スペイン北部バスク地方を拠点とするバイクメーカーのオルベアが2014年のラインナップに登場した、マルチパーパスロードバイク「AVANT(アヴァン)」。今回のインプレッションでは、年間走行距離が8,000~15,000kmというライダーをターゲットとして開発されたエンデュランスロードバイクの性能に迫る。



オルベア AVANTオルベア AVANT (c)MakotoAYANO/cyclowired.jp
スペイン国内でも自転車熱の高いバスク地方を拠点とする総合ブランド、オルベア社。長年エウスカルテルへの機材サポートを行い、更にその育成チームのメインスポンサーを務めるなど、その長いパートナーシップ中ではオリンピック制覇やビッグレースでの勝利など、幾多の輝かしい栄光を残してきた。

ロードバイクではORCA(オルカ)シリーズ、MTBではALMA(アルマ)シリーズなど特にピュアレーシングモデルに定評を集めるオルベアだが、2014年よりデビューしたAVANTのキャラクター設定は、マルチパーパスなロングライドモデル。コンフォートなジオメトリーやディスクブレーキ、ワイドなタイヤクリアランスという大きな特徴を有している。

高い制動力に対応するマッシブな形状のフロントフォーク高い制動力に対応するマッシブな形状のフロントフォーク 中央部へ行くに連れて細くなるトップチューブ中央部へ行くに連れて細くなるトップチューブ ワイドタイヤに対応する幅広なタイヤクリアランスワイドタイヤに対応する幅広なタイヤクリアランス


長距離を快適に走破するためのAVANT。アップライトなポジションを可能とするべくORCAとは51サイズ比較でヘッドチューブが17mm長く、スタックハイトは22mm高い。もちろんホイールベースもORCAと比較して延長されており、安定したハンドリングを提供するように工夫されている。ルックス上での大きな特徴の一つであるスローピング角の大きなトップチューブは、シートポスト長を延長してしなりを出すための造作であろう。

ピュアレーシングモデルのORCAとは対極の位置づけであるAVANTだが、意外にも共通事項は少なくない。例えば、シートステーとチェーンステー、そしてフロントフォークのエンド寄り部分は「ハ」の字形状に広げられている部分は、オルカの路面からの衝撃を吸収し、路面追従性とパワー伝達能力を向上させるAttractionシステムと同様だ。高速巡航時の空気抵抗を考慮した涙的断面のダウンチューブにも共通のDNAが読み取れる。

ヘッド側のトップチューブ下部が絞られているヘッド側のトップチューブ下部が絞られている アップライトなポジションを可能にする長いヘッドチューブアップライトなポジションを可能にする長いヘッドチューブ

空気抵抗を考慮した涙滴断面のダウンチューブ空気抵抗を考慮した涙滴断面のダウンチューブ 振動吸収性の向上を狙ったシートステー振動吸収性の向上を狙ったシートステー


更に一つのフレームでキャリパーブレーキとディスクブレーキに両対応することもAVANTのオリジナリティ。しかもリアのキャリパーブレーキはBB下へと取り付けるダイレクトマウント対応という独創的な仕様を見せる。2014年モデルでは各社からディスクブレーキを搭載したロードバイクが多く登場しているが、AVANT同様のシステムを取り入れたバイクは知られていない。

マッシブなフロントフォークは、ディスクブレーキの強い制動力に対応するための構造であり、リアディスクブレーキはポストマウント式だ。

普通にロードバイクとして使うにはキャリパーブレーキを、天候をいとわずライドを楽しむにはディスクブレーキを、と言ったように、一台で2タイプのブレーキを使い分けられるメリットは少なくないはず。28c幅のタイヤも装着可能なクリアランスを有しているため、グラベルライドやパスハンティングといった遊び方もできる。

また、両ブレーキシステムの空力特性についてオルベアは風洞を使った実験と検証を行っており、それによればディスクブレーキ搭載バイクはヨー角が小さいほど速度が速くなり、ヨー角が10度以上の際はキャリパーブレーキにアドバンテージがあるのだそう。今後オルベアがロード用ディスクブレーキをどう発展させていくかにも注目したいところだ。

ポストマウント方式を採用したリアディスクブレーキポストマウント方式を採用したリアディスクブレーキ リアキャリパーブレーキはダイレクトマウント方式を採用リアキャリパーブレーキはダイレクトマウント方式を採用


