「ちょうど1年前、地面に倒れていた僕が、フランドルで再び頂点に立った」。2010年大会の覇者で、昨年落車による鎖骨骨折でリタイアしたファビアン・カンチェラーラ(スイス、レディオシャック・レオパード)が、圧倒的なパワーでライバルを粉砕。13kmの力強い独走勝利を果たした。



19km地点で落車したトム・ボーネン(ベルギー、オメガファーマ・クイックステップ)19km地点で落車したトム・ボーネン(ベルギー、オメガファーマ・クイックステップ) photo:Riccardo Scanferla「優勝候補として勝つことは簡単なことじゃない。確かに今年は変なレース展開だったと思う」。カンチェラーラの言う“変なレース展開”の発端となったのは、19km地点でのトム・ボーネン(ベルギー、オメガファーマ・クイックステップ)の落車リタイアだ。

フランドル地方の短い急坂を繋いで行くフランドル地方の短い急坂を繋いで行く photo:Riccardo Scanferla4度目の優勝を狙うディフェンディングチャンピオンは、膝と背中を打ち付けて救急車へ。骨折は免れたが、ヘント〜ウェベルヘムに続いて早々にボーネンのタイトル防衛の野望が散った。

フランドルの旗が舞うフランドルの旗が舞う photo:Riccardo Scanferla低温続きのベルギー・フランドル地方を舞台に開催された第97回ロンド・ファン・フラーンデレン。ボーネンのリタイア後にミカエル・モルコフ(デンマーク、サクソ・ティンコフ)やローレンス・デブリーゼ(ベルギー、トップスポート・フラーンデレン)ら9名を含む逃げが形成され、3分のリードを得て逃げる。メイン集団を率いたのはフランスのユーロップカーだった。

石畳の急坂が連続する後半の周回区間に入ると、レースは慌ただしさを増して行く。ボーネンを失ったオメガファーマ・クイックステップに対して攻勢をかけたのは、同じベルギーのロット・ベリソル。

ゴールまでまだ120km以上ある「モーレンベルグ」で、大柄なスプリンターのアンドレ・グライペル(ドイツ、ロット・ベリソル)がアタック。すかさずミカル・クヴィアトコウスキー(ポーランド、オメガファーマ・クイックステップ)やマーティン・チャリンギ(オランダ、ブランコプロサイクリング)らが反応する。遅れてマルセル・シーベルグ(ドイツ、ロット・ベリソル)も加わり、そのまま先頭グループに追いついてしまう。

こうしてロット・ベリソルのグライペルとシーベルグ、そしてオメガファーマ・クイックステップのクヴィアトコウスキーを含む6名が先行し、レディオシャック・レオパードやキャノンデールプロサイクリングが30秒差で追う展開に。「オウデクワレモント」と「パテルベルグ」を含む大中小の周回コースに差し掛かった。

ゴール64km手前の「コッペンベルグ(最大勾配22%)」では誰も動きを見せなかったが、渋滞によって集団中程では立ち止まってバイクを押す選手が続出。こうしてメイン集団の人数は絞り込まれて行く。

レース序盤から逃げたジェイコブ・レイズ(アメリカ、ガーミン・シャープ)やイェツ・ボル(オランダ、ブランコプロサイクリング)らレース序盤から逃げたジェイコブ・レイズ(アメリカ、ガーミン・シャープ)やイェツ・ボル(オランダ、ブランコプロサイクリング)ら photo:Cor Vos逃げグループを形成するアンドレ・グライペル(ドイツ、ロット・ベリソル)ら逃げグループを形成するアンドレ・グライペル(ドイツ、ロット・ベリソル)ら photo:Riccardo Scanferla

70名ほどに絞られたメイン集団からは、続く「シュテインビークドリシュ」でミルコ・セルヴァッジ(イタリア、ヴァカンソレイユ・DCM)とセバスティアン・ミナール(フランス、アージェードゥーゼル)がカウンターアタック。グライペルを含む先頭グループに合流して先を急ぐ。

