「出来ることをすべてやった」と話すヴィンチェンツォ・ニーバリと、「素晴らしいショーだった」と話すクリス・ホーナー。深い霧に立ち込める「魔の山」アングリルを舞台にした歴史的な一戦。22歳の若いフランス人が涙の逃げ切り勝利を飾るその後方で、今大会最後の激坂決戦が繰り広げられた。



ブエルタ・ア・エスパーニャ2013第20ステージ高低図ブエルタ・ア・エスパーニャ2013第20ステージ高低図 image:Unipublic「ヨーロッパで最も厳しい登り」と畏怖される超級山岳アルト・デ・アングリル。142kmの短いコースの先に、平均勾配10.2%・最大勾配23.5%の悪名高き「魔の山」が待っている。3週間の獲得標高差が60000mに達するブエルタを締めくくるに相応しい今大会の最難関山岳だ。

マイヨモンターニャを着るニコラ・エデ(フランス、コフィディス)を含む逃げグループマイヨモンターニャを着るニコラ・エデ(フランス、コフィディス)を含む逃げグループ photo:Vuelta a Espana/Graham Watson海岸線近くのアビレスをスタートしてしばらくすると、32名という巨大な逃げが形成される。145名に絞られていたプロトンの4分の1近くが飛び出した計算。

メイン集団をコントロールするレディオシャック・レオパードメイン集団をコントロールするレディオシャック・レオパード photo:Vuelta a Espana/Graham Watsonすでにステージ優勝を飾っているヴァシル・キリエンカ(ベラルーシ、スカイプロサイクリング)やバウク・モレマ(オランダ、ベルキンプロサイクリング)、マイヨモンターニャを着るニコラ・エデ(フランス、コフィディス)らを含むこの逃げは、レディオシャック・レオパード率いるメイン集団から6分40秒のリードを築く。ホーナーを3秒差で追う立場のニーバリ擁するアスタナは、パオロ・ティラロンゴ(イタリア)とアンドレー・グリブコ(ウクライナ)、ヤコブ・フグルサング(デンマーク)の3名を逃げに送り込んで終盤の闘いに備えた。

エデが着々と山岳賞のリードを広げる中、ゴール21km手前に位置する1級山岳アルト・デル・コルダル(距離5.3km・平均9.6%)で逃げグループからティラロンゴがアタック。これにケニー・エリッソンド(フランス、FDJ.fr)が合流し、そのまま2人で頂上を越えて行く。ティラロンゴとエリッソンドはメイン集団から5分のリードを保ったまま超級山岳アルト・デ・アングリルに突入した。

アングリルの登坂距離は12.2km。8%ほどの"普通の登り"が続く前半部分を進むうちに、メイン集団は早くも20名ほどに絞られる。そこからダニエル・モレーノ(スペイン、カチューシャ)が更にペースを上げて行く。

アングリルの醍醐味は何と言ってもコンスタントに13%を刻む後半部分。残り7kmを切ってからは「山羊ゾーン(山羊にしか登れないという意味)」と呼ばれる20%オーバーの急斜面が続く。ここでニーバリが攻撃を開始した。



白い雲と青空に包まれたアングリル白い雲と青空に包まれたアングリル photo:Kei Tsuji
メイングループのペースを上げるホアキン・ロドリゲス(スペイン、カチューシャ)メイングループのペースを上げるホアキン・ロドリゲス(スペイン、カチューシャ) photo:Vuelta a Espana/Graham Watson何度も何度もアタックするヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、アスタナ)何度も何度もアタックするヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、アスタナ) photo:Vuelta a Espana/Graham Watson



最終バトルを繰り広げるクリストファー・ホーナー(アメリカ、レディオシャック・レオパード)とヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、アスタナ)最終バトルを繰り広げるクリストファー・ホーナー(アメリカ、レディオシャック・レオパード)とヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、アスタナ) photo:Vuelta a Espana/Graham Watsonダンシングで急斜面を加速するニーバリは、一時的にホーナーを突き放すことに成功する。しかしホーナーは自分のペースを守って合流。ニーバリは何度も何度も腰を上げて加速するが、その度にホーナーが慌てずに食らいつく。

