ジロ・デ・イタリア閉幕から1週間。世間の関心はツール・ド・フランスへと移り行く。ツールでマイヨジョーヌを狙う選手たちにとっては最終調整の段階だ。ツール前哨戦として知られるクリテリウム・ドゥ・ドーフィネ(UCIワールドツアー)が6月8日から15日までフランスで開催される。



3つの山頂フィニッシュが総合の行方を決める

スイスとフランスをまたぐ山岳地帯を走るスイスとフランスをまたぐ山岳地帯を走る photo:Riccardo Scanferla
クリテリウム・ドゥ・ドーフィネ2014クリテリウム・ドゥ・ドーフィネ2014 image:A.S.O.一般的に「ドーフィネ」として呼ばれるクリテリウム・ドゥ・ドーフィネは、2010年からツールと同じA.S.O.(アモリー・スポーツ・オルガニザシオン)が主催している8日間のステージレース。「クリテリウム」の名前がついているが、レース形式はクリテリウムではない。

クリテリウム・ドゥ・ドーフィネ2014第2ステージクリテリウム・ドゥ・ドーフィネ2014第2ステージ image:A.S.O.1947年に第1回大会が開催され、長年地元新聞のドーフィネ・リベレ社によって運営されてきた。その名の通りレースの舞台はフランス南東部のドーフィネ地方(現在のイゼール県、ドローム県、オート=アルプ県)。「ミニ・ツール」と形容されるほど内容の濃いステージレースだ。

クリテリウム・ドゥ・ドーフィネ2014第7ステージクリテリウム・ドゥ・ドーフィネ2014第7ステージ image:A.S.O.何しろ2012年と2013年はこのドーフィネの総合優勝者がツールの総合優勝に輝いており、ツール本戦に向けた最高のリハーサルの場となる。ツールの前哨戦と呼ばれるだけに、オールラウンダーたちの脚試しに最適な山岳ステージが用意されている。

クリテリウム・ドゥ・ドーフィネ2014第8ステージクリテリウム・ドゥ・ドーフィネ2014第8ステージ image:A.S.O.今年はリヨンの10km個人タイムトライアルで開幕。その後の7ステージに「平坦コース」と呼べるものは設定されていない。つまり個人タイムトライアルで生まれた数秒差は最終的な総合争いにそこまで大きく影響しない。

第2ステージに超級山岳コル・ドゥ・ベアルの山頂フィニッシュが早速登場するという刺激的なコース設定。スタート直後から5つの山岳を越え、最後は登坂距離13.8km/平均勾配6.6%の登りを駆け上がる。7月の主役の幻影がここで見えるかもしれない。

中級山岳コースに位置づけられる第3、第4、第5ステージは、小集団スプリントもしくは逃げ切りの可能性有り。起伏に富んだコースで、「登れるスプリンター」を擁するチームが積極的にレースをコントロールするはずだ。

総合争いは第7、第8ステージの連続山頂フィニッシュで決着する。最難関のクイーンステージと目される第7ステージには5つのカテゴリー山岳が詰め込まれており、レース後半は隣国スイスを走る。終盤にかけて超級山岳フォルクラ峠(登坂距離12.6km/平均勾配8.2%)と超級山岳フィノー/エモッソン(登坂距離10.2km/平均勾配8%)のダブルパンチが待っている。

そしてドーフィネの総合優勝者を決めるのが大会最短131.5kmの第8ステージ。前日よりも難易度は低いが、かと言ってレースの難易度が低いわけではない。終盤に連続する1級山岳モンタニー峠(登坂距離8km/平均勾配6.5%)と1級山岳クールシュヴェル(登坂距離5.9km/平均勾配6.2%)を、マイヨジョーヌ候補たちが高速で駆け上がるはずだ。クールシュヴェルはツールにも度々登場する定番の登りだが、今回は登りの中腹にフィニッシュラインがひかれている。



クリテリウム・ドゥ・ドーフィネ2013ステージリスト
6月8日(日)第1ステージ リヨン〜リヨン 10km
6月9日(月)第2ステージ タラール〜ペイ・ドリエルグ/コル・ドゥ・ベアル 158.5km
6月10日(火)第3ステージ アンベール〜ル・テイユ 194km
6月11日(水)第4ステージ モンテリマール〜ガップ 169.5km
6月12日(木)第5ステージ シストロン〜ラ・ミュール 184km
6月13日(金)第6ステージ グルノーブル〜ポワジー 168km
6月14日(土)第7ステージ ヴィル・ラ・グラン〜フィノー/エモッソン 161.5km
6月15日(日)第8ステージ ムジェーヴ〜クールシュヴェル 131.5km



