1948年にチーノ・チネリが創業して以来、後世に語り継がれる革新的なプロダクトを世に送り出し続けているチネリ。ポップなイメージを前面に打ち出した製品が多い中で、シンプルなグラフィックで走行性能を追求したバイクが、今回インプレを行うサエッタだ。

チネリ サエッタチネリ サエッタ (c)MakotoAYANO/cyclowired.jp
近年のチネリといえばグラフィックアーティストとのコラボレーションや、ストリートカルチャーからインスパイアを受けた製品のイメージが先行するかも知れない。しかし創業以来、チネリはレースの現場でレーシングブランドとしての技術を磨き続けてきた。現在のラインナップにも燦然と輝く「スーパーコルサ」をはじめ、オリンピックと世界選手権で計30近くもの金メダルを獲得した「レーザー」など、ロードレーサーの歴史を語る上で外すことの出来ない名車を多く生み出してきた。

その輝かしい歴史の裏には老舗チューブメーカー、コロンバスの存在があることを忘れてはならない。現在ラインナップされるハイエンドのカーボンフレーム「Very Best Of」から入門用のアルミロードバイク「Experience」まで、全てのバイクにコロンバスのチューブが使用されているのだ。

緩やかなべンド形状のコロンバス製フォーク緩やかなべンド形状のコロンバス製フォーク オーソドックスな造形のヘッドチューブオーソドックスな造形のヘッドチューブ カーボン地を生かしたシンプルなグラフィックカーボン地を生かしたシンプルなグラフィック


今回インプレッションを行うサエッタは、チネリのラインナップ中ミドルグレードに位置し、アマチュアレーサーをターゲットとしたバイク。近年のチネリに見られるポップなグラフィックを排し、カーボン地を生かしたシンプルかつスパルタンな佇まい、ピュアレーシングバイクの雰囲気を漂わせている。

このサエッタに採用されているのは、コロンバスの70HMモノコックカーボン。大きくスローピングしたトップチューブを採用し、低重心化によってダンシング時の振りやすさを重視した設計思想が見て取れる。

各チューブは過度な大口径化は成されていないが、流れる様なラインで繋がるダウンチューブからチェーンステー部分にはBBのねじり剛性を高めた"Low Sigma Transition"テクノロジーが採用されていることで強化を果たし、レーシングバイクに求められる剛性を実現している。その一方で、トップチューブからシートステーにかけては流れる様な造形とした"Progressive Flexion Control"テクノロジーによって、必要な快適性を確保し、荒れた路面でのトラクションの確保にも貢献してくれる。

比較的スリムなダウンチューブ比較的スリムなダウンチューブ トップチューブからシートステーにかけての流れる様な造形トップチューブからシートステーにかけての流れる様な造形


BBはオーソドックスなスレッドタイプBBはオーソドックスなスレッドタイプ シフトワイヤー受けとケーブルアジャスターはダウンチューブに設置シフトワイヤー受けとケーブルアジャスターはダウンチューブに設置


フロントフォークには、オーソドックスなべンド形状を採用した「コロンバス・ソリダ」を採用。エントリーグレードでもカーボンコラムのフォークを採用するバイクが多い中、アルミコラムを選択し落車などのトラブルにも耐え得る安全性を確保するあたり、レーシングブランドとしてのチネリの思想を感じるところだ。

フレーム細部にもレースの現場で培われたノウハウが注入され、ビギナーにとって扱い易い様に設計がなされていることが伺える。例えば、BBシェルは音鳴りなどのトラブルが起こる可能性を低減すると共に、汎用性の高いJIS規格としている。

コンポーネントはシマノ105コンポーネントはシマノ105 ハンドルやステム、シートピラーもチネリで固められるハンドルやステム、シートピラーもチネリで固められる


また、ワイヤー類は全てフレームの外を通すことにより、メンテナンス性を考慮。また、ダウンチューブのシフトワイヤー受けにはケーブルアジャスターを装備し、走行中の変速不良にも対応可能だ。31.6mm径のシートポストを採用することで汎用性を高め、材質やセットバック量など幅広い選択肢の中から選ぶことが出来る。

販売パッケージは完成車とフレームセットの2種類が用意され、コンポーネントにシマノ105、ホイールに同WH-R501-30をアッセンブル、ハンドル、ステム、シートポストにチネリのDNAシリーズを採用し、統一感を高めた完成車は199,500円(税込)。チネリ、ダイナモシリーズのハンドル、ステム、シートポストが付属するフレームセットは168,000円(税込)というプライスだ。

