「今日のは思いつきアタックです。距離も短かったので疲れてません。本番は明日なので」。ラスト8kmでチームメイトとともにアタックを仕掛けた新城幸也(ユーロップカー)は爽やかにそう語る。ツアー・ダウンアンダー(UCIワールドツアー)が動き始めた。



ワイン畑が広がるバロッサバレーを駆けるワイン畑が広がるバロッサバレーを駆ける photo:Kei Tsuji
バンの中でコースマップを確認する新城幸也(ユーロップカー)バンの中でコースマップを確認する新城幸也(ユーロップカー) photo:Kei Tsuji脚を上げてスタートを待つアンドレ・グライペル(ドイツ、ロット・ベリソル)脚を上げてスタートを待つアンドレ・グライペル(ドイツ、ロット・ベリソル) photo:Kei Tsuji



青空のバロッサバレーを駆ける青空のバロッサバレーを駆ける photo:Kei Tsuji2014年UCIワールドツアーの第1戦、ツアー・ダウンアンダーが南オーストラリア州で開幕。最高気温27度ほどの爽やかな青空が138名の選手たちを迎えた。

3分前後のリードで逃げ続けるウィリアム・クラーク(オーストラリア、ドラパック)とニール・ヴァンデルプローグ(オーストラリア、UniSAオーストラリア)3分前後のリードで逃げ続けるウィリアム・クラーク(オーストラリア、ドラパック)とニール・ヴァンデルプローグ(オーストラリア、UniSAオーストラリア) photo:Kei Tsuji前週まで続いた連日40度オーバーの異常気象により、オーストラリア各地でブッシュファイヤー(山火事)が発生。とくに高温に見舞われた南オーストラリア州では多発した。

ヤシの樹々に覆われた直線路を行くヤシの樹々に覆われた直線路を行く photo:Kei Tsujiワインの産地として世界的に知られる(ジェイコブスクリークが有名)アデレード北部のバロッサバレーも例外ではなく、第1ステージのコース近辺でもブッシュファイヤーが発生。「事態が悪化することがあれば、第1ステージのキャンセルも考慮に入れる。何よりも最優先されるべきは地元コミュニティーの生活であり、自転車レースは二の次だ」と、ツアー・ダウンアンダーの初開催時からレースディレクターを務めているマイク・ターター氏は語っていた。

幸い、地元の努力により、該当する地域のブッシュファイヤーは鎮火傾向に。煙の影響も少ないとして、主催者は第1ステージ開催にGOサインを出した。「もちろん状況が変われば違う手段も用意している。とにかく地元の方々に感謝したい。この大会が復興への起爆剤になってもらえれば」と、ターター氏。

スタート後すぐに飛び出したのは、おおよその予想通り、UCIプロチームではない2チームの選手だった。タスマニア州出身のウィリアム・クラーク(オーストラリア、ドラパック)とヴィクトリア出身のニール・ヴァンデルプローグ(オーストラリア、UniSAオーストラリア)が、バロッサバレーを舞台にした135kmの旅に出る。

集団コントロールを受けもったのはチームスカイとオリカ・グリーンエッジ。なお、チームスカイはクリテリウムの落車で本戦を欠場したエーススプリンターのクリストファー・サットン(オーストラリア)の代役として、今季加入したばかりのネイサン・アール(オーストラリア)を急遽出場させている。

ヤシの樹々や緑のワイン畑を横目に、緩やかなアップダウンをこなしながら、時折スプリントポイントでボーナスタイムを懸けたバトルを繰り広げながら、メイン集団はゆったりと逃げを追う。3分前後を推移したタイム差は1分を下回り、やがて吸収。メイン集団はこの日唯一のKOM(山岳賞)であるゴール12km手前のメングラーズヒルに差し掛かった。



チームメイトと話しながら走る新城幸也(ユーロップカー)チームメイトと話しながら走る新城幸也(ユーロップカー) photo:Kei Tsujiオリカ・グリーンエッジとチームスカイがメイン集団をリードするオリカ・グリーンエッジとチームスカイがメイン集団をリードする photo:Kei Tsuji
チームスカイとオリカ・グリーンエッジがメイン集団をコントロールチームスカイとオリカ・グリーンエッジがメイン集団をコントロール photo:Kei Tsuji


