今年で創業60周年を迎えたイタリアンバイクブランド、デローザ。そのミドルグレードの一翼を担うのが2014年モデルで3世代目となるIDOL(アイドル)だ。6年前に登場した初代モデルと同様の美しいルックスを引っ下げ復活したレーシングバイクの性能とは如何に。

デローザ IDOLデローザ IDOL (c)MakotoAYANO/cyclowired.jp
「新素材のフレームが台頭することは時代の流れだ。それには逆らえない。しかし変わらないものもある。」と語るのは創業者のウーゴ・デ・ローザ。カーボンフレームの台頭ともに規模を縮小したイタリアンブランドが数多くあるなかで、新素材の活用に貪欲な同社は今日もトップブランドとして君臨している。

生産するフレームの8割以上がカーボンフレームとなったというデローザだが、現在も創業当時と変わらずミラノ郊外の街”クザーノ・ミラニーノ”に工房を構える。そして他メーカーから金属フレームが姿を消して行くなかで、スチールとチタン、アルミを駆使しながらフレーム作りを続けてきた。その理由は今なお金属フレームに根強いファンがいるためでもあるが、金属フレームに対する奥深い知識と理解を生かすことでカーボンフレームの完成度をより高めているからだ。

ダウンチューブに記されるデローザのロゴマークダウンチューブに記されるデローザのロゴマーク ヘッドチューブにはデローザのアイコンであるクオーレマークが記されるヘッドチューブにはデローザのアイコンであるクオーレマークが記される 直線的でシンプルなフォルムのフロントフォーク直線的でシンプルなフォルムのフロントフォーク


IDOLがデビューしたのは2007年のこと。ゆるやかに湾曲したトップチューブやISPなどイタリアンブランドらしいデザインが話題となった初代モデルは、2007年のツアー・オブ・ジャパンではフランチェスコ・マシャレッリ(当時アクア・エ・サポーネ)が世界でも屈指の斜度を誇る富士山ステージを制し総合優勝を果たすなど、レーシングフレームとしても輝かしい実績を残している。そして2010年には同社史上初となるプレスフィットBBを採用し、艶やかなペイントが特徴的な2代目が登場した。

そして2014年モデルとして復活した3世代目アイドルが今回のテストバイクだ。初代、そして2代目と同様にレーシング性能と美しさの両立を目指したバイクで、直線的な造形のモデルが多いデローザの中で、存在感の高いモデルといえるだろう。金属フレームの製造で培った経験とノウハウを活かしたフレームは、初代のデザインをベースにリア三角はSUPERKING(インプレッションはこちらから)と共通する細身かつねじれの加わった形状とすることで快適性を重視する。そしてディスクブレーキ搭載モデル(日本未展開)と共通の設計となっていることから剛性に富んだ仕上がりになっているという。

ケーブル類は全て内蔵とし、電動コンポーネントに対応するケーブル類は全て内蔵とし、電動コンポーネントに対応する アウター受けを傾けることで抵抗の少ないスムーズなワイヤリングを実現するアウター受けを傾けることで抵抗の少ないスムーズなワイヤリングを実現する

ボトムブラケットには最新鋭のBB386を採用し剛性を高めたボトムブラケットには最新鋭のBB386を採用し剛性を高めた トップチューブとヘッドチューブの接点を強化し操作性の向上を図るトップチューブとヘッドチューブの接点を強化し操作性の向上を図る


ラインナップの中ではプロ向けのPROTOSとKING RSに続くミッドレンジ。同価格帯のSUPERKINGがアグレッシブなジオメトリーを採用する一方で、シートチューブ角やリアセンターを標準的な数値とすることで快適性や直進安定性を重視している。

素材にはT1000グレードとT800グレードの2種類のハイモジュラスカーボンを7対3の割合で組み合わせ、剛性や振動吸収性の向上と軽量化を図っている。また、先代までは3分割されたフレームを接着して組み上げられていたものの、3代目では新たに1ピースのモノコック構造を採用した。

駆動側のチェーンステーは緩やかな曲線を描く駆動側のチェーンステーは緩やかな曲線を描く フロントディレーラー台座は直付式としたフロントディレーラー台座は直付式とした


