標高2165mのチモーネ山の中腹にジロ・デ・イタリアが初めてフィニッシュする。見上げるとスキー場の斜面にはまだまだたっぷりと雪が残っている。1週間後に登る予定のガヴィア峠やステルヴィオ峠はその山の頂上よりも更に600m以上高い。今のところ積雪によるコースキャンセルの心配はないらしい。



マリアローザを着て登場したカデル・エヴァンス(オーストラリア、BMCレーシング)マリアローザを着て登場したカデル・エヴァンス(オーストラリア、BMCレーシング) photo:Kei Tsuji
新城幸也の愛犬コリンに和むダヴィデ・マラカルネ(イタリア、ユーロップカー)新城幸也の愛犬コリンに和むダヴィデ・マラカルネ(イタリア、ユーロップカー) photo:Kei Tsuji別府史之(トレックファクトリーレーシング)のSRMにはBelieveのステッカーが別府史之(トレックファクトリーレーシング)のSRMにはBelieveのステッカーが photo:Kei Tsuji



あのゴールドシューズはサムエル・サンチェス(スペイン、BMCレーシング)あのゴールドシューズはサムエル・サンチェス(スペイン、BMCレーシング) photo:Kei Tsujiもうジロが半分ぐらい終わったかなと思うぐらいなのに、まだ終着地トリエステまで2週間ある。遠いアイルランドで開幕したことと、悪天候続きだったことと、休息日が異例の3回というスケジュールによって、例年のジロより開催期間が長く感じられる。

マリアビアンカのラファル・マイカ(ポーランド、ティンコフ・サクソ)とマリアアッズーラのジュリアン・アレドンド(コロンビア、トレックファクトリーレーシング)マリアビアンカのラファル・マイカ(ポーランド、ティンコフ・サクソ)とマリアアッズーラのジュリアン・アレドンド(コロンビア、トレックファクトリーレーシング) photo:Kei Tsuji日本でTOJ(ツアー・オブ・ジャパン)が開幕したことを把握している選手がジロのプロトンの中にもちらほらいる。過去2年連続でTOJ総合2位のジュリアン・アレドンド(コロンビア、トレックファクトリーレーシング)は「開幕したね!」と言葉をかけてくれる。チームNIPPOからUCIワールドツアーに飛び出したコロンビアンクライマーは、現在山岳賞リーダーとしてマリアアッズーラを着ている。それにしても、相変わらず、8日間のステージレースで休息日が2回設定されていることはこちらの人に信じてもらえない。

ルーゴの街をスタートするプロトンルーゴの街をスタートするプロトン photo:Kei Tsujiいつもレース前にGoogle Mapsのストリートビューでコースをチェックしているのは自分だけではないらしい。前日にステージ優勝したディエゴ・ウリッシ(イタリア、ランプレ・メリダ)も前夜にGoogle Mapsで登りを確認。そのことが功を奏してか、抜群のタイミングで飛び出してステージ優勝を掴み取った。

2年前の大会覇者でありながらどこか存在感の薄いライダー・ヘシェダル(カナダ、ガーミン・シャープ)2年前の大会覇者でありながらどこか存在感の薄いライダー・ヘシェダル(カナダ、ガーミン・シャープ) photo:Kei Tsuji破竹の活躍を見せているウリッシだが、この日は何とも眠たそうな声でテレビのインタビューに答えていた。なんでも前夜はステージ優勝の関係でホテル到着が遅れ、晩ご飯も遅れ、ベッドに入るのも遅かった。さらにこの日の朝6時にドーピングコントロール係が滞在ホテルに到着。充分な睡眠時間がとれなかったらしい。

ジロ・デ・イタリアを観戦する小田島梨絵さん(写真は第6ステージ)ジロ・デ・イタリアを観戦する小田島梨絵さん(写真は第6ステージ) photo:Kei Tsuji何日か前のレポートでも書いたが、やはり今年のジロは選手と観客の距離が遠い。チームバスの駐車場は相変わらず混雑ぶりだが、選手用に隔離されたエリアが設けられているため、観客が選手のサインをもらうのは至難の業だ。これはメディアも同様で、選手の写真やインタビューをとるのが例年よりもずっと難しい。アットホームなジロの魅力が半減してしまった。

ジロに帯同している日本人は合計7名。内訳は選手2名(別府&新城)、チームスタッフ2名(宮島&大西)、メディア3名(砂田&辻&飯島)。この7名に加えて、イタリアに入ってから飯島美和さんと一緒に小田島梨絵(旧姓片山)さんが6日間だけ帯同していた。

2004年からMTB全日本選手権で9連覇を果たした彼女は、現在JOC(日本オリンピック委員会)のスポーツ指導者海外研修員としてミラノに2年間滞在している。そこでイタリア語を学びながらスイスのMTBジュニアチームでコーチの研修中だ。

