軽量で高剛性なバイクを追及する他のブランドとは一線を画する、"しなり"というファクターをフレームの開発テーマの中心に据える国内ブランドがグラファイトデザインだ。今回インプレするのは、新型「METEOR」(メテオ)。グラファイトデザインの処女作の名を受け継ぐフレームは、5年の時を経てどれほどの進化を遂げているのか。



グラファイトデザイン METEORグラファイトデザイン METEOR (c)MakotoAYANO/cyclowired.jp
埼玉県秩父市に本拠地を構えるグラファイトデザイン社。日本のプロゴルフツアーで使用率年間第一位という実績を持つゴルフシャフトメーカーとして確固たる地位を築いている同社であるが、ゴルフシャフト開発で培った高度なカーボン積層設計に関する技術やノウハウを応用してサイクルスポーツ界に進出した、ユニークなブランドだ。

2007年にプロジェクトを発足させ、2009年には処女作となる2種類のフレームとしてオールラウンドモデルのMETEOR speedとヒルクライムモデルのMETEOR launchを発売。しなりと反発によって、ボールを遠くに飛ばすために蓄積してきた、ゴルフシャフトメーカーとしてのテクノロジーを最大限に活かすべく、「しなるフレーム」としてデビューした2本のフレームは高剛性一辺倒だったレーシングフレーム市場に一石を投じた。

ラグと一体成型されたシートチューブはシートコアと呼ばれるラグと一体成型されたシートチューブはシートコアと呼ばれる テーパードヘッドを採用するヘッドチューブテーパードヘッドを採用するヘッドチューブ シンプルな形状のフォークはしっかりとしたハンドリング性能を持つシンプルな形状のフォークはしっかりとしたハンドリング性能を持つ


今回発表された「METEOR」はその歴史的なデビュー作の名を冠するフレームであり、グラファイトデザインがどれほど自信をもってこのバイクを世に送りだしたかが窺いしれる。2年以上の開発期間を投じ、素材からジオメトリー、フレームの構造などグラファイトデザインのカーボンフレームに対するフィロソフィーを詰め込んだMETEORは、メーカーの言葉を借りれば「ライダーの限界値を突き抜け、持てるポテンシャルを最大限に引き出すレーシングフレーム」となっている。

初代METEORシリーズをリリースしたのち、グラファイトデザインは2011年にZANIAH、2013年にT800を順次リリースしていった。テーパードヘッドチューブなどを採用することで、初代のMETEORシリーズよりも少し剛性感を上げたこれらのモデルは、ハイアマチュアサイクリストを中心に支持されることになり、「市民レーサーの甲子園」とも呼ばれるツールドおきなわ2013年大会の市民210kmを制したという実績を持つ。

ワイヤー式の変速アウター受けは取り外し可能ワイヤー式の変速アウター受けは取り外し可能 スーパーコアと名付けられた、ヘッド~BBにかけての部位は一体成型され高い精度を持つスーパーコアと名付けられた、ヘッド~BBにかけての部位は一体成型され高い精度を持つ

GDRは高性能なハンドル回りのパーツも作っているGDRは高性能なハンドル回りのパーツも作っている Di2バッテリー用台座はダウンチューブ下に設けられるDi2バッテリー用台座はダウンチューブ下に設けられる


それらの実績を持つフレームの開発ノウハウや選手からのフィードバックをもとに開発されたMETEOR。しなりの効果を最大限に引き出すためのフレーム構造として、GDRオリジナルラグシステムをメインの工法として採用している。これは、ヘッドチューブからBBまでが一体になった「スーパーコア」と名付けられた高精度のメインラグ、トップチューブ、シートチューブ、シートステー、左右チェーンステーの6ピースからフレームを構成するシステムだ。

特にスーパーコア部分はハンドリングに影響するヘッドチューブや、踏力を受け止めるBB回りが一体成型されており、ほかのチューブに比べて大口径のチューブとなることで力強さを演出している。非常に高精度に成形されており、フレーム自体の精度を向上させているため、余計なロスを発生させず伸びのある巡航性能の獲得に貢献している。モノコックとラグ構造のいいところを両立させているといってもよいだろう。

ダウンチューブと一体成型されたBBラグダウンチューブと一体成型されたBBラグ トップチューブには日の丸ロゴが誇らしげに配置されるトップチューブには日の丸ロゴが誇らしげに配置される


変形の仕方が予測しやすい真円のパイプ形状を用いることと、各チューブの剛性バランスを調整しやすいラグ工法はしなりをコントロールするために必要なものであると同時に、近年のカーボンフレームには珍しいすっきりとした外観が、大口径の異形カーボンフレームを見慣れた目には、逆に新鮮なイメージを与えてくれる。

