ツール・ド・フランス2013の第18日目、かの有名なラルプ・デュエズ頂上にゴールするステージで、今年は劇的な逃げ切り勝利が決まった。優勝者はアージェードゥーゼルのクリストフ・リブロン(フランス)。そして、後に総合敢闘賞に輝くことになる彼の走りを支えたバイクが、今回インプレッションを行うフォーカス Izalco Team SLだ。

フォーカス Izalco Team SLフォーカス Izalco Team SL (c)Makoto.Ayano/cyclowired.jp
Izalco(イザルコ) Team SLを生み出すジャーマンブランド フォーカスは、1992年創立というまだ比較的歴史の浅いブランドだ。しかし「レースで勝ち星を上げる自転車」という目標のもと作り上げられる、奇をてらわない質実剛健なバイクは高い評価を受け、今やドイツを代表するブランドにまで上り詰めた。

フォーカスのバイクはプロ選手からも愛用され、これまでにチームミルラムやカチューシャ、アックア・エ・サポーネなどヨーロッパの一流チームをスポンサード。そして2013年からフランスのトップチーム、アージェードゥーゼルへのサポートを開始すると、前述したリブロンのラルプデュエズ制覇&総合敢闘賞獲得や、ジロ・デ・イタリアでのカルロス・ベタンクール(コロンビア)新人賞獲得など、チームは大いなる活躍を見せた。その活躍を文字通り足下から支えたバイクが、Izalco Team SLだ。

車名が大胆に記されたトップチューブ車名が大胆に記されたトップチューブ ヘッドチューブは太く、くびれを設けた形状だヘッドチューブは太く、くびれを設けた形状だ フォーカスオリジナルの「IZALCO P2T CARBON」フロントフォークフォーカスオリジナルの「IZALCO P2T CARBON」フロントフォーク


フォーカス伝統のフラッグシップロード、Izalcoシリーズの最新モデルとして2013年にデビューしたTeam SL。ロードレーサー然としたホリゾンタルに近いトップチューブなど、端正なデザインは同シリーズに脈々と受け継がれているものだ。奇をてらうような構造は取り入れないが、その部分こそ安定した性能を生み出す核と言えよう。

軽量性、ハンドリング、安定性、加速性。フラッグシップモデルたるIzalco Team SLは、それら世界最高峰のレーサーからの要求を満たすため、前作である「Izalco Pro(インプレッション記事はこちら )」を改良し生まれた。車名のSLはSuper Light(=超軽量)を意味し、プレスフィット30BBの採用に加えてBBシェルをフルカーボン化することでProからの軽量化を達成している。

ヘッドチューブに比べ、トップチューブは細い。絞り込み具合が分かるヘッドチューブに比べ、トップチューブは細い。絞り込み具合が分かる トップチューブは緩かに湾曲し、衝撃吸収を担うトップチューブは緩かに湾曲し、衝撃吸収を担う

ダウンチューブは丸断面かつ大口径で、高剛性を演出するダウンチューブは丸断面かつ大口径で、高剛性を演出する 幅いっぱいまで広げられたBB周辺の様子幅いっぱいまで広げられたBB周辺の様子


ボトムブラケット周辺の改良と並び、イザルコシリーズの特徴であるヘッドからシートにかけて微妙に曲線を描くトップチューブ、そしてテーパーされたヘッドチューブもまた、剛性を落とさずに軽量化を助けている部分だ。フロントフォークは今年、従来の3T製からフォーカスオリジナルの「IZALCO P2T CARBON」に変更され、より性能の最適化が図られている。

Izalco Team SLはフレームサイズによって各チューブの外径を変更するSTABLE STIFFNESS PER SIZEシステムを導入しており、サイズ間での性能差が出ないよう配慮されている。一般的にカーボンバイクでは小さなサイズほど硬く、大きなサイズほど柔らかいが、この辺りはさすが緻密な設計を誇るフォーカスだ。誰でも等しくIzalco Team SLの高性能を味わえるのである。

ハの字状のチェーンステーは、横剛性を保ちながら衝撃吸収製に貢献ハの字状のチェーンステーは、横剛性を保ちながら衝撃吸収製に貢献 フルカーボン製のリアエンド部分フルカーボン製のリアエンド部分


