「It's back!(マイヨロホが戻って来た!)」と、41歳のクリストファー・ホーナー(アメリカ、レディオシャック・レオパード)がマイヨロホに袖を通しながら叫んだ。マイヨロホ争いは近年稀に見る僅差でアングリルを迎える。



ブエルタ・ア・エスパーニャ2013第19ステージ高低図ブエルタ・ア・エスパーニャ2013第19ステージ高低図 image:Unipublic9月13日、ついにブエルタは最終決戦地アストゥリアス州に到達した。

サンビセンテ・デラ・バルケラをスタートする一行サンビセンテ・デラ・バルケラをスタートする一行 photo:Kei Tsuji翌日のアングリル決戦を前にした足慣らし的な第19ステージ。カンタブリア州の海岸線を駆け抜け、アストゥリアス州の州都オビエドを見下ろす標高580mの2級山岳アルト・デル・ナランコの頂上にゴールする。

シャビエル・ザンディオ(スペイン、スカイプロサイクリング)やマヌエーレ・モーリ(イタリア、ランプレ・メリダ)を含む20名の逃げグループが形成されるシャビエル・ザンディオ(スペイン、スカイプロサイクリング)やマヌエーレ・モーリ(イタリア、ランプレ・メリダ)を含む20名の逃げグループが形成される photo:Kei Tsuji第18ステージを終えた時点で、総合1位ヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、アスタナ)と総合2位クリストファー・ホーナー(アメリカ、レディオシャック・レオパード)のタイム差は僅かに3秒。

ボーナスタイムで簡単に逆転が起こり得る状態。佳境に差し掛かっているのは山岳賞争いも同じ。快晴のサンビセンテ・デラ・バルケラをスタートしてしばらくすると、マイヨモンターニャを着るニコラ・エデ(フランス、コフィディス)と、山岳賞2位のダニエーレ・ラット(イタリア、キャノンデール)がアタックを仕掛けた。

逃げたのはエデとラットの他、タナー(ベルキン)、デグレーフ(ロット)、バルス(ヴァカンソレイユ)、ネルツ&サンタロミータ&ウィス(BMC)、インチャウスティ(モビスター)、ヴォス(ネットアップ)、シーメンス(コフィディス)、ウルタスン(エウスカルテル)、モーリ(ランプレ)、メイヤー&ハワード(グリーンエッジ)、アローヨ(カハルーラル)、ザンディオ&ボアッソンハーゲン(スカイ)、プレイドラー(アルゴス)、グリブコ(アスタナ)。

総合リーダーチームのアスタナがグリブコを逃げに乗せたため、カチューシャがメイン集団を率いて逃げグループを追走する。レーススピードは一向に落ちず、最初の1時間の平均スピードは49.9km/h。2時間平均も47.8km/h。主催者が用意したタイムスケジュールが全く役に立たないほどのペースでレースは進行した。



カチューシャが牽引するメイン集団が海岸線を行くカチューシャが牽引するメイン集団が海岸線を行く photo:Kei Tsuji
海沿いのアップダウンをこなすマイヨロホのヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、アスタナ)海沿いのアップダウンをこなすマイヨロホのヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、アスタナ) photo:Kei Tsuji逃げグループから飛び出したエドヴァルド・ボアッソンハーゲン(ノルウェー、スカイプロサイクリング)とゲオルグ・プレイドラー(オーストリア、アルゴス・シマノ)逃げグループから飛び出したエドヴァルド・ボアッソンハーゲン(ノルウェー、スカイプロサイクリング)とゲオルグ・プレイドラー(オーストリア、アルゴス・シマノ) photo:Kei Tsuji



メイン集団のスピードを上げ続けるカチューシャメイン集団のスピードを上げ続けるカチューシャ photo:Vuelta a Espana/Graham Watsonやがて先頭ではボアッソンハーゲンとプレイドラーの2人が先行を開始する。追走していた選手たちがメイン集団に吸収されると、ホセ・エラーダ(スペイン、モビスター)やフアンアントニオ・フレチャ(スペイン、ヴァカンソレイユ・DCM)らがカウンターアタックを仕掛け、先頭のボアッソンハーゲン&プレイドラーに合流した。

