ドイツの総合バイクブランドであるコラテックより、2013年モデルとして新たに登場したカーボンバイクが今回テストを行う「R.T.CARBON SX」だ。同社のカーボンバイクラインナップである「R.T.CARBON」のエントリーモデルの性能を紐解いていこう。

コラテック R.T.CARBON SXコラテック R.T.CARBON SX (c)MakotoAYANO/cyclowired.jp
コラテックは1990年にドイツ人のコンラッド・イルバッハー氏が興した20平方メートルの小さなショップから始まった。ユーザーが抱える問題を解決するために自らバイクやパーツを製作したことに端を発し、やがて世界初のセミスリックタイヤ「DIAMANT SLICK」や、現在のMTBラインナップにも引き継がれる弓型のフレーム「SUPER BOW」など既製概念にとらわれない製品をリリースしてきた。

現在はドイツ第3の都市であるミュンヘン近郊に本拠地を置き、研究、開発、設計そして生産の大部分を自社で行い、周辺に豊富に存在するトレイルや山道、クロスカントリーロードでは徹底的なテストが繰り返される。そうして生まれたプロダクツは2005年のジロ・デ・イタリアでのステージ優勝や山岳賞獲得など、一流ブランドとしてふさわしい実績を挙げている。

根元をオフセットさせたプロコントロールフォーク根元をオフセットさせたプロコントロールフォーク コーナーや下りでの安定感を生むテーパードヘッドチューブコーナーや下りでの安定感を生むテーパードヘッドチューブ シンプルな形状のヘッドチューブ周りシンプルな形状のヘッドチューブ周り


今回テストを行うR.T.CARBON SXはコラテックのカーボンバイク「R.T.CARBON」シリーズのエントリーモデル。上位機種であるR.T. PRO CARBONやR.T.CARBONと同様に、フレームの各所にはユニークなデザインを持ち込みつつ、リーズナブルなプライスを実現している。

フレームの設計にはtubing、casting、mouldingの頭文字をとったコラテック独自の技術「TCM+テクノロジー」が用いられた。製造が比較的容易な軽量フレームを軸に、衝撃を吸収するのに最適なカーボン構造体と厚みを持ったTCM+チューブを使い、モノコック構造を採用する。

TCM+チューブによる接合部のないモノコック構造が、フレーム重量を最小限に抑えると同時に、剛性の向上と安定的な高い品質を実現。また、各社のハイエンドモデルに採用されるカーボンドロップアウトを採用し、軽さを追求している。

フレーム剛性に寄与するプロサイズシステムフレーム剛性に寄与するプロサイズシステム インターナルケーブルルーティングによるシンプルな外観インターナルケーブルルーティングによるシンプルな外観


フレームの各所にはシマノDi2に対応する穴が設けられるフレームの各所にはシマノDi2に対応する穴が設けられる BBは標準的なねじ切りタイプBBは標準的なねじ切りタイプ


クラウン部分から一旦後方へとオフセットし、下方に向かうにつれて前方へとベンドする独特なフロントフォークは、「プロコントロールフォーク」と呼ばれる上位機種が採用するものと同形状品。一旦オフセットさせることにより横方向の安定性と優れた衝撃吸収性による快適性を引き出し、シャープなハンドリング特性を実現しているという。

エンド部分を一段下げた「ロープロファイルチェーンステー」は、チェーンとチェーンステーのクリアランスを広げることにより、コンパクトドライブやトリプルクランクなどを装着した場合にもチェーンがフレームと接触することを防ぎ、ダメージを低減。荒れた路面を走る場合の不安を解消している。

ジオメトリーにはプロサイズシステムを採用。これはシートチューブの長さを基準とするのではなく、トップチューブ長をメインに考えるレース用バイクのサイズ選択を考慮したオリジナル規格のこと。ライダーの骨格や筋力、ポジションにフィットしたフレームを選択する上で、より広い選択肢を提供することが可能になっている。