剛性を高め瞬発力を狙う一方、グランツールを走破するバイクは快適性も必要不可欠だ。これに関してはリアホイールからの突き上げを緩和するため、垂直方向には柔軟で、横方向に強化されたLATERAL REINFORCED COMFORTシートステーで解決する。加えてチェーンステーのリアエンド側は一段下げて接続されることで、衝撃吸収性を高めつつ、チェーンとの干渉を回避。もちろんフルカーボン製であるため、軽量化に貢献している部分でもある。

Izalco MAXが登場したことによりセカンドグレードとなったTeam SLだが、2014年も継続モデルとして引き続きラインナップされている。今回テストしたのはシマノ6800系アルテグラを搭載した完成車で、フレームセットと比較してプラス4万円という価格を実現した超バリューモデルだ。ホイールはシマノRS11とされている。

扱いやすく、コンフォートな乗り味を再現するシートステー扱いやすく、コンフォートな乗り味を再現するシートステー シートステー上部は複雑な形状を採用シートステー上部は複雑な形状を採用 新規格のヘッドパーツを採用している新規格のヘッドパーツを採用している


さて、グランツールなど世界的プロレースで活躍したフレームを、テストライダー両氏はどのように評価するのだろうか。早速インプレッションをお届けする。



ーインプレッション

「ヒルクライム性能が高い、癖のない1台」渡辺将大(タキザワサイクル)

これといった苦手な分野がなく、全てにおいて高い性能を誇る癖のない1台だと言えます。ジオメトリーもオーソドックスで、全体的なバランスが取れているため、どのようなシチュエーションでも安心して乗ることができますね。

「ヒルクライム性能が高い、癖のない1台」渡辺将大(タキザワサイクル)「ヒルクライム性能が高い、癖のない1台」渡辺将大(タキザワサイクル) コンパクトで取り回しが良く、どのような場面でも扱いやすさを感じることができました。各チューブは比較的細身ですから、見た目から剛性に不安を感じるかもしれません。しかしチューブ断面が円形に成型されているため、見た目にそぐわず非常に高い剛性を持った作りになっています。また、BB周辺はボリュームがあり左右非対象に成形することで剛性アップに大きく寄与しています。

一方でボリュームあるBB周りからは、衝撃を包み隠さず脚に伝える硬さを感じました。しかし、その他の部分でうまく不快な振動を打ち消してくれるため、フレーム全体で見た際には違和感を感じることがない、調和された乗り味に仕上がっています。

フレームの持つ剛性の高さから踏み込んだ時の反応が良く、登りでの印象はとても良いです。重いギアでペダルを踏むよりも、軽いギアを選択してケイデンスを上げ、ペダルを回すことを意識して登るほうが向いていると感じました。加えてスプリントの際にも鋭い加速力を見せてくれました。従って、加減速を頻繁に繰り返すようなインターバル走行やレースにも適した能力を持っている言えるでしょう。

平地巡航性能に関しても、空力性能に特化したエアロロードほどではありませんが、十分な能力を持っていると言えます。ただ完成車付属のホイールでは限界があるため、一定速で平地を走ることを意識する際にはリムハイトの高いホイールを選択することで性能をより高めることができますね。ニュートラルな性格のため、合わせるホイールを選びません。

下りでも安定性が高く、安心して下ることができます。フォーク、シートステイが細身ですが頼りなく感じる部分は無く、リアバックやフロントの剛性不足も感じることはありませんでした。機敏な動きを要するコーナリングはかなり得意でした。

このイザルコはコストパフォーマンスが非常に高い1台です。コンパクトで剛性が高いためヒルクライム性能が高く、特に今後ヒルクライムでより良い成績を残したいと考えている方にオススメです。ヒルクライム性能を更に高くするためには、シマノのWH-9000-C24やWH-9000-C35などリムハイトが低いホイールを選択するのがオススメです。全体的なバランスが取れているため安心して乗ることができます。もし私が、年間通して戦うためのレーシングバイクを1台だけ選ぶとしたら、この1台を選ぶと思います。


「抜群のコストパフォーマンスを誇るオールラウンダーモデル」錦織大祐(フォーチュンバイク)