沿道には青地に黄色い十字が入ったアストゥリアス州旗が目立つ沿道には青地に黄色い十字が入ったアストゥリアス州旗が目立つ photo:Kei Tsujiカチューシャに代わってサクソ・ティンコフやFDJ.frが牽引するメイン集団が後方に迫る中、再編成された先頭グループからホセホアン・メンデス(ポルトガル、ネットアップ・エンドゥーラ)が飛び出して独走。メンデスはオビエドの街を先頭で駆け抜けたが、2級山岳アルト・デル・ナランコの登りで吸収された。

ラファル・マイカ(ポーランド、サクソ・ティンコフ)らの牽引によって、平均勾配5.8%の登りで人数を減らして行くメイン集団。総合上位陣の中で先陣を切ったのはニコラス・ロッシュ(アイルランド、サクソ・ティンコフ)で、すぐさまミケーレ・スカルポーニ(イタリア、ランプレ・メリダ)が反応する。その後方からホアキン・ロドリゲス(スペイン、カチューシャ)がロケットの如く飛び立った。

一気に後続を引き離したロドリゲスは、追いすがる選手たちを振り切ってゴール。総合成績が懸かっているため、フィニッシュラインまで踏み切ってから拳を突き上げた。



先頭グループからアタックするホセホアン・メンデス(ポルトガル、ネットアップ・エンドゥーラ)先頭グループからアタックするホセホアン・メンデス(ポルトガル、ネットアップ・エンドゥーラ) photo:Vuelta a Espana/Graham Watsonメイン集団からアタックを仕掛けるニコラス・ロッシュ(アイルランド、サクソ・ティンコフ)メイン集団からアタックを仕掛けるニコラス・ロッシュ(アイルランド、サクソ・ティンコフ) photo:Vuelta a Espana/Graham Watson

最後までタイムを惜しんで踏み続けるホアキン・ロドリゲス(スペイン、カチューシャ)最後までタイムを惜しんで踏み続けるホアキン・ロドリゲス(スペイン、カチューシャ) photo:Kei Tsuji



ニーバリを引き離してゴールするアレハンドロ・バルベルデ(スペイン、モビスター)とクリストファー・ホーナー(アメリカ、レディオシャック・レオパード)ニーバリを引き離してゴールするアレハンドロ・バルベルデ(スペイン、モビスター)とクリストファー・ホーナー(アメリカ、レディオシャック・レオパード) photo:Kei Tsuji一日中ずっと働き続けたカチューシャのアシストたちに捧げるロドリゲスの勝利。小柄なクライマーは表彰台で喜びを爆発させた。

「カチューシャは0km地点からレースを作った。チームとして仕事を成し遂げたので、勝利の喜びは倍増だ。そしてこの勝利は次へのモチベーションに繋がるよ」。カチューシャはこれがステージ3勝目。すでにステージ2勝を飾っているチームメイトのダニエル・モレーノ(スペイン)はステージ3位に入っている。

ライバルたちから遅れてゴールするヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、アスタナ)ライバルたちから遅れてゴールするヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、アスタナ) photo:Kei Tsujiマイヨコンビナーダを着る総合2位ホーナーとマイヨプントスを着る総合3位バルベルデは、ロドリゲスから14秒遅れで並んでフィニッシュ。そこにマイヨロホのニーバリの姿は無かった。ニーバリは肩を落としながら20秒遅れでフィニッシュラインを切った。

ロドリゲスをアシストし、ステージ3位に入ったダニエル・モレーノ(スペイン、カチューシャ)ロドリゲスをアシストし、ステージ3位に入ったダニエル・モレーノ(スペイン、カチューシャ) photo:Kei Tsujiニーバリから6秒を奪ったホーナーがマイヨロホ奪回に成功した。ホーナーは第3ステージと第10ステージで優勝した際にマイヨロホを手にしたが、いずれも1日でニーバリに総合首位を明け渡している。

形勢逆転。マドリードまで2ステージを残して、ホーナーがニーバリを3秒リードする。満面の笑みでマイヨロホに袖を通したホーナーは「まさか今日着れるとは思っていなかったので大きなサプライズだ。脚の状態はファンタスティック。ブエルタ制覇が見えて来た」と正直に打ち明ける。

