インテグラルヘッドやオーバーサイズBBなど画期的な技術を先んじて投入してきたピナレロの、次なるチャレンジはディスクブレーキ。10回目のツール・ド・フランス個人総合優勝を達成したトレンドリーダーが放つ意欲作「DOGMA 65.1 HYDRO」のインプレッションを紹介する。

ピナレロ DOGMA 65.1 HYDROピナレロ DOGMA 65.1 HYDRO (c)MakotoAYANO/cyclowired.jp
現在までに続くピナレロのハイエンドレーシングモデル「ドグマ」のデビューは今から12年前、2002年にまで遡る。マグネシウム合金製のフレームに湾曲したONDAフォーク&シートステーという革新的なテクノロジーを搭載した初代ドグマは驚きと賞賛の声をもって迎えられ、2004年にはアレッサンドロ・ペタッキ(イタリア、当時ファッサボルトロ)がジロ・デ・イタリアで9回のステージ優勝を成し遂げるなど幾多の勝利に貢献した。

ドグマはその後、2010年にはフレームをカーボンへと置き換えドグマ60.1として再びデビュー。2012年にはフレーム形状に大幅な変更が加えられドグマ2に、その1年後の2013年はより高弾性なカーボンを使用したドグマ 65.1 Think2へと進化する。その中で左右非対称デザインなど、ドグマシリーズは常に時代を先取るテクノロジーを身に纏ってきた。今回テストを行う「ドグマ 65.1 HYDRO」は登場したばかりの油圧ディスクブレーキに対応したモデルだが、そんな歴史を持つドグマ、そしてピナレロがディスクブレーキロードにチャレンジしたことは何ら不思議ではない。

ヘッドマークに配された「P」マーク。キャリパーブレーキの取り付け穴は排除されているヘッドマークに配された「P」マーク。キャリパーブレーキの取り付け穴は排除されている 根本のリブを廃され、湾曲が緩やかになったディスクブレーキ専用のONDA HDフォーク根本のリブを廃され、湾曲が緩やかになったディスクブレーキ専用のONDA HDフォーク ブレーキ用のホースはフォークの中を通るブレーキ用のホースはフォークの中を通る


このドグマ 65.1 HYDROは、ツール・ド・フランス2連覇や世界選手権制覇を成し遂げた生粋のレーシングバイクの走行性能をそのままにディスクブレーキ対応としたモデル。フラッグシップであるドグマをベースとしているだけにレーシングスペックではあるものの、天候に左右されにくいブレーキ特性からグランフォンドやブルベを楽しむコアなアマチュアサイクリストまでをもターゲットとしている。

フレーム及びフォークはディスクブレーキ台座の設置やエンド幅の拡張のみならず、キャリパーブレーキモデルとは異なる荷重の掛かり方に対処するため、ジオメトリーは同様ながら形状や寸法など多くの変更が施されている。例えばピナレロのアイデンティティであるアシンメトリックデザインは、フロントフォークは左右の形状がより大きく異なり、リア三角のブレーキ側はより太さを増すなど、より顕著なものに。さらにONDAフォーク及びシートステー湾曲は緩やかな形状となり、更にフォークやシートステーなど大きな負荷が掛かる箇所の表面に設けられていたリブの多くは廃止された。

フォーク同様に湾曲が緩やかになったONDAシートステーフォーク同様に湾曲が緩やかになったONDAシートステー 自転車界ではピナレロのみに供給される東レ製65HM1K Nanoalloyカーボンを使用する自転車界ではピナレロのみに供給される東レ製65HM1K Nanoalloyカーボンを使用する

大きなRを描くリアエンドの形状大きなRを描くリアエンドの形状 リアのブレーキ台座はチェーンステーに設けられたリアのブレーキ台座はチェーンステーに設けられた


また、前後のエンド形状はボリュームを増しており、チェーンステーとシートステーを繋ぐリアエンドは大きなRを描くデザインに変更されている。ブレーキ台座はポストマウント式を採用し、MTBモデルのドグマXC同様にリアブレーキキャリパーをチェーンステーに搭載する「RADシステム」を装備した。

エンド幅は前100mm・後135mmで、ホイールの固定は前9mm・後10mmのスルーアクスル方式で行う。フォークブレードの左側とフレーム内部にはオイルホースを通すためのルートを配し、話題のスラムRED22 Hydraulicやシマノの電動油圧ディスクブレーキ等との組み合わせを可能に。さらに、「THINK2」システムを採用することで、シマノDi2とカンパニョーロEPSに加え、各社の機械式コンポーネントを含め現在市場に存在するほぼ全てのコンポーネントに対応する。