もちろんロードバイクとしての基本性能がおざなりになっている訳ではなく、ヘッドチューブは最新の上1-1/8、下1-1/2インチベアリングに対応したテーパードタイプで、安定したハンドリングとディスクブレーキの制動力に対応したもの。ボトムブラケット規格はプレスフィットだ。

フレームは従来のケーブルから摩擦抵抗を25%削減し、変速レスポンスを向上させたフレーム内蔵の「インターナル DCRシステム」であり、空気抵抗の低減や汚れによる過度な摩耗とトラブルの発生を防ぐ。電動式と機械式コンポーネントを選べるユーザーフレンドリーな「EC/DC」テクノロジーも搭載している。

空気抵抗の低減や汚れによる摩耗やトラブルの発生を防ぐインターナル DCRシステム空気抵抗の低減や汚れによる摩耗やトラブルの発生を防ぐインターナル DCRシステム 重量を抑えるために採用されたプレスフィット式のBB重量を抑えるために採用されたプレスフィット式のBB ハの字型のAttractionシステムを備えるフロントフォークハの字型のAttractionシステムを備えるフロントフォーク


2014年ラインナップに新登場したAVANTの完成車パッケージは、シマノ・アルテグラにマヴィック・アクシウムを組み合わせたキャリパーブレーキ仕様の完成車仕様。今回のテストバイクは機械式ディスクブレーキであるシマノ BR-CX77がアッセンブルされ、ホイールにはシマノ WH-RX31が搭載されたバイクだ。オルベアが放つ、マルチパーパスエンデュランスモデルの性能に迫る。



ーインプレッション

「長い下りのコーナリングで楽しめる、快適性が高いバイク」宗吉貞幸(SPORTS CYCLE SHOP Swacchi)

オルベアらしい安定した乗り味を味わえるバイクでした。オルカブロンズと同じカーボンは滑らかで乗り心地の良い走りを演出しており、「ロングライド用」という狙い通りの性能が走りに現れていました。乗り手に余計な操作を要求してくる事がありませんでした。ストレスフリーですね。

「長い下りでのコーナリングを楽しめる、快適性が高いバイク」宗吉貞幸(SPORTS CYCLE SHOP Swacchi)「長い下りでのコーナリングを楽しめる、快適性が高いバイク」宗吉貞幸(SPORTS CYCLE SHOP Swacchi) このアヴァンはコンフォートよりの性能を持ち合わせているため、全体的に柔らかい乗り味と踏み味です。レースレベルでのパワーを掛けた時に関しては物足りなさを感じてしまいますが、使用用途がエンデューロや長距離ですから、そうしたシチュエーションで使うには非常に優れたバイクだと感じます。

オルベアのバイクは全体的に乗りやすいジオメトリーという共通項があるように思うのですが、アヴァンはそれを一層押し進めた印象です。深い前傾姿勢を取るのではなく、上ハンドルをもった楽なポジションでワインディングロードを走るようなイメージでしょうか。初心者でも安心してバイクの操作ができるはずですね。

試乗コースには荒れた路面がありましたが、振動をうまくカットするためバイクが落ち着いており、乗り味はマイルドです。パワーを掛けてペダリングをした時も足への跳ね返りが少なく、長時間のライドでも疲労は多くないはずです。

コーナリングに関しては、特有のロングホイールベースのためか挙動が安定しているので、バイクに身を預けても不安感は強くありませんでした。直線志向のハンドリングですから、ピュアなレーシングバイクと比べるとピーキーさに劣りますが、そうした性能を狙ったバイクではないため問題にはなりません。

このバイクの魅力を一番に活かせるシチュエーションは、長く下りの続くワインディングロードではないでしょうか。ディスクブレーキの安定した制動力と、落ち着いた挙動を持つアヴァンの組み合わせはライダーに大きな余裕を与えてくれるはず。少しのギャップならば問題無くいなしてしまうため、ストレスが少ないですね。

また、キャリア用の台座なども用意されているために、例えばキャリヤを載せて長野あたりで一泊するツーリングプランにも向いているかもしれませんね。

ホイールを軽量なものへと変更すれば軽快感をプラスできるはずですが、例えば28cのタイヤを付けたりなど、むしろ安定感をより引き出すセッティングをする方が向いているでしょう。ロードレーサーで長い距離を走ったり、旅に出たりしたい方や、落ち着いたペースで走りたい方に良いですね。


「グランフォンドなどのロングライドに向いている。グラベルロードにも」澤村健太郎(Nicole EuroCycle 駒沢)