コッペンベルグでバイクを押すニキ・テルプストラ(オランダ、オメガファーマ・クイックステップ)コッペンベルグでバイクを押すニキ・テルプストラ(オランダ、オメガファーマ・クイックステップ) photo:Cor Vos2年ぶり4度目の出場を果たした別府史之(オリカ・グリーンエッジ)は、人数を減らして行く集団の中に残り、エースのセバスティアン・ラングヴェルト(オランダ)を徹底的にサポートする。

各チームのアシストが激しいポジション取りを繰り広げながら、2回目の「オウデクワレモント」と「パテルベルグ」に突入した。

パテルベルグでバトルを繰り広げるファビアン・カンチェラーラ(スイス、レディオシャック・レオパード)とペーター・サガン(スロバキア、キャノンデールプロサイクリング)パテルベルグでバトルを繰り広げるファビアン・カンチェラーラ(スイス、レディオシャック・レオパード)とペーター・サガン(スロバキア、キャノンデールプロサイクリング) photo:Cor Vos最大勾配が20%に達する「パテルベルグ」でセルヴァッジとクヴィアトコウスキーが先行する中、メイン集団では次なる動きが生まれる。

パテルベルグでサガンを一気に引き離したファビアン・カンチェラーラ(スイス、レディオシャック・レオパード)パテルベルグでサガンを一気に引き離したファビアン・カンチェラーラ(スイス、レディオシャック・レオパード) photo:Cor Vosセバスティアン・イノー(フランス、IAMサイクリング)、セバスティアン・テュルゴー(フランス、ユーロップカー)、ユルゲン・ルーランズ(ベルギー、ロット・ベリソル)、ヨアン・オフルド(フランス、FDJ)という脚の揃ったメンバーが抜け出して先頭に合流。2度の優勝経験者ステイン・デヴォルデル(ベルギー、レディオシャック・レオパード)が引くメイン集団が、30秒差で追う展開に。

ゴール17km手前の、最後の「オウデクワレモント」でルーランズが独走開始。その30秒後方では、ついに本命たちが動く。全長2200mの長い石畳の登りでカンチェラーラが一気にペースアップ。ライバルたちがすかさずチェックに入ったが、辛うじてカンチェラーラに食らいついたのはサガンだけだった。

独走するファビアン・カンチェラーラ(スイス、レディオシャック・レオパード)独走するファビアン・カンチェラーラ(スイス、レディオシャック・レオパード) photo:Riccardo Scanferla「オウデクワレモント」で飛び出したカンチェラーラとサガンは、先行していたルーランズに合流して次なる「パテルベルグ」へ。ゴール13km手前の最後の勝負どころ「パテルベルグ」でカンチェラーラ、サガン、ルーランズの闘いが始まった。

激坂区間をシッティングでクリアするカンチェラーラと、ダンシングでスピードを維持するサガン。ルーランズは千切れ、カンチェラーラとサガンの一騎打ちに。

頂上が近づくと、カンチェラーラとサガンの間には埋まらないギャップが生まれ始める。勢いの衰えないカンチェラーラは数秒のリードを得て「パテルベルグ」の頂上をクリア。距離にして20mほどのリードが決定的となった。

スイッチが入ったカンチェラーラは、アウタートップに近いギアを踏んで独走を開始。サガンはルーランズと協力してカンチェラーラを追ったが、タイム差は見る見るうちに広がって行く。

勝負有り。最後までトラブルなく踏み続けたカンチェラーラが、1分27秒差でゴールに飛び込んだ。

独走でゴールするファビアン・カンチェラーラ(スイス、レディオシャック・レオパード)独走でゴールするファビアン・カンチェラーラ(スイス、レディオシャック・レオパード) photo:Riccardo Scanferla

「最後のオウデクワレモントに差し掛かったとき、グレゴリー・ラストが『みんな疲れているように見える』と言った。だからそこで最初のセレクションをかけたんだ。ペーター(サガン)と2人でルーランズに合流したけど、そこから何としてもペーターを振り切る必要があった」。人間の限界値を探るような真っ向勝負でサガンを下したカンチェラーラは語る。