カラーオーダーにも対応していることも大きな特徴だ。GDカラーズと名付けられたシステムにより、自動車用のカラーキーを使用することで、200色以上のカラーから好きな色のバイクが手に入れられる。塗装はコンセプトカーや特殊ペイントを長年手掛けてきた狭山車体工業株式会社の熟練した職人たちの手によって一本一本丁寧に高品質で仕上げられる。

トップチューブとスーパーコアの接合部トップチューブとスーパーコアの接合部 シートステーは湾曲することで突き上げを軽減シートステーは湾曲することで突き上げを軽減 上下異径のヘッドチューブが高い安定性をもたらす上下異径のヘッドチューブが高い安定性をもたらす


シンプルなルックスの中に、独自の設計思想を詰め込まれたグラファイトデザイン METEOR。今回のテストバイクは、ワイヤー式デュラエースにMAVIC CC40Cをアッセンブルしたバイク。2人のライダーはどのような評価をMETEORに下すのだろうか。それでは早速インプレッションをお届けしよう。



―インプレッション

「良いものを作りたいという作り手の情熱が伝わってくる」鈴木卓史(スポーツバイクファクトリー北浦和スズキ)

「良いものを作りたいという作り手の情熱が伝わってくる」鈴木卓史(スポーツバイクファクトリー北浦和スズキ)「良いものを作りたいという作り手の情熱が伝わってくる」鈴木卓史(スポーツバイクファクトリー北浦和スズキ) ラグを使った細身の外見から受ける華奢な印象とは異なって、しっかりとした走行性能を持つレーシングバイクです。外見的にも性能的にも、クロモリレーシングバイクの乗り味を現代の素材と技術で大幅に進化させたようなバイクと感じます。走る、曲がる、止まる、といった基本的な性能においてしっかりと作り込んであり、良いものを作りたいという作り手の情熱が伝わってきます。

BB周辺はBB86など最新の規格を採用していることで、従来のモデルよりもかかりも良くなっている一方で、しなりを活かしたGDRらしさは確実にあり、ペダルに入力したあとにリアから押されるような不思議な感覚の乗り味。おそらくリア三角のカーボンの積層などによって生み出されているばね感とBB回りの進化によるかかりの良さの両立が特長です。

登りのダンシングの振りも軽やかで、独特のばね感を活かしたリズムで気持ちよく上って行けます。従来のメテオスピードとメテオランチの丁度中間あたりを狙ったような性能で、上りだけでなく、平坦巡航時にも伸びの良い加速感が味わえ、オールラウンドに活躍できるモデルですね。

フロント周りがしっかりしているため、ハードなブレーキングでもフォークが負けることもなく、シリアスなレース場面では武器になるブレーキ性能を持っています。コーナーリング時にも、まさにオンザレールといった感覚で狙った通りのラインをトレースすることができます。止まる、曲がるという乗り物として大切なポイントをしっかりと押さえているのは好印象です。

路面からの振動の角を丸めて、やさしくライダーに伝えるような快適性を持っており、しなり感とあいまって非常に疲れにくいバイクです。クリテリウムなどの短距離のレースよりも、ツールドおきなわの210kmや、富士チャレンジなどの長距離のロードレースにおいて真価を発揮するフレームでしょう。超軽量だとか、踏み出しの軽さといったような少し乗っただけでもわかりやすい良さはないが、乗り込んでいくにつれ良さが分かっていく、中身美人といったイメージです。

乗り心地の良さを活かして、ロングライドバイクとして使うこともでき、クオリティの高いバイクが欲しいという人にとっては、フレームの精度の高さや独特のシルエット、カラーオーダー可能な点などが気にいればぜひおススメできるバイクです。


「日本人にマッチしたバランスというものを考えて作られている」戸津井俊介(OVER-DOバイカーズサポート)

作り手がカーボンに積層を知り尽くしており、各パイプの剛性感をコントロールしていることが繊細に感じ取れるバイクです。昔のクロモリバイクであれば、チューブのメーカーや銘柄、バテッドのカット位置などで調整していたことが、現在のカーボン技術によって、より設計意図に沿ったものづくりができるようになっています。各社、その中で、狙った剛性バランスでバイクを設計しているのですが、その中でも特に日本人にマッチしたバランスというものを考えて作られているなと感じました。

