Jシリーズダウンヒル第5戦は九島勇気(玄武・ターナー)がJシリーズ2年ぶりの優勝、女子は末政実緒(ダートフリーク・サラセン)が完全復調を感じさせる盤石の走りでポディウムの中央に立った。

スタート付近から第一シングルを望む。ライダーはエリート6位となった和田良平(リンゴロード)スタート付近から第一シングルを望む。ライダーはエリート6位となった和田良平(リンゴロード) photo:Hiroyuki.NAKAGAWAJシリーズ秋の連戦は、岐阜県奥美濃のウィングヒルズに移動し、好天の中でダウンヒル第5戦が開催された。
井手川直樹(ダビンチ・サンスピドットコム)と永田隼也(マーシュ・サンタクルズ)はワールドカップ最終戦に参戦するため欠場となったが、攻略要素の多いコースレイアウトも相まって、レースは普段以上の緊張感を伴って進行した。

九島勇気(玄武・ターナー)が「パンプトラックみたいな」と語ったリズムセクション。ダブルでは軽くウィップを入れる余裕すらある。国内のコースにはまだ少ないが、海外では必ずこういった人工的なセクションがレイアウトされる九島勇気(玄武・ターナー)が「パンプトラックみたいな」と語ったリズムセクション。ダブルでは軽くウィップを入れる余裕すらある。国内のコースにはまだ少ないが、海外では必ずこういった人工的なセクションがレイアウトされる photo:Hiroyuki.NAKAGAWA昨年、コースの大半にジープ道を使い、大幅に難易度を下げるレイアウトを採用したウイングヒルズだが、今年も同じ運営チームがコース設営に取り組みながらも、往年のシングルトラックセクションを復活させ、メリハリの効いたダウンヒルトラックが用意された。

この変化について、過去にダウンヒルトップエリートとして活躍した実績を持つコースディレクターの丸山由紀夫氏に聞いてみた。
「去年と根本的な考え方は変わっていません。レースに参加する全てのライダーが安全に競技を行える事を第一に、誰でも参加できるJシリーズを目指しています。今年は上部のシングルトラックを使う事にしましたが、コース幅をとても広くとっています。そこでは最速ラインからエスケープに近いラインまで、いろんな走りが可能であると同時に、最も安全なラインには人工マットを敷く事で、レースが初めてな人でも対応できるように考えました」。(丸山氏)

丸山氏の思惑通り、上部シングルには複数のラインが発生し、またスポーツクラスやエキスパートクラスのライダーが走る事によって、路面コンディションだけではなく、ラインも微妙に変化していく状況の中で、トップライダー達は最速ラインの見極めに神経を使った。

■男子は九島勇気が2年ぶり2度目の優勝

優勝した九島勇気(玄武・ターナー)。勝てる力を十分に持っていながら約2年に渡って勝利から遠ざかっていた優勝した九島勇気(玄武・ターナー)。勝てる力を十分に持っていながら約2年に渡って勝利から遠ざかっていた photo:Hiroyuki.NAKAGAWA

2位となった青木卓也(チームジャイアント)。得意と語った後半のフラット区間を走る。選手達は後方に見えているゴンドラでスタート地点にアプローチする2位となった青木卓也(チームジャイアント)。得意と語った後半のフラット区間を走る。選手達は後方に見えているゴンドラでスタート地点にアプローチする photo:Hiroyuki.NAKAGAWA予選上位30名で行われる決勝では、18番スタートの九島が予選1位通過の清水のタイムを3秒近く上回る2:57.898でホットシートに。攻めすぎれば容易にスリップダウンしてしまうスーパードライコンディションに、井本はじめ(トランジション)と清水一輝は転倒しタイムを伸ばせず、九島勇気のJシリーズ2年ぶり二度目の優勝が決まった。

初の表彰台となった阿藤寛(トップノットレーシング)。じっくりと時間をかけて上位に食い込む選手になってきた初の表彰台となった阿藤寛(トップノットレーシング)。じっくりと時間をかけて上位に食い込む選手になってきた photo:Hiroyuki.NAKAGAWA九島は2年前の最終戦、瀬女高原でJシリーズに初優勝した。そこからワールドカップへの参戦など強い海外志向を持ち、キャリアを積みながらも国内では勝利から遠ざかっていた。2位に入った青木卓也(ジャイアント)も常に安定した成績はマークするものの1年半ぶりの表彰台だ。3位となった阿藤寛(トップノットレーシング)は自身最高位で初の表彰台となった。

九島勇気は言う。「表彰台は何度かありましたが(勝つまでは)長かったですね。正直言って、初優勝の時よりも嬉しいです。コースも良かったですね。シングルもしっかりあって、パンプトラックみたいなセクションも作り込んであったりしてね。落ち着いて攻めて、良いレースができました」。
転倒によって21位に沈んだ清水一輝(アキファクトリーチーム)。攻めの走りが持ち味だが、今回のコースはちょっとしたミスが転倒につながるハイリスクなレイアウトだった転倒によって21位に沈んだ清水一輝(アキファクトリーチーム)。攻めの走りが持ち味だが、今回のコースはちょっとしたミスが転倒につながるハイリスクなレイアウトだった photo:Hiroyuki.NAKAGAWAいくつかのバームとジャンプが連続するセクションを「パンプトラックみたいな」と表現したところが九島選手らしく、実際にこのセクション入口のギャップではロールで進入するようなライディングをしており、その後のダブルも余裕をもったジャンプでクリアしていた。