高い快適性と安定感があり、グランフォンド向けに仕上がっているバイクという第一印象でした。スピードの増減が多いロードレースでの使用というよりは、エンデューロレースやブルベなど長時間に渡るロングライドへのフィットを第一に考えられたバイクであると感じました。

やはり目立つのは高い振動吸収性ですね。リアバックの造形はレーシングバイクであるオルカとかなり似ているのですが、その快適性は別次元のもの。一方でフロントフォークはディスブレーキに対応したためか、硬めの剛性となっています。下りや手放しをした時の安定感が非常に高く、安心して乗ることができました。

「グランフォンドなどのロングライドに向いている。グラベルロードにも」澤村健太郎(Nicole EuroCycle 駒沢)「グランフォンドなどのロングライドに向いている。グラベルロードにも」澤村健太郎(Nicole EuroCycle 駒沢)
レースバイクではありませんから、アヴァンは加速性能に目立つものはありません。ヘッドチューブ周辺の剛性が比較的マイルドに感じました。肩に来る疲労を緩和させる目的かもしれませんね。ただコンフォートバイクにありがちな絶対的な剛性不足はありません。要所要所にはしっかりとした硬さがあり、反応が遅すぎてしまうことはありませんでした。

今回の試乗車にアッセンブルされていたワイヤー引きのディスクブレーキは、例えばデュラエースなどキャリパーブレーキのトップモデルと比較するとやや劣るものでした。やはりディスクブレーキの高い制動力を味わうのならば、現時点では油圧式を選ぶのがベストでしょう。フレームとしてはディスクブレーキに対するフロントフォークやヘッドの剛性不足は無いため、制動力をスポイルすることも感じません。ブレーキに関してはこれからの展開に注目ですね。

このバイクに適しているコースの一つとして、高い振動吸収性やコントロール性能が求められるグラベルロードがあります。きっとストレス無く楽しむことができるはずですし、その場合はハンドルをやや高めにしておくと良いでしょう。

今回の試乗車にはワイドリムのホイールに23cタイヤがアッセンブルされていたため、ブレーキングやコーナリングを程よいレベルでこなせました。さらに幅広な28cタイヤを付けることで、走行性能と乗り味は向上すると思います。この辺りは自分好みのセッティングを見つけて頂きたいと思いますね。

完成車からカスタマイズをすることを考えた場合は、ディスクブレーキを油圧仕様に、コンポーネントは電動式にして、快適性を伸ばすのが良いでしょう。コストパフォーマンスは適正ですし、天候に左右されずに走行するブルベライダーや荷台を付けてツーリングをしたい方におススメのバイクですね。

オルベア AVANTオルベア AVANT (c)MakotoAYANO/cyclowired.jp
オルベア AVANT(販売パッケージ)
コンポーネント:シマノ 6800系アルテグラ
ブレーキ:キャリパータイプ
ホイール:マヴィック アクシウム
サイズ:47、49、51、53、55
カラー:カーボンブルー、カーボンレッド
価 格:336,000円(税込)



インプレライダーのプロフィール

宗吉貞幸(SPORTS CYCLE SHOP Swacchi)宗吉貞幸(SPORTS CYCLE SHOP Swacchi) 宗吉貞幸(SPORTS CYCLE SHOP Swacchi)

千葉県流山市にある「SPORTS CYCLE SHOP Swacchi」のスタッフ。自転車歴は95年からはじめて、2014年で19年目を迎える。2013年の実業団in群馬でE2カテゴリ6位入賞するなど、アップダウンのあるスピードコースを得意とする。日本体育協会自転車公認コーチの資格も有し、ロードバイクスクール開催に熱心。ショップ店員としてのモットーはお客様に確かなものをオススメすること。

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澤村健太郎(Nicole EuroCycle 駒沢)澤村健太郎(Nicole EuroCycle 駒沢) 澤村健太郎(Nicole EuroCycle 駒沢)

東京都世田谷区駒沢に2010年12月にオープンした「Nicole EuroCycle 駒沢」の店長。実業団ロードレースチーム「Maidservant Subject」ではキャプテンを務め、シクロクロスレースにも積極的に参戦している。同時にトレイル巡りやツーリングなど楽しく自転車に乗ることも追求しており「誰とでも楽しめるサイクリスト」が目標。

Nicole EuroCycle 駒沢
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ウェア協力:ガノー

text:So.Isobe
photo:Makoto.AYANO