61h21'26"
+04'18''
+06'05''


ステージ敢闘賞
リエーベ・ヴェストラ(オランダ、アスタナ)

text:Yuya.Yamamoto
photo:CorVos, Makoto Ayano, A.S.O.