急激な曲げを廃したチェーンステー急激な曲げを廃したチェーンステー マッシブなBB付近の造形。オーソドックスなネジきり式として不要なトラブルを回避するマッシブなBB付近の造形。オーソドックスなネジきり式として不要なトラブルを回避する


キャリパーブレーキモデルと同様にフレーム素材には日本の東レがピナレロに独占供給を行うをTorayca 65HM1K Nanoalloyを採用する。このカーボンは65t級の超高弾性炭素繊維を使用しながら、ミクロンオーダー(1mの100万分の1に相当する大きさ)で微細構造を制御することで、高い剛性を維持しつつ耐衝撃性の向上に成功した材料だ。また、落車時など大きな衝撃が加わった際の急激な破断を防ぐことで安全性を高めている。

ドグマ 65.1 HYDROはすべて受注発注で、フレームセットでの販売となる。価格はキャリパーブレーキモデルと価格差は無く、539,000円をベースにカラーによってアップチャージが発生。カラーオーダーシステム「MY WAY」にも対応する。また、ロングライドや悪路に最適化したジオメトリーを採用する兄弟モデルのドグマKにも油圧ディスクブレーキ対応モデル「DOGMA K 65.1 HYDRO」が登場している。

アシンメトリックデザインのシートステー。カラーも左右で塗り分けられるアシンメトリックデザインのシートステー。カラーも左右で塗り分けられる エアロ形状の専用シートポストが付属するエアロ形状の専用シートポストが付属する シートステーの集合部は極太のモノステーとしたシートステーの集合部は極太のモノステーとした


インプレション行ったのは、MTBにおけるディスクブレーキ黎明期を知る鈴木祐一氏と、かつてピナレロと共に幾多のレース戦った新保光起氏。早速インプレッションに移ろう。なお、今回はコンポーネントにスラムRED 22、ホイールにヴィジョン メトロン40ディスクがアッセンブルされた試乗車を使用した。



ーインプレッション

「安定的かつ強力な制動力が魅力 トップレベルのレースで即使用できる完成度」新保光起(Sprint)

レースで求められるあらゆる性能を高めたマシンという第1印象でした。ONDAフォークやアシンメトリックデザイン、そして今回のディスクブレーキなど常に新しいアプローチで開発を行ってきたピナレロには並々ならぬ情熱を感じますね。

純粋なロードレーサーとしての運動性能もさることながら、このバイクの魅力はやはりディスクブレーキ。非常にストッピングパワーが高く、天候に左右されずにあらゆるコンディションで確実に制動できるでしょう。現時点ではUCIのレギュレーションに準拠するレースでは使用できませんが、トップレベルのレースで使用しても問題ないほどの高い完成度があります。

「安定的かつ強力な制動力が魅力 トップレベルのレースで即使用できるほどの完成度」新保光起(Sprint)「安定的かつ強力な制動力が魅力 トップレベルのレースで即使用できるほどの完成度」新保光起(Sprint)
ディスクブレーキとしたことでヘッド周辺が重いため、通常モデルと比較してもハンドリングにやや重たさを感じますが、ハイスピード域ではあまり気になりませんでした。ブレーキが下方に位置していることで重心が下がっているため、逆に安定感があるとも言えるでしょう。

キャリパーブレーキモデルとの比較では、ディスクブレーキの制動力に対応させるために剛性を高めていると感じました。以前乗っていた旧々モデルのドグマ60.1と比較しても明らかに硬いです。ただ、硬いだけではなく十分に衝撃吸収性も備えられている点はさすがですね。ONDA形状のフォーク及びシートが衝撃を適度に緩和することで、トラクションを確保しながら適切にロードインフォメーションを体に伝えてくれます。

今シーズンから多くのモデルに高剛性を実現しやすいプレスフィット式BBを投入したピナレロですが、ハイエンドモデルのみ、トラブルが発生する可能性が低いねじ切り式のBBシェルを採用した点は堅実ですね。それでもBB周りの剛性は申し分ないほどに高いと感じました。

安定した制動力はブルベなどのロングライドにもオススメできます。これからディスクロードが普及していけば更にパーツの選択肢が増え、より好みや用途に応じたセッティングが可能になるでしょう。軽いカーボンホイールの制動力や摩擦熱による破損の可能性の高さに不安を感じている人や、天候を気にせずストイックに走るライダーには是非とも検討して頂く価値のある1台です。


「現時点でのベンチマークと言える1台 ディスクロード専用パーツの普及に期待」鈴木 祐一(Rise Ride)