日本やオーストラリアではロードレース出場の経験があるものの、初めてヨーロッパのロードレースに触れた小田島さんは「こんな世界があったんだと驚きました。今まで知らなかった」と興奮気味。

「若手を育てている立場として、若い選手はロードやトラック、MTB、BMXを融合して取り組んだほうがいいんじゃないかと感じ、本場のロードレースを知るために来ました。レースの規模の大きさに圧倒されています。ジロは華やかで、人を惹き付ける力があり、夢がある。スポーツだけじゃないものが詰まっているんだと感じました」と、大きな刺激を受けた様子だった。



エミリアロマーニャ州の内陸部を進むエミリアロマーニャ州の内陸部を進む photo:Kei Tsuji


落車の影響で攻撃に出ることが出来なかったナイロ・キンタナ(コロンビア、モビスター)落車の影響で攻撃に出ることが出来なかったナイロ・キンタナ(コロンビア、モビスター) photo:Kei Tsujiエミリアロマーニャ州の内陸にある、山間の小さなセストラの街はピンク色に染まっていた。セストラがフィニッシュ地点としてジロに登場するのは2回目。フィニッシュラインが引かれているのはセストラの街から更に登ったチモーネスキー場だ。北部のアルプスやドロミテに行かなくても、中部のアペニン山脈には標高2000m級のスキー場が案外いっぱいある。

マリアローザのカデル・エヴァンス(オーストラリア、BMCレーシング)とピンクの紙吹雪マリアローザのカデル・エヴァンス(オーストラリア、BMCレーシング)とピンクの紙吹雪 photo:Kei Tsuji1971年にはピアン・デル・ファルコ(この日の残り4km地点)にフィニッシュする山岳コースが設定されたが、チモーネスキー場まで登るのはこれが初めて。

フィニッシュ後に顔を拭う新城幸也(ユーロップカー)フィニッシュ後に顔を拭う新城幸也(ユーロップカー) photo:Kei Tsujiちなみに1971年は悪天候でヘリが飛ばずに大変だったらしい(地元のおじさん談)が、この日は清々しい快晴に包まれた。標高1500mオーバーにも関わらず、暖かい太陽のおかげで体感温度はすこぶる高い。ティンコフ・サクソの宮島正典マッサーが周到に準備していたホットティーの出番はなかった。

紙吹雪の吹き溜まりを行く全日本チャンピオン紙吹雪の吹き溜まりを行く全日本チャンピオン photo:Kei Tsujiイタリア人ジャーナリストたちが絶句するほどに、オリカ・グリーンエッジの快進撃が止まらない。ジロ初日のチームTTで優勝し、マリアローザを1週間守り、マイケル・マシューズ(オーストラリア)が勝利し、今度はピーター・ウェーニング(オランダ)が勝った。

さらに遡れば、リエージュ〜バストーニュ〜リエージュで優勝し、ツール・ド・ロマンディでステージ3勝し、ツアー・オブ・ターキーでステージ1勝&総合優勝。この1ヶ月の活躍は凄まじいものがある。チームは違えど、オーストラリア人のエヴァンスがマリアローザを着ている。まさにオーストラリアンフィーバーだ。

前日の急勾配の登りでギアが足りなかったという別府史之(トレックファクトリーレーシング)は、36x28Tというセッティングでこの日の山岳を走った。聞けば、ノーマルクランクでスタートした周りの選手が、急勾配の登りを前にちゃっかりコンパクトクランクのスペアバイクに乗り換えていたらしい。ゾンコランなどのステージでは更に軽いギア比が登場するだろう。

新城幸也(ユーロップカー)は落車で打ちつけた尾てい骨が痛い日と痛くない日があるようで、この日は痛い日だった。お尻に力が入りにくいため、その負担がすぐに脚に来てしまうと言う。休息日はゆっくりとホテルで過ごし、午後に少しだけローラー台に乗る予定。

とにかく雨に悩まされ続けた1週間が終わった。今後の2週間は安定した天候が見込まれるとの予報が出ている。レースディレクターのマウロ・ヴェーニ氏は、昨年降雪と低温でキャンセルになったガヴィア〜ステルヴィオ〜ヴァルマルテッロの第16ステージを今年は問題なく開催出来ると自信を見せている。

まだ標高2618mのガヴィア峠と標高2758mのステルヴィオ峠の頂上には数メートルの積雪が残っており、現在地元のエキスパートが除雪作業中。ヴェーニ氏曰く、今後天候が悪化しない限り、ジロは2つの伝説的な峠を通過する。

text&photo:Kei Tsuji in Modena, Italy