残り2kmを切ってアタックしたクリストファー・ホーナー(アメリカ、レディオシャック・レオパード)残り2kmを切ってアタックしたクリストファー・ホーナー(アメリカ、レディオシャック・レオパード) photo:Kei Tsuji今大会最後の闘いを繰り広げるニーバリをアシストしようと、先頭のティラロンゴや、追走グループに入っていたフグルサングが前から合流。チームメイト2人の援護を受けたニーバリだったが、ホーナーを振るい落とすには自ら動くしかない。

霧のアングリル頂上にゴールするケニー・エリッソンド(フランス、FDJ.fr)霧のアングリル頂上にゴールするケニー・エリッソンド(フランス、FDJ.fr) photo:Vuelta a Espana/Graham Watsonニーバリが5〜6回にわたって霧の中でアタックを繰り返すと、アレハンドロ・バルベルデ(スペイン、モビスター)やホアキン・ロドリゲス(スペイン、カチューシャ)が失速して行く。気付けばホーナーとニーバリの一騎打ちに持ち込まれていた。

ライバルの動きを徹底的にマークしたホーナーが残り2kmを切ったところでついに動く。前から落ちて来た逃げメンバーを吸収しながら、コミッセールや中継バイクに前を塞がれながらも、ホーナーが加速。ニーバリがうつむいて失速したところで、ブエルタの勝者が決まった。

ティラロンゴの後退によって独走状態となった先頭エリッソンドは、ハンドルにしがみついて急勾配区間をクリアし、迫り来る総合上位陣を何とか振り切ってフィニッシュ。身長169cm・体重52kgという小柄なクライマーが大きな勝利を手にした。

プロ2年目の22歳(今大会3番目の若さ)は「神話のようなアングリルで勝ったなんて信じられない。逃げグループの中には名立たる選手たちが入っていたので、正直そこまで自信が無かった」と喜ぶ。FDJ.frにとってはアレクサンドル・ジェニエ(フランス)のペイラギュード頂上ゴール制覇に続く今大会2勝目。アルゴス・シマノのワレン・バーギル(フランス)のステージ2勝に続く22歳フランス人選手の勝利。フランス若手の台頭を印象づけた。



深い霧が立ち込める超級山岳アルト・デ・アングリル深い霧が立ち込める超級山岳アルト・デ・アングリル photo:Kei Tsuji

軽快なダンシングで登りを進むクリストファー・ホーナー(アメリカ、レディオシャック・レオパード)軽快なダンシングで登りを進むクリストファー・ホーナー(アメリカ、レディオシャック・レオパード) photo:Kei Tsujiロッシュのためにペースを作るラファル・マイカ(ポーランド、サクソ・ティンコフ)ロッシュのためにペースを作るラファル・マイカ(ポーランド、サクソ・ティンコフ) photo:Kei Tsuji



片手を挙げてゴールするクリストファー・ホーナー(アメリカ、レディオシャック・レオパード)片手を挙げてゴールするクリストファー・ホーナー(アメリカ、レディオシャック・レオパード) photo:Cor Vosエリッソンドが頭を抱えながら霧のフィニッシュラインに飛び込んだ26秒後に、マイヨロホのホーナーが片手を上げてゴール。ニーバリを28秒引き離すことに成功したホーナーが、翌日のマドリードステージを前に、ブエルタ総合優勝を決定づけた。

チームスタッフに抱えられてテントに到着したクリストファー・ホーナー(アメリカ、レディオシャック・レオパード)チームスタッフに抱えられてテントに到着したクリストファー・ホーナー(アメリカ、レディオシャック・レオパード) photo:Cor Vos地面に倒れ込んだ後、チームスタッフに抱えられて着替え用テントに収容されたホーナー。テントでは闘いを繰り広げたニーバリと固い握手を交わした。「ニーバリは10回か20回はアタックした。ファンを魅了する素晴らしいショーだったと思う」。ホーナーはそう誇らしげに語る。