チェーンによるフレームへのダメージを低減するロープロファイルチェーンステーチェーンによるフレームへのダメージを低減するロープロファイルチェーンステー ハンドルとステムにはITMをアッセンブルハンドルとステムにはITMをアッセンブル


このシステムに基づき、R.T.CARBON SXでは大きくスローピングしたトップチューブを持つフレーム形状を採用。多種多様なライディングポジションにフィットするコンパクトなフレームジオメトリーとし、同時に高い剛性を得た。

ヘッドチューブには下側のべアリングを大径化したテーパードヘッドチューブを取り入れ、レース時の高い速度域や急な下りコーナーなどヘッド周りに大きな負荷がかかるシーンでの安定した乗り味に貢献している。シフト・ブレーキワイヤーは共にフレーム内蔵式で、電動コンポーネントにも対応する。

オーソドックスな双胴型のチェーンステーオーソドックスな双胴型のチェーンステー シートチューブに描かれるcorratecの文字シートチューブに描かれるcorratecの文字 シンプルかつ直線的なシートステーシンプルかつ直線的なシートステー


R.T.CARBON SXは今回テストを行うシマノ・105+ティアグラ仕様の他に、デュラエースやアルテグラを装備した完成車がラインナップされ、フレームセットでの販売も行われる。フレームとフォークは全ての販売パッケージで共通だ。

今回の試乗車は105+ティアグラの完成車で、ホイールは同じくシマノのWH-R501。ハンドルとステムのITM・ALCOR 80、サドルのセライタリア・X-1など高品質なパーツを採用し、全体的に信頼感の高い仕上がりとなっている。さて、テストライダー両氏はコストパフォーマンスに優れるジャーマンカーボンバイクをどう評価するのだろうか。早速インプレッションに移ろう。




ーインプレッション
「トータルバランスが秀逸 多くの日本人にマッチする剛性感」江下健太郎(じてんしゃPit)

この性能の完成車で20万円を切る値段は素晴らしいですね。振動吸収性から反応性、旋回、ハンドリングのあらゆる性能が本当にバランスよくまとまっていて、コラテックが持つテクノロジーと今までのノウハウを集結して出来たフレームだなと感じました。日本人のパワーや乗り方を考えると、ある性能に特化したって訳ではなく全体的なバランスの良いフレームですね。レースにもロングライドにも幅広く対応してくれますが、どちらかと言えばエンデュランスよりに振っている印象を受けました。

以前乗ったことのある同社のMTBにもバランスの良さを感じましたが、ロードバイクでも同様で、この乗り味であれば、より高価でも納得できるかなと思いました。電動コンポーネントにも対応し、パーツのアップグレードに備えている点には、廉価版でないと言ったメーカー側の自身の現れを感じますし、実際に上位グレード比べても遜色ない性能ですね。

「トータルバランスが秀逸 多くの日本人にマッチする剛性感」江下健太郎(じてんしゃPit)「トータルバランスが秀逸 多くの日本人にマッチする剛性感」江下健太郎(じてんしゃPit)
今回試乗したサイズ(48cm)ではヘッド角は73度が一般的で、このバイクの場合には72.5度と少し倒し気味で直進性が高い印象がありましたが、実際にコーナリングしてみると少しヘッド角が立っているかの様に自然に曲がってくれますね。その理由は根元でオフセットさせたプロコントロールフォークにあると感じました。

振動吸収に関してはフロントとリア共に、大きな振動から微振動までしっかりと取れいてる印象がありました。細かい振動の積み重ねで体が疲労してくるロングライドの場合には、角を取ってくれる振動吸収特性はとても重要ですね。加えて、ロングライド終盤の上りでは軽さもアドバンテージになるでしょう。

だからと言ってギアを掛けたり、ダンシングしたりして意図的にフレームに高い負荷をかけても鈍いってことはないです。ただ、試乗車にアッセンブルされていたホイールが前後で2kgを超える重さであることに加え、剛性感も少し足りないので、フレームの性能をスポイルしていると感じました。しかし、ホイールを変えれば印象は変わりますね。