レーシングモデルとしての位置づけではあるのですが、一般的にレーシングフレームといった時にイメージされるような、硬い反応性やクイックなハンドリングという性格のバイクではありません。そういう観点からすれば、穏やかな反応性を持つバイクです。おそらくこのバイクの狙いは、フレームが乗り手に合わせていくことで、ライダーの能力を最大限に引き出していくことを主眼に置いているのではないでしょうか。

「日本人にマッチしたバランスというものを考えて作られている」戸津井俊介(OVER-DOバイカーズサポート)「日本人にマッチしたバランスというものを考えて作られている」戸津井俊介(OVER-DOバイカーズサポート)
踏み出しの軽さやヒラヒラとした軽快感が薄い代わりに、フレーム全体がしなやかなため、路面追従性に富んでおりトラクションのかかりが良く、どんな力をどんな角度から加えてもフレームが受け止めてくれ、推進力へと変換してくれる感覚があります。

一方で、ハンドリングに影響するフロント周り、とくにフロントフォークはしっかりと剛性を確保しているため、ブレーキングやコーナーリングについては、しなりが影響することは少ないでしょう。コーナーリングについては、ニュートラルで、クイックに切れ込むわけでも、大きく回るような感じでもなく、思うように曲がっていきます。

高回転でクルクルと回すよりも、低めのケイデンスで大きなトルクをかけて踏んでいく方がメテオ特有のリズムにあっていると感じました。例えば、上りのシッティングではケイデンス70-80位で気持ちよく進む感覚があります。ダンシングでも、重いギアをかけていく方が進む感覚があります。

いわゆる高剛性で打てば響くようなフレームに比べると、脚の疲労感は非常に低く抑えられる、いわゆる脚に来ないバイクです。それは、自分の出している力に逆らうような剛性感ではなく、フレーム側で力のベクトルを合せてくれるため、反作用という形で脚へのダメージが少ないからだと感じました。

インターバルやスプリントといったシチュエーションは得意ではないですが、そこに至るまでの道のりで足を残しておける分、ライバルに対して優位に立てるという、戦略的なフレームです。ツールドおきなわなどに代表される、長距離のレースにはうってつけでしょう。

価格的には、安くはないもののコンセプトがしっかりとしているため、非常に魅力的なフレームです。前述のような長距離のロードレースで上位を目指す方から、ロングライドを楽しみたい方まで、国内ブランドに対しての偏見がなく、物の良し悪しを分かっている方にとっては非常におすすめのバイクです。

グラファイトデザイン METEORグラファイトデザイン METEOR (c)MakotoAYANO/cyclowired.jp
グラファイトデザイン METEOR
サイズ:490、510、530、550、570(水平トップチューブ長)
カラー:ブラック、GDカラーズ(カラーオーダー)
ワイヤー式/電動式変速両対応
価 格:370,000円(税込 オリジナルカラー)
    400,000円(税込 GDカラーズ)



インプレライダーのプロフィール

鈴木卓史(スポーツバイクファクトリー北浦和スズキ)鈴木卓史(スポーツバイクファクトリー北浦和スズキ) 鈴木卓史(スポーツバイクファクトリー北浦和スズキ)

スポーツバイクファクトリー北浦和スズキの店長兼代表取締役を務める。過去には大手自転車ショップで修行を積んだ後、独立し現在の北浦和に店を構える。週末はショップのお客さんとのライドやトライアスロンに力を入れている。ショップでは個人のポジションやフィッティングを追求すると同時に、ツーリングなどのイベントを開催することで走る場を提供し、ユーザーに満足してもらうことを第一に考えている。「買ってもらった方に自転車を続けてもらう」ことをモットーに魅力あるバイクライフを提案する日々を送っている。

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スポーツバイクファクトリー北浦和スズキ


戸津井俊介(OVER-DOバイカーズサポート)戸津井俊介(OVER-DOバイカーズサポート) 戸津井俊介(OVER-DOバイカーズサポート)

1990年代から2000年代にかけて、日本を代表するマウンテンバイクライダーとして世界を舞台に活躍した経歴を持つ。1999年アジア大陸マウンテンバイク選手権チャンピオン。MTBレースと並行してロードでも活躍しており、2002年の3DAY CYCLE ROAD熊野BR-2 第3ステージ優勝など、数多くの優勝・入賞経験を持つ。現在はOVER-DOバイカーズサポート代表。ショップ経営のかたわら、お客さんとのトレーニングやツーリングなどで飛び回り、忙しい毎日を送っている。09年からは「キャノンデール・ジャパンMTBチーム」のメカニカルディレクターも務める。

OVER-DOバイカーズサポート

ウェア協力:reric

text:Naoki.YASUOKA
photo:Makoto.AYANAO

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