「現時点でのベンチマーク的な1台 ディスクロード専用パーツの普及に期待」鈴木 祐一(Rise Ride)「現時点でのベンチマーク的な1台 ディスクロード専用パーツの普及に期待」鈴木 祐一(Rise Ride) マッシブなルックスからイメージできる通り、しなりやたわみは極僅か。やはりトップレベルのレースに出場する選手のために開発されたバイクなのだな、と改めて感じます。

これまで前例の少ないディスクブレーキ搭載のロードバイクとあって、その性能や用途に疑問を持つ方は少なくないと思います。しかし、純粋な「ロードレーサー」としての完成度は非常に高く、現時点でのベンチマークと言っても過言はないでしょう。単にディスクブレーキ台座を追加しただけではなく、ストッピングパワーの増加に合わせてフレームとフォークを共に設計し直していると感じました。

フレームが最適化された一方、タイヤやホイールはディスクブレーキの制動力に対応しきれていない印象です。これまでのロード用レーシングモデルよりも更にハイグリップなタイヤや高剛性なホイールセットなど、専用品の登場が待たれますね。もしくはローターを小径化することで意図的に制動力を落としても良いでしょう。

今回の試乗車に装備されていたスラムのロード用ディスクブレーキはMTBでの使用にも耐える程のストッピングパワーがあり、とてもコントローラブルです。ブラケット部分は見た目にこそ大きく感じるものの、実際に握って見ると違和感無く使用することができました。

シフトのフィーリングはキャリパー対応のレバーとほとんど変わりません。レバータッチは引き始めが柔らかく、パッドとローターが接触してからはスラム傘下のブレーキメーカー「Avid」と似たフィーリング。総じて非常に完成度が高く、様々なコンディションで安定した制動力が得られるはずです。

ただし、レースで使用する前にはそのフィーリングや制動の立ち上がり方を十分に把握する必要があるでしょう。それでも、ウェットコンディションではダウンヒルでライバルに大きな差をつけることができ、集団内では余裕を持って走ることができるでしょうね。

ディスクブレーキ専用のロードホイールがどの様に進化していくかはとても興味深いポイントです。ブレーキングの際に発生する摩擦熱がなくなることで外周部を軽くすることができ、ブレーキ面の形状に制約がなくなることから、これまで以上に空力に特化した形状のモデルも現れるのでは?と思います。

イタリアンバイクの伝統的な乗り味とディスクブレーキが融合した新世代のレーシングバイクです。従来からのピナレロファンや新規格のバイクをいち早く体感してみたい方、これから増えていくであろう専用パーツのアッセンブルで楽しみたい方にオススメですね。

ピナレロ DOGMA 65.1 HYDROピナレロ DOGMA 65.1 HYDRO (c)MakotoAYANO/cyclowired.jp

ピナレロ DOGMA 65.1 HYDRO
サイズ:44SL, 46.5SL, 50, 51.5, 53, 54, 55, 56, 57.5, 59.5 (C-C)
フレーム素材:トレカCarbon 65HM1K Nanoalloy
フォーク:ONDA HD
コンポーネント:機械式、電動兼用
ブレーキ:ディスクブレーキ専用
ブレーキ台座:ポストマウント
BBシェル:イタリアン
カラー/価格(税込):
NAKED 539,000円
DESIGN 561,000円
MY WAY 611,000円
付属品:専用シートポスト



インプレライダーのプロフィール

鈴木祐一(Rise Ride)鈴木祐一(Rise Ride) 鈴木 祐一(Rise Ride)

サイクルショップ・ライズライド代表。バイシクルトライアル、シクロクロス、MTB-XCの3つで世界選手権日本代表となった経歴を持つ。元ブリヂストン MTBクロスカントリーチーム選手としても活躍した。2007年春、神奈川県橋本市にショップをオープン。クラブ員ともにバイクライドを楽しみながらショップを経営中。各種レースにも参戦中。セルフディスカバリー王滝100Km覇者。

サイクルショップ・ライズライド


新保 光起(Sprint)新保 光起(Sprint) 新保 光起(Sprint)

1995年に日本舗道レーシングチームよりプロデビュー。以後スミタ・ラバネロ・パールイズミから愛三工業レーシングと渡り歩き、2000年ツール・ド・北海道での山岳賞獲得や2002年ジャパンカップで日本人最高位の7位に入るなど、オールラウンダーとして活躍する。引退後は関東近郊のプロショップにて修行を積み、今年6月、横浜にプロショップ「Sprint(スプリント)」をオープン。普段はMTBでトレイルライドを楽しんでいる。

Sprint



ウエア協力:ビオレーサービエンメ

text:Yuya.Yamamoto
photo:Makoto.AYANO


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