ボトムブラケットには2013年よりオープン規格となった最新鋭のBB386を導入し、シェル幅を最大限に広げることでねじれ剛性と伝達効率の向上を図った。またヘッドチューブの下側には1‐1/4インチ径のベアリングをセットし、BBと同様にねじれ剛性を高めハンドリングの安定感を演出する工夫がとられた。

ケーブル類は全て内蔵となり、シマノのDi2及びカンパニョーロのEPSの両コンポーネントに対応する。バッテリーはスマートなルックスが実現可能な内蔵とメンテナンス性に優れる外付けから選択可能で、内蔵の場合にはシートポストまたはシートチューブ内に搭載できる。

シートステーは幅広のモノステータイプとしているシートステーは幅広のモノステータイプとしている SUPERKINGと同様の形状を採用する細身のシートステーSUPERKINGと同様の形状を採用する細身のシートステー ダウンチューブの裏側にもロゴマークが記されるダウンチューブの裏側にもロゴマークが記される


販売パッケージはフレームセットのみとなり、サイズは47~59.5cmまで6種類、カラーはBlue White Mattや今回試乗を行ったBlack White Mattなど4種類がラインナップ。価格は262,500円(税込)に設定され、カンパニョーロCHORUSとBULLET ULTRA CULTホイールをアッセンブルした完成車の参考価格は903,000円(税込)となる。テスト車両のコンポーネント及びホイールはそれぞれカンパニョーロCHORUSとSHAMAL ULTRAだ。



ーインプレッション

「走行性能とデザイン、その両方にイタリアらしさが光る」新保光起(Sprint)

走り始めた瞬間に軽快感を味わうことができ、高い剛性と快適性を両立しているレーシングバイクだと感じました。走行性能とデザインの両方にイタリアンブランドらしさが現れています。

直進時を含めた全体的な安定性の高さ、特に高速時の安定感に優れており、コーナリング時の感触はとてもニュートラルで、地を這っているかの如く走ることができました。これはフレームのトラクション性能が高いからであり、ブラインドコーナーの先に急に悪路が出現してもバイクが挙動を乱すこと無く対応してくれるでしょう。大振りなダンシングをしてもハンドリングが乱れることはありませんでした。

「走行性能とデザインの両方にイタリアらしさが光るレーシングバイク」新保光起(Sprint)「走行性能とデザインの両方にイタリアらしさが光るレーシングバイク」新保光起(Sprint)
レーシングバイクと謳っている通りにバイク全体から高い剛性を感じることができました。BB386規格のボトムブラケットシェルや複雑な形状のチェーンステー、トップチューブなど様々な箇所で剛性を高めるための工夫が見られます。また、ボリュームのあるヘッドチューブ周りはねじれ剛性の高さに貢献しており、荒い踏み方をしてもバイクが無駄なく推進力に変換してくれる印象ですね。

高い剛性は良好な加速性能につながっており、ゼロ加速から高速域のスプリントまで幅広い速度域で気持ち良くスピードが伸びてくれます。登りでは緩斜面が最も得意という印象で、勾配を感じさせない軽快な走りを味わうことができました。

このバイクはペダリング時の「美味しい範囲」が広いことが特徴です。上死点付近から踏み始めてもスムーズにスピードが乗りますね。ただし基本はレーシングバイクですから、今回の試乗車のように高剛性なアルミホイールをセットした場合は脚力によっては踏み負けを感じることもあるかもしれません。

振動吸収性についてはフロントフォークの働きが良く、縦方向の振動を大幅にカットしてくれます。フロントの快適性を高めた一方で、リアバックはやや硬めで多少暴れる印象はありましたが、推進力をロスしているわけでは無く、荒れた路面でダッシュをしてもトラクションを確保してくれます。恐らく、複雑な形状のチェーンステーが効いているのでしょう。レーシングバイクであることを考慮すれば、十分な快適性を持っていると言えます。

近年では剛性だけを追求したバイクも多い中、アイドルは高剛性と安定感を両立させたイタリアンバイクらしい重厚感のあるモデルです。デローザのラインナップの中では比較的リーズナブルですし、ハイグレードなカーボン素材を使用しているという点ではコストパーフォーマンスにも優れているといえるでしょう。レース指向で硬めのフレームを探しているライダーや、2台目のレースバイクを探している方にオススメできる1本です。