コロンバスのロゴが入るシートステーコロンバスのロゴが入るシートステー シートチューブに刻まれるSAETTAの文字シートチューブに刻まれるSAETTAの文字 シートステー結合部のデザインは幅広のモノステーシートステー結合部のデザインは幅広のモノステー


近年チネリが歩むポップなカラーを排し、リーズナブルなプライスとレーシング性能の両立を目指したサエッタをテストライダー両氏はどう評するのだろうか。早速インプレッションに移ろう。なお、今回のテストバイクに装着されたホイールは、完成車にセットされるものとは異なることを承知頂きたい。



ーインプレッション

「絶妙な剛性感と振動吸収性、本格的なレースにも対応できる1台」品川真寛(YOU CAN)

パワーを掛けてもロスする事無くスピードに変換され、踏みだしが非常に軽いと言うポジティブな印象を持ちました。基本的に剛性は高いものの、足を削るような硬さではなく絶妙な剛性感が感じられ、平地でも上りでもダッシュをした際の反応も良かったです。特に上りでアウターギアにチェーンを掛けてダンシングする際に、リズムが取りやすく気持ち良く加速してくれました。

各社のレーシングバイクと比較するとフレームは全体的に細身なのですが、BB周りとチェーンステーがしっかりしている印象があります。通じてこの部分がフレーム全体の高い剛性感を生み出しているのでしょう。そして、トップチューブのスローピング角が大きく前三角がコンパクトなため高い剛性感が生み出されているのだと思います。フレームがコンパクトかつ低重心な事もダンシングの軽さやリズムの取りやすさに影響しているのでしょう。

「絶妙な剛性感と振動吸収性、本格的なレースにも対応できる1台」品川真寛(YOU CAN)「絶妙な剛性感と振動吸収性、本格的なレースにも対応できる1台」品川真寛(YOU CAN)

下りでは、初めて乗ったバイクにも関わらず、一本目の下りから思い描いた通りのラインをトレースしながら、ストレスなく攻めることができました。ヘッド回りの剛性が高く、フロント回りがよれる印象が無かったことがその理由だと思います。トレンドであるヘッドチューブ下側のベアリングを大径化したフレーム程ではないものの、適度な剛性感で癖がないハンドリングだと感じました。

振動吸収性もレーシングバイクとしては申し分ないレベルですね。荒れた路面ではしっかりと振動をいなしてくれるためバイクが跳ねず、十分にトラクションがかかります。

日本国内のレースでは、修善寺や群馬などの上りでインターバルがかかるコースで行われるレースで真価を発揮すると思います。日本人でしたら、脚質に関係なくどんなレベルのライダーでも問題なく乗れるでしょう。もちろん、下りも得意なので、テクニカルな下りがあるレースでも十分に走れると思います。

完成車で20万円を切るプライスですが、レーシングバイクとしては申し分ない性能だと思いました。唯一、交換するべきパーツがあるとすれば、それはホイールです。フレームはかなりレーシーな味付けですから、反応性の良さを生かせるようなホイールへの交換がおススメですね。

今回の試乗車にアッセンブルされていたシマノWH7900-C24-CLは重量が軽いのでダンシングがさらに軽くなって、踏んだ時の反応も速いでしょうからフレームの性格に合っていると思います。また、マヴィックのキシリウムSLのように剛性が高く、反応性が良いホイールもおススメです。また、剛性が少し低いホイールを履かせればロングライドにも十分対応してくれると思います。

シマノ・105が付いていることを考えると、本格的なレースにも対応できます。これからレースを始めたいか方は是非とも購入を検討してみてほしい一台ですね。


「本当の意味でコストパフォーマンスが高いバイク、レースがしたい方におススメ」山添悟志(Squipe)

「本当の意味でコストパフォーマンスが高いバイク、レースがしたい方におススメ」山添悟志(Squipe)「本当の意味でコストパフォーマンスが高いバイク、レースがしたい方におススメ」山添悟志(Squipe) まさしく、レーシングバイクというという印象を受けました。チネリと言えばルックス重視と言うイメージを持っていましたが、走行性能とルックスのどちらとも、トレンドに流されず至ってオーソドックスだと感じました。重量も決して軽くないため踏み出しの第一印象こそ少し重く感じましたが、レースを想定した高い速度域で走らせると、伸びが良く、ギアを掛けてダンシングすると良く走ってくれますね。