硬すぎず、だからと言って剛性不足を感じることもない、まさにハイエンドレベルのレーシングフレームだと感じました。わざと車体横方向に力を加えて踏んでみた時も、嫌になるような硬さはありません。レース後半に疲れてしまった場合でも、適度なしなりが楽にペダリングができるよう導いてくれるでしょう。

フロントフォークはパリッとした硬さがあり、路面状況をよく伝えてくれます。そのおかげで、下りのコーナーでも狙ったラインをトレースすることができました。また、ブレーキの利き具合も良く、安心してコーナーを下ることができます。フォークに硬さがある一方でフレームには適度なしなりがあるため、最低限の振動吸収性は確保されています。路面コンディションが悪くとも、はじかれることはありません。

「抜群のコストパフォーマンスを誇るオールラウンダーモデル」錦織大祐(フォーチュンバイク)「抜群のコストパフォーマンスを誇るオールラウンダーモデル」錦織大祐(フォーチュンバイク)
フォーカスは伝統的にダウンチューブがBB下まで支えに入る構造になっており、見た目からもBB周辺、チェーンステー辺りの剛性が高く作られているように思います。しかし、踏み込んだ時の力の跳ね返りは少なく、硬すぎるフレームにありがちな「急に脚が終わる」ことは少なさそうです。

計算されつくした"しなり"を把握した乗り方ができれば、スプリントのような場面で、大きな武器になると思います。もともと完成車に付属しているホイールとタイヤは廉価モデルなのですが、それを感じさせないくらいフレームの質が高いことに驚きました。

登り、下り、平坦などどのようなシチュエーションでもバランスよく走ることができます。登りについては、フレームの特質よりも乗り手の体重や乗り方に合わせて自在に走らせることができますね。

とても懐の広いバイクなので、ホイールを交換する際にも、単純な好みや、自分がどの速度域を意識して乗っていきたいかを中心に選択しても問題はないでしょう。ヨーロッパブランドであるがゆえに、石畳など悪路での走行についても考慮されており、突き上げてトラクションが抜けてしまうことないように、剛性と振動吸収性のメリハリが利いたつくりになっています。

このバイクは、特にレース志向の方こそメリットが活きてきます。高い剛性感を感じるBB周辺やリアバックだけでなく、フレームの前三角もよい仕事をしているため、スプリントをした際、踏んだら踏んだ分だけ伸びるあたりがとても気持ち良いですね。

ジオメトリーはオーソドックスな作り。飛び抜けた性能を持っているバイクではありませんが、どのような場面で用いても80〜90点をマークするようなオールラウンダーバイクです。コストパフォーマンスも抜群に良く、オススメの1台です。

フォーカス Izalco Team SLフォーカス Izalco Team SL (c)Makoto.Ayano/cyclowired.jp

フォーカス IZALCO TEAM SL
サイズ:48、50、52、54、56cm
重 量:950g(フレーム単体)
コンポーネント:シマノ アルテグラ
ホイール:シマノ RS11
価 格:399,000円(税込)



インプレライダーのプロフィール

渡辺将大(タキザワサイクル)渡辺将大(タキザワサイクル) 渡辺将大(タキザワサイクル)

群馬県のタキザワサイクルにてチーフメカニックとして勤務する傍ら、シクロクロスを含むレース参加や林道ツーリングを通して、10代から60代まで幅広い年齢層のユーザーに自転車の楽しみ方を提供している。かつては高校大学と名門校にて競技生活を送り、ベルギーやオランダでの競技経験、1年間のオーストラリア競技留学経験を持つ。グラベルライディングを嗜み、レースだけにとらわれない幅広い自転車の楽しみ方を追求中。

タキザワサイクル



錦織大祐(フォーチュンバイク)錦織大祐(フォーチュンバイク) 錦織大祐(フォーチュンバイク)

幼少のころから自転車屋を志し、都内の大型プロショップで店長として経験を積んだ後、2010年に東京錦糸町にフォーチュンバイクをオープンさせた新進気鋭の若手店主。台湾をはじめとした世界各国の自転車メーカーと繋がりを持ち、実際の製造現場で得た見聞をユーザーに伝えることを信条としている。シマノ鈴鹿ロードに18年連続で出場する一方、普段はロングライドやスローペースでのサイクリングを楽しむ。

フォーチュンバイク



ウエア協力:reric

text:So.Isobe
photo:Makoto.AYANO,So.Isobe