また、レースバイクという位置づけですが、主な使用用途が休日のサイクリングのみという方にもオススメできるバイクです。平地だけでは無くアップダウンを多く含んだ100km程度のコースを走れば、様々なスキルのライダーにアイドルの走行性能を体感してもらえるでしょう。


「安定感やトラディショナルな乗り味にデローザの歴史を感じることができる」鈴木祐一(Rise Ride)

「安定感やトラディショナルな乗り味にデローザの歴史を感じることができる1台」鈴木 祐一(Rise Ride)「安定感やトラディショナルな乗り味にデローザの歴史を感じることができる1台」鈴木 祐一(Rise Ride) レーシングブランドとしてのデローザの歴史や自転車作りに対する情熱が具現化されたバイクと言う第1印象です。ある部分に剛性を集中させること無く、フレーム全体の変形が調和することで生まれる加速性能と安定性が魅力ですね。重めのギアをグイグイと踏んでいく古典的なライディングスタイルに向いているのではないでしょうか。

長時間に及ぶロードレースを集中して走りきるための安定性やバランス感に、60年という長い歴史の中で培ってきた経験やノウハウを感じます。剛性や快適性、軽さといった特定の性能だけを重視せず、適度な剛性感と過度なショック吸収をしないことで適切なロードインフォメーションが伝わるよう味付けされているという印象です。

軽量バイクがありふれた昨今において「軽量」とは言えません。しかしそれが逆に重厚な乗り味や安定性につながっていて、長時間走った後でもバイクコントロールによる気疲れが少なく、集中力を保ちながら安全にライディングできるでしょう。

このバイクは平地巡航や短距離かつ緩斜面の登りが得意だと感じました。脚力に自身があるライダーであればやや重めのギアで体全体を使いながらペダルを回すと気持ち良く走れると思いますし、心地よい疲労感や高い心拍など辛さの中にある自転車の醍醐味が味わえるはずです。

カーボン製ながらクロモリバイクの様な感触がありましたが、これは人間の感覚を重視するデローザの思想に理由があるような気がします。コンポーネントはやはり、フィーリングを重視しながら職人が作り上げるという点でデローザと共通し、半世紀以上に渡る協力関係があるカンパニョーロが最適ですね。挙動や反応など、バイクとコンポがシンクロする絶妙な味があります。

アイドルは正しく「ロードレーサー」と言うことができる、様々なシチュエーションで楽しくライドすることが可能な1台です。デローザらしさを20万円台中盤で味わえるという点ではコストパフォーマンスは高いといっても過言ではないでしょう。現代的なレーシングバイクの乗り味に飽きてしまった方や、バイクに走らされるので無く、自らが操ることに喜び感じるライダーに向いています。

デローザ IDOLデローザ IDOL (c)MakotoAYANO/cyclowired.jp

デローザ IDOL
素 材:T1000(70%)、T800(30%)
カラー:White Matt、Blue White Matt、Grey Matt、Black White Matt
サイズ:47SL、49.5SL、52SL、54.5SL、57SL、59.5SL
価 格:262,500円(フレームセット、税込)



インプレライダーのプロフィール

鈴木祐一(Rise Ride)鈴木祐一(Rise Ride) 鈴木 祐一(Rise Ride)

サイクルショップ・ライズライド代表。バイシクルトライアル、シクロクロス、MTB-XCの3つで世界選手権日本代表となった経歴を持つ。元ブリヂストン MTBクロスカントリーチーム選手としても活躍した。2007年春、神奈川県橋本市にショップをオープン。クラブ員ともにバイクライドを楽しみながらショップを経営中。各種レースにも参戦中。セルフディスカバリー王滝100Km覇者。

サイクルショップ・ライズライド


新保 光起(Sprint)新保 光起(Sprint) 新保 光起(Sprint)

1995年に日本舗道よりプロデビュー。以後スミタラバネロパールイズミから愛三工業レーシングと渡り歩き、2000年ツール・ド・北海道での山岳賞獲得や2002年ジャパンカップで日本人最高位の7位に入るなどオールラウンダーとして活躍する。引退後は関東近郊のプロショップにて修行を積み、今年6月、横浜にプロショップ「Sprint」をオープン。普段はMTBでトレイルライドを楽しむ。

Sprint



ウエア協力:bici

text:Yuya.Yamamoto
photo:Makoto.AYANO


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