ロンド・ファン・フラーンデレン2013表彰台ロンド・ファン・フラーンデレン2013表彰台 photo:Riccardo Scanferla昨年、カンチェラーラは補給ポイントでの落車で全てを失った。鎖骨骨折によってクラシックシーズンを棒に振っただけでなく、ロンドン五輪でも落車してチャンスを失うなど、不運なシーズンを経験した32歳が復活を遂げた。

何やってるんですかペーター・サガン(スロバキア、キャノンデールプロサイクリング)さん何やってるんですかペーター・サガン(スロバキア、キャノンデールプロサイクリング)さん photo:Riccardo Scanferla「ライバルチームが抗う中で、チームは集中力を切らさずにミッションをやり遂げた。何ヶ月も練り続けた戦略通りのレースを遂行出来たのは、自分やチームが家族との時間を犠牲にしてまで没頭したおかげ。今年の冬は両手で数えるほどの日数しか家にいなかった。それは妻や子ども達にとって簡単なことじゃない。この勝利は家族とチームのもの。2度目のフランドル勝利は最高だ。今はリラックスしてリカバリーし、来週に備えたい」。当然カンチェラーラは翌週のパリ〜ルーベの優勝候補筆頭だ。

23歳のサガンは敗れはしたものの、自身最高位の2位に悔いていない。ガッツポーズでゴールラインを駆け抜けた怪童は「今日、カンチェラーラは単純に最強だった。これ以上の結果は望めなかったと思う。全力を出した結果なので満足している。でも同時に、いつかロンドで勝てるという確証を得た。まだ23歳なのでチャンスはある」と前向きだ。サガンは現在UCIワールドツアーランキングの首位を快走中。アムステル・ゴールドレースとフレーシュ・ワロンヌに集中するため、翌週のパリ〜ルーベは欠場する予定だ。

ラングヴェルトを10位に送り込んだオリカ・グリーンエッジのフミは、13分35秒遅れの84位でゴール。2度目のロンド完走にはもちろん価値があるが、レース終盤にメンバーが減る中でもアシストとして働き続けていたことにこそ意味がある。かねてから「本当に好きなレース」と語るパリ〜ルーベにもフミは出場する予定だ。

選手コメントはレディオシャック・レオパード公式サイトより。



ロンド・ファン・フラーンデレン2013結果
1位 ファビアン・カンチェラーラ(スイス、レディオシャック・レオパード)   6h06'01"
2位 ペーター・サガン(スロバキア、キャノンデールプロサイクリング)      +1'27"
3位 ユルゲン・ルーランズ(ベルギー、ロット・ベリソル)            +1'29"
4位 アレクサンダー・クリストフ(ノルウェー、カチューシャ)      +1'39"
5位 マチュー・ラダニュ(フランス、FDJ)
6位 ハインリッヒ・ハウッスラー(オーストラリア、IAMサイクリング)
7位 フレフ・ファンアフェルマート(ベルギー、BMCレーシングチーム)
8位 セバスティアン・テュルゴー(フランス、ユーロップカー)
9位 ジョン・デゲンコルブ(ドイツ、アルゴス・シマノ)
10位 セバスティアン・ラングヴェルト(オランダ、オリカ・グリーンエッジ)

11位 ラース・ボーム(オランダ、ブランコプロサイクリング)
12位 ダニエル・オス(イタリア、BMCレーシングチーム)
13位 シルヴァン・シャヴァネル(フランス、オメガファーマ・クイックステップ)
14位 ステイン・ファンデンベルフ(ベルギー、オメガファーマ・クイックステップ)
15位 オスカル・ガット(イタリア、ヴィーニファンティーニ)
16位 ヨアン・オフルド(フランス、FDJ)
17位 エドヴァルド・ボアッソンハーゲン(ノルウェー、スカイプロサイクリング)
18位 ビョルン・ルークマンス(ベルギー、ヴァカンソレイユ・DCM)
19位 ヴァンサン・ジェローム(フランス、ユーロップカー)
20位 ヨハン・ファンスーメレン(ベルギー、ガーミン・シャープ)

84位 別府史之(日本、オリカ・グリーンエッジ)               +13'35"

text:Kei Tsuji
photo:Riccardo Scanferla, Cor Vos
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