3秒差のマイヨロホ争いは、平均勾配10.2%・最大勾配23.5%の悪名高き超級山岳アルト・デ・アングリルで決着する。

まだアングリルに登ったことがないホーナーと、2011年に登っているニーバリ。総合3位のバルベルデや、タイム差を詰めることに成功した総合4位ロドリゲスも鼻息荒く勝利を狙っている。「魔の山アングリル」では秒単位ではなく分単位のタイム差がつくのが通例だ。



シャンパンファイトで喜びを爆発させるホアキン・ロドリゲス(スペイン、カチューシャ)シャンパンファイトで喜びを爆発させるホアキン・ロドリゲス(スペイン、カチューシャ) photo:Kei Tsujiマイヨロホ奪還に成功したクリストファー・ホーナー(アメリカ、レディオシャック・レオパード)マイヨロホ奪還に成功したクリストファー・ホーナー(アメリカ、レディオシャック・レオパード) photo:Kei Tsuji



ブエルタ・ア・エスパーニャ2013第19ステージ結果
1位 ホアキン・ロドリゲス(スペイン、カチューシャ)               4h16'13"
2位 ディエゴ・ウリッシ(イタリア、ランプレ・メリダ)               +11"
3位 ダニエル・モレーノ(スペイン、カチューシャ)
4位 サムエル・サンチェス(スペイン、エウスカルテル)
5位 クリストファー・ホーナー(アメリカ、レディオシャック・レオパード)      +14"
6位 アレハンドロ・バルベルデ(スペイン、モビスター)
7位 ミケーレ・スカルポーニ(イタリア、ランプレ・メリダ)             +16"
8位 レオポルド・ケーニッヒ(チェコ、ネットアップ・エンドゥーラ)         +20"
9位 ヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、アスタナ)
10位 ニコラス・ロッシュ(アイルランド、サクソ・ティンコフ)

11位 タネル・カンゲルト(エストニア、アスタナ)                 +25"
12位 ドメニコ・ポッツォヴィーヴォ(イタリア、アージェードゥーゼル)       +33"
22位 ティボー・ピノ(フランス、FDJ.fr)                     +1'05"

敢闘賞
エドヴァルド・ボアッソンハーゲン(ノルウェー、スカイプロサイクリング)

マイヨロホ(個人総合成績)
1位 クリストファー・ホーナー(アメリカ、レディオシャック・レオパード)    77h56'05"
2位 ヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、アスタナ)               +03"
3位 アレハンドロ・バルベルデ(スペイン、モビスター)              +1'06"
4位 ホアキン・ロドリゲス(スペイン、カチューシャ)               +1'57"
5位 ニコラス・ロッシュ(アイルランド、サクソ・ティンコフ)           +3'49"
6位 ドメニコ・ポッツォヴィーヴォ(イタリア、アージェードゥーゼル)       +6'00"
7位 レオポルド・ケーニッヒ(チェコ、ネットアップ・エンドゥーラ)        +6'38"
8位 ティボー・ピノ(フランス、FDJ.fr)                     +7'02"
9位 サムエル・サンチェス(スペイン、エウスカルテル)              +7'45"
10位 ダニエル・モレーノ(スペイン、カチューシャ)                +11'05"

マイヨプントス(ポイント賞)
1位 アレハンドロ・バルベルデ(スペイン、モビスター)              136pts
2位 ニコラス・ロッシュ(アイルランド、サクソ・ティンコフ)           122pts
3位 ホアキン・ロドリゲス(スペイン、カチューシャ)               117pts

マイヨモンターニャ(山岳賞)
1位 ニコラ・エデ(フランス、コフィディス)                   38pts
2位 ダニエーレ・ラット(イタリア、キャノンデールプロサイクリング)       30pts
3位 クリストファー・ホーナー(アメリカ、レディオシャック・レオパード)     22pts

マイヨコンビナーダ(複合賞)
1位 クリストファー・ホーナー(アメリカ、レディオシャック・レオパード)     9pts
2位 ニコラス・ロッシュ(アイルランド、サクソ・ティンコフ)           13pts
3位 ヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、アスタナ)              15pts

チーム総合成績
1位 エウスカルテル・エウスカディ                     233h17'33"
2位 モビスター                                +5'44"
3位 アスタナ                                 +7'56"

text&photo:Kei Tsuji in Oviedo, Spain
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