ワイン畑が広がるバロッサバレーを駆けるワイン畑が広がるバロッサバレーを駆ける photo:Kei Tsuji平均勾配6%・全長2.7kmのKOMメングラーズヒルを平均24〜25km/hで駆け上がったメイン集団からアダム・ハンセン(オーストラリア、ロット・ベリソル)らが飛び出し、KOMを先頭通過する。ハンセンらの吸収後、ゴールまでおよそ8kmを残して全日本チャンピオンが飛び出した。

オーストラリアチャンピオンのサイモン・ゲランス(オーストラリア、オリカ・グリーンエッジ)オーストラリアチャンピオンのサイモン・ゲランス(オーストラリア、オリカ・グリーンエッジ) photo:Kei Tsuji「今日は初日ということもあり、コンディションを確認するためにもチームオーダーは『自由に動いていい』でした。KOMの後、タイミングが有ったのでアタック。狙っていたわけじゃなく、思いつきのアタックです」と笑う新城が先行する。

先頭でスプリントを繰り広げるサイモン・ゲランス(オーストラリア、オリカ・グリーンエッジ)とアンドレ・グライペル(ドイツ、ロット・ベリソル)先頭でスプリントを繰り広げるサイモン・ゲランス(オーストラリア、オリカ・グリーンエッジ)とアンドレ・グライペル(ドイツ、ロット・ベリソル) photo:Kei Tsujiすると、1970年代にリエージュ〜バストーニュ〜リエージュ制覇やツール・ド・フランス区間6勝の成績を残したディートリヒ・トゥラウを父に持つチームメイトのビョルン・トゥラウ(ドイツ)が反応した。トゥラウは「いきなりユキヤが飛び出したので飛びついた。逃げ切るチャンスがあると思ったよ」と振り返る。

グライペルをスプリントで破ったサイモン・ゲランス(オーストラリア、オリカ・グリーンエッジ)グライペルをスプリントで破ったサイモン・ゲランス(オーストラリア、オリカ・グリーンエッジ) photo:Kei TsujiKOMで70名ほどに絞られたメイン集団から、15秒ほどのリードを得て逃げる新城とトゥラウの2人。スプリントに向けて体制を整えるメイン集団のスピードは徐々に上がり、残り2kmで先頭2人のすぐ背後に。フィニッシュラインに至る高低差50mほどの登りが始まると新城はスローダウン。諦めずに逃げたトゥラウも残り1kmで吸収された。

リーダージャージに袖を通したサイモン・ゲランス(オーストラリア、オリカ・グリーンエッジ)リーダージャージに袖を通したサイモン・ゲランス(オーストラリア、オリカ・グリーンエッジ) photo:Kei Tsujiカウンターアタックで飛び出したロリー・スザーランド(オーストラリア、ティンコフ・サクソ)は、ロット・ベリソルとオリカ・グリーンエッジのトレインに封じ込められる。スザーランドが吸収されると、ダリル・インピー(南アフリカ、オリカ・グリーンエッジ)とユルゲン・ルーランズ(ベルギー、ロット・ベリソル)によるリードアウト対決が始まった。

最終コーナーを抜けて、ルーランズに発射されたグライペルがスプリントを開始。するとその後ろでゲランスが腰を上げた。

赤黒黄色のドイツチャンピオンジャージを、緑と金色(黄色ではない)のオーストラリアチャンピオンジャージが追い上げ、追い抜き、先頭でハンドルを投げ込む。登りスプリントで、ゲランスが勝利した。

「自分自身、少し驚いている。世界最速のスプリンターにスプリントで勝ったんだ。今日のフィニッシュはかなりタフで、みんな疲れきっていた。向かい風が吹いていたからスプリント開始のタイミングを遅らせたんだ」。ステージ優勝と総合リーダージャージを同時に手にしたゲランスは高い声でインタビューに応じる。

レース初日のリーダージャージ獲得は早すぎるのではないかとの問いに、ゲランスは笑って答える。「レース全体を見た時に、今はアンドレ(グライペル)が総合でリードしたほうが楽かもしれない。でも過去の成績を見る限り、総合は秒差の争いになる。だからチャンスがあれば全て狙っていくべきなんだ。1秒が総合争いを左右する。とは言え、このジャージを手にするのが早すぎないといいけど。チームは素晴らしいメンバーを揃えているので、気負わずに最後までこのリードを保ちたいと思う」。