上りはシッティングがすごく快適です。ヒルクライムといえどもギャップを乗り越えたり、除けたりしなければならない不快な路面ではあらゆる振動を取ってくれるので、しっかり腰を据えてペダルを踏みながら乗れますね。ギアを掛けても、回してもよく進んでくれました。

下りではレースの速度域を想定し、ハイスピードのコーナリングをこなして見ましたが、真ん中に乗って普通に曲がってくれました。前後に荷重をずらすような動きは特に必要なく、曲がる方向に少しだけ荷重をずらすだけでスムーズの曲がってくれる、自然なフィーリングでしたね。

スプリンターの様な体重が70kgを超す重量級の選手が大きなパワーでもがいた時に、少し物足りなく感じるでしょう。加えて、一定ペースで走るよりもインターバルを繰り返すような乗り方が好みの方も同様に物足りなく感じるかも知れません。日本人に多くみられる軽量で絶対的な出力が高くないライダーにこそ素晴らしいバランスですね。

フレーム自体の肉厚な雰囲気とマッシブな見た目、造りにも安心感がありますね。コラテック特有のチェーンステーは優秀で、縦の震動がしっかり取れていることを感じられます。それでいて、ねじれも少ない。本当によく出来たバイクで、コラテックというメーカーはもう少し日本で認知されても良いメーカーだと思いました。

初めてロードバイクを買う方から実業団のE1レベルの選手まで幅広くおススメできるバイクです。1か月に1000km以上乗るライダーにもおススメな耐久性もあります。目的や予算に合わせてシマノ105からデュラエースまでコンポーネントを選べる点もいいですね。


「過酷な環境での使用におススメ出来る耐久性 個性的な形状が特徴」澤村健太郎(Nicole EuroCycle)

R.T. CARBON SXはロードレーサーに要求される要素を平均点で満たしているベーシックで、造りのしっかりとしたカーボンフレームだと感じました。カーボンがとても肉厚な印象で、ツーリングやグランフォンド、ロングライドで酷使する方にもおススメ出来る耐久性を持っていると思います。ただ、振動吸収性はカーボンフレームとしては標準的でした。

「過酷な環境での使用におススメ出来る耐久性 個性的な形状が特徴」澤村健太郎(Nicole EuroCycle)「過酷な環境での使用におススメ出来る耐久性 個性的な形状が特徴」澤村健太郎(Nicole EuroCycle) カーボンのグレードを落として厚さで強度を稼いでいる分、上りでは重量的な重さを感じる場面もありました。また、荒れた路面でレースのような高出力で踏んでみるとリアが跳ねる印象もありました。これは肉厚を上げた分、柔軟性は低くなっていしまっているのではないでしょうか。従って路面や地形を考慮しながら走ってあげる必要があると思います。ただ、軽量なバイクにありがちな危うさがなかった点はいいですね。

ハンドリングはレースバイクのような味付けで、クイックに切れ込んでいく印象がありました。レースをやっている方であれば何の問題もないと思いますが、このバイクのターゲットであるビギナーの方の中には少し不安を覚える方もいるでしょう。ただ私も短時間のインプレの中で慣れることが出来ましたので、購入に際しては特に留意する点ではないですね。

フレームのポテンシャルがいいだけに、完成車でアッセンブルされるホイールが少し性能をスポイルしていると感じました。スプリント時の掛かりが多少重く、下りでは鈍重な印象があります。ホイールを軽くて剛性の高いものに変えると、よりレーシーで下りも攻められるクイックなハンドリングに、ダンシング時にはヒラヒラと上っていける様なフィーリングに変化しましたので、ホイールによって性格が豹変するフレームと言えるのではないでしょうか。