フルーム、コンタドール、ニーバリが三強 別府史之が地元を走る

ポートともにライバルを振り切るクリス・フルーム(イギリス、チームスカイ)ポートともにライバルを振り切るクリス・フルーム(イギリス、チームスカイ) photo:Cor Vos2013年、クリス・フルーム(イギリス、チームスカイ)はこのドーフィネで優勝し、ツールで優勝した。今年もフルームはもちろんそのトレンドを引き継ぎたい考え。相棒リッチー・ポート(オーストラリア)とともに山岳を牛耳るはずだ。

アルベルト・コンタドール(スペイン、ティンコフ・サクソ)アルベルト・コンタドール(スペイン、ティンコフ・サクソ) photo:Riccardo Scanferlaフルームのレース出場は、総合優勝した5月のツール・ド・ロマンディ以来1ヶ月ぶり。この1ヶ月でさらにそのパフォーマンスに磨きをかけたと言われる。フルームが優勝すれば、2011年のウィギンズから数えて4年連続でドーフィネのタイトルがチームスカイのものになる。

ヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、アスタナ)ヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、アスタナ) photo:Riccardo Scanferla今シーズンここまで出場した4つのレース全てで総合優勝か総合2位の成績を残しているのが、もう一人の有力候補アルベルト・コンタドール(スペイン、ティンコフ・サクソ)だ。

ミカル・クヴィアトコウスキー(ポーランド、オメガファーマ・クイックステップ)ミカル・クヴィアトコウスキー(ポーランド、オメガファーマ・クイックステップ) photo:Tim De Waeleグランツール全制覇の経験の持ち主は、ボルタ・アン・アルガルヴェ総合2位、ティレーノ〜アドリアティコ総合優勝、ボルタ・ア・カタルーニャ総合2位、ブエルタ・ア・パイスバスコ総合優勝と、着実な成績を残している。レース出場はほぼ2ヶ月ぶり。ドーフィネでは2009年に総合3位、2010年に総合2位に入っているが、まだ総合優勝の経験は無い。

別府史之(トレックファクトリーレーシング)別府史之(トレックファクトリーレーシング) photo:Kei Tsujiこの二強に割って入りたいのが、大会連覇が懸かったジロ・デ・イタリアをパスし、ツールに照準を合わせているヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、アスタナ)。今シーズンのニーバリは、パリ〜ニースやツール・ド・ロマンディに出場するなど、ツールで勝つためのレースプログラムを実施している。

6月の時点でシーズン未勝利という寂しい成績だが、フルームやコンタドールと同時にテネリフェ島で行なったトレーニングキャンプの成果を示す時が来た。ニーバリは2012年ドーフィネを総合28位で終え、ツールで自身最高の総合3位に入っている。

若手の急先鋒ミカル・クヴィアトコウスキー(ポーランド、オメガファーマ・クイックステップ)やティージェイ・ヴァンガーデレン(アメリカ、BMCレーシング)の活躍にも期待したい。24歳のクヴィアトコウスキーはボルタ・アン・アルガルヴェでコンタドールを打ち破って総合優勝。ツール・ド・ロマンディの初日プロローグで優勝してリーダージャージを着た(途中リタイア)。キンタナやアルと同じ1990年生まれ組の快進撃は続くのか。

2012年ツール総合5位&マイヨブラン獲得のヴァンガーデレンは25歳。ツール・ド・ロマンディの初日プロローグで落車し、2日後にリタイアしたヴァンガーデレンがレースに戻ってくる。ツールでBMCレーシングのエースを担うだけに、ドーフィネで下手な走りは許されない。

ロメン・バルデ(フランス、AG2Rラモンディアール)やトマ・ヴォクレール(フランス、ユーロップカー)、シルヴァン・シャヴァネル(フランス、IAMサイクリング)といった地元フランス勢の他、ウィルコ・ケルデルマン(オランダ、ベルキン)やライダー・ヘシェダル(カナダ、ガーミン・シャープ)ら、ジロを総合トップ10で終えたばかりの選手も出場する。

同様にジロを走り終えたばかりの別府史之(トレックファクトリーレーシング)が2年連続2度目のドーフィネ出場。現在住んでいる地域(リヨン近郊)を通るレースだけに思い入れは強いはずだ。

text:Kei Tsuji