「今年始めに膝の手術をした際、11歳の息子にこう言ったんだ。『まだまだ現役を続けたいけど、引退を余儀なくされるかも』と。すると彼はこう言った。『まだ引退したらダメ!それじゃ格好よくない。学校のクラスのみんなに、お父さんがジロとツールとブエルタを走るプロ選手だと自慢したんだ。元選手だなんて言えないよ』とね。それが今、息子はこう言えるんだ。『お父さんはブエルタを制した唯一のアメリカ人で、グランツールを制した唯一の42歳だ』ってね」。

41歳326日のホーナーは、自身がもつ最年長グランツールステージ優勝と最年長グランツールリーダージャージ着用の記録を更新した。アングリルから下山後、450km移動したホーナーは、最年長グランツールウィナーとしてマドリードに凱旋する。




ブエルタ・ア・エスパーニャ2013第20ステージ結果
1位 ケニー・エリッソンド(フランス、FDJ.fr)                 3h55'36"
2位 クリストファー・ホーナー(アメリカ、レディオシャック・レオパード)      +26"
3位 アレハンドロ・バルベルデ(スペイン、モビスター)               +54"
4位 ヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、アスタナ)
5位 アンドレ・カルドソ(ポルトガル、カハルーラル)
6位 ドミニク・ネルツ(ドイツ、BMCレーシングチーム)
7位 ホセホアン・メンデス(ポルトガル、ネットアップ・エンドゥーラ)       +1'15"
8位 ホアキン・ロドリゲス(スペイン、カチューシャ)               +1'45"
9位 セルジュ・パウエルス(ベルギー、オメガファーマ・クイックステップ)     +1'52"
10位 ティボー・ピノ(フランス、FDJ.fr)                    +1'59"

12位 ドメニコ・ポッツォヴィーヴォ(イタリア、アージェードゥーゼル)      +2'20"
13位 ダニエル・モレーノ(スペイン、カチューシャ)               +2'26"
14位 サムエル・サンチェス(スペイン、エウスカルテル)
19位 ニコラス・ロッシュ(アイルランド、サクソ・ティンコフ)          +3'42"
20位 レオポルド・ケーニッヒ(チェコ、ネットアップ・エンドゥーラ)       +3'53"

敢闘賞
ダビ・アローヨ(スペイン、カハルーラル)

マイヨロホ(個人総合成績)
1位 クリストファー・ホーナー(アメリカ、レディオシャック・レオパード)    81h52'01"
2位 ヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、アスタナ)               +37"
3位 アレハンドロ・バルベルデ(スペイン、モビスター)              +1'36"
4位 ホアキン・ロドリゲス(スペイン、カチューシャ)               +3'22"
5位 ニコラス・ロッシュ(アイルランド、サクソ・ティンコフ)           +7'11"
6位 ドメニコ・ポッツォヴィーヴォ(イタリア、アージェードゥーゼル)       +8'00"
7位 ティボー・ピノ(フランス、FDJ.fr)                     +8'41"
8位 サムエル・サンチェス(スペイン、エウスカルテル)              +9'51"
9位 レオポルド・ケーニッヒ(チェコ、ネットアップ・エンドゥーラ)        +10'11"
10位 ダニエル・モレーノ(スペイン、カチューシャ)                +13'11"

マイヨプントス(ポイント賞)
1位 アレハンドロ・バルベルデ(スペイン、モビスター)              152pts
2位 クリストファー・ホーナー(アメリカ、レディオシャック・レオパード)     126pts
3位 ホアキン・ロドリゲス(スペイン、カチューシャ)               125pts

マイヨモンターニャ(山岳賞)
1位 ニコラ・エデ(フランス、コフィディス)                   46pts
2位 クリストファー・ホーナー(アメリカ、レディオシャック・レオパード)     32pts
3位 ダニエーレ・ラット(イタリア、キャノンデールプロサイクリング)       30pts

マイヨコンビナーダ(複合賞)
1位 クリストファー・ホーナー(アメリカ、レディオシャック・レオパード)     5pts
2位 ヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、アスタナ)              13pts
3位 アレハンドロ・バルベルデ(スペイン、モビスター)              17pts

チーム総合成績
1位 エウスカルテル・エウスカディ                     245h17'26"
2位 モビスター                                +1'02"
3位 アスタナ                                 +1'30"

text&photo:Kei Tsuji in Alto de l’Angliru, Spain

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