「諦めたらそこでレースが終了する。それがパリ〜ルーベだ」。食らいつく24歳のセプ・ファンマルケ(ベルギー、ブランコプロサイクリング)を、ヴェロドロームでのスプリントで下したファビアン・カンチェラーラ(スイス、レディオシャック・レオパード)。苦しみながら、3度目の「北の地獄」制覇を果たした。



砂埃を巻き上げて進むプトロン砂埃を巻き上げて進むプトロン photo:Cor Vosディフェンディングチャンピオンのトム・ボーネン(ベルギー、オメガファーマ・クイックステップ)を欠く第111回パリ〜ルーベ。晴天のコンピエーニュを飛び出した198名のプロトンは、足早に終着地ルーベに至る254kmコースに駆け出す。アタックに次ぐアタックで、最初の1時間の平均スピードは49.9km/hに達した。

観客が連なったパヴェを進む観客が連なったパヴェを進む photo:Cor Vos98km地点から始まるパヴェ区間に入ってなおアタック合戦は続く。一時的にエドヴァルド・ボアッソンハーゲン(ノルウェー、スカイプロサイクリング)やテイラー・フィニー(アメリカ、BMCレーシングチーム)を含む10名ほどが抜け出したが、レディオシャック・レオパードの集団コントロールによって再び集団は一つに。その後、ちょうどレースが折り返しを通過した130km地点でようやく4人の逃げが決まった。

落ち着いた表情で前半のパヴェをこなすファビアン・カンチェラーラ(スイス、レディオシャック・レオパード)落ち着いた表情で前半のパヴェをこなすファビアン・カンチェラーラ(スイス、レディオシャック・レオパード) photo:Cor Vos逃げたのは2007年大会の覇者スチュアート・オグレディ(オーストラリア、オリカ・グリーンエッジ)、マシュー・ヘイマン(オーストラリア、スカイプロサイクリング)、ヘルト・ステーグマン(ベルギー、オメガファーマ・クイックステップ)、クレメン・コレツキー(フランス、ブルターニュ・シュレー)という脚の揃ったメンバー。タイム差は2分まで広がる。

連続するパヴェ区間でアンドレ・グライペル(ドイツ、ロット・ベリソル)らが追走アタックを仕掛けたが、ローテーションの回った先頭4名には届かない。レースが本格的に動き出したのは、ゴールまで100kmを切ってから。度重なる落車やバイクトラブルで人数を減らしたプロトンが、セクター18「アランベール(難易度☆☆☆☆☆)」に突入した。

広大な森を一直線に貫く「アランベール」でフィニーが積極的にペースアップ。この難所でメイン集団は70名ほどに絞られたが、決定的な動きは生まれない。レディオシャック・レオパード勢がコントロールを再開すると状況は再び落ち着きを見せた。

本命が動いたのは、ゴールまで50kmを残したセクター11「オシー・レ・オルシ(難易度☆☆☆)」でのこと。それまで息をひそめていたカンチェラーラが集団先頭に立ってペースを上げると、中切れによってメイン集団は縮小。このペースアップによって逃げグループは捕らえられた。

「アランベール」で集団から飛び出すテイラー・フィニー(アメリカ、BMCレーシングチーム)「アランベール」で集団から飛び出すテイラー・フィニー(アメリカ、BMCレーシングチーム) photo:Cor Vosパヴェを走るセプ・ファンマルケ(ベルギー、ブランコプロサイクリング)らパヴェを走るセプ・ファンマルケ(ベルギー、ブランコプロサイクリング)ら photo:Cor Vos

一気に活性化したメイン集団からはフアンアントニオ・フレチャ(スペイン、ヴァカンソレイユ・DCM)やステイン・ファンデンベルフ(ベルギー、オメガファーマ・クイックステップ)らが飛び出し、セクター10「モンサンペヴェル(難易度☆☆☆☆☆)」へ入って行く。

ライバルたちのマークを受けながら走るファビアン・カンチェラーラ(スイス、レディオシャック・レオパード)ライバルたちのマークを受けながら走るファビアン・カンチェラーラ(スイス、レディオシャック・レオパード) photo:Cor Vos全長3kmのこの荒れたパヴェ区間でカンチェラーラらが先頭グループをキャッチ。こうして13名の先頭グループが形成されたが、そこにシルヴァン・シャヴァネル(フランス、オメガファーマ・クイックステップ)やフィリッポ・ポッツァート(イタリア、ランプレ・メリダ)らの姿は無い。

ファビアン・カンチェラーラ(スイス、レディオシャック・レオパード)が集団のペースを上げるファビアン・カンチェラーラ(スイス、レディオシャック・レオパード)が集団のペースを上げる photo:Cor Vosゴール40km手前のセクター8「ポンティボ(難易度☆☆☆)」でファンデンベルフ、ラングヴェルト、ゴダン、ファンマルケの4名が先行し、遅れてフレチャ、パオリーニ、スティバル、ファンアフェルマートの4名が合流。先行する8名に対してカンチェラーラが遅れを取ってしまう。