2位の青木卓也は言う。「表彰台は去年の野沢以来です。今回はフラットコーナーやオフキャンバーなど、自分が得意としているところでタイムを稼げたと思います。決勝は攻めながらも柔らかくいきました。決勝では1カ所ラインも変えました。予選ではペダリングを意識して漕ぎましたが、決勝ではプッシュを重視して流れを良くして走りましたね。先週の富士見ぐらいから走りに良い手応えもあって、最終戦も楽しみです」。
青木は勝った九島とはまた違った視点でコースを捉えており、コースレイアウトの奥深さの一面を表していると言えるだろう。

予選1位通過で最終走者となった清水は「スタート前に(九島)勇気のタイムが聞こえたんですよね。ちょうど僕が勝てると思っていた目標タイムに近いタイムでした。そこでやっぱり焦りが出たのかもしれませんね。メンタルの弱さが出てしまいました」とコメント。ミスをすると挽回するのが難しいレイアウト、攻めれば転倒のリスクが高まるというプレッシャーの中でのランだった。

念願の表彰台を確保した3位の阿藤寛(トップノットレーシング)は、じっくりと時間をかけて上位に食い込む選手になってきた。長年愛用してきたフラットペダルをやめ、今期からSPDを使っているのも好調の原因だ。今後に一層期待がかかる。

デジタル表示になって視認性が上がったスタート時計。予選は30秒、決勝は1分間隔でスタートしていくデジタル表示になって視認性が上がったスタート時計。予選は30秒、決勝は1分間隔でスタートしていく photo:Hiroyuki.NAKAGAWA連日の晴天でコースはスーパードライコンディションとなった。連日の晴天でコースはスーパードライコンディションとなった。 photo:Hiroyuki.NAKAGAWA


■女子は末政実緒が怪我からの完全復調をアピールする勝利

上部シングルトラックを走る末政実緒(ダートフリーク・サラセン)。貪欲に勝利を求めるその走りは切れ味を取り戻していた上部シングルトラックを走る末政実緒(ダートフリーク・サラセン)。貪欲に勝利を求めるその走りは切れ味を取り戻していた photo:Hiroyuki.NAKAGAWA

世界選手権で負傷し、怪我からの回復を待たずに出場した前戦の富士見大会ではコース序盤でパンクした末政実緒(ダートフリーク・サラセン)。苦しい戦いが続いていたが、本来の走りを感じさせる、コース攻略にじっくりと取り組む走りで完勝した。

「緊張したレースでしたね。怪我、そしてパンクと続いてましたからね。純粋に勝ちたい!と思って挑んだレースでした。この勝利がまた次への自信につながりますし、勝てて良かったです」とコメントした。
富士見ではパンクしたとはいえ優勝を逃す結果となったことは事実。その失敗に対して緊張感を持って臨んだレースで、「まだ若手には前を走らせない」という強い意志を見せつけるような走りだった。

Jシリーズ2013DHI第5戦ウイングヒルズ 結果

男子エリート
1位 九島勇気(玄武・ターナー) 2:57.898
2位 青木卓也(チームジャイアント) +2.089
3位 阿藤寛(トップノットレーシング) +3.384
4位 加藤将来(ラブバイクス・アクセル) +4.330
5位 浅野善亮(ジャイアント・ホットスピン) +4.532
6位 和田良平(リンゴロード)+5.328
7位 小山航(バンシー) +5.573
8位 大野良平(サギノミクス)150 +5.798
9位 安達靖(ダートフリーク・サラセン) +5.869
10位 五十嵐優樹(重力技研・ストームライダース) +5.997

男子表彰式 優勝は九島勇気(玄武・ターナー)、2位青木卓也(チームジャイアント)、3位阿藤寛(トップノットレーシング)、4位加藤将来(ラブバイクス・アクセル)、5位浅野善亮(ジャイアント・ホットスピン)男子表彰式 優勝は九島勇気(玄武・ターナー)、2位青木卓也(チームジャイアント)、3位阿藤寛(トップノットレーシング)、4位加藤将来(ラブバイクス・アクセル)、5位浅野善亮(ジャイアント・ホットスピン) photo:Hiroyuki.NAKAGAWA

女子エリート
1位 末政実緒(ダートフリーク・サラセン) 3:25.246
2位 中川弘佳             +10.178
3位 中川綾子(チームYRS) +10.548
4位 中村美佳(福井和泉MTBパーク) +15.343
5位 九島あかね(玄武・ターナー) +15.843

女子表彰式 優勝は末政実緒(ダートフリーク・サラセン)、2位中川弘佳、3位中川綾子(チームYRS)、4位中村美佳(福井和泉MTBパーク)、5位九島あかね(玄武・ターナー)女子表彰式 優勝は末政実緒(ダートフリーク・サラセン)、2位中川弘佳、3位中川綾子(チームYRS)、4位中村美佳(福井和泉MTBパーク)、5位九島あかね(玄武・ターナー) photo:Hiroyuki.NAKAGAWA

エキスパート
1位 林佳亮(大同大学大同高等学校) 3:10.022
2位 泉野龍雅(阿寺レーシング・自転車道) +1.594
3位 兼岡邦旭(チームダイワ・クリート) +3.195

男子スポーツ
1位 竹本将史(トレックジャパン) 3:10.881
2位 伊藤良高(NCFR) +10.051
3位 今村洋(ピングステート・オガワサイクル) +13.373

女子スポーツ
1位 松田美紀子(M-2マッドエンジェル) 4:40.208
2位 畑田文美(チームYRS) +25.816



photo&text:Hiroyuki.NAKAGAWA/SLm

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