新城は残り1kmで発生した落車で足止めを食らい、67番手でフィニッシュラインを切っている(救済措置により4秒差の集団フィニッシュ扱い)。「明日の第2ステージが本番なので、2km過ぎたところで無理だと思って踏むのをやめました。明日は、終盤の周回コースで中切れを回避して前でスプリントしたいですね。今日は距離が短かったので全然疲れていませんよ」。全日本チャンピオンは、登りゴールが設定された第2ステージを見据えている。



残り1kmまで逃げ続けたビョルン・トゥラウ(ドイツ、ユーロップカー)残り1kmまで逃げ続けたビョルン・トゥラウ(ドイツ、ユーロップカー) photo:Kei Tsujiゴール後にチームメイトたちとレースを振り返る新城幸也(ユーロップカー)ゴール後にチームメイトたちとレースを振り返る新城幸也(ユーロップカー) photo:Kei Tsuji


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ツアー・ダウンアンダー2014第1ステージ結果
1位 サイモン・ゲランス(オーストラリア、オリカ・グリーンエッジ)    3h20'24"
2位 アンドレ・グライペル(ドイツ、ロット・ベリソル)
3位 スティール・ヴォンホフ(オーストラリア、ガーミン・シャープ)
4位 ディエゴ・ウリッシ(イタリア、ランプレ・メリダ)
5位 マキシム・ブエ(フランス、アージェードゥーゼル)
6位 フランチェスコ・ガヴァッツィ(イタリア、アスタナ)
7位 サイモン・ゲシュケ(ドイツ、ジャイアント・シマノ)
8位 ラファエル・バルス(スペイン、ランプレ・メリダ)
9位 カデル・エヴァンス(オーストラリア、BMCレーシングチーム)
10位 ロバート・ヘーシンク(オランダ、ベルキンプロサイクリング)
67位 新城幸也(日本、ユーロップカー)                   +04"

個人総合成績
1位 サイモン・ゲランス(オーストラリア、オリカ・グリーンエッジ)    3h20'23"
2位 アンドレ・グライペル(ドイツ、ロット・ベリソル)             +05"
3位 スティール・ヴォンホフ(オーストラリア、ガーミン・シャープ)       +07"
4位 サイモン・ゲシュケ(ドイツ、ジャイアント・シマノ)            +10"
5位 ディエゴ・ウリッシ(イタリア、ランプレ・メリダ)             +11"
6位 マキシム・ブエ(フランス、アージェードゥーゼル)
7位 フランチェスコ・ガヴァッツィ(イタリア、アスタナ)
8位 ラファエル・バルス(スペイン、ランプレ・メリダ)
9位 カデル・エヴァンス(オーストラリア、BMCレーシングチーム)
10位 ロバート・ヘーシンク(オランダ、ベルキンプロサイクリング)
67位 新城幸也(日本、ユーロップカー)                    +15"

スプリント賞
1位 サイモン・ゲランス(オーストラリア、オリカ・グリーンエッジ)      17pts
2位 アンドレ・グライペル(ドイツ、ロット・ベリソル)            14pts
3位 スティール・ヴォンホフ(オーストラリア、ガーミン・シャープ)      13pts

山岳賞
1位 アダム・ハンセン(オーストラリア、ロット・ベリソル)          16pts
2位 アクセル・ドモン(フランス、アージェードゥーゼル)           12pts
3位 ローラン・ディディエ(ルクセンブルク、トレックファクトリーレーシング) 8pts

ヤングライダー賞
1位 カルロス・ベローナ(スペイン、オメガファーマ・クイックステップ)  3h20'38"
2位 ジュリアン・アラフィリップ(フランス、オメガファーマ・クイックステップ)
3位 ケニー・エリッソンド(フランス、FDJ.fr)

チーム総合成績
1位 ランプレ・メリダ                         10h01'46"
2位 オリカ・グリーンエッジ                          +04"
3位 BMCレーシングチーム

text&photo:Kei Tsuji in Adelaide, Australia

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