BB周りとリアバックが特にしっかりしているので、踏みこんだ際よれたり力が逃げることがなく、意図的に雑なペダリングをしてもしっかり進んでくれました。各チューブはとても細身ですが、高品質な素材を使用しているか、積層を工夫することによってしっかりと剛性を稼いでいるのではないでしょうか。振動吸収性はカーボンとして必要最小限のレベルです。価格を考えれば優秀ですよ。

ハンドリングは古典的なイタリアンバイクのハンドリングで、直進安定性が高い印象がありました。試乗車のサイズが小さかったこともあって強すぎる気がしましたが、適正サイズであれば、違和感なく曲がってくれるはずです。また、コーナリングの際にアンダーステアになるようなこともありませんでした。疲労が溜まってきた際に、ハンドルに体重をかけてダンシングするようなシーンでも、ストレスなく自転車を振ることができると思います。

フレームの性能を考えると、シマノ・105完成車で20万円を切る価格は非常にお買い得だと思いました。また、ハンドルやステムにはチネリのパーツを採用している点からも、本当の意味でコストパフォーマンスが高いバイクと言えます。ホイールを交換すれば即レースに参戦できるので、レースをしている学生におススメですね。デュラエースなどにグレードアップしても見劣りすることはないと思います。

フレーム細部の作りは非常にシンプルで標準的ですね。トラブルが起こる可能性は少なく、メンテナンス性も高いと思います。外装のワイヤーやねじ切りのBB、標準的なシートポスト、ヘッドパーツも上下で同じ径のベアリングを使うなど、ショップの中ではなく走りに行った先やレースなど、いざと言う時にメンテナンスしやすいですね。個人的には、コストダウンではなく、レースの現場からのノウハウを生かした結果だと思います。

見た目がシンプルで、重量も軽くはないですが、全力で走れば納得できる乗り味を持ち、レースをする人であれば脚質を問わない懐の深い1台です。「ロードバイク」ではなく、「レーシングバイク」を求める方におススメですね。

チネリ サエッタチネリ サエッタ (c)MakotoAYANO/cyclowired.jp

チネリ サエッタ
サイズ:XS、S、M、XL
カラー:ブラックアルバ
フレーム:コロンブス HM70モノコック
フォーク:コロンブス ソルダ アル/カーボ 1-1/8”
フレーム重量:1150g
フォーク重量:480
Fメカ 取り付け方式:直付け
BB:JIS
メインコンポ:シマノ 105
ホイール:シマノ WH-R501-30
ハンドル:チネリ DNA 31.8mm(完成車)、チネリ ダイナモ31.8mm(フレームセット)
ステム:チネリ DNA (完成車)、チネリ ダイナモ(フレームセット)
シートポスト:チネリ DNA 31.6mm(完成車)、チネリ ダイナモ31.6mm(フレームセット)
価 格 :199,500円(税込、105完成車、)、168,000円(税込、フレームセット)
※フレームセットにはバーテープ、チネリ ダイナモシリーズのハンドル、ステム、シートポストが付属




インプレライダーのプロフィール

品川真寛(YOU CAN)品川真寛(YOU CAN) 品川真寛(YOU CAN)

2003年に日本鋪道よりプロデビュー。2005年からシマノ・メモリーコープに移籍し、ヨーロッパに活躍の舞台を移す。パリ~ルーベやヘント〜ウェヴェルヘムをはじめ春のクラシックレースに多数出場。2008年から愛三工業レーシングに移籍。アジアのレースで入賞歴多数を誇る。2012年限りで引退し、現在はYOU CAN大磯店にて勤務する。愛称は「しなしな」。

YOU CAN


山添悟志(スポーツバイスクル・スキップ)山添悟志(スポーツバイスクル・スキップ) 山添悟志(スポーツバイスクル・スキップ)

神奈川県厚木市に1996年にオープンしたロード系プロショップ、スポーツバイスクル・スキップの店主。脚質はスプリンターで、過去にいわきクリテリウムBR-2で優勝した経験を持つ。走り系ショップとして有名だが、クラブ員と一緒にグルメツーリングを行うなど、「自転車で走る楽しみ」も同時に追求している。

スポーツバイスクル スキップ



ウェア協力:VALETTE(バレット)


text:Yuya.Yamamoto
photo:Makoto.AYANO
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