何度もペースアップを図るファビアン・カンチェラーラ(スイス、レディオシャック・レオパード)何度もペースアップを図るファビアン・カンチェラーラ(スイス、レディオシャック・レオパード) photo:Cor Vosしかしカンチェラーラは持ち前の独走力を発揮し、単独で先頭グループに合流。その一方で、カンチェラーラの存在を嫌うファンデンベルフとファンマルケの2人が先頭でアタックを成功させた。

ファンデンベルフとファンマルケが先行し、30秒遅れでカンチェラーラ、ラングヴェルト、ゴダン、フレチャ、パオリーニ、スティバル、ファンアフェルマートという展開でゴール24km手前のセクター6「ブルゲル(難易度☆☆☆☆)」へ。ここで再びアタックを仕掛けたカンチェラーラに反応出来たのは、元シクロクロス世界チャンピオンのスティバルのみ。カンチェラーラとスティバルは、ゴールまで19kmを残してファンデンベルフとファンマルケを捕らえた。

オメガファーマ・クイックステップのファンデンベルフとスティバル、ブランコプロサイクリングのファンマルケ、そしてレディオシャックのカンチェラーラという4強が先行。ついに最後の難所セクター4「カルフール・ド・ラルブル(難易度☆☆☆☆☆)」が姿を現す。

長いパヴェ区間でカンチェラーラがペースアップを図ったが、ライバルたちを振り切ることは出来ない。それまで積極的な走りを見せていたファンデンベルフが、観客と接触して落車。続いてチームメイトのスティバルも観客と接触してしまう。スティバルは抜群のバイクコントロールで落車を免れたが、カンチェラーラとファンマルケに先行を許す。この「カルフール・ド・ラルブル」でオメガファーマ・クイックステップの2人がチャンスを失ってしまった。

先頭でパヴェ区間を抜けるファビアン・カンチェラーラ(スイス、レディオシャック・レオパード)とセプ・ファンマルケ(ベルギー、ブランコプロサイクリング)先頭でパヴェ区間を抜けるファビアン・カンチェラーラ(スイス、レディオシャック・レオパード)とセプ・ファンマルケ(ベルギー、ブランコプロサイクリング) photo:Riccardo Scanferla

難易度の高いパヴェ区間を終え、協力しながらルーベのヴェロドロームを目指す先頭のカンチェラーラとファンマルケ。ラスト4.5kmでカンチェラーラが腰を上げてアタックを仕掛けたが、ファンマルケが歯を食いしばって食らいつく。カンチェラーラとファンマルケの2人が、牽制しながらヴェロドロームに入っていく。

周回遅れのフレチャらの後ろでスプリントを繰り広げるファビアン・カンチェラーラ(スイス、レディオシャック・レオパード)とセプ・ファンマルケ(ベルギー、ブランコプロサイクリング)周回遅れのフレチャらの後ろでスプリントを繰り広げるファビアン・カンチェラーラ(スイス、レディオシャック・レオパード)とセプ・ファンマルケ(ベルギー、ブランコプロサイクリング) photo:Riccardo Scanferlaカンチェラーラ32歳。ファンマルケ24歳。互いの表情を伺いながら、傾斜角の緩いヴェロドロームをゆったりと周回する。「正直言ってチャンスがあると思っていた。カンチェラーラだって人間。彼も疲労していた。彼のアタックに千切れなかったことがゴールスプリントへの自信になったんだ」。そう話すファンマルケが先行。カンチェラーラが付き位置。ホームストレート手前の第4コーナーで勝負が始まった。

ファンマルケ先行でスプリント。しかしカンチェラーラのスピードが乗る。遅れてヴェロドロームに入ったフレチャやラングヴェルト、スティバルの後方に、カンチェラーラとファンマルケが迫る。徐々にスピードダウンするファンマルケを、カンチェラーラが差しきった。

3度目の優勝を果たしたファビアン・カンチェラーラ(スイス、レディオシャック・レオパード)3度目の優勝を果たしたファビアン・カンチェラーラ(スイス、レディオシャック・レオパード) photo:Riccardo Scanferla

ライバル不在とされ、大本命としてパリ〜ルーベに挑んだカンチェラーラ。「3度目の勝利はアメイジング(信じられないほど素晴らしい)。今年は他の全ての選手が我々のチームと僕に対して攻撃を仕掛ける状況だったので、セレクションをかけていくしか方法が無かった」と語る。