完成車のパーツアッセンブルですが、ITMのハンドルとステムを採用している点は個人的には高ポイントですね。結構硬めなので好みさえ合えばそのままレースなどで使用しても問題ないでしょう。メインコンポーネントをシマノ105としていますが、クランクだけティアグラで、スプリントした際にチェーンリングが剛性不足でたわむ感触がありますのでレースへの出場を考える方は換装をおススメします。

また、少し乗り心地が硬めであることから、タイヤやチューブの交換も必須ですね。タイヤは太めの25cを低圧にすることによって突き上げの低減やハンドリング挙動の安定など見込めるでしょう。低圧にしやすいチューブレスやクリンチャーであればチューブにラテックスやパナレーサーのR-Airを組み合わせてもいいですね。私の場合にはハッチンソンのチューブレスであるインテンシブを6気圧ぐらいで使用しますね。体重が軽い方であれば5気圧ぐらいでも良いと思います。

フロントフォークやチェーンステーなど個性的なルックスが目を引きますね。フロントフォークは根元付近でオフセットしてから前方に伸びる形状なので、フォークよりもヘッドチューブが前にある様な印象で、試乗前には視覚的な違和感を覚えました。しかし実際に乗ってハンドルを切ってみると割と普通に曲がっていけるので不思議な感覚になりましたね。

後輪のハブ軸とBBを結ぶ直線から、オフセットさせたことによってチェーンステーにチェーンを当たりにくくさせたロープロファイルチェーンステーも特徴的ですね。今回の試乗コースの路面ではその効果を感じることは無かったですが、ヨーロッパの荒れた路面では効果を発揮するのでしょう。また、シマノのDi2にも対応しているので、アップグレードを見据える方にもおすすめですね。

冒頭で書いた通りロングライドから、サーキットでのエンデューロ、例えばJCRCのCクラス位の中級者向けのレースまで幅広く対応出来るポテンシャルを持っています。ビギナーで1台を長く乗りたい方に向けたカーボンバイクですね。

コラテック R.T.CARBON SXコラテック R.T.CARBON SX (c)MakotoAYANO/cyclowired.jp


コラテック R.T.CARBON SX 
フレーム:CORRATEC RT SX TCM+ カーボン モノコック
フォーク:RT SX カーボン、PRO CONTROL FORK
サイズ:46、48、50cm(プロサイズシステム)
カラー:ホワイト/レッド、ブラック/ブルー
価 格:199,500円(税込、105/ティアグラ完成車)、258,300円(税込、アルテグラ完成車)、449,400円(税込、デュラエース完成車)、178,500円(税込、フレームセット)



インプレライダーのプロフィール

澤村健太郎(Nicole EuroCycle 駒沢)澤村健太郎(Nicole EuroCycle 駒沢) 澤村健太郎(Nicole EuroCycle 駒沢)

東京都世田谷区駒沢に2010年12月にオープンした「Nicole EuroCycle 駒沢」のチーフメカニック。実業団ロードレースチーム「Maidservant Subject」ではキャプテンを務め、シクロクロスレースにも積極的に参戦している。同時にトレイル巡りやツーリングなど楽しく自転車に乗ることも追求しており「誰とでも楽しめるサイクリスト」が目標。愛称は「アルパカ」。

Nicole EuroCycle
江下健太郎(じてんしゃPit)江下健太郎(じてんしゃPit) 江下健太郎(じてんしゃPit)

ロード、MTB、シクロクロスとジャンルを問わず活躍する現役ライダー。かつては愛三工業レーシングに所属し、2005年の実業団チームランキング1位に貢献。1999年MTB&シクロクロスU23世界選手権日本代表。ロードでは2002年ツール・ド・台湾日本代表を経験し、また、ツール・ド・ブルギナファソで敢闘賞を獲得。埼玉県日高市の「じてんしゃPit」店主としてレースの現場から得たノウハウを提供している。愛称は「えしけん」。

じてんしゃPit



ウエア協力:bici

text:Yuya.Yamamoto
photo:Makoto.AYANO
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