ゴール後、地面に倒れ込むファビアン・カンチェラーラ(スイス、レディオシャック・レオパード)ゴール後、地面に倒れ込むファビアン・カンチェラーラ(スイス、レディオシャック・レオパード) photo:Cor Vos「何度かアタックしたけど引き離せなかったので、彼(ファンマルケ)と一対一の闘いになる心積もりでいた。フィニッシュラインを駆け抜けた時、信じられない気持ちに包まれたよ。この脚とこの頭が、僕をこの場所に連れてくることを強く望んでいた。ミッション完遂。今はゆっくり休む時だ」。2006年と2010年に続く3度目のパリ〜ルーベ制覇。ムセーウやモゼール、メルクスに並ぶ記録だ。

悔しい表情を見せるセプ・ファンマルケ(ベルギー、ブランコプロサイクリング)悔しい表情を見せるセプ・ファンマルケ(ベルギー、ブランコプロサイクリング) photo:Cor Vosカンチェラーラの優勝の裏には、チームカーのハンドルを握ったディルク・デモル監督の存在があった。1988年に自身もパリ〜ルーベを制しているデモル監督は以下のようにコメントする。「他チームが立ち向かってくることは容易に想像出来た。しかし我々の目的は2位になることではなく勝利することだ。ファンマルケは地元が近いので良く知っている。彼はスプリント力があるので、協力しながらミスをすることなく走るようファビアンに諭し続けた。スティバルにとって理想的な展開だっただけに、彼の落車を残念に思う。でも今回は我々に運が味方した。それがパリ〜ルーベだ」。

敗れたファンマルケは昨年オンループ・ヘットニュースブラッドでボーネンとフレチャをスプリントで下した選手。ブランコプロサイクリングに移籍した今シーズンは落車の影響で存在感を見せれずにいたが、大一番で結果を残した。ファンマルケは「この結果を誇りに思うべきなのだと思う」と自分に言い聞かせる。「でもチャンスがあっただけに失望している。もうこんなチャンスは無いかも知れない。今はただ、この2位という順位が残念でならない」。カンチェラーラを最後まで苦しめたその走りは、いずれ大きな自信になるだろう。

この日の平均スピードは44.2km/h。これは1964年にペーテル・ポスト(オランダ)がマークした45.1km/hに次いで史上2番目に速い。完走者は118名。5度目の出場となった別府史之(オリカ・グリーンエッジ)は、レース前半に逃げグループを追走する役目をこなしたが、2度の落車によって後退。途中リタイアを喫している。

石畳のトロフィーを受け取ったファビアン・カンチェラーラ(スイス、レディオシャック・レオパード)石畳のトロフィーを受け取ったファビアン・カンチェラーラ(スイス、レディオシャック・レオパード) photo:Riccardo Scanferla

選手コメントは各チーム公式サイトより。

(※4/14 カンチェラーラの戦歴に関する記述を修正しました)




パリ〜ルーベ2013結果
1位 ファビアン・カンチェラーラ(スイス、レディオシャック・レオパード)    5h45'33"
2位 セプ・ファンマルケ(ベルギー、ブランコプロサイクリング)
3位 ニキ・テルプストラ(オランダ、オメガファーマ・クイックステップ)       +31"
4位 フレフ・ファンアフェルマート(ベルギー、BMCレーシングチーム)
5位 ダミアン・ゴダン(フランス、ユーロップカー)
6位 ゼネク・スティバル(チェコ、オメガファーマ・クイックステップ)        +39"
7位 セバスティアン・ラングヴェルト(オランダ、オリカ・グリーンエッジ)
8位 フアンアントニオ・フレチャ(スペイン、ヴァカンソレイユ・DCM)
9位 アレクサンダー・クリストフ(ノルウェー、BMCレーシングチーム)        +50"
10位 セバスティアン・テュルゴー(フランス、ユーロップカー)

11位 ハインリッヒ・ハウッスラー(オーストラリア、IAMサイクリング)
12位 ベルンハルト・アイゼル(オーストリア、スカイプロサイクリング)
13位 マールテン・ワイナンツ(ベルギー、ブランコプロサイクリング)
14位 ラース・ボーム(オランダ、ブランコプロサイクリング)
15位 マッティ・ブレシェル(デンマーク、サクソ・ティンコフ)
16位 ビョルン・ルークマンス(ベルギー、ヴァカンソレイユ・DCM)
17位 ストゥヴ・シェネル(フランス、アージェードゥーゼル)
18位 マーティン・チャリンギ(オランダ、ブランコプロサイクリング)
19位 シルヴァン・シャヴァネル(フランス、オメガファーマ・クイックステップ)
20位 ステイン・ファンデンベルフ(ベルギー、オメガファーマ・クイックステップ)

DNF 別府史之(日本、オリカ・グリーンエッジ)

text:Kei Tsuji
photo